女性管理職を増やすための職場環境と上司のサポート ~2030年の女性管理職比率30%達成に向けて~
はじめに
政府は企業の女性管理職の比率を2030年までに30%以上にする目標を掲げている。しかし内閣府の『男女共同参画白書(令和5年版)』によると、2022年の女性管理職比率は係長級が24.1%、課長級が13.9%、部長級が8.2%と年々右肩上がりにはなっているものの、管理職比率はかなり低い水準で推移しているのが現状である。
その背景にあるのは男女の管理職意向の差だ。管理職意向がある男性の割合は50.5%と半数を超えた一方で、女性は33.6%にとどまっており、女性の管理職意向は男性に比べて低いことが分かる。女性管理職を増やすためには、女性の管理職意向を高める取り組みが企業に求められると考えられる。
また、女性管理職を増やすためには上司のサポートも重要であると考える。現在管理職の女性のうち、もともと管理職意向がなかった女性は42.6%で、管理職意向があった女性より多かった。もともと管理職意向があった人となかった人とで、管理職になる前に上司から受けてよかったサポートを比較すると「キャリアプランを一緒に考える」が「もともと管理職意向なし層」で8.5pt高かった。
上司とキャリアプランを考える機会が、管理職意向がなかった人の意向に影響を与え、その後管理職になった人がいるとみられる。加えて、もともと管理職意向がなかった管理職女性が仕事に満足している割合は7割となり、多くは管理職としての仕事に満足していることも分かった。
これまで述べた2つの観点を基に、本レポートでは「非管理職女性の管理職意向を高めるための施策」「女性を管理職にした経験のある上司と職場の特徴」について分析を行う。なお、管理職意向を高めるための施策に関しては、職場環境にフォーカスして、自発的に女性の管理職意向を高めるために必要なことについて説明する。
管理職意向がある人・ない人の特徴
「働き方」「仕事とプライベートの両立」に関する満足度との関係
管理職意向がある女性とない女性を比べると、管理職意向がある女性の方が「働き方」「仕事とプライベートの両立」ともに満足度が高くなった。女性が働きやすい環境を整備することは、管理職意向と関係がある様子がうかがえる。
管理職に就きたい年齢・管理職になりたい理由
管理職意向がある人が非管理職から管理職に就きたい年齢は、女性では「20-30代」が55.4%と半数を超えた一方で、 男性では「40-50代」が56.0%と多かった。女性は男性と比べて、早く管理職に就きたいと考えている人が多い様子がうかがえた。
また、管理職になりたい理由は男女ともに「収入を増やしたいため」がもっとも多かったが、性別で比較をすると「女性が活躍できる職場にしたいから」が女性で25.6pt高かった。
希望通りの時期までに管理職になれると思うか・なれないと思う理由
管理職意向がある人で現在の職場で希望通りの時期までに管理職になれると思う割合は、男性が54.6%と半数を超えたのに対して、女性は43.2%で女性の方が男性より低かった。
女性が希望通りの時期までに管理職になれると思わない理由としては、「自身のスキルが足りないから」「年功序列で昇進していく風土だから」「昇格基準がわからないから」が上位となり、上位3項目中2項目は評価に関する内容であった。
早く管理職になりたい女性が多いことからも成果主義での評価や昇格基準の透明化といった評価制度の見直しが必要であると考えられる。
なりたくない理由・クリアになれば管理職になりたいもの
女性が管理職になりたくない理由としては「責任が重くなる(51.8%)」「業務量が増える(46.6%)」「業務時間が長くなる(42.5%)」が上位となった。また、男女で差が大きいものを見ると「仕事と育児の両立が難しくなる(13.0pt差)」「業務量が増える(11.3pt差)」「仕事とプライベートの両立が難しくなる(9.7pt差)」となっている。
業務量が増えて業務時間が長くなることで、仕事と私生活との両立が難しくなることを避けたい考えが見てとれる。管理職の業務の負荷を減らすような業務体制の整備は、女性が管理職昇進を敬遠する理由を減らすことができそうだ。
管理職になりたくない理由と同じ選択肢の中から、クリアになれば管理職になりたいものを選んでもらったところ、「特にない」が男性で48.9%であるのに対して、女性では39.4%となり、女性の6割はクリアになれば管理職になりたい項目があると回答した。
管理職になりたくない理由と同様に、もっとも割合が高いのは「責任が重くなる(20.0%)」で、男女で差が大きいのは「仕事と育児の両立が難しくなる(7.5pt差)」だった。管理職になっても仕事と育児の両立ができると思える業務体制や環境があれば、管理職になりたいと思う女性もいるようだ。
過去に管理職になりたいと思ったことがあるか・管理職意向がなくなった理由
過去に管理職になりたいと思ったことがある女性は12.4%で、子どもがいる女性の方が高かった。
回答数が少ないため、参考値とするが、子どもがいる女性で過去に管理職意向があったが、管理職意向がなくなった理由を聞いたところ「仕事と育児の両立が難しそうだから(40.0%)」がもっとも多かった。
子どもがいる女性の8人に1人は過去に管理職になりたいと思ったが、仕事と育児の両立に壁を感じるなどのことから意向がなくなっているケースがあると分かる。
女性の管理職意向を高めるためには
- 仕事とプライベートの両立可能な職場環境(風土)の整備
- 評価制度の整備
が必要であると考えられる。
また、女性が管理職昇進に前向きになるためには多様な人材が活躍できる環境の整備も重要だと考え第2章では管理職意向を高めるための1.仕事とプライベートの両立可能な職場環境(風土)2.評価制度の整備3.ダイバーシティ経営の取り組みについて見ていく。
管理職意向を高めるための施策
仕事とプライベートの両立が可能な職場環境の整備
管理職意向がある人とない人の職場環境の違いを見ると、管理職意向有無で差が大きかったのは「上司に自分の状況や意思を伝える機会」「上司や子供を持つ先輩社員などに悩みを相談できる機会」「仕事と育児の両立に配慮や理解をするための研修制度」「男性育休の取得促進」だった。自身の状況や悩みの共有ができる機会があること、育児をしながら働く人を支援するような体制があることが管理職意向に影響していると考えられる。
納得感のある評価
管理職意向がある人の中で、希望の時期までに管理職になれると思う人とそうでない人とで、自分の評価に納得している点の違いを比較した。希望の時期までに管理職になれると思う女性は、そうでない女性に比べて「評価基準が明確であるから」「評価結果が昇進・昇格に反映されているから」が高かった。
評価の明確さや昇進・昇格に反映されるという実感が持てるような評価制度が、希望の時期までに管理職になれそうだという見通しに繋がっていると考えられる。今後女性管理職を増やすためには、年功序列で昇進・昇格する風土ではなく、成果主義や能力主義で評価する制度が求められると見られる。
降格制度の導入
管理職意向がない女性の中で、職場で管理職の降格制度がある人と制度はないが必要性を感じている人に対して「管理職の降格制度があったとしたら管理職になりたいか」を聞いたところ、24.4%の人が「そう思う」と回答した。約4人に1人が「降格制度があれば管理職になってみたい」と思っていることが分かった。
現在管理職意向がない人でも、降格制度が導入されたとしたら管理職に挑戦したい人もいるようである。管理職意向を高める施策として、「一度管理職になったとしても、また非管理職になる余地を残すことで管理職への挑戦に対するハードルを下げる」という方法も手段の一つであると考えられる。
ダイバーシティ経営の取り組みの実施
会社での多様な人材の個性を活かし、生き生きと働くことのできる環境を整える「ダイバーシティ経営」への意識を高める取り組みの実施状況と、その必要性を感じるかを聞いたところ、管理職意向のある女性の方が会社で取り組みがあると回答した人の割合が9.2pt高かった。
「多様性」が叫ばれる時代においても、女性の管理職比率は低いことから依然として日本の男女格差は埋まっていない現状がある。そのため、企業においてダイバーシティ経営への意識を高めることは、女性の可能性と向き合い、男女問わずに未来が見える職場をつくるために重要であると考えられる。
女性部下を管理職にした経験のある上司とその職場の特徴
「部下のキャリア支援」についての重視・取り組み状況
「部下のキャリア支援」について重視・実施している状況を聞いたところ、管理職になった女性部下がいた人は「重視しており、取り組んでいる」割合がもっとも高く、約半数であった。
女性部下を管理職にした経験がない人は「重視しているが取り組めていない」割合がもっとも高く、その理由は「その業務まで手が回らない」が最多であった。女性を昇進・昇格させるためには、上司が部下のキャリア支援を行える余裕を生み出すことも重要な点と考えられる。
部下を管理職にさせるために育成・サポートの取り組みの内容
部下を管理職にさせるために育成・サポートの取り組みの内容について聞いた。全体として実施割合が高かったのは「部下を成長させるような立場や役割に抜擢すること」だが、管理職になった女性部下がいた人といなかった人で、実施した割合に差があったのは「管理職業務が体験できる機会の提供(9.8pt差)」や「部下を管理職にしてほしいと上司に打診・推薦をすること(9.6pt差)」「昇進までのロードマップを立てる(8.0pt差)」だった。
より一歩踏み込んだ具体的なサポートが、実際に女性部下を管理職に昇進させることに繋がると考えられる。
女性管理職比率を上げるためのあなたの会社の取り組みや風土
女性管理職比率の向上に対する会社の取り組みや風土を聞いたところ、女性部下を管理職にしたことのある人の会社では「女性管理職比率への課題意識を持っている」「女性管理職を増やすことがミッションとして共有されている」割合が高く、「ミッションとして共有されている」に関しては女性部下を管理職にした経験がない人の割合との差が特に大きかった。
また、女性部下を管理職にした経験がない人は会社での取り組みや風土が「特にない」人が44.4%と高い。上司が女性部下を管理職に昇進させるには、会社としての課題意識やミッションの共有も重要であると考えられる。
おわりに
今回の調査から、女性の管理職を増やすには、女性の管理職意向を高めるという観点では「仕事とプライベート・家庭の両立ができる職場環境の整備」や「“いつまでに管理職になれるか”という見通しが立てられるような納得感のある評価制度の整備」などが重要であろうことが分かった。
また、女性部下を管理職にした人ほど「ジェンダーギャップへの問題意識」や「部下を育成・サポートを重要視し実践する姿勢」が見られ、このような意識や姿勢の背景には会社としてのダイバーシティ経営への取り組みや部下のマネジメントに関する研修などの機会の提供などがあることも分かった。
女性管理職比率を増やすには社会全体の意識や制度も課題はあるだろうが、会社としてはこのような「非管理職女性の管理職意向を高める環境の整備」と「女性部下を昇進させようとする意識・行動を生む環境の整備」という両面から働きかけることが重要であろう。
さらに、管理職意向が高い人ほど、就業継続意欲も高い傾向も見られた。つまり管理職意向が高まるような「職場環境や評価制度の整備」を進めることは、非管理職女性の管理職意向だけでなく、従業員全体の定着にも繋がる可能性があるということだ。
女性管理職比率の向上は、女性を無理に管理職に昇進させる形ではなく、このような、誰もが働きやすく前向きにキャリアプランを考えられる環境を整えた結果として自然と女性の管理職意向が高まることで、管理職になる人も増えていき、女性管理職比率の目標が達成されるという形を目指していけるとよいのではないだろうか。
キャリアリサーチラボ研究員 沖本麻佑・三輪希実