マイナビ キャリアリサーチLab

ジェンダー平等の実現に向けて、若者の視点から考える

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

本コラムはジェンダーギャップ指数の発表を受けて、特に経済分野に焦点をあてて課題と解決策について講演を行った内容を紹介するものである。最終となる第4回については、著者が「新しい“らしさ”の獲得へ、若者の視点からジェンダー平等を考える」と題して解説した内容を基にする。

現代社会において、ジェンダーギャップの解消は重要な課題の一つであり、当然ながら日本でも多くの企業でジェンダー平等のための施策が実践され、徐々に改善がみられる。しかし、世界の水準には及んでいない。第3回目の記事のなかでも触れたが、そこには伝統的な性役割意識の影響が色濃く残っていることが影響していると考えられる。

社会的規範となる意識を大きく変化させることは確かに時間がかかるが、いつまでたっても日本は変われないのだろうかというとそうではない。実際に若者の意識に注目すると、変化の兆しを感じることができる。

本コラムでは、若者の視点から見た、従来の固定概念を打破し、新しい働き方やキャリア形成のあり方を模索する動きについて紹介するとともに、今後のジェンダー平等に向けた取り組みとその課題について考察する。

管理職になりたくない理由からみるジェンダーギャップ

まず、23~39歳の正社員として働く男女に聞いた「管理職になりたくない理由」を確認する。調査結果によると、男女ともに管理職になりたくない理由として「責任が重くなる」が最多となっている。

特に男女差が大きい項目に注目すると「業務量が増える」「仕事とプライベートの両立が難しくなる」「自信が持てない」「仕事と育児の両立が難しくなる」が挙げられ、いずれも10%以上、もしくは10%程度の差が見られる。【図1】

管理職の仕事はさまざまであるが、「管理職になりたくない理由」の項目を見ると、大きく分けて「仕事の内容や責任」と「働き方(特に労働時間)」という2つの視点があると思われる。

まず「仕事の内容や責任」についてだが、【図1】のグラフにある項目でいうと「責任が重くなる」「管理職としての適性がないと思う」「管理職の仕事のやりがいが感じられない」が該当する。これらの回答割合を見ると男女差はあまり見られない。

性別に関わらず、若い世代で管理職が敬遠される理由と考えてよいだろう。この点については第3回「管理職意向を高められるか?新しいキャリアの選択肢『ポジティブな降格制度』」 で紹介した「ポジティブな降格制度」などが有効だろう。

次に「働き方(特に労働時間)」だが、項目でいうと「業務量が増える」「仕事とプライベートの両立が難しくなる」「仕事と育児の両立が難しくなる」が該当する。これらは先ほど示したとおり、女性のほうが管理職になりたくない理由として回答した割合が高い。つまり、ジェンダーギャップが生じている項目といえる。

ここで「管理職」の仕事について整理すると、管理職のなかでも「管理監督者」と呼ばれる役職者については、労働基準法で定められた労働時間等の制限を受けない。企業によって呼称はさまざまだと思われるが、一般的には、部長級以上となるだろう。第1回目のコラムでも触れたが、日本の女性管理職比率についてみても、課長相当職以上であれば12.7%だが、部長相当職については8.0%となる。

法的な定義を正確に理解している・いないに関わらず、感覚的にこうした労働時間の制限の有無が、管理職意向に影響を及ぼしている可能性もある。
(参考)「管理監督者」の定義 (厚生労働省)

ワーク・ライフ・バランスの現状

次に、「働き方(労働時間)」について検証するために、ワーク・ライフ・バランスの現状を整理する。

【図2】のなかで示した2つのグラフは、正社員で働く男女の1日当たりの家事時間を示したものであり。右側のグラフは差を見やすくするために、平均値を計算した結果を提示した。

男性は未婚の人と既婚で共働きをしている人と比較しても、あまり差は見られず、むしろ若干減少している。一方で、女性では、共働きであるにも関わらず、未婚の人よりも既婚者のほうが約1時間多い。つまり、女性は自分が正社員として仕事をしていたとしても、配偶者よりも長く家事を行っていること推察される。

次に、仕事と家庭のバランスのためにしていることについて、正社員として働く共働きの男女に聞いた。

先ほど述べたように、女性のほうが男性よりも多く家事に時間をとっていることに起因すると思われるが、「家事はなるべく手間がかからないようにする」「家事は完璧でなくても仕方ないと割り切る」といった“省エネ”する方略をとっていることがわかる。

また、仕事と家庭の両立という意味で特に重要なのは「家庭のために仕事を休んだり遅刻や早退をする」や「職場の上司や同僚に配慮してもらう」項目だが、これらも女性のほうが高い割合となっている。【図3】

つまり、家庭で何か起こったときに、職場との調整を担うのは女性のほうが多いということが推察される。ともに正社員である共働き夫婦であっても、家事における時間の負担、また、家庭のために仕事を調整しなければならない負担について、女性のほうが男性よりも多く請け負っていると考えられる。

先ほど、管理職になりたくない理由として、「働き方(労働時間)」に関連する項目で、女性の回答割合が男性よりも高いことを示したが、女性は家事を担う時間や家庭と職場の調整を担うことが多く、仕事と家庭の両立についてより難しいと感じるのではないだろうか。

若者の視点から見る社会の変化

こうしたジェンダーによる負担の偏りが起きる原因として、冒頭でも述べたが「伝統的性役割意識(男性は仕事、女性は家庭)」の影響が考えられる。

「働き方改革」や「男性育休の取得推進」など、さまざまな取り組みを通して、状況は改善されてきているが、2024年のジェンダーギャップ指数の順位が伸び悩んでいたように、その進捗スピードは世界に比べて遅い印象だ。

だが、日本社会が変われないと結論づけるのはまだ早いだろう。ここからは、若者の視点を通じて、変化の兆しを見ていきたい。

未婚女性が配偶者に求める条件

【図4】は育児休業の取得や家事のやり方について、正社員で働く20~30代の未婚女性に聞いた調査の結果だ。左図は「配偶者に育休を取ってほしいか」と聞いた結果だが、「育児休業を取ってほしい」との回答が5割を超えており、特に20代に限定するとほぼ6割という状態だ。また、右図は「結婚・出産後の家事・育児」に関する考え方を聞いたものだが、「結婚相手と二人でシェア」との回答が6割を超えており、20代に限定すると66.9%だった。

最近ではマッチングアプリに家事・育児に対する考え方を選ぶ項目があるという話しもあるが、家事・育児について二人でシェアできるかどうかが、重要な要素だと捉えている女性は多いようだ。

管理職になりたくない理由について、マイナビが実施した調査によると男女ともにもっとも多いのは「責任が重くなる」という項目だ。他には、業務量が増えることによって仕事とプライベートの両立が難しくなる、というような理由があげられている。【図4】

就職活動を行う大学生の「共働き志向」「育児休業の取得意向」

【図5】は就職活動を行う大学生に対して、将来的に「共働きをしたいか」「育児休業をとって育児をしたいか」ついて聞いた結果だ。

社会全体で見ても共働き世帯が増加しており、すでに専業主婦世帯の2倍となっている(総務省統計局「労働力調査(詳細集計)」)が、若者の希望としても「共働き志向」が高まっている。正確にいうと、女性は元々、高い水準で推移していたのだが、ここ数年で、男性にもその傾向が見られるようになっている。特に「育児休業の取得意向」についても同じような傾向が見られるが、取得意向についての男女差は0.2ptと、ほぼない状態といえる。

実は、この傾向は、ここ数年で急激にみられるようになった変化で、おそらく2022年4月から段階的に施行されている育児・介護休業法改正、いわゆる「男性育休」について報道等で話題になったことが影響していると考えられる。

こうした結果より、若者は「共働き」や「男女ともに育休をとる権利があること」が当たり前のこととして捉えているといえる。

ジェンダーギャップ解消を行う企業への印象

次に、ポジティブアクションなど職場において、ジェンダーギャップを解消するための取り組みを行う企業に対する印象を聞いたところ、学科系統や男女でややばらつきは見られるものの、全体的に女性だけでなく男性においても「良い印象を持つ」という回答が多数派であることがわかる。【図6】

企業が取り組む「女性活躍推進」は、決して女性のためだけのものではなく、男性に対してもポジティブな印象を持たれるといえる。

また、右表に学生の声を紹介しているが、先進国であるにも関わらずジェンダーギャップがあることへの疑問や、世代が変われば変わっていくのではないかという将来への希望が語られている。こうした若者たちが、上の世代が変わらないことに失望しないような社会を作っていくことが必要なのではないだろうか。

最後に

本コラムでは、ジェンダーギャップ指数の改善のために女性の管理職比率をあげるための対策を起点にジェンダー平等のために求められることを考えてきた。まずは、「女性の社会進出と同時に男性の家庭進出が必要」ということだろう。言い換えると、性別に関わらず、仕事も家庭も大事にできる働き方が求められているといえる。

また、ジェンダーギャップは日本に根強く残る問題ではあるが、若者の考え方を見ると、平等主義的な態度を当たり前のこととして受け入れている様子も見られた。企業は、人材確保が困難な状況下で、こうした働き方を実現するための環境整備を進めることで、若者に対する採用力を強化し、長期的に働き続けてもらうことを目指すメリットは大きいだろう。

また、ジェンダーギャップ解消に取り組むことは、誰もが「自分らしく」生きられる社会を目指すことにほかならず、多くの人に恩恵をもたらすのではないかと考えている。

マイナビキャリアリサーチラボ 主任研究員 東郷 こずえ

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