【前編】普段とは異なる役割や会えない人材との交流で、自身の強みを可視化できる「プロボノ」-名古屋産業大学 今永典秀氏
昨今、多くのビジネスパーソンが取り組み始めている「プロボノ」。しかし、兼業・副業と比べると世の中に浸透していないようです。社会貢献活動ができる「プロボノ」ですが、「ボランティア」と何が違うのか。その活動に参加することで、個人はどういうメリットを得られるのか。そして、プロボノで成果を上げるために注意すべきポイントとは……。
この分野を研究している名古屋産業大学 現代ビジネス学部 経営専門職学科の今永典秀准教授に話を伺いました。これから「プロボノ」をはじめようという人にも、分かりやすく解説していただきました。
目次
プロボノとは?趣味や職業で培ってきたスキルや知識、人脈などを活かして社会貢献する活動
──注目されているプロボノですが、「プロボノ」と「ボランティア」の違いを教えてください。
今永:今「プロボノ」は、さまざまな記事や書籍で解説されていますが、本来ラテン語の「Pro Bono Publico」(公共善のために)が語源とされています。発祥は欧米です。弁護士が、高度な法務スキル・経験を活かして、低所得者層などが抱いている問題に対して、無償で相談に乗ったのが始まりだといわれています。
つまり、「自らの職業などによって、培ってきた専門スキルや知識を活かして行うボランティア活動」のことです。なお「プロボノ」では、職業上のスキルや知識、人脈以外にも、過去に経験してきた趣味や得意分野などを活かして、社会貢献することも含まれます。
また、そのプロジェクトが何らかの社会課題を解決するサービスにつながっているのであれば、NPO法人だけでなく企業を支援することもプロボノ活動としては当てはまります。日本では、2010年前後が「プロボノ元年」といわれており、今で12〜13年続いている活動になります。
近年のオンライン通信環境の普及や副業・兼業の解禁、ビジネスパーソンが一つの会社だけでキャリアを形成していくことに危機感を抱き、自社以外での経験を積むという越境学習が推進されるようになったこともあり、プロボノが広まってきました。
──プロボノが増えている背景として、企業の「副業・兼業」の解禁なども影響がありそうですね。
今永:そうですね。大手企業を中心に「兼業・副業」などの自由な働き方が一般化され、プロボノ活動が身近になってきたように思います。
それともう1つは新型コロナウイルス感染症の拡大による、オンラインサービスの発展です。これらの要因により、プロボノ活動を行う一番のボリュームゾーンである大手企業のワーカーが増えてきました。実際、受け入れ先企業と離れた場所に住みながらも、ZOOMなどを使って打ち合わせをして成果を上げている人は少なくありません。
──社会貢献に関わってみたいという欲求を持った人が潜在的に多くいたということでしょうか。
今永:「本業以外で社会貢献をしてみたい」という人が一定数の割合いるのだと思います。その人たちが休日や仕事終わりの隙間時間を調整して、取り組める環境が整ってきたことで、プロボノの活動が広まってきたのではないでしょうか。
また、ビジネスパーソンの内面の変化も影響として考えられます。終身雇用など日本型雇用の見直しやIT技術の発達でビジネス環境の変化が速くなり、ビジネスパーソンが1つの企業に身を置き続けることに危機感を抱くようになってきました。
だからこそ、自分の知らない世界と深く関わって、自分の知識や技術をアップデートする必要があると感じ、積極的に自社の外に足を向けるようになったのではないでしょうか。
自分の技術やスキルが可視化でき、強みを再認識できる
──個人がプロボノ活動で得られるメリットはどんなことがありますか。
今永:基本的には無報酬で仕事を請け負うので、非金銭的報酬(意味報酬)というお金では買えない価値を手に入れられると思います。
たとえば、プロボノワーカーの受け入れ先のNPO法人や企業から感謝されることがやりがいになったり、関わった他のプロボノワーカーや企業など、外部との人的ネットワークを拡大できたことに意味を感じたりする人もいます。
また、本業とは違う立場で、従来の業務では関われない人たちと仕事をすることで、今まで意識しないでやっていた自分の知識や技術を可視化して、自分の強みを再認識できることに喜びを感じる人もいます。
プロボノの経験を重ねていくと、周りから声をかけてもらえる
──「プロボノをやってみたい」と思った時に、どのようにアプローチすればよいでしょうか?
今永:一般的には2つのアプローチ方法があります。1つは、プロボノワーカーの知り合いや著名(プロフェッショナル)なプロボノワーカーに直接コンタクトを取って、紹介してもらう方法です。もう1つは、プロボノ活動を支援しているNPO法人などに問い合わせて、そこで紹介しているプロジェクトに参加する方法があります。
後者だと、定期的に説明会を開いているため、興味があれば本格的にプロボノ活動をする前に、事前に説明を受けることができます。その説明で、自分の経験やスキル、興味などの条件に合わせて、いくつかプロジェクトを紹介してもらえます。なかには長期のプロジェクトもありますが、1つのプロジェクトの期間としては2〜3カ月が標準的です。
プロボノの受け入れ先とWin-Winの関係が構築できれば、人によってはそのまま同じ場所でプロボノ活動を継続することも可能です。そして、いくつかのプロジェクトでプロボノを経験すると、SNSで「こんなことができます」「こんなスキルを持っています」といった経験をPRして、個人でプロボノの案件を受けるようになっていく人もいます。
今だとプロボノを経てNPOに加入したり、街づくりなどの地域活動に入っていったりするケースが少ないため、いい意味で目立ちます。そうなると、周囲から声がかかるようになり、知らず知らずのうちに、人的ネットワークができたりします。
1カ月間に20〜30時間をコミット。時間の使い方は人それぞれ
──今永先生もプロボノ活動をされているのですか?
今永:どこまでが研究で、どこからがボランティア(プロボノ)なのかの線引きが難しいですが、街づくりのプロボノなどは定期的に活動しています。たとえば愛知県刈谷市の駅前の商店会の方々とミーティングを行ったりしていますが、かれこれ2年近く続いていますね。
最初は、興味があってお手伝い程度で関わっていたのですが、いつの間にかまちづくりかりやというNPO法人の理事を任されるように関係性が深まっていき、私自身の活躍の舞台も広がっていくようになりました。
私が、プロボノ活動に活かして貢献している能力は、専門的なスキルもありますが、それ以外のコミュニケーションの基本となるような能力も役に立っていると言われたりします。たとえば、みんなの意見をまとめて、論点を整理したり、会議を進めたりするファシリテーションスキルです。
大学での教育や研究においても似たようなスキルを使っているので、それが活かされているのだと思います。
──一般的にはプロボノは、どのくらいの頻度で活動されているのでしょうか。
今永:私自身は、統計的な調査をしたことがないので、正確な数字はお伝えできませんが、周りのプロボノワーカーの活動を見ていると、 週というよりは1カ月の間で20〜30時間つくって活動している人が多いようです。
たとえば、1日有給休暇を取って、大事な会議の打ち合わせやイベントに参加したり、仕事終わりの夕方や夜、土日の休みをうまく使って作業に充てたりしています。
「適切な距離を取る」ことで、やりがいを持ってプロボノを続けられる
──最後に、プロボノとの向き合い方についてお聞きしたいと思います。本業(会社)はお金を稼ぐ所なので、なかば半強制的に関わりますが、プロボノは強制ではないため、業務との距離の取り方が本業とは異なると思います。どのような「距離の取り方」をすれば、プロボノ活動を継続しやすいのでしょうか。
今永:これはプロボノを行う人と、受け入れる企業・団体、両方に該当すると思います。ほとんどのプロボノワーカーは一定の時間内で、与えられた業務を行います。その一定の時間も、人それぞれ異なるため、かなり個別性が高いです。頑張りすぎたり、のめり込みすぎると、本業に悪影響を与えたり健康を害してしまうことが起こりがちです。
そこで、まずプロボノワーカーは受け入れ先に対して、「ここまではやれる」「この業務ならできる」という業務範囲や業務内容を伝え、お互い認識を合わせて、期待値調整をすることが重要です。
受け入れ先の企業や団体も、一定の業務内容をタスク化して明確にしておくことと、時間の制限をつけて、プロボノワーカーに共有することが必要でしょう。それによってプロボノワーカーは、その時間やタスクの範囲内で自分がやれる業務を遂行することができます。このようにお互いが関わる業務や時間を明確にすれば、間違いなくWin-Winの関係を構築できます。これが、最適な「距離の取り方」だと思います。
お互いに先に制限をつけておくことで、いい意味でのフィルタリングやブレーキになってくるので、プロボノワーカーは無理せず業務を進められますし、受け入れ先からも無理な発注や依頼がこなくなるでしょう。せっかく、やりたかった社会貢献につながる業務で、燃え尽きてしまう(バーンアウト)のは、もったいないことです。適度な距離を意識して取り組むように心がけましょう。
──今回は、今永准教授にプロボノをこれから始めようというビジネスパーソンに向けた、プロボノ活動の基礎を解説していただきました。後編は、プロボノの受け入れ先やプロボノを研修の一環として取り入れようと考えている企業向けに、プロボノ活動のメリットや、導入する際の注意点などについて伺います。
今永典秀(いまなが のりひで)
名古屋産業大学現代ビジネス学部経営専門職学科准教授、地域連携センター長
1982年生まれ。名古屋大学経済学部卒業、博士(工学)。大学卒業後、民間企業での実務経験、岐阜大学地域協学センターで、次世代地域リーダー育成プログラムの開発と実践を経て、2019年より名古屋産業大学に在職。社会人と学生の対話の場の企画運営を行う市民活動経験やまちづくり、NPO法人や社会課題解決を目指す活動のアドバイザー・理事などを務める。実務経験を活かし、理論と実践を両立する「実務家教員」として、大学でのインターンシップを中心とした教育プログラムの開発と実践を行う。主著「長期実践型インターンシップ入門(共著)」「企業のためのインターンシップ実施マニュアル(共著)」「共創の強化書(共著)」等