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外国人労働者の中長期的なキャリア形成~企業・人事が取り組むべき支援~ー近畿大学経営学部キャリア・マネジメント学科教授 谷口智彦氏

谷口智彦
著者
近畿大学経営学部キャリア・マネジメント学科教授
TANIGUCHI TOMOHIKO

増え続ける外国人労働者の中長期的キャリア

日本の外国人労働者の数が増加している。コロナ禍の影響で2020年から2021年は横ばいであったが、2022年には過去最高の182万人となった。出身国の内訳を見てみると、ベトナム、中国、フィリピン、ブラジルが多くを占め、近年はベトナムを中心としたアジア諸国からの労働者が増え続けている(図表1)。

図表1 近年における日本の外国人労働者総数の推移/厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧」より筆者作成
図表1 近年における日本の外国人労働者総数の推移/厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況表一覧」より筆者作成

こうした増加は、日本の恒常的な人手不足を背景に、1990年に施行された出入国管理法等の改正、その後、技能実習制度や特定技能の創設など外国人労働者の在留資格の拡大が図られてきたことによる。継続的な外国人労働者の増加は、日本企業に長く勤め続ける者の増加にもつながっており、企業は単なる一時的な出稼ぎ労働者としてではなく、中長期的な人材としての活用が求められている。

実際、バブル景気の人手不足と出入国管理法等の改正によって、1990年からリーマンショックまで特に増加が著しかった日系ブラジル人労働者は、一定数が永住しており、就労する企業において中長期的なキャリアを形成しつつある(図表2)。

図表2 ブラジルからの登録者と永住者数の推移/出入国管理庁「在留外国人統計」および「旧登録外国人統計」より筆者作成
図表2 ブラジルからの登録者と永住者数の推移/出入国管理庁「在留外国人統計」および「旧登録外国人統計」より筆者作成

将来、ベトナムやフィリピンを中心としたアジア諸国の労働者も同様のケースを辿る可能性もあり、そのキャリアの特徴とキャリアの成功の要因を示しておきたい。

出稼ぎ外国人労働者のキャリア段階

筆者は2013年から2016年にかけて日系ブラジル人労働者に対して断続的にインタビュー調査を実施した。その内容は日本に出稼ぎに来たきっかけから現在の仕事に定着するまでの経緯を尋ねたものである。以下、その要点を示す。

外国人労働者の4つの期間

出稼ぎに来た外国人労働者は概ね4つの期間を経て、日本企業の職場に定着していくことがわかった(図表3)。

図表3 外国人労働者が定着に至るキャリア段階
図表3 外国人労働者が定着に至るキャリア段階
  1. 幼少・青年期
  2. 出稼ぎ初期
  3. 不安定・流動期
  4. 安定・定着期

(1)幼少・青年期

この期間は、生まれてから高校や大学などの卒業・中退(概ね16~18歳)まで日本に出稼ぎに来る前までの期間を指す。この期間において、日本に出稼ぎに来ることになる人の家庭の経済状況は芳しくなく(多くは農家等)、中には学業を断念せざるを得ない環境下にあった。

家庭内では日系人であることから日本語やポルトガル語、また両方の言語を使用しているが、決して日本語に長けているわけではない。すでに日本に出稼ぎに来ていた親戚などから情報を得て、苦しい経済環境を脱するために出稼ぎを決意する場合が多い。

(2)出稼ぎ初期

この期間は、日本に出稼ぎに来てからおよそ数年間の初期の適応期間を指す。ブラジルから日本に来ると、まずは日本語という言葉の壁にぶつかる。希望する残業時間や金銭面の交渉など、通訳者を介する必要があり、生活面だけではなく仕事面でも不自由さを感じる。

また外見は日本人に近く見えるにもかかわらず日本語能力は高くないことからくる周囲の視線にも苦労する。特に、出稼ぎ初期の段階では、過度の肉体労働や低賃金など、その労働環境は必ずしも好ましくない場合が多く、次の不安定・流動期を迎えることになる。

(3)不安定・流動期

この期間は、出稼ぎ初期に勤めていた企業から複数回転職を繰り返す期間を指す。次の条件が安定するまでこの期間は継続することになる。

第一に、少ない残業時間と低賃金である。出稼ぎ労働者はできる限り多くの収入を得たいと思っており、そのため残業を希望するが、当初の企業や職場でそれが叶わない場合は転職を考え始める。また、肉体労働がきつい、賃金が低いなどの条件の改善を目指して職場を移る。

第二に、人間関係のこじれである。職場での日本人や他の外国人との人間関係の悪化、また通訳者とのコミュニケーションの齟齬により、トラブルやもめ事が発生してしまい、転職を望むようになる。

第三に、企業の外部要因の悪化である。リーマンショックなど世界的な不況がおとずれることにより、急な雇用契約解除によってやむを得ず転職することがある。

これらの条件が改善されると、次の安定・定着期に入ることになる。

(4)安定・定着期

この期間は、先の不安定・流動期での転職を経て、1つの企業に定着する期間を指す。この期間に入ると、多くは当該企業に長く勤め、私生活でも家族を持つなど安定した人生を歩むことになる。ただし、この安定・定着期は自然とおとずれるわけではない。次のような自助努力と支援が必要である。

第一に、自分のキャリアに対する積極性である。正社員等への昇進の目標や意思を持つ、日本語の上達のために自己努力する、仕事の幅を広げるために積極的に仕事を引き受けることなどが重要である。

第二に、企業・職場の上司や先輩社員から積極的に学び、支援を得ることである。この上司や先輩は必ずしも同じ外国人労働者とは限らない。日本人の上役がメンター役となることも多く、各所でキャリア上のアドバイスを得ている。

第三に、上記の2つがうまく結実する形でさらに仕事と人間関係の両者の幅と深みを向上させることである。たとえば、専門的なスキル(たとえば、ITスキルや専門性の高い技能)を高めることで、より上位の役職に就く機会を得ている。また、さまざまな仕事に取り組む過程で、組織内での人間関係が広がり、それが長期的な雇用につながる信頼関係を築くことになる。

これら3つの要因をバランスよく循環させることが、中長期的に安定したキャリアを歩む要素となっている(図表4)。

図表4 中長期的に安定したキャリアに関連する要素
図表4 中長期的に安定したキャリアに関連する要素

外国人労働者のキャリアの成功要因

外国人労働者がそのキャリアを成功させ、企業における中長期的な定着につなげるためには、「日本社会や文化への適応」と「勤める企業や職務への適合」の2つの適応・適合への対処が重要となる。なお、ここでキャリア成功(キャリア・サクセス)とは、簡単に言えば、「収入や昇進、新しいスキルの習得に成功している、満足している」状況をいう。

2017から2018年にかけて全国の長期的なキャリアを歩んでいる日系ブラジル人労働者208名(平均年齢約41歳、平均日本滞在年数約17年)にアンケート調査を実施した結果の要点は次の通りであった。

まず、「日本社会や文化への適応」の要因として、「日本の価値観が合っている」と思っている者ほどキャリア成功につながっていた。一方で、日本語習得度はキャリア成功と関連していなかった(本調査対象者は、日本在住期間が長く、すでに日本語習得度が高い状況であったことが原因と考えられる)。

次に、「勤める企業や職務への適合」の要因として、「組織の価値観が合っている(組織適合という)」と思っているほど、キャリア成功と企業への定着につながっていた。また「仕事に求めていることが今の仕事で実現できている」といった提供される職務と自分のニーズが合っているか(職務適合という)についても、キャリア成功と企業への定着につながっていた。

これらの結果から、日本社会の価値観、企業の価値観(経営理念等)といった価値観レベルの深い対話が定着にとって重要であることがわかる。一般に、適応を促すためには企業側の何らかの支援(日本語研修の実施や生活支援等)が第一に必要だと思われやすいが、(もちろん、それも重要なことだが)そうした表面的な支援にとどまらず、日本や企業の価値観がそもそも理解されているか、浸透しているかといった深いレベルの考え方の共有がキャリア成功と定着に影響しているのである。

また、これは日本人の労働者でも同様であるが、外国人労働者が就いている職務において、どれだけ自分の能力やニーズとマッチ(適合)しているかも肝要である。

企業が取り組むべきキャリア支援の仕組み

このような結果から、企業は次の2つの観点から制度や仕組みを設計し、中長期的な視点で外国人労働者のキャリアを支援する必要があると考える(図表5)。

図表5 外国人労働者の適応・適合とキャリア成功および定着の関係
図表5 外国人労働者の適応・適合とキャリア成功および定着の関係

生活上の支援の仕組み

1つ目は、生活上の支援の仕組みの構築である。特に、出稼ぎ初期の適応段階においては日本社会や文化に慣れることが非常に重要だといえよう。すなわち、日本社会での生活(生活上の届出や手続きに始まり、食生活やその他慣習)に円滑に馴染むための支援である。

また、中長期的には日本語の学習や家族を持った際の子供の教育環境にも配慮していくことも含まれる。実際、外国人労働者を長期的に雇用している企業では、出稼ぎに来たその日から食料品や生活の必需品をそろえるために先輩社員が近隣のスーパー等への買い出しに付き添うなど初期適応の支援に力を入れている。さらに独自に日本語講師を雇い、勤務時間として日本語資格を取得するための講座を開設するなど中長期的なキャリア支援も行っている。

仕事上の支援の仕組み

2つ目は、仕事上の支援の仕組みの構築である。まず大事なことは、その企業の価値観(経営理念等)を共有することである。多くの企業は人事の評価制度や給与制度、昇進制度の構築・改善などには注目する。

ところが、筆者の調査からわかったことはそれら人事上の制度の公正さよりも価値観の共有の方が定着により大きな影響があるという点であった。したがって、現場の外国人労働者に対して定期的に研修を行い、その際に必ず企業の価値観を共有する機会を設けるとよいだろう。

また、職務の適合においては、キャリアの相談をする機会を設け、今の職務が本人の能力やニーズに合っているか確認することが考えられる。外国人労働者においてはキャリアの相談を十分にできている者が少なく、今の仕事が次のどのような仕事につながるのかといったキャリアの見通し、またそのモデルとなる先輩社員の事例などの情報が不足している。

メンター制度といったハードな仕組みの構築だけに限らず、気の合う上司や先輩と出会うインフォーマルな場づくりも有効だと考えられる。

おわりに

今後、日本では未曾有の少子高齢化社会が待ち受けており、日本経済を支えるための労働力の確保が最大の課題である。

したがって、現在の外国人労働者の増加は一過性のものではなく、企業では中長期的なキャリアを前提にした継続的な雇用が望まれる。その際のキーワードは「適応・適合」であり、企業にはその双方に対する中長期的な支援の仕組みの構築が求められる。


谷口 智彦

谷口 智彦(たにぐち ともひこ)

近畿大学経営学部キャリア・マネジメント学科教授

日本たばこ産業株式会社の人事部、経営企画部などを経て、2010年近畿大学経営学部キャリア・マネジメント学科准教授、2018年同教授、現在に至る。専門はキャリア論。

主著に『マネジャーのキャリアと学習-コンテクスト・アプローチによる仕事経験分析-』(白桃書房、2006年)、『「見どころのある部下」支援法』(プレジデント社、2009年)、「日系ブラジル人労働者のキャリアの自己管理と戦略行動-主観的キャリア成功への影響について-」(商経学叢68(3)、155-164頁、2022年)などがある。

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