マイナビ キャリアリサーチLab

中・東欧IT人材ジョブフェアの報告と中・東欧諸国で日本の存在感を向上させる人材連携

島森 浩一郎
著者
株式会社マイナビ 欧州事業企画部長 兼 ワルシャワ駐在員事務所長
SHIMAMORI KOICHIRO

マイナビ・ワルシャワ駐在員事務所の島森と申します。
私は2019年の春から欧州のIT/AI人材のレベルの高さに着目し、ビジネスの可能性を探るための調査を開始。2020年2月末に弊社初となる欧州拠点をポーランドの首都ワルシャワに設立すると同時に現地に赴任しました。

現在は中・東欧諸国、北欧やバルト三国を中心に、現地のイノベーション領域に関する調査、日本企業と現地企業・人材とのブリッジ、テクノロジーやESG関連の投資活動、日本政府(経済産業省)の事業受託といったミッションを担っています。 

このコラムでは、前回のコラムに続き、中・東欧諸国で日本の企業が採るべき対応と2023年10月に実施したジョブフェアの内容をご報告したいと思います。

はじめに

前回のコラムでは、ポーランドのIT 産業と高度IT人材について、現地調査を中心に現状を紹介してきました。今回は第一に、2023年10月中旬にブルガリア・ポーランド・ルーマニアにて開催した経済産業省主催「中・東欧IT人材ジョブフェア」についてご報告します。

第二に、前年からの調査内容を踏まえ、高度IT人材不足に直面する日本そして日本企業が、当該エリアの高度人材を獲得または連携するために必要と思われる方策について、ポイントごとに提言を行います。

中・東欧IT人材ジョブフェアの報告

中・東欧IT人材ジョブフェアの報告

まずは、経済産業省主催「中・東欧IT人材ジョブフェア」についてです。

実施の背景

IT人材の中でも、とりわけ高度な知識とスキルを持つ人材の不足は日本で深刻ですが、世界中で優秀な人材の争奪戦となっていることは、前回のコラムでもご報告した通りです。

特にサイバーセキュリティ、フィンテック、マシンラーニング、ロボティクス、データサイエンスなどのIT/AI領域では、ポーランドを始めとする中・東欧諸国は、社会主義時代からの数学教育の遺産で、今も質の高い高等教育のもと、優秀な若者を多く輩出し続けています。

日本政府、特に経済産業省では、これまでアジアやアメリカに目が行きがちだった日本企業に中・東欧人材の可能性を提示するため、2022年より「中・東欧における高度外国人材と日本企業・日系企業のマッチング強化事業」を企画し、株式会社マイナビが受託しました。

そこで2022年12月、ポーランドのワルシャワとルーマニアのブカレストで、日本から招いたスタートアップやIT企業と現地の若手人材が出会い、相互に交流するカンファレンス事業を初めて実施しました。

2年目となる2023年は2022年の取り組みをさらに進化させ、日本政府主催としては初となる現地でのジョブフェアを実施しました。また、開催国もポーランドとルーマニアに加え、新たにブルガリアも含めた3カ国とすることが決まりました。

折しも2023年5月初頭に西村経済産業大臣が欧州諸国を歴訪し、ブルガリアとルーマニア訪問時には日本企業同行団が組織されました。弊社がそのうちの1社に選ばれ私が参加しいたしましたが、各国政府首脳とのラウンドテーブルの場で、西村大臣は日本が今後、ブルガリアやルーマニアとIT/AI産業と人材でより連携すること、その一環として秋に日本政府主催のジョブフェアを開催することを表明されました。

具体的な実施内容

中・東欧の高度IT人材と日本企業が出会う場として実施するジョブフェアは、欧州で大学の新学年が始まる10月中旬に開催することを決定しました。以下で、具体的な内容についてご紹介します。

『経済産業省 中東欧ITジョブフェア』

参加日本企業

参加した日本企業は計16社で、3カ国すべての回に参加された企業と、1~2カ国だけ参加された企業があります。内訳は、日本からの企業が全体の3分の1、欧州拠点の日系企業(現地法人)が3分の2でした。

2022年12月の初年度カンファレンスでは、ほぼすべてが日本からの参加し、そして多くがスタートアップでした。しかし、2023年はジョブフェアということで、外国人採用に具体的な計画を持つ在欧の日系企業が多くなったことが大きな理由として考えられます。

また円安が急激に進んだ状況下、日本から欧州のプログラムに1週間参加されることの金銭的負担が増したことも、特に日本のスタートアップの心理にネガティブな影響を与えたと思われます。

ブルガリア開催について

ブルガリア ソフィア(日本企業11社参加)

【10月13日(金)】
・INSAIT(ブルガリアが国家をあげて注力する高度AI研究開発・教育機関)訪問
・駐ブルガリア日本国大使公邸レセプション

【10月14日(土)】
・Bulgarian-Japanese Tech Job Fair & Conference (ジョブフェア・カンファレンス開催 ※ブルガリア独自の「IT Career Day」と同時開催)
https://challengerocket.com/bg-jp-tech-fair-forum

今回初めて開催することとなったブルガリアは、弊社が現地で事業を運営するための現地パートナー企業はもちろん、政府やメディアの注目も大きいものでした。特に、もともと10月中旬に開催される予定だった現地の『IT Career Day』に相乗りする形で、同じ会場で実施したことが、非常に多くの来場者数に繫がりました。

日本独自のカンファレンス(日本企業プレゼンやパネルディスカッション、コーディングコンテスト)は、100名規模のホールで座席が足りなくなり、立ち見が出るほどでした。また『IT Career Day』を開催する隣の大ホールに日本企業全11社のブースを設け「日本コーナー」としたのですが、ブルガリアや欧州にすでに進出する日系企業の知名度はもちろん、日本から参加した企業の技術や取り組みがブルガリア人学生の興味を引き、大きな賑わいとなりました。

ポーランドとルーマニア開催について

ポーランド クラクフ(日本企業12社参加)

【10月16日(月)】
・Polish-Japanese Tech Job Fair & Conference (ジョブフェア・カンファレンス開催)
https://challengerocket.com/polish-japanese-job-fair-forum

ルーマニア クルージュ・ナポカ(日本企業11社参加)

【10月17日(火)】
・在ルーマニア日本国大使館主催レセプション(NTT DATA Romania本社にて開催)

【10月18日(水)】
・Romanian-Japanese Tech Job Fair & Conference (ジョブフェア・カンファレンス開催)
https://challengerocket.com/ro-jp-job-fair-forum/

ポーランドとルーマニアは、初年度の2022年12月のカンファレンスを、それぞれ首都(ワルシャワとブカレスト)で開催したこともあり、2年目となる今回は、IT産業と教育で高い評価を得る第2都市(クラクフとクルージュ・ナポカ)で開催しました。

またブルガリアとは違い、日本独自の単独開催を行いました。そのため、来場者数はブルガリアに比べると少ないものになりました。これには、大学の新学期が始まった直後で学生が忙しかったこと、中立性を保つために特定の大学を会場とせず公的な施設で実施したために学生の足が向きにくかったことなどが考えられます。

一方で来場した学生の質は、特にポーランドのクラクフにおいては、欧州でもITでは上位にランクインする「AGH科学技術大学」や「ヤギェロン大学」の理系学生が来場し、参加した日本企業からの評価も高かったです。

ルーマニアのクルージュ・ナポカは「ルーマニアのシリコンバレー」と呼ばれるほどIT産業が集積しており、NTTデータも中・東欧の拠点をここに置くほどですが、そのバックボーンとして、ここが大学都市であり、有力な二つの大学「バベシュ・ボーヤイ大学」と「クルージュ工科大学」が多くの優秀な学生を輩出していることもあげられます。実際に来場した学生も将来はサイバーセキュリティなどの分野で活躍するであろう人材が多くみられました。

初の試みということで来場者自体は少なかったものの、ルーマニア国営放送をはじめ複数のテレビ局やラジオ局が取材に訪れ、翌日のニュースで取り上げられるなど、日本がルーマニアのIT産業や人材に関心を持っていることを強くアピールできたといえます。

コーディングコンテストについて

コーディングコンテストについて

3カ国ともカンファレンスにおいては、ポーランド「ChallengeRocket社」の技術による「オンライン・スキル・チャレンジ」というコーディングコンテストを実施しました。これは2022年12月も実施し、参加学生のモチベーション向上にも繫がった施策です。

参加者はノートPCを持参し、オンラインで出される設問に10分という限られた時間の中で回答していきます。同じ正答率の場合は、より少ない時間で回答した参加者が高いポイントを得られます。優勝者には、現地パートナー企業から日本への往復航空券がプレゼントされることもあり、腕に自信のある優秀な学生が集まりました。結果、3カ国とも、優勝争いはし烈で、数秒の差が勝敗を分けることとなりました。

実施結果を分析すると、優勝を争う上位層と下位層で、偏差グラフは見事に二つの山を形成しました。中・東欧各国の有名大学では、優秀な学生は学部2~3年生の段階で大手企業の囲い込み対象となります。学業と同時並行で仕事に取り組み、卒業後の就職を約束されるのですが、そのような学生が今回のコーディングコンテストでも上位層を形成したと考えられます。

ちなみにポーランドの優勝者は、早くも2023年12月下旬に訪日予定で、経済産業省への表敬訪問に加え、参加した日本企業とのアポイントなどがすでに予定されています。

今後に向けて

上述したように、今回の取り組みでの良かった点、次にいかすべき点の双方から、今後に向けての検討材料を得られました。

今回の総括は、主催者である経済産業省とも内容を振り返りながらこれから進めていきます。事業内容を企画し、受託した弊社としては、開催国・都市、開催時期、開催形態などで2022年と2023年の実績を分析しつつ、中・東欧における日本企業のプレゼンス向上と、優秀な人材獲得促進に資するよう、3年目の取り組みに向けた新たな計画を練っていく予定です。

今後に向けて

続いて、調査内容を踏まえて、日本企業が採るべき施策について紹介します。

中・東欧諸国が得意とするIT/AI領域とは

中・東欧諸国はIT/AIのあらゆる分野が発達しています。コンピュータサイエンス学部や数学系学部の高等教育修了者が、当該エリアに進出する欧米の大手企業に就職しR&Dに取り組んだり、経験とスキルを積んだ後にスタートアップを興したりしています。

2020年春から現地に駐在する私の視点では、特に新型コロナウイルスによるパンデミックを経て、欧州のIT領域の開発環境と人材獲得が急激に進化したようにも感じられます。分野としてはフィンテック、ブロックチェーン、サイバーセキュリティ、機械学習(ML)、データサイエンス、ロボティクス、e-Gaming、ICTなど、すべての国で産業が成長し人材も育っています。

ここでは、中・東欧の主要4カ国がとりわけ得意とする領域を3つずつあげたいと思います。

各国が得意とするIT/AI 領域

現地調査・ヒアリングを実施して得た内容をまとめました。

国名 得意領域 
ポーランド フィンテック、機械学習(ML)、データサイエンス 
ハンガリー フィンテック、自動運転、ロボティクス 
ルーマニア サイバーセキュリティ、ブロックチェーン、テレコミュニケーション
ブルガリア e-Gaming、ブロックチェーン、ICT 

エコシステムへの理解と各エリアの得意領域の把握

中・東欧各国ではIT/AI のエコシステムが着実に成長していますが、進出する日系企業は大手が中心であるため、現地での取引先や協力企業も大手になりがちです。そのため、若いスタートアップ企業との接点が少ないのが現状です。

日本の場合、スタートアップエコシステムとの積極的な交流は、企業よりも地方自治体のほうが積極的で、たとえば渋谷区、福岡市、神戸市などは、自らの自治体でのエコシステム醸成に力を入れ、海外のエコスシステムとの交流を深めようとしていることで知られています。さらに、札幌市や仙台市、名古屋市などもそれに続いている状況です。

高度IT人材の獲得や、社内でのイノベーション促進を目指す日本企業に今後求められるのは、中・東欧各国や各都市において、エコシステムの特徴・得意領域がそれぞれ異なることを学び、どのような形で関係性を構築し、共同プロジェクトを立ち上げられるかを検討するところからスタートすべきかと思います。

それが、これまで日本企業がなかなかリーチできなかった、イノベーティブな若手人材の発掘に繫がる一つの方法です。この際に、上述した日本においてスタートアップ誘致やエコシステム醸成に積極的な自治体と協業する選択肢も有効でしょう。

英語の壁を取り払うか、もしくはブリッジ人材を育てるか

また日本企業の中には、中・東欧の魅力的なIT/AI企業やスタートアップ、フリーランサーと知り合い、大規模なアウトソーシングや中小規模の業務提携が実現しそうな状況に発展しても、現地エンジニアとのコミュニケーションが英語であることにしり込みをしてしまい、結局は日本語検定資格保有者も多いベトナムなど東南アジアへのオフショアを選択するケースもあるのではないでしょうか。欧州の人材や企業、エコシステムとせっかく有望なコネクションが生まれても、言語の壁がそれ以上の関係構築を阻んでしまっては、非常にもったいないことです。

すでに多国籍のエンジニアを社内に擁したり、リモートで世界のエンジニアと協業体制を構築したりして、英語による開発環境、コミュニケーション環境ができている日本のスタートアップやベンチャー、そして大手グローバル企業は実際に存在し、着実に増加しつつあります。

これらの企業が、アジアやアメリカだけでなく、中・東欧諸国への進出や人材獲得を積極的に進め、前例を多くつくっていくことも、日本の高度IT人材不足を解消する環境整備の前提として、非常に重要だろうと思われます。

高等教育機関との関係構築(学生獲得・共同研究・教員支援)

数学や外国力の高い素養を持つ中・東欧の優秀な学生は、すでに欧米企業によって囲い込みが進んでいます。だからといって日本が中・東欧の優秀な学生を諦める必要はないですし、積極的に食い込んでいくべきです。

地理的に距離が離れ移動に時間がかかり、時差もあり、労働環境や雇用慣行も異なる日本は、中・東欧の人材を獲得するに際して欧米企業に比べると不利な点も多くありますが、一方でモノづくりへの姿勢、チームワークや他者の尊重、独自のテクノロジーなど、今の学生に魅力を感じてもらえる点も多くあります。

実際に今回のジョブフェアに来場した現地学生に話を聞くと、日本のアニメやポップカルチャーではなく、日本企業の独自の技術や、取り組む開発プロジェクトの面白さに興味を持っているケースが大半でした。

ただ日本は、欧米や韓国企業に比べると高度IT人材へのアピール力が足りず、やり方も決して上手ではないのが現状です。採るべき方策としては、まずは海外企業と同様に、大学(学部長や有力教授の研究室など)にアプローチし、信頼関係を築き、その関係性を大学全体レベルへと高めることが有力な方策です。

その結果、企業とのMoU(Memorandum of Understanding)(※1)締結から共同研究プロジェクトの発足・発展へと繫がり、優秀な学生との接点も増えることが期待できます。
※1 契約や協定、条約などが正式に締結される前段階の合意文書のこと

また、大学や特定学部でのジョブフェアやハッカソンの開催も、信頼関係さえあればスムーズに実現でき、学生の直接獲得へのお墨付きももらいやすいでしょう。あわせて、せっかく日本をひいきにしてくれる教員がいるのに、彼らへの日ごろの感謝や学術支援が手薄になっている現状を変える必要もあるかもしれません。

教員に「今現在の」日本を知ってもらえるよう促進できれば、学生の日本への興味関心が強まり、理解も深まります。中・東欧各国の各大学で、日本と親和性のある学問(理工系、文系問わず)に従事する学部とその教員に、共同研究や資金援助、最新の書籍や教材の現物提供、日本訪問・交流ミッションを通じて、研究開発に貢献する取り組みを加速することも効果的であると考えられます。

現地における日本ブランド構築

中・東欧諸国は歴史的に親日であるといわれています。実施に、私の現地調査においても、日本を否定的に見る取材対象者と出会ったことは皆無であり、誰もが日本人の持つ謙虚さや規範意識、仕事への真摯さに敬意を示し、日本の歴史や文化へも大きな関心を寄せてくれました。

ただ同時に、謙虚さや慎重さといった日本人の美徳は、現地で他国と競いながらビジネス展開したり、優秀な人材を獲得したりする際には、他国企業に競り負けてしまうことにも繫がってしまいます。日本や日系企業は、先進的な取り組みをうまくアピールする工夫が必要です。

中・東欧各国は文化的にそれぞれ似ているところも多いのですが、国民性はそれぞれ異なり、時々の政治経済情勢によっても受け取られ方が変わってきます。現地のキーパーソンの意見を十分に取り入れ、効果的な方法とタイミングで、各国の国民、特にIT 関係者や学生、そして次代を担う子供世代にもアピールしていくことが必要となります。

現在の政治経済情勢に即した展開戦略 

2010年代半ば以降、ロシアによるウクライナのクリミア半島併合や中国の一帯一路構想の欧州延伸政策、そして韓国企業の急速なビジネス展開と、中・東欧諸国は1990年初頭の民主化に次ぐ、大きな変化の時代に入っていました。

それが2020年3月からのパンデミックとロックダウン、そして2022年2月からのロシアによるウクライナ侵攻と立て続けの非常事態を経て、状況はさらに複雑なものになっています。欧米諸国は、「Three Seas Initiative(三海洋イニシアチブ)」という、バルト海からアドリア海、黒海に挟まれた中・東欧エリアへの関与を強め、日本も政府としてこの動きに賛同し関与しています。

日本企業は、中・東欧ビジネス展開においては、経済環境だけでなく、国際情勢や地政学的側面も冷静に分析する必要があります。今回紹介した中・東欧諸国はいずれも伝統的な親日国であり、教育水準も高く、優秀な人材が育ち、魅力的なスタートアップエコシステムが醸成されていることは疑いのない事実です。

いずれの国もそれぞれ得意領域をいかしIT先進国として躍進し、独自の強みと魅力をアピールしています。現在の国際情勢、政治経済状況に留意しつつも、各国の人材育成のための教育政策や若い世代のエコシステム醸成のための意欲、そして日本人や日本の技術への期待度などを冷静に分析し、現地の実際の様子を見て、人材と会って、各社のビジネスモデルに合った企業間提携、人材連携を検討する姿勢が求められるのではないでしょうか。

おわりに

今から20年ほど前、日本の大学院に在学していた私は、フランスのストラスブール大学に留学する機会を得て、1年半の間、欧州統合について学んでいました。ストラスブールは欧州議会や欧州人権裁判所が置かれ、ブリュッセルと並んでEU統合を推進する主要拠点です。大学には、ドイツやオランダ、スペインといったEU加盟国の留学生だけでなく、これからEU加盟を目指そうとするポーランドやハンガリー、ルーマニアやブルガリアからの留学生も多くいました。

彼ら、彼女らがその後、母国に戻り、EU加盟やその後の統合に関わる施策で大きな力となっていきました。当時は民主化以降の混乱が続き、まだ貧しかった中・東欧の国々が、今や欧州の中でもIT産業の先進地として注目され、所得水準も上がりどんどん豊かになっていく様子を現地で日々目の当たりにすると、私は大きな感慨を覚えます。

中・東欧がIT/AIでこのように世界をリードする存在になっているのは、これまで説明した通り、社会主義時代からの理系教育の伝統の賜物であると同時に、民主化後の混乱の中、より効率的な金融システムを構築しようとしたり、東側に存在する大国の脅威に対抗するためにサイバーセキュリティに注力したりといった、政治経済に起因する要素を受けての大胆な取り組みが成功したことも大きく影響していることは、疑いようがありません。

少子高齢化が急速に進行し、高度IT人材不足がすでに大きな課題となっている日本は、世界における存在感を維持し、日本が培ってきたブランド力を今後も高めていくためにも、今こそ中・東欧諸国の持つ優位性に目を向け、これまで東南アジアに注力してきた活動量と同じレベルで、これらの国々の産業と人材にアプローチしていくべきだと、私は確信しています。


著者紹介
島森 浩一郎(しまもり こういちろう)
株式会社マイナビ 欧州事業企画部長 兼 ワルシャワ駐在員事務所長
大学卒業後、保険会社勤務、大学院修士課程、フランス留学、芸術文化関連財団勤務を経て、2007年3月(株)毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)中途入社。出版編集、世界遺産検定、マイナビ転職、北陸支社、グループ経営等、多くの新規立上げ任務を経て、2020年2月よりワルシャワ駐在員事務所設立と同時に赴任。北はフィンランドから南はブルガリアまで、主に欧州の東側全域にスコープを定め、イノベーションやサステイナビリティなど日本が欧州から多く学ぶべき領域でのネットワーキングを活発に行っています。

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