仕事がAIに代替されていく世の中でも人の可能性は広がっているー大正大学地域構想研究所 主任研究員 中島ゆき氏

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今回は、国勢調査直近10年で増えている職業と、その時代背景や問題点、今後増えていくだろう職業についてお聞きしました。お話しいただいたのは、前回のインタビューに引き続き、大正大学地域構想研究所の中島ゆき主任研究員です。

中島 ゆき(大正大学地域構想研究所主任研究員/大正大学地域創生学部兼任講師)

法政大学修士課程修了(政策学修士)。広告業界に長く在籍し、そのうち約11年編集長職を勤める。多くの企業のプロモーション戦略やマーケティング分析に携わり、現在は、これまでの経験を生かし自治体のマーケティングやプロモーションコンサルタント業に従事。2010年より法政大学地域研究センター研究員、法政大学兼任講師、2015年より現職。専門は地域経済学、地域マーケティング。現在は、マーケティング手法の一つとして地域のポジショニング分析を基盤とし、地域資源評価、地域分析などを中心に、自治体のまちづくりコンサルタントとして各地の地域活性化プロジェクトに関わる。

直近10年間での増えた職業と時代背景とは

質問:国勢調査の直近の10年間の結果について、就業者数が増えているのは、どのような職業でしょうか。

中島:前編でもお話したように、国勢調査の職業分類は、2010年(平成22年)から変わりません。そこから計算すると今でちょうど10年経っているので、その差を比較すれば、就業者が増えている職業が分かります。これが、過去10年間における職業別増加率ランキング20の職業です。特徴的な職業をピックアップして紹介します。

国勢調査 令和2年時の就業者数就労者全体に占める割合増減数10年間の
就業者増減率
1位理学療法士・作業療法士202,540人0.351%107,990人114.2%
2位視能訓練士・言語聴覚士26,930人0.047%11,650人76.2%
3位その他の情報処理・通信技術者207,400人0.360%88,790人74.9%
4位その他の家庭生活支援サービス職業従事者13,570人0.024%5,780人74.2%
5位データ・エントリー装置操作員155,710人0.270%59,770人62.3%
6位その他の社会福祉専門職業従事者532,710人0.924%202,500人61.3%
7位他に分類されないサービス職業従事者456,590人0.792%165,810人57.0%
8位営業・販売事務従事者872,440人1.513%309,580人55.0%
9位彫刻家・画家・工芸美術家47,320人0.082%16,120人51.7%
10位幼稚園教員143,310人0.248%45,120人46.0%
11位輸送用機器技術者137,470人0.238%41,870人43.8%
12位システムコンサルタント・設計者656,770人1.139%196,200人42.6%
13位ハウスクリーニング職27,760人0.048%8,270人42.4%
14位その他の経営・金融・保険専門職業従事者82,920人0.144%24,390人41.7%
15位その他の技術者79,260人0.137%22,620人39.9%
16位介護職員(医療・福祉施設等)1,358,960人2.356%372,810人37.8%
17位他に分類されない専門的職業従事者309,100人0.536%84,420人37.6%
18位その他の運搬・清掃・包装等従事者1,150,210人1.994%292,510人34.1%
19位保育士634,080人1.099%159,180人33.5%
20位個人教師(スポーツ)120,470人0.209%29,390人32.3%
10年間の就業者増減率(%)/中島氏が作成
増減率の計算式:10年間の就業者増減率(%)=(2020年の就業者数 – 2010年の就業者数)÷ 2010年の就業者数 × 100

国家資格

中島:1位は「理学療法士、作業療法士」です。この職業は2位の「視覚訓練士、言語聴覚士」とともに、高齢化社会の進行による介護やリハビリニーズの増加という社会的背景がポイントになっています。全体で見ると、それぞれの職業に就いている人数は「理学療法士、作業療法士」が就労者全体に占める割合の0.351%、「視能訓練士、言語聴覚士」が0.047%と非常に少ないです。

しかし、これらの職業は今後もニーズが増え続ける業界であり、人材不足が見込まれています。そのため、資格制度を整備し、担い手を増やす動きがある分野の一つといえます。近年では、大学教育や専門教育を機関通じた療法士の養成が進んでおり、国家資格を取得することで安定した職業としての魅力が高まっている点が特徴です。

企業のDX化

中島:5位の「データ・エントリー装置操作員」。職種名が堅苦しいですが、電子計算機のデータ入力の仕事です。この職業に就いている人が増えているというのは、日本全体で推進しなければならない命題としてのDX化が要因としてあると思います。企業は生成AIやデータ分析を導入しようとしていますが、実は、大元となるデータが整備されていないため、DX化が遅れているところが多いという現実もあります。

そこで、この「データ・エントリー装置操作員」によってデータ入力作業がおこなわれています。今は就業者が増えていますが、データの入力パターンが分かってきたら、今後はAIやRPAに代替され、減っていく可能性のある職業として考察しています。

フリーランス・副業・兼業

中島:7位の「他に分類されないサービス職業従事者」。この職業の具体的な例示には、占い師や美術モデル、介添役(結婚式場)、競馬予想屋、トリマー(犬・猫の美容師)、みこ(巫女)、墓地管理人、人生相談員、リラクゼーションセラピストなどが入っています。

「他に分類されない」ため、ややニッチな仕事がここに入りますが、それでも総数が年々増加傾向であり、この10年で約17万人弱増えている(保育士よりも増加)というのは、大きな動きだと思います。正社員というよりは、フリーランスや副業・兼業で働いている人が多い職種ですが、昨今の副業増加に伴い、今後もかなり増えるのではないでしょうか。

輸送機器の開発

中島:11位の「輸送用機器技術者」。10年間で4万1870人に増えています。輸送機器の開発技術者なので、これだけ増えているということは、ドローンの開発も含まれているのではないかと推察しています。国勢調査を管轄する総務省に問い合わせしていますが、回答待ちです。

防災関連

中島:15位の「その他の技術者」。ここには、放射線利用機器取扱技術者や地質調査技術者、作業環境測定士、し尿処理施設技術者、労働安全コンサルタントなどが含まれます。ここの職種が増えているのは、「防災関係」が影響していると思います。ゲリラ豪雨や台風、地震などの災害が多発しており、それに関連する職業が今増えているように思います。

健康意識の高まり

中島:20位の「個人教師(スポーツ)」。健康意識の高まり、運動の習慣化や美意識の向上、タイパ重視の考えなどにより、パーソナルジムの増加と合わせて、パーソナルトレーナーが増えています。これは、みなさまも体感しているのではないでしょうか。

共通点とは

質問:共通点はどういったところになりますか?

中島:前編でもお話した「ITの技術革新」「法改正による産業分野の拡大」「個人ユースの拡大」の3つが共通点になってきます。「ITの技術革新」でいえば、3位「その他の情報処理・通信技術者」、5位「データ・エントリー装置操作員」12位「システムコンサルタント・設計者」が上位に入っています。

「法改正による産業分野の拡大」では、1位「理学療法士、作業療法士」2位「視覚訓練士、言語聴覚士」の免許制が整備され、増えています。「個人ユース」については7位「他に分類されないサービス職業従事者」13位「ハウスクリーニング職」、20位「個人教師(スポーツ)」が該当します。

副業・兼業をどう定義して、どのように数値化していくのか

質問:この直近10年間での増加から見えてくる課題や次に考えるべきテーマはありますか。

中島:大きく2つあります。1つは、7位の「他に分類されないサービス職業従事者」。ここには、占い師や美術モデル、競馬予想屋、巫女など正社員よりは、兼業・副業やフリーランスで従事している人が多いという話をしました。

国勢調査の記述では、職業をいくつか書けるようになっていますが、現在は、それが副業なのか兼業なのかは明示していません。しかし、今後、副業・兼業は確実に増えていくので、今後の国勢調査では、なんらかの形で反映されることが想像できます。

その際に、現状、副業・兼業それぞれの定義も曖昧なので、どのように区別して、可視化されるのかは、大きなテーマになってきそうです。副業・兼業率の割合などで反映されるかもしれません。

国勢調査 令和2年時の就業者数就労者全体に占める割合
1位その他の一般事務従事者3,737,860人6.481%
2位販売店員3,291,060人5.706%
3位総合事務員2,639,330人4.576%
4位調理人1,822,470人3.160%
5位分類不能の職業1,638,490人2.841%
6位会計事務従事者1,523,600人2.642%
7位農耕従事者1,452,780人2.519%
8位自動車運転従事者1,445,820人2.507%
9位その他の営業職業従事者1,407,170人2.440%
10位看護師(准看護師を含む)1,385,950人2.403%
11位介護職員(医療・福祉施設等)1,358,960人2.356%
12位食料品製造従事者1,227,480人2.128%
13位その他の運搬・清掃・包装等従事者1,150,210人1.994%
14位庶務・人事事務員1,057,330人1.833%
15位会社役員913,490人1.584%
16位ビル・建物清掃員910,680人1.579%
17位飲食物給仕・身の回り世話従事者887,020人1.538%
18位営業・販売事務従事者872,440人1.513%
19位配達員696,180人1.207%
20位システムコンサルタント・設計者656,770人1.139%
就労人数の多い職業/中島氏が作成

もう1つは、日本の生産性が向上しない課題についてです。日本全体の就労者は令和2年調査では約5,300万人いますが、その中で、もっとも就労人数が多い職業をランキングでみると、20位までのうち「会社役員」と「システムコンサルタント・設計者」をのぞいて、すべてが労働集約型(※)の職業です。

割合でいうと49.4%なので、ほぼ半分を「労働集約型」職業が占めています。副業やパートのほとんどもこの「労働集約型」の仕事で、さらに、このうち接客などの対面型の仕事以外がAIに代替されていくと予想されています。そうなると、ここ10年経たないうちに人のやる仕事がなくなっていく可能性があります。

※お金や機械、設備よりも人間の労働力への依存度が高く、人間の手による仕事量が多い産業のこと。

AIにはマネできない「人をつなぐ仕事」の可能性

質問:最後に、今後増えてくる職業は何かありますか。

中島:パターン化された労働はもっともAIに代替されやすい仕事です。一方で、代替しにくいといえば人間の「気持ち」に寄り添う部分ではないかと思います。その観点からすると、先に10年間で増加した職業の共通点として挙げた「個人ユース」は、代替されにくいと言えるのではないでしょうか。

中でも、個人のニーズに合わせてコーディネイトすることや、人と人を「つなぐ」という仕事はAIに代替されにくいですし、増えていくのではないかと思っています。

質問:そういった分野で、気になる職業はありますか。

中島:現在、地方創生の研究所に在籍しているので、Uターン・Iターンの関係人口を調査しています。そこで普段から地域問題を目の当たりにするなかで、私が今後で非常に重要になるのではないかと思っているのが「コミュニティ」なのです。

注目しているのは、そのコミュニティを「創る」「つながりを強くする」といった役割としての「コミュニティビルダー」という職業です。地域に関係する、多様なステークホルダーをつなげる場をつくり、新たな価値を創出していく役割を担っています。

コミュニティビルダーとは?

中島:コミュニティマネージャーという言い方も最近聞かれるようになりましたが、コミュニティビルダーは、コミュニティそのものを立ち上げたり、活発にしていく役割に軸足があると言ってもいいでしょうか。

あくまで、地方創生の文脈からみた時の仕事領域でのお話ですが、コミュニティビルダーは「どんな人がどんな悩みを抱えているか」「どんなコミュニティが必要か」を考え、サポートやコミュニティ創出を行う仕事と言えます。地域の人が減り、今後「コミュニティ」はその地域の活性化に必要不可欠になってくると思いますが、そのコミュニティを立ち上げたり円滑に運営したりする役割です。

たとえば、老朽化した団地をリノベーションして、若者に住戸を提供して団地再生への道を開こうとしています。そこで、「コミュニティビルダー」が若い世代と、既存の住民である高齢者の人をつなげる橋渡し役的な存在として、異なる世代の交流を推進させ、団地の活性化を図っている例もみられてきています。

「人をつなげる仕事」に求められるもの

中島:人と人を「つなげる」役割は、コミュニティビルダーをはじめ、単なるマッチングではありません。ステークホルダーに寄り添って、彼らの課題を深く理解し、一緒に解決策を模索するスキルが求められるでしょう。

迷っている人がいたら、一歩踏み出せるように、誘ったり後押しをしたり、時には何もせず見守ることが必要な時もあるでしょう。いわば一概に言葉では表せない感情的なサポートや配慮も含めた業務が、人をつなげる仕事には求められるのです。この領域がAIにはできない業務ではないでしょうか。

しかし、現時点で「コミュニティビルダー」をはじめとした「人をつなげる仕事」という職務が職業として確立しにくい現状があります。その理由は、単なるマッチングと異なり、人をつなげるのに対価を得るというのが、日本的にはやや受け入れにくく、どちらかというと無償ボランティアがたまたまやることと思われがちです。一昔前の、世話焼き役のような方がそれにあたります。

例えば、コミュニティビルダーを例にあげます。これは日本が今後、コミュニティを必要としているという前提になりますが、その場合、まずは「コミュニティビルダー」を任命し、やるべきタスクを明確にして、報酬(給料)を支給できる仕組みを整えることが不可欠です。それができれば、若い人にも人気のある仕事になるのではないでしょうか。

地方においても今後増えていくと思いますし、いずれは、他の増えている職業のように、一定の専門的な知識・スキルが求められるので、認定試験も整備されると、職業としてしっかりと確立されていくといいなと思っています。

海外市場と法律

質問:その他に、何かありますか。

中島:もう1つは「海外(グローバル)市場」です。AIの登場により、言語の障壁が低くなり、今まで以上にネット上で世界と仕事することが容易になってくるでしょう。この時重要なのが、先にもお話しましたが、10年間で増加している職種の共通点の一つである「法改正による産業分野の拡大」です。

海外との取引がこれまで以上に増えていくにつけ、今までなかったトラブルも起きてくるでしょうし、必ず見直され整備されるのが「法律」です。そういった視点からも、海外と法律は押さえておきたいキーワードではないかと思います。

もう一つの共通点である「個人ユース」も、実は海外市場を考えると、大きな可能性が見えてきますね!そして、そうなるとやはり、その部分でも法律の専門知識を持つ職業が必要とされそうです。

ライター:西谷忠和

編集後記

今回は、大正大学地域構想研究所の中島ゆき主任研究員にお話を伺いました。国勢調査から見る平成の「なくなった職業」「誕生した職業」、そして直近10年間で増えている職業は、時代とともに変化しています。

しかしその裏側にある時代の変化「ITの技術革新」「法改正による産業分野の拡大」「個人ユースの拡大」については、令和の時代になってもしばらくは変わらないかもしれません。馬車から自動車に代用され、次にコンピュータによって自動化が進みました。

現代は人がAIに置き換わり、人々の生きる手段である職業にも大きな影響を及ぼすことになりそうです。しかし、人を相手にする限りは、人間にしかできないことはまだまだありそうです。AIツールの利便性が高まるなかで、コミュニケーションビルダーのように、人の可能性を広げられる仕事はまだまだあるようです。

片山久也
登場人物
キャリアリサーチLab編集部
HISANARI KATAYAMA
中島ゆき
登場人物
大正大学地域構想研究所主任研究員/大正大学地域創生学部兼任講師
YUKI NAKAJIMA

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