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不確実な状況で成果を出す人の特徴~曖昧さ耐性を紐解く~

神谷俊
著者
株式会社エスノグラファー代表取締役 バーチャルワークプレイスラボ代表
SHUN KAMIYA

私たちは今、“不確実性の時代”を生きています。変化が急激で予測不可能な今日、みなさまの職場でも「計画が立てられない」「見通しがきかない」といった状況は日常的に発生していることでしょう。

このような不確実な環境下で成果を獲得するために、いま新たな資質が求められています。それが「曖昧さ耐性」です。この概念は、未知の状況や不確かな情報に直面したときに、平静さと前向きな意欲をもって対応するために重視される資質です。

本コラムでは、「曖昧さ耐性」とは具体的に何か、そしてどのような効能を持っているのかを解説します。また、曖昧さ耐性を高めるための実践的なアプローチについても紹介します。

曖昧さ耐性が高い人の特

曖昧さ耐性(tolerance of ambiguity)(※1)とは、心理学で用いられる概念です。曖昧さ耐性が高い人は、曖昧な状況を前向きに捉えやすく、低い人は曖昧な状況をネガティブに捉えやすいと言われています。

たとえば、初めての仕事に従事する場合を想像してみてください。前例がなかったり、進め方がわからなかったり、あるいは目標が曖昧だったらあなたはどのように感じますか?

多くの人は、戸惑いや不安を強く感じるかもしれません。目標や計画、進め方や成果を出すためのポイントについて詳細に質問をするでしょう。あるいは、なるべくそのような情報不足なタスクは「やりたくない」「できない」と拒否をするかもしれません。

一方で、「面白そう」「成長できそう」「なんとかなりそうだ」といったポジティブな心理で、積極的にその業務のなかに歩を進めていく人もいるでしょう。情報不足の状況でも、躊躇なく主体的に関与しようとする。それが曖昧さ耐性の高い人の特徴です。【図1】

曖昧さ耐性とは
【図1】曖昧さ耐性とは

曖昧さ耐性が高い人は、情報が不完全な状況でも恐れず、逆にその状況を「チャンス」や「挑戦」と捉え、新しい解決策やアイディアを生み出すことができます。彼らは、不確実性に対する恐れよりも好奇心やチャレンジ精神を優先させることができるのです。

曖昧さ耐性の効能

曖昧さ耐性が高い人は、曖昧な状況を積極的に受け入れるなかで、次のような効果を生み出すことも報告されています。

幸福感(well-being)

先行研究では、曖昧さを受け入れる姿勢を持っている人ほど、幸福感が高く、ストレスを知覚しにくいことが報告されています(※2)。反対に、曖昧さを受け入れにくい人は、「どうなるかわからないことへの不安」「ネガティブな結果イメージ」を知覚しやすいために、どうしても不安を抱えやすいと言われています。

リーダーシップの発揮・起業家精神

ビジネスパーソンに対する研究では、曖昧さ耐性とリーダーシップの関連が報告されています(※3)。曖昧さ耐性が高い人材ほど、挑戦的な仕事を求める傾向があり、不確実な状況を切り抜けるためのリーダーシップを有している傾向があることも報告されています。見通しの効かない状況でもポジティブに受け止め、それを打開するべくリーダーシップを発揮する姿勢を持っています。

創造性・批判的思考

さらに、曖昧さ耐性が創造性や批判的思考の発揮と関連があることも報告されています(※4)。状況に合わせて前提を見直したり、創造的に対応したりする姿勢を有していると考えられています。

パフォーマンス

そして、それらの不確実な状況へ適応するなかで、曖昧さ耐性の高い人は、効果的なパフォーマンスを生み出しやすいことも分かっています(※5)。不確実な状況に、積極的に挑戦し、状況に見合うソリューションを創造的に生み出すことで、より成果を生み出しやすいと考えられています。

曖昧さ耐性の高い人は、何を「見て」いるのか?

さて、ここまで曖昧さ耐性の特徴や効能について説明をしてきました。ここからは、さらにこの特性をさらに深堀していきたいと思います。

曖昧さ耐性の理解を進めるうえで、気になるのは「どうして彼らは不確実な状況に歩を進めることができるのか?」「そのような状況において、彼らはどのように考えているのか?」です。常識的に考えれば、役割や目標、計画などが定まっていない状況はなるべく回避したいものでしょう。そのような仕事に取り組んだところで、成果を創出できる保証はありません。全くの無駄になるリスクや、低評価につながるリスクもあります。

このようなリスクの大きい状況において、曖昧さ耐性の高い人は、曖昧な状況をどのように知覚し、いかに意味づけているのでしょうか。

二つの期待感

この点について、参考になるのが曖昧さ耐性の高い人が持っているとされる2つの期待感です。「1.効力期待」「2.結果期待」と言います。

  1. 効力期待は、“自分”に対する期待です。
    曖昧さ耐性が高い人は、曖昧な状況でも「自分なら何とかその仕事を進められそうだ」という期待感を強く持っている。
    反対に曖昧さ耐性が低い人は、「自分はうまくできないだろう」「自分なんかがやっても無駄だろう」といったネガティブな認識を持ちやすいと言われています。
  2. 結果期待は、“結果”に対する期待です。
    要件やスケジュールが明確でなかったとしても「(仕事を進めた結果)何らかの価値が得られそうだ」という期待が大きいために、彼らは果敢にリスクを取りにいけるのです。

この結果期待のポイントは、成果ではなく「結果」への期待であるという点です。彼らは必ずしも「成功」や「達成」をイメージできているとは限りません。

「その仕事では、成果は出ないかもしれない。でも、(その経験が成長につながるなどして)自分にとって有益な価値が得られそうだ」というポジティブな期待を持っているわけです。「仕事の成果」と「自分の価値」を切り分けて考えている点が特徴的です。【図2】

曖昧な状況での心理
【図2】曖昧な状況での心理

このように曖昧さ耐性の高い人は、見通しが立たない状況であっても「何とかなりそうだ」「どんな結果になったとしても自分にとって価値があるだろう」という期待感をもって歩を進めていくのです。

反対に曖昧さ耐性が低い人は、先行き不透明な状況で「自分には荷が重い」「失敗して非難される」「評価が下がる」というネガティブなシナリオを作り、歩みを止めてしまうのかもしれません。

これらを踏まえると、曖昧さ耐性の本質が見えてきます。「曖昧さ耐性」という言葉を目にすると、私たちはつい「耐えられる強さ」をイメージしてしまいがちですが、本質的な特徴は「不確実な状況下でも先行きを見通す自分なりのビジョンを持っている」という点にあります。

さらに言えば、その“ビジョン”には明るい未来が描かれている点も特徴です。どんな状況でも明るい未来に向けて見通しを立てられる資質、それが曖昧さ耐性の高い人であると言えそうです。

どうしたら曖昧さ耐性を高められるのか?

最後に、曖昧さ耐性の高い人材をいかに育てていくのか?について解説をしていきましょう。上述の通り、曖昧さ耐性の本質にあるのは、「効力期待」「結果期待」という未来に対するポジティブな展望です。曖昧さ耐性を高めるうえでは、これらの期待感を醸成していくことが肝要です。

曖昧な状況であっても、仕事の進め方について「何とかなりそうだな」と思えれば、一歩を踏み出すことができます。また、失敗のリスクが高い状況であったとしても、「失敗しても結果オーライ」と意味づけることができれば、思い切って挑戦をできるようになります。

このような期待感を刺激するために、上司に求められるのは戦略的なジョブ・デザインです。

リスクを戦略的にコントロールする

とくに大切なことは、仕事における「リスク」を戦略的にコントロールすることです。いきなりハイリスクな仕事に飛び込ませるのではなく、まずは部下と対話を重ねながら「小さなリスク」から挑戦を促していきます。たとえば、失敗しても問題ない業務や、難度の低い業務からスタートし、そのリスクや難度を徐々に高めていくイメージです。

「小さなリスク」から始め、段階的にハードルを乗り越えていくなかで経験値を積んでいくと、部下のなかで少しずつ自信が芽生え始めます。「多少わからないところがあっても、何とかなるもんだ」と少しずつ自分に期待できるようになっていくでしょう。

また、挑戦を促す際には、サポート体制についても明示しておくことがポイントです。「命綱」があれば、危険な場所にも足を踏み出せるようになります。「うまくいかない場合や、進捗が停滞したときには上司が支援してくれる」と知覚するだけで、「何とかなりそうだな」という気持ちは生まれやすくなります。

チームの空気を意識する

最後に、上司が意識したいのはチームの「空気」です。チーム内で共有されている「空気」が次のようなものである場合、曖昧さ耐性を高めるのはかなり難しくなるでしょう。

  • 常に忙しく、みんな自分のことで精一杯。
  • ミスや失敗に厳しい。
  • 創造的・実験的なアプローチを「無駄」と考える。
  • 個人が成長することよりも、業績を高めることを優先する。

このような「空気」が漂っていると、当然ながら社員は曖昧な状況のなかに一歩踏み出すことをしなくなります。チーム内の「空気」が無言のプレッシャーとなり、ポジティブな期待感を持てなくなるためです。むしろ「失敗したら責められる」「成功させなければ評価が下がる」と考えるために、曖昧さを極力回避するようになり、曖昧さ耐性は低下していくことも考えられます。

上司としては、チーム内に次のような「空気」を呼び込むことが求められます。

  • 「実験」やチャレンジをする人を奨励する。
  • 業績と同じくらい「何を学んでいるか」を重視する。
  • 「失敗」という概念はない。(何事も学習や成長の糧)
曖昧さ耐性を高めるために
【図3】曖昧さ耐性を高めるために

このような「空気」をつくるためには、しっかりと”メッセージ”を発信する必要があります。たとえば、チームのメンバーが集合しているなかで、何かに挑戦している部下のエピソードを共有したり、チーム内のビジネスチャットや共有メールでそれを評価していることをきちんと伝えたりすることなどが大切です。

また、上司自身も不確実な状況に向かって挑戦して背中を見せることも必要でしょう。上司は、チームにおける「モデル」であり、チームの価値判断に大きな影響を与える「シンボル」です。上司の部下に対する言動によって、部下はチーム内の「空気」を感じ取るために、上司自身が不確実な状況に一歩踏み出すことを奨励する姿勢を見せることが大切です。

不確実な状況でも、果敢に挑戦する曖昧さ耐性の高い人材は、このような地道な育成プロセスを経て台頭するものです。丁寧に挑戦環境を整えてあげることが何よりも大切です。


<参考資料>
※1:Furnham, A., & Ribchester, T. (1995). Tolerance of ambiguity: A review of the concept, its measurement and applications. Current Psychology: A Journal for Diverse Perspectives on Diverse Psychological Issues, 14(3), 179-199.
※2:Hancock, J., & Mattick, K. (2020). Tolerance of ambiguity and psychological well‐being in medical training: a systematic review. Medical education, 54(2), 125-137.
※3:O’Connor, P., Becker, K., & Fewster, K. (2018). Tolerance of ambiguity at work predicts leadership, job performance, and creativity. In Creating uncertainty conference (pp. 1-1).
※4:Facione, N. C., Facione, P. A., & Sanchez, C. A. (1994). Critical thinking disposition as a measure of competent clinical judgment: The development of the California Critical Thinking Disposition Inventory. Journal of Nursing education, 33(8), 345-350.
※5:O’Connor, P., Becker, K., & Fewster, K. (2018). Tolerance of ambiguity at work predicts leadership, job performance, and creativity. In Creating uncertainty conference (pp. 1-1).

神谷俊

著者紹介
神谷俊(かみや しゅん)
株式会社エスノグラファー 代表取締役
バーチャルワークプレイスラボ 代表

企業や地域をフィールドに活動。定量調査では見出されない人間社会の様相を紐解き、多数の組織開発・製品開発プロジェクトに貢献してきた。20年4月よりリモート環境下の「職場」を研究するバーチャルワークプレイスラボを設立。大手企業からベンチャー企業まで、数多くの企業のテレワーク移行支援を手掛け、継続的にオンライン環境における組織マネジメントの知見を蓄積している。また、面白法人カヤックやGROOVE Xなど、組織開発において革新的な試みを進める企業の「社外人事(外部アドバイザー)」に就くなど、活動は多岐にわたる。21年7月に『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』(日経新聞出版)を刊行。

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