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キャリア形成活動の発展に向けて(第7回学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード開催報告)

宮地太郎
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TARO MIYAJI

2024年で7回目の開催となった「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」は学生の社会的・職業的自立に貢献したインターンシップやキャリア形成支援に係る取り組みを表彰するアワードだ。

学生の職業観涵養を促進する効果的な取り組みを周知することで、プログラムの質的向上および実施企業数の増加を実現し、学生と企業のより精度の高いマッチングを目指している。

「大賞」に輝いたのは旭建設株式会社/株式会社伊藤工務店/株式会社K GRIT/株式会社フォトラクション/LINE WORKS株式会社の55社共同プログラム「千葉の街を築く、建築・土木・内装工事×建設tech Society5.0学生のキャリア形成支援<汎用的能力活用型インターンシップの実施>」、「文部科学大臣賞」に関西学院大学の「Cross-Cultural College Global Internship in Japan」、「地方創生賞」には久留米工業大学の「デザイン集団『ASURA』」。

「優秀賞」に株式会社日本総合研究所、日本大学、株式会社博報堂/株式会社博報堂DYメディアパートナーズが、「入賞」にはANAグループ整備部門(ANAラインメンテナンステクニクス株式会社/ANAベースメンテナンステクニクス株式会社/ANAエンジンテクニクス株式会社/ANAコンポーネントテクニクス株式会社)、株式会社山陰合同銀行、DHLジャパン株式会社、東京国際工科専門職大学、東京都、フューチャーアーキテクト株式会社/フューチャー株式会社が選出された。

開催報告 

まず、実行委員長の久保 潤一郎氏から本アワードについて開催報告があった。今回の第7回では応募法人数1,013(企業930・大学74・地方自治体9)、応募プログラム数1,115(企業1,021大学85・地方自治体9)と過去最多の応募があり、より注目度が上がっていることが報告された。

また、より多くの法人からの応募していただくために従来の大賞から入賞までの受賞法人の選定に加え、あらたに「学生推奨プログラム」を設定し、入賞には至らなかったものの、学生部会や選考委員会の審査にて高く評価されたプログラムを15選出したことが報告された。

開催報告 実行委員長 久保 潤一郎氏
開催報告 実行委員長 久保 潤一郎氏

応募状況報告では法人従業員規模別は2023年同様にボリュームゾーンが「従業員数500人未満」規模の法人からの応募389となっており、伸び率も158.1%と高かった。

地域別では東京や首都圏の応募シェアは依然高いが、近畿エリアからの応募が140(前回比285.7%)、中国・四国エリア82(前回比372.7%)と大きく増えており、より全国的な取り組みとして広がっていることが実感できる数値となっている。

法人規模別/地域別

受け入れ日数別では引き続き1日開催のプログラムが最多だったが、5~6日のプログラムが前回の69から今回181と前回比262.2%と伸び、数は少ないものの1週間以上のプログラムも増加傾向にあった。

三省合意で示されているタイプ3、4のインターンシップも浸透し始め、応募プログラムのバリエーションや多様性も広がっていることや開催形式(オンライン・対面)は「すべて対面で実施」が増加(41.3%→60.5%(プラス19.2pt))していることから、直接会うことで深まるコミュニケーションや開催法人と学生相互の理解促進の効果も狙ったものではないかとの推察が展開された。

受入れ日数/開催形式

最後に「学生選考会」の 様子が紹介された。本アワードは第1回の開催からより良いプログラムを学生の視点で「学生が選ぶ」ということを重要視しており、「学生選考会」では応募プログラムを現役学生に個人ワークやグループワークでの評価を通して表彰したいプログラムを選定している。

直近は新型コロナウイルスの影響によりオンラインで開催されてきたが、今回は数年ぶりに対面で開催した。約120名が参加し、学生目を通してプログラム選定が行われ、学生からは特に「リアリティー」や「オリジナリティー」があるもの、また「成長の体験」ができるプログラムが高評価であったことが報告され、久保委員長の開催報告を締め括った。

久保委員長の開催報告

キャリア形成支援活動の発展に向けて

「学生が選ぶキャリアデザインプログラムアワード」ではカンファレンスを開催し規範となるべきプログラムを表彰・周知すると共に学生アンケートの調査結果・分析をもとにインターンシップやキャリア形成支援の持つ役割と未来についての考察と示唆も行っている。

分析を行っている実践女子大学 人間社会学部 初見康行准教授は、インターンシップに代表されるキャリア形成活動は大学生活に欠かせない活動の1つに発展し、コロナ禍終了後、大学1・2年生(低学年)の参加経験も上昇傾向にある中で、「企業はキャリア形成プログラムをより充実させるためにはどうしたら良いか?」「大学は学生のキャリア形成活動をいつ・どのように支援していくべきか?」について考察を発表した。

効果的なプログラム(就業体験)のポイント

第5回の講演で「就業体験」の前後に「事前学習」と「事後学習」を実施することが効果の向上に重要であることが示されたが、就業体験(実際の仕事体験)を通して仕事内容や社風をしっかりと理解してもらうためにはどれくらい就業体験をすれば良いのだろうかという疑問が残った。

今回は「効果的なプログラム(就業体験)のポイント」として「就業体験の割合」と「仕事・社風の理解度」の関係についての分析結果により、就業体験の割合を全体の50%以上にすることが重要であることが示された。

「就業体験の割合」と「仕事・社風の理解度」の関係

次に、「仕事内容・社風」の理解だけでなく就業体験を通して、『自社に対する「志望度」を向上させるために必要なことは何か』についての説明があった。

今回の分析結果から社会人基礎力に代表される「能力の向上感」が「適職の発見感」にプラスの影響を与えていることが確認され、就業体験による「仕事内容・社風の理解」に加えて今後は学生の「能力開発」を意識することが重要であると調査結果から示された。

統計的な分析結果から

さらに「志望度の向上」だけでなく、「選考参加・内々定・入社承諾」を向上させるために、プログラムの「期間(5日間以上・未満)」がどのような影響を及ぼすかを確認した。

その結果、「期間(5日間以上・未満)」はその後の「選考参加率」とは有意な関係が確認されなかったが、その後の「内々定率」「入社承諾率」には有意な関係があり、5日間以上のプログラムは企業にとっても学生にとっても有意義な可能性が確認された。

就職活動だけでなく、入社後の「エンゲージメント」を高めるかを確認したところ、プログラムの「期間」は、入社後の「エンゲージメント」とも有意な関係が確認された。

プログラムの「期間」と入社後の仕事に対する「エンゲージメント」の関係

効果的なプログラム(就業体験)のポイントのまとめ

より効果的な就業体験を目指して

  1. 就業体験の前後に「事前学習」と「事後学習」を実施する
  2. 5日間以上かつプログラム全体の50%以上を就業体験にする
  3. 仕事・社風の理解に加えて就業体験を通した「能力開発」を意識していく

低学年からのキャリア形成活動

次に、第6回の講演で示された今後想定される2つの課題「就業体験の参加枠が不足している」「キャリア形成活動が3年次に偏っている可能性がある」について、就職活動の早期化に留意しつつ1つの方向性として「低学年からのキャリア形成活動についての検証」が展開された。

仮説として「1年次にキャリア教育、2年次に企業セミナー、3年次に就業体験という分散・ステップ化は有効か?」というもので、大学1・2・3年生それぞれの学年で参加したことがあるキャリア形成活動を大きく3つに分類。

「卒業前後調査」で質問を実施

在学中のキャリア形成活動の成果として3つの指標を設定

  1. 学習意欲の向上
    質問例:大学の学習について主体的・能動的に学ぶようになった、など
  2. 就職活動の満足・納得感
    質問例:総合的にみて、自分の就職活動に満足している、など
  3. 大学生活全体の満足・納得感
    質問例:総合的にみて、これまでの大学生活に満足している、など

分析の結果、キャリア形成活動を「段階的かつすべてのタイプ」を経験した学生が、平均値の合計がもっとも高い結果となった。

分析結果

またキャリア形成活動の開始時期による比較では、低学年からキャリア形成活動を開始する効果として在学中の「学習意欲の向上」が確認された。

今回の調査のみで断定することはできないが、キャリア形成活動を学年ごとに分散・ステップ化することは有効な可能性があること、また低学年からキャリア形成活動を開始することで 「学習意欲の向上」がより高まることが示唆され、キャリア形成活動は職業選択の充実だけでなく在学中の「学習活動」を促進する可能性が高いとわかった。

さらに今後のキャリア形成支援は学年をまたいだ、より連続的・立体的なキャリア形成プログラムの設計も考えられるし、低学年対象のキャリア形成支援をしていくことは中長期的に企業にとっても有意義な可能性があることを初見康行准教授は力強く訴えた。

ただし実現には「産学官民の連携」が不可欠であること、前例が少ない中で試行錯誤が必要になると語り、正解や道筋が不明確であるからこそよりフラッグシップとなるキャリアデザインプログラムの共有が重要になる、次回のキャリアデザインプログラムアワードへの応募を呼びかけ講演を締め括った。

最後に

第1回から選考委員を務める法政大学 キャリアデザイン学部 梅崎修教授は審査講評の中で「本日各受賞法人の発表を改めて詳細に聞かせていただき、改めて選ばれるべくして選ばれたプログラムであると感心、感動しました」と語った。

学生が評価するポイントとして「1つ目は、やはり学生の学びの過程を丁寧に設計されているプログラムは評価されている。事前→体験→事後3ステップの接続の良さ、唐突感のないものという王道の大切さ。2つ目はいわゆる尖った多様性のあるプログラム、その可能性を感じるプログラムが魅力的であった」と続ける。

最後に今後応募を検討している法人に向けて、「プログラムの改善努力は必ず評価されるということ、今回は理系学生向けのプログラムが充実していたが、専門の明確さだけではなく、ずっと続けていること、歴史・経験の蓄積や改善力が花開いているように思える。

今後は文系向けの素晴らしいプログラムが出てくることが期待されるが、これもある種の継続性の中から生まれる多様性であろうと予想されるし、そのような魅力あるプログラムが出てくることを期待したい。」と講評を締め括った。

「キャリアデザインカンファレンス2024」の様子は、HP(https://internship-award.jp/)でアーカイブを公開しており、第6回で大賞に輝いた株式会社DAY TO LIFEによるキーノートスピーチや大賞、文部科学大臣賞、地方創生賞、優秀賞との受賞プレゼンテーション、学生選考委員会メンバーによるパネルディスカッションも視聴することができる。

梅崎選考委員が選ばれるべくして選ばれたプログラムと実感した理由と、受賞法人のプログラムに対する熱意が伝わる素晴らしい内容であるので是非ご覧いただきたい。

キャリアリサーチLab主任研究員 宮地 太郎

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