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地方の人材不足解消を考える~新卒のIターン就職を促進するには~

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

~新卒のIターン就職を促進するには~

現在、東京都に人口が一極集中しており、地方の若者の流出や人材不足が問題となっている。そんな中、人材を確保する方法の一つとして注目されているのがUターン就職やIターン就職だ。今回は中でも新卒学生のIターン就職に注目し、2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査を元に、Iターン就職に興味を持ってもらうための地域づくりや取り組みを考えていく。 

Iターン就職・地元就職・Uターン就職とは

前提として、今回のコラムにおけるそれぞれの言葉の定義を紹介する。 

Iターン就職 
Iターン就職とは、出身地と異なる地方に移住して就職することを指す。場合によっては、「都市部出身者が地方に移住して就職すること」と定義される場合もあるが、今回のコラムにおいては、出身地は限定せず「地元以外の地方(首都圏以外の地域)で就職すること」として調査した結果を元に語っていく。 

地元就職・Uターン就職 
地元就職は出身地で就職すること、Uターン就職は、出身地と異なる都市部などの地域に進学・就職していた人が、再び出身地に戻って就職することを指す。今回のコラムでは、学生が進学を機に出身地を離れていたかどうかに関わらず「地元の企業に(地元に戻って)就職すること」として調査した結果を元に語っていく。 

また、今回のコラムで取り上げる調査においては、地元=学生が地元と認識している地域、出身地=学生が卒業した高校がある都道府県、という意味で聞いている。 

Iターン就職をしてみたい学生の割合

まずは、Iターン就職に関心がある学生がどの程度いるのか見ていく。2025年卒の就活生に、地元以外の地方で働いてみたいと思うか調査したところ、「働いてみたい」と回答した学生は44.4%だった。

地元以外の地方で働いてみたいと思うか/2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

学生の出身エリア(卒業高校エリア)別に見ると、東北と四国エリア出身の学生は、地元以外の地方で働いてみたい学生が5割を超えている。また、都市部出身の学生について詳しく見ると、東京都・愛知県・大阪府の高校出身の学生では、Iターン就職に興味を持っている人の割合が4割以下となっていることから、一見、都市部から離れた地域ほど、Iターン就職に興味を持っている学生の割合が高いように見える。 

しかし、都市部から離れていても北海道や北陸では、東北と四国出身の学生ほどIターン就職に興味を持っている割合が高くなかった。 

【卒業高校エリア別】地元以外の地方で働いてみたい学生の割合/2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

地元就職希望者の割合とあわせてみると、北海道・北陸では地元(Uターン含む)就職希望者の割合が比較的高いことがわかる。このエリアにおいては、「地元以外の「地方」で働くことに興味がある学生が少ない」=「都市部に出たい学生が多い」ということではなく、地元就職希望者が多いために、「地元以外で」就職することに興味を持つ学生はやや少ないと考えられる。 

東北や四国エリアの学生は「地方」という環境自体に魅力を感じているために、地元での就職を希望しているのと同じくらい、他の地方で就職することにも興味があると推察される。 

【卒業高校エリア別】Iターン就職・地元就職への興味/2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

また、甲信越エリア出身の学生は、地元(Uターン含む)就職希望者の割合もIターンに興味がある学生の割合もどのエリアよりも低いが、これは東京都で働きたい学生がどの県でも多いことが影響しているようだ。これは新潟県、山梨県、長野県出身の学生がもっとも働きたい勤務地の上位3位以内に東京都が必ず入っており、山梨県では東京都で働きたい学生がもっとも多い結果になっていることから推察できる。 

【甲信越地方の高校出身の学生限定】もっとも働きたい勤務地

新潟(n=54)山梨県(n=23)
*参考値
長野県(n=58)
1位新潟県(48.6%)東京都(38.7%)長野県(56.0%)
2位東京都(34.0%)山梨県(35.9%)東京都(31.7%)
3位神奈川県(5.5%)埼玉県(15.8%)神奈川県(4.3%)

このように、Iターン就職への興味関心は、「地方エリアでの就職への関心」や「地元で働くことへのこだわり」「都市部で就職したいかどうか」などさまざまな要因が関わっていることが見てとれる。ただ、いずれにしてもIターン就職に興味がある学生はどのエリアでも4割前後と、少なくないことが分かった。 

Iターン就職をしてみたい学生が求めること

Iターン就職をしてみたい学生の傾向について見ていくと、地元以外の地方で働いてみたい理由としてもっとも割合が高かったのは「趣味と仕事のバランスをとりたい(36.0%)」だった。自然が多く人混みの少ない地域ならではの趣味に勤しむことや、都市部のような喧騒から距離を取ってプライベートでもゆとりを持ちたいといった考えがあるのではないだろうか。 

<地元以外の地方で働いてみたい学生>地元以外の地方で働いてみたい理由/2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

また、2位から4位は「見聞を広げたり、新たな発見ができるから(29.3%)」「住む場所には特にこだわりがないから(28.2%)」「新たな人々との出会いが生まれるから(28.0%)」となっており、新しい出会いや発見がしたい学生の思いも見てとれる。 

東北や四国エリア出身の学生が、地元就職とIターン就職のどちらにも興味を持っている学生が多いのは、地元のような住環境を求めつつも、同時に、新たな人間関係や体験を求める気持ちもあるからと考えられる。 

また、地元就職を希望しない理由を調査した際に、「人間関係が密すぎる」ことをあげる学生もいた*ことから、新しい体験への興味以外にも、長年過ごした環境から離れてみたい学生がいることも考えられる。 
*2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査より 

Iターン就職に興味をもつきっかけ

ではこの調査でIターン就職に興味があると答えた学生は、どのようなきっかけで興味を持ったのか。きっかけとなったできごとの例を、学生のコメントとともにいくつか紹介する。 

志望する企業があったのがきっかけ 

  • 魅力的な企業があり、多少不便な土地でもそこで働いてみたいと思った。元々かなり田舎で暮らしているので、交通の便の悪さや遊びに行くような場所が近くになくてもあまり気にしないため、そこは大した懸念点ではなかった。(文系女子) 
  • 就職活動を行うにあたって複数の企業を調べてみたが,たいていの工場,研究所は郊外にあることが多いと感じたため.(理系男子) 

インターンシップで訪れたのがきっかけ

  • 私は首都圏以外の地域の企業で1ヶ月間のインターンシップを経験しました。その地域の美しい自然や活気のある地域社会、そして人々の温かさに触れることで、その場所での生活や仕事に興味を持ちました。特に、地域住民との交流や地域固有の文化に触れることで、地方ならではの魅力を感じました。(理系男子) 
  • インターンでその拠点に実際に赴き、多少地方である方が落ち着いて生活できると感じた。また、その拠点から東京などの大都市へのアクセスが意外に良かった場合、魅力に感じることが多かった。(理系男子) 

実際に住んでみたことがきっかけ 

  • 大学進学にあたって住むようになった地域にかなり魅力を感じた。身近に自分のやりたいことができそうな企業もあり、生活するにも地元より不便さがない。(理系男子) 
  • 大学近くに住んで、この地域の良さを知ったのと、都市の規模感がちょうどよいから。また、就職するのに魅力的な企業が多くあることを大学で開催された合同説明会で知ったから。(文系女子) 

旅行や趣味で訪れたことがきっかけ

  • もともと観光などで何度か訪れていてその地域を好きになった。生活で困ることはないし、気候も温暖なのでその地域の人のために働ける環境があるので地元ではない地方で働いてみたいと思った。(理系女子) 
  • 趣味でその地方を訪れた時に、街の雰囲気や食べ物に良さを感じ、ここで就職するのもアリだと大いに感じたからです。(文系男子) 

このように、学生がIターン就職に興味を持つきっかけは、就職先やキャリアを考えた際に働く場所として検討することの他にも、大学進学でその地域に住む経験やプライベートで訪れることがきっかけになることもあるとわかる。 

Iターン就職者を増やすために、企業としての採用広報等の取り組み以外にも、地域としてその土地を訪れてもらう機会を幅広く増やす取り組みも有効な手段のようだ。 

Iターン就職をする地域を選ぶポイント

最後に、Iターン就職をする場合に学生がどのようなポイントで就職先地域を選ぶのかについて見てみる。就活生に、地域を選ぶポイントになると思うものを聞くと、最多だったのは「生活する上での、交通などの利便性」で64.3%だった。 

<地元以外の地方で働いてみたい学生>地元ではない地方で働く際、地域を選ぶポイント/2025年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

「仕事内容が魅力的な企業があること(49.3%)」「待遇面で 魅力的な企業があること(給与など)(39.9%)」という勤務地としての項目も上位ではあるが、重視する学生がもっとも多いのは生活においての利便性であり、働く地域として選ぶ前提として大事なポイントになっていることが見てとれる。 

反対に言えば、生活しやすい環境を整えることで、就職したい企業が決まっていない学生でも、「働きたい地域」の前に「住みたい地域」という観点から、Iターン就職先として検討する学生を増やすことに繋がるとも言える。そのため、「就職先として」「移住先として」の両軸でのアプローチを考えることが重要そうだ。 

まとめ

今回は、就活生のIターン就職への興味や考えについて見てきた。全国的に一定数の割合でIターン就職に関心がある学生がいることや、「地元ではない地方」に対しては新しい環境を求め、生活環境として魅力を感じる学生が多いこと、住む場所としての便利さで地域を選ぶ場合が多いことなどが分かった。 

大前提として、学生が就職する際、もっとも重要なのはその学生が望むキャリアや将来像を目指せる就職先と出会い、就職をすることであり、地域活性や人材不足解消のために無理に学生の考えを誘導することはできない。 

だが、学生のコメントで「インターンで行ってみて、その地域の生活や仕事に興味を持った」「旅行で訪れてここで就職するのもありだと思った」とあったように、意図しないきっかけから就職先として「地元」や「都市部」以外に「地元以外の地方」という選択肢が増えるとしたら、学生の視野を広げることにも繋がるだろう。 

地域活性や地方の人材不足解消、若者のキャリアの選択肢を増やすことなど、さまざまな観点からみても、地域の魅力を知ってもらい、「Iターン」という選択肢があることを発信し続けていくことはますます重要になっていきそうだ。 

キャリアリサーチLab研究員  沖本 麻佑

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