キャリア教育とは?日本における歴史を振り返り、その目的を再考する

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

キャリア教育とは

キャリア教育とは「一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育」であり、ここでいうキャリアとは「人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」であると文部科学省のHP の中で定義されている。

「様々な役割」と記載されているように、その役割は職業人に限らず、家庭人、地域社会の一員など複数の役割が想定されている。また、その役割は生涯という時間の流れの中で変化しつつ積み重なり、つながっていくものとされている。

つまり、キャリア教育とは、1人の個人の中にある複数の役割をうまく調和させながら、さまざまな選択を行い、また、その生涯にわたるキャリア形成を支援するための教育活動であるといえる。ここで大切なのはキャリア教育の前提を「職業人」だけに置いていないという点だ。

上記に記載した今日の「キャリア教育」は2011年に中央教育審議会答申によって再定義されたものだが、この答申の中で「職業教育」については「一定又は特定の職業に従事するために必要な知識、技能、能力や態度を育てる教育」と定義され、明確に「キャリア教育」と区別されている。

しかし、現代の日本においては「キャリア教育」を、この「職業教育」のように捉えて、「就活準備のための活動」と思っている人が多いように感じる。「キャリア教育」は小・中学校の学習指導要領にも組み込まれているものだが、「小学生から始める必要があるのか」という声も少なくはない。さらにいうと、大学でのキャリア教育ですら、低学年次(学部の1、2年生)から実施することに対して、「就職活動の早期化だ」という批判がでるくらいである。

この認識の違いは、キャリア教育の本質を理解する上で大きな障害となっているのではないだろうか。こうした問題意識から、日本におけるキャリア教育の正しい意義と価値を再認識する必要があると考えた。なぜ現行の教育課程において、小学生からキャリア教育が必要だとされているのかを議論する中で、「キャリア教育」が目指していることを正しく理解し、その意義について述べていきたいと考え、連載企画「小学生からのキャリア教育」を行うことにした。

第1回目となる本稿は学校教育におけるキャリア教育の歴史を紐解きながら、現在のキャリア教育がどのように形成されてきたのか、また、どのような価値が求められてきたのかを理解したい。

キャリア教育の重要性は、単なる職業選択の支援にとどまらず、個人の社会的・職業的自立を促進する点にある。特に、現代社会においては、急速な技術革新やグローバル化に伴い、職業や働き方が多様化している。また、働き方だけでなく、家族の在り方など生活面における選択肢も多様化している。

このような環境下で、個人が自らのキャリアを主体的に設計し、柔軟に対応できる能力を身に付けることが求められており、キャリア教育の必要性はより高まっているといえよう。

キャリア教育の起源「職業指導」

まずは、キャリア教育の起源となる「職業指導」について見ていく。先述した通り、今日では「キャリア教育」と「職業指導」は分けられているが、「キャリア教育」という用語が使われるようになったのは1999年で、それまでは「職業指導」がその役割を担っていたためだ。

第2次世界大戦以前の職業指導

日本におけるキャリア教育の起源は、大正時代に遡る。 日本で「職業指導」という言葉が初めて使われたのは1915(大正4)年に刊行された教育学者・入澤宗壽の著書「現今の教育」であるといわれている。

入澤は当時アメリカで実践されはじめたvocational guidanceを「職業指導」と訳し、単に児童への職業紹介(就職斡旋)を行うのではなく、職業の選択や決定に先立って、事前の準備を与えるための指導であると述べた。入澤は、当時の日本では子どもたちが卒業後の職業を「父兄の意志」などで決めてしまうことを問題視し、子どもたちが選択主体として、自分が就くべき職業を自らの意志で熟慮・選択し決定できるように「学校」「家庭」「社会」の三者が配慮する必要性を訴えた。(藤田,2018)

このように「職業指導」という概念はアメリカから翻訳して移入されたものだが、当時から「学校」「家庭」「社会」の三者がともに行うものであると言及されていた点は興味深い。しかし、当時の職業指導の制度は学校における教育ではなく、公的職業紹介制度の必要性から整えられていった。

その後、戦時下となる日本で、職業指導は国家の都合を優先する形に大きく転換されていくことになるが、その詳細な内容については本稿では、割愛する。

第2次世界大戦後の職業指導

戦後、GHQ/SCAPの占領下におかれた日本は、その指導の下で各種の民主化政策を推し進めていった。その最たるものは日本国憲法の制定・施行だ。日本国憲法における基本的人権の規定は職業指導にも深い関係がある。第22条で職業選択の自由が規定されたのだ。(藤田,2018)

1947年3月には戦後の学校教育の根本を規定した学校教育法 が制定されたが、その教育目標を見てみると、学びと社会とのつながりが意識された内容になっていることがわかる。

小学校教育の目標(第18条)

  1. 学校内外の社会生活の経験に基き、人間相互の関係について、正しい理解と協同、自主及び自律の精神を養うこと。
  2. 郷土及び国家の現状と伝統について、正しい理解に導き、進んで国際協調の精神を養うこと。
  3. 日常生活に必要な衣、食、住、産業等について、基礎的な理解と技能を養うこと。
  4. 日常生活に必要な国語を、正しく理解し、使用する能力を養うこと。
  5. 日常生活に必要な数量的な関係を、正しく理解し、処理する能力を養うこと。
  6. 日常生活における自然現象を科学的に観察し、処理する能力を養うこと。
  7. 健康、安全で幸福な生活のために必要な習慣を養い、心身の調和的発達を図ること。
  8. 生活を明るく豊かにする音楽、美術、文芸等について、基礎的な理解と技能を養うこと。

なお、中学校教育については以下の通りだ。当時の高等学校進学率 は50%未満であったこともあり、中学卒業後、すぐに働きだすケースが珍しくなかった。そのため、中学校教育ではより明確に「職業」との関係が記載されている。

中学校の教育目標(第36条)

  1. 小学校における教育の目標をなお充分に達成して、国家及び社会の形成者として必要な資質を養うこと。
  2. 社会に必要な職業についての基礎的な知識と技能、勤労を重んずる態度及び個性に応じて将来の進路を選択する能力を養うこと。
  3. 学校内外における社会的活動を促進し、その感情を正しく導き、公正な判断力を養うこと。

現在に至るまで何度も改正されており、現行法 (※1)では多少表現は変化してきているが、学校での学びがいずれ社会での生活につながっていくというニュアンスが当時から見られることがわかる。
※1:現行法では小・中学校を併せて、第21条第10項で義務教育における普通教育の目標として規定されている。

職業指導から進路指導への展開

1957年11月11日中央審議会答申「科学技術教育の振興方策について」 に「高等学校および中学校においては,進路指導をいっそう強化すること。」と提起され、この答申以降、「職業指導」に替わって「進路指導」という用語が公文書で使われるようになった。

ここでポイントとなるのは当時の文部省が学校における「職業指導」と「進路指導」を同義語であるとしている点だ。

(進路指導に関する)前記の定義(昭和 36 年における定義)の中の「さらにその後の生活によりよく適応し,進歩する能力を伸長する」という意味を,「将来の生活における職業的自己実現に必要な能力や態度を育成する」という広い理念を意味するものと解釈することによって,改めて定義し直すことなく,前記の定義をそのまま継承することとしたい。

文部省『進路指導の手引−中学校学級担任編(改訂版)』日本進路指導協会 昭和 58 年

(注)本文は文部科学省「高等学校キャリア教育の手引き」 第1章第2節に記載

この「進路」には就職も進学も同様に含まれるという考えが根底にあった。

しかし、1960年代以降、高等学校進学率は高まり、1965年には7割を超える。この時期はちょうど高度経済成長期にあたり、子どもの教育に向き合う余裕のある家庭が増えたこともあり、徐々に受験競争が激しくなっていった。こうした進学率の高まりを背景に「進路指導」はいつしか進学のための指導、つまり「受験対策のための指導」という印象が強まっていく。

文部科学省は「無論,進路指導の本来の姿はこのような受験偏重の指導とは全く異なる。」(高等学校キャリア教育の手引き )と述べているように、この状況は「進路指導」が持っている本来の目的とは異なるという点に注意が必要だろう。

キャリア教育の起源である「職業指導」が「進路指導」と名前を変えていくことは先述したとおり通りだが、その後、「進路指導」と併存する形で「キャリア教育」という言葉が使われるようになる。
*なお、本稿では解説しないが、キャリア教育と進路指導の違いについて知りたい方は文部科学省が発表している以下の資料に目を通していただきたい。
文部科学省「高等学校キャリア教育の手引き」 第1章第3節

「就業観・勤労観」を重視した2000年代のキャリア教育

2000年代のキャリア教育の特徴

日本の教育政策の中で初めて「キャリア教育」という言葉が使われたのは1999年12月の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について 」である。この第6章「学校教育と職業生活との接続」 (以下:接続答申 )で、具体的には以下のように記載されている。

学校と社会及び学校間の円滑な接続を図るためのキャリア教育(望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに,自己の個性を理解し,主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育)を小学校段階から発達段階に応じて実施する必要がある。キャリア教育の実施に当たっては家庭・地域と連携し,体験的な学習を重視するとともに,各学校ごとに目標を設定し,教育課程に位置付けて計画的に行う必要がある。また,その実施状況や成果について絶えず評価を行うことが重要である。

1999年12月の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について 」第6章第1節

ポイントとなるのは以下の通りだ 。

  • 小学校から発達段階に応じて実施する。
    *それまで、学校と社会、学校間の円滑な接続は、中学校・高等学校を中心とする進路指導の役割だった。
  • 「望ましい職業観・勤労観の獲得」が「職業に関する知識や技能の獲得」とともに重要課題として位置づけられている。

つまり、職業に関する専門的な知識や技能を習得させることも大切ではあるが、それ以前に、子どもたちが働くことの意義を理解し、自分のキャリアをどのように捉えて将来に備えていくのか、こうした職業や勤労に対する意識の醸成も重要であることが明記されているといえるだろう。

また、「望ましい職業観・勤労観の獲得」を実現するためには、進学や就職といった「接続」の機会が直前に迫った段階ではなく、小学校のころから、段階的に学ぶ機会が必要だと考えられたといえる。

2000年代に問題視されていたこと

先述した接続答申のなか中に「キャリア教育」が必要である背景として以下のように記載されている。

新規学卒者のフリーター志向が広がり,高等学校卒業者では,進学も就職もしていないことが明らかな者の占める割合が約9%に達し,また,新規学卒者の就職後3年以内の離職も,労働省の調査によれば,新規高卒者で約47%,新規大卒者で約32%に達している。こうした現象は,経済的な状況や労働市場の変化なども深く関係するため,どう評価するかは難しい問題であるが,学校教育と職業生活との接続に課題があることも確かである。

1999年12月の中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について 」第6章

このように記載された背景にどのような課題があったのか確認していく。

若者自身の資質

高度経済成長期以降、高等教育への進学率が大きく上昇していったことは先に述べたが、大学等の高等教育への進学率も同様に上昇していった。こうした高学歴社会においては、かつてのように義務教育が終わってすぐに働く子どもたちは減少していった。

そうなると、「子ども」として保護者のもとで過ごす期間は長くなり、精神的・社会的自立が遅れる傾向にあること、生産活動や社会性等における未熟さがあることが指摘されていた。加えて、高学歴社会の中で、職業の選択・決定を先送りにするモラトリアム傾向が高まったことや、進路意識や目的意識が希薄なまま進学先を決定していることなども指摘されていた。

こうした状況を踏まえて、1990年代から2000年代初頭にかけて、学校の教育活動全体を通じて、児童生徒の発達段階に応じた組織的・系統的なキャリア教育の推進が必要だと認識されるようになったのだ。(藤田,2018)

厳しい雇用情勢

接続答申が出された1999年12月といえばバブル経済が崩壊し、雇用・失業情勢が冷え込んでいる時期である。労働力調査 によると、1999年の完全失業率(年平均)は4.7%で、2024年の2.5%と比較してもかなり厳しい状況であったことがわかる。特に、若年層の完全失業率は高く、20~24歳で8.4%、25~29歳で6.2%だった。

現在、日本型雇用慣行が揺らいでいるといわれているが、それでも強固に守られているのが「新卒一括採用」だ。もちろん一定の採用選考を経るが、多くの若者は卒業後すぐに社会人として企業・団体で働くことができる。就業経験のない若者を採用し、育成するのは企業・団体の責任だと考えられている。この点は世界でも珍しいとされる雇用慣行である。

しかし、バブル崩壊後のこの時期、新卒採用においても求人数が大きく減少した。その結果、フリーターや無業者が増加し、「就職氷河期世代」と呼ばれる世代が生まれた。

「就業観・勤労観」を特に強調した理由

当時のキャリア教育の定義は先ほど述べたとおり通りだが、そこに2000年代の半ばから盛んに取り込まれた「若年者雇用対策」と密接に結びつくことで、この時期のキャリア教育が形成されていく。

フリーターの増加、新規学卒者の3年以内の離職率の高さなど若者の雇用対策で解決すべき喫緊の課題があったためだ。

この背景には1990年代に形成されたフリーターに対するイメージが大きく影響している。当時のフリーターという言葉には「やりたいことが見つからない」などの理由で職業選択を先延ばしにしている「モラトリアム型」フリーターがイメージされることが多かった。また、同時期にニートの存在が注目を集めたことにより、こうした若者の指向性を社会的な「甘え」として捉え、彼らに対する批判として職業意識の未形成が問題視されるようになった。

そのため、当時の「キャリア教育」においては、特に「就業観・勤労観」の醸成が強調されたのだ。

しかしながら、この説明だけでは違和感を持つ読者も多いだろう。先ほども述べたように、バブル崩壊後、若者の雇用情勢はかなり厳しい状況だったからだ。

藤田(2018)はその点について下記のように指摘している。

実際にはパートタイムやアルバイトの仕事にしか就けなかった若者や、家庭の事情で進学を諦めて働かざるをえなかった「やむを得ず型」が約半数 を占めており、またニートの中には学校から職業への移行に問題を抱えた結果ニートとなった若者も多く含まれたが、彼らへの支援は見過ごされる結果となった。

当時のフリーターやニートについて、すべてを「甘え」とすることはできない。そのため、このキャリア教育で強調された「就業観・勤労観」の醸成は、主には「モラトリアム型」フリーターを生まないための対策であったと考える必要はあるだろう。

なお、フリーターという言葉に対するイメージの変化は以下のコラムに詳細に説明されているため参考にしてほしい。

現在のキャリア教育

ここからは1999年の「接続答申」から、キャリア教育政策の変化を経て、現在のキャリア教育の基盤となっている2011年1月31日に出された中央教育審議会答申「今後の学校におけるキャリア教育・職業教育の在り方について」(以下、「在り方答申」※2)が出された背景やその内容について確認していく。
※2:1999年の「接続答申」とわかりやすく区別するために、藤田(2018)が示した「在り方答申」という表現を使う。

キャリア教育の再定義

まず、2000年代の「接続答申」と、2011年の「在り方答申」における「キャリア教育」の定義について整理したい。

キャリア教育の定義の比較

  • 1999年の「接続答申」
    望ましい職業観・勤労観及び職業に関する知識や技能を身に付けさせるとともに、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育
  • 2011年の「在り方答申」
    一人一人の社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通して、キャリア発達を促す教育

「接続答申」が「主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」としたのに対して、「在り方答申」では、主体的に選択した役割を適切に遂行し、自立的に職業生活、社会生活を営んでいくことが強調されている。その目指すところは「キャリア発達」である。

また冒頭でも述べた通り、「在り方答申」における「役割」には職業人としてだけでなく、家庭や地域の一員としての役割も含まれている

「キャリア教育」というとそれまでは「職業キャリア」に限定して語られることが多かったが、現在のキャリア教育においてはキャリアを人生そのものとして捉えて「ライフキャリア」を視野に入れている点が大きな変化だといえるだろう。

「基礎的・汎用的能力」の育成

「在り方答申」では「社会的・職業的自立、学校から社会・職業への円滑な移行に必要な力の要素」として5つのカテゴリーを示している。

  • 基礎的・基本的な知識・技能
  • 基礎的・汎用的能力
  • 論理的思考力、創造力
  • 意欲・態度及び価値観
  • 専門的な知識・技能

特にキャリア教育においてその育成が求められているのは「基礎的・汎用的能力」だ。

基礎的・汎用的能力は分野や職種に関わらず、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる能力とされ、その内容としてはさらに「人間関係形成・社会形成能力」「自己理解・自己管理能力」「課題対応能力」「キャリアプランニング能力」の4つの能力に整理される。

各能力の詳細については「在り方答申 」の25~27ページを確認してほしい。

重要なことは、これらの能力に関して「包括的な能力概念」であること、また、この4つの能力はそれぞれが独立したものではなく、相互に関連・依存した関係にあるということだ。つまり、何か特定の活動を行えば、その能力が鍛えられるというような技能的な能力ではないといえる。

実際に、この能力の教育の仕方については、「在り方答申」の中で、「どの程度身に付けさせるかは、学校や地域の特色、専攻分野の特性や子ども・若者の発達の段階によって異なると考えられる」と記載されている。

本質的に「キャリア教育」を行うためには、こうした位置づけになるのも理解できるが、もしかしたら、この「明確に何をすればよいのか、どのような効果が得られるのか」を示しづらい点が、学校教育における「キャリア教育」の位置づけを理解する上で、難しく感じる一因になっているのかもしれない。

学習指導要領におけるキャリア教育

次に、小学校、中学校、高等学校等ごとに、それぞれの教科等の目標や大まかな教育内容についてまとめられている学習指導要領で「キャリア教育」がどのように表現されているかについて確認する。

詳細は以下に示すが、大切な点は「キャリア教育」という特定の科目や活動について言及するのではなく、特別活動を要としつつも、各教科の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ることとされている点である。

言い換えると、学校で学ぶことすべてにおいて「キャリア教育」としての役割が求められているといえる。

具体的な記載内容は以下の通りだ。

高等学校の学習指導要領

もっとも早く学習指導要領のなか中に「キャリア教育」と記載されたのは高等学校で、平成21年(2009年)の改訂の際に、「第55款 教育課程の編成・実施に当たって配慮すべき事項」の中で記載された。

最新(平成30年3月告示) の学習指導要領では以下のように記載されている。

第1章総則
第2款 教育課程の編成
(7)キャリア教育及び職業教育に関して配慮すべき事項
ア 学校においては,第5款の1に示すキャリア教育及び職業教育を推進するために,生徒の特性や進路,学校や地域の実態等を考慮し,地域や産業界等との連携を図り,産業現場等における長期間の実習を取り入れるなどの就業体験活動の機会を積極的に設けるとともに,地域や産業界等の人々の協力を積極的に得るよう配慮するものとする。

第5款 生徒の発達の支援
(3)生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう,特別活動を要としつつ各教科・科目等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること。その中で,生徒が自己の在り方生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう,学校の教育活動全体を通じ,組織的かつ計画的な進路指導を行うこと。

上記以外にも「第2章 第3節公民」の中に「キャリア教育」に触れた部分があるので興味がある人は上記リンクより確認してほしい。

中学校の学習指導要領

次に、中学校の学習指導要領にキャリア教育について確認する。
(最新(平成29年3月告示) の学習指導要領より抜粋)

総則編

(3)キャリア教育の充実(第1章第4の1の(3))
生徒が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう,特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること。その中で,生徒が自らの生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう,学校の教育活動全体を通じ,組織的かつ計画的な進路指導を行うこと。

*なお、上記の内容が各教科の指導要領の中にも「付録2」として添付されている。

小学校の学習指導要領

次に、小学校の学習指導要領にキャリア教育について確認する。
(最新(平成29年3月告示) の学習指導要領より抜粋)

総則 第4 児童の発達の支援
⑶ 児童が,学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら,社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう,特別活動を要としつつ各教科等の特質に応じて,キャリア教育の充実を図ること。

まとめ

ここまで日本における「キャリア教育」とりわけ、学校教育との関係について振り返ってきた。

「キャリア教育」の起源となる「職業指導」の時代から振り返ると、その表現は変化してきているが、その目的自体は大きくは変わっておらず、いずれも子どもたちが主体的に自分の人生を考え、進路選択ができるような教育を目指してきたことがわかった。

しかしながら、そのときどきの社会情勢によってその解釈が本来の目的と異なるものになってきた経緯も見えてきた。

ここまでをまとめて表にする。
(なお戦前の「職業指導」は教育政策ではなかったのでここでは省く)

時期呼称社会情勢の変化で生まれた課題
第2次世界大戦後職業指導中学校を卒業後、高等学校に進学する人が増えたが、「職業指導」という呼称では「進学」する人を対象としないような誤解を与えることが課題となった。
高度経済成長期進路指導経済的豊かさを背景に進学率が上昇、「進路指導」が本来の目的と異なり「受験指導」のように扱われるようになった。
1999年
「接続答申」
キャリア教育
*上記「進路指導」と別で規定された
当時の若者の指向や雇用情勢から「若年者雇用対策」と密接に関連して形成されるようになり、特に「就業観・勤労観」の醸成が強調された。
2011年
「在り方答申」
キャリア教育進路選択の場面だけでなく、その後の人生において選択した役割を遂行していく力の醸成や、職業人以外の役割についても担っていくことが規定されたが、「職業指導」のイメージが強く、その目的が正しく理解されていないことから「就職活動の準備」と認識され、子どものころから実施することに疑問を感じる声が見られる。
日本における「キャリア教育」の変遷

本稿では、冒頭で述べた通り、学校教育におけるキャリア教育の歴史を紐解きながら、現在のキャリア教育がどのように形成されてきたのか、また、どのような価値を求められてきたのかを理解することに主眼をおいてきた。

次回の記事では、本稿でも著書を参考にさせていただいた筑波大学 藤田晃之先生に「小学校におけるキャリア教育」についてインタビューした内容を掲載する。学校教育でキャリア教育を行うことの意義や、世間で持たれている誤解についてどのように考えればよいのか、解説していただいたので、ぜひこちらも確認してほしい。(4月下旬公開予定)

参考文献:
藤田晃之&吉田武男(2018)はじめて学ぶ教職19「キャリア教育」ミネルヴァ書房

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