マイナビ キャリアリサーチLab

「管理・事務」職種の転職実態と企業が求める人材像~職種横断転職の可能性を考える~

荒木貴大
著者
キャリアリサーチLab研究員
TAKAHIRO ARAKI

職種から見た転職市場の需要と供給のギャップ

一昔前の終身雇用を前提とした日本型雇用的な考え方は弱まり、現在では自身のキャリアを思い描く時に転職も視野に入れている人は少なくないだろう。

マイナビが行った調査でも、現段階ですでに転職したいと考えている人やいずれは転職した意図考えている人なども合わせた転職意向は正規雇用就業者全体の半分を超えている。【図1】

 就業者(正社員計:n=4496)の転職意向
【図1】 就業者(正社員計:n=4496)の転職意向 / ライフキャリア実態調査(2023年データ集)

労働者にとっては「転職」という選択肢は一般的になっている。さらに企業側の人手不足感も強く、企業の人事部門を対象としたマイナビの定点調査で確認すると、正社員全体の人手不足感に上下はあるものの、ここ2年間は6割前後の水準であり、人手不足が恒常的な課題であることが分かる。【図2】

中途採用業務担当者が持つ正社員全体の不足感
【図2】中途採用業務担当者が持つ正社員全体の不足感 / 中途採用・転職活動の定点調査(時系列データ)

労働者側の意向と企業側の不足感、両者を一見すると転職市場では需要と供給がマッチしているように見えるが、内実を見るとそうではない。

同じ定点調査の結果から、前月(2023年8月)に転職活動を行った求職者が応募した職種と、企業側がもっとも力を入れて募集した職種のそれぞれを確認すると、求職者側では「管理・事務(※【人事・総務・法務・広報・IR・内部監査】【経理・財務・会計】などの管理・事務部門)」の割合がもっとも高いが、企業側がもっとも力を入れて募集したのは「営業」であり、「管理・事務」の割合は1割に満たない。【図3】

企業が前月に最も力を入れて応募した職種と求職者が前月に応募した職種
【図3】企業が前月に最も力を入れて応募した職種と求職者が前月に応募した職種 / 中途採用・転職活動の定点調査

また、実態として2023年9月の労働力調査で日本の就業者の職業割合を確認すると、マイナビ調査の「管理・事務」にあたる「事務従事者」は1,422万人で就労者全体(6,787万人)の21.0%、マイナビ調査「営業」にあたる「営業職従事者」は315万人で全体の4.6%となっており、営業職は相対的に人手不足であることが分かる。

世間の空気感として転職は一般的になってきているが企業側のニーズには濃淡があり、そういった意味では実際に転職を行う労働者側は予想に反した転職の難しさも感じるかもしれない。 本コラムでは、主に「管理・事務」職種の転職活動実態を把握し、企業が「管理・事務」職種に求める人材像を確認した後に、転職の際の視野を広げることを目的に職種横断転職の可能性も模索したい。

管理・事務職種の転職の難しさ

管理・事務への転職実態と課題点

引き続き中途採用・転職活動の定点調査の結果を用いて、管理・事務職の実態を確認する。

定点調査の9月調査より、前月(2023年8月)に中途入社をした人の応募数と内定数、さらに転職活動期間を聞いたところ、管理・事務職では応募数14.6件(全体8.2件)、内定数1.8件(全体1.6件)で内定率は12.3%(全体:19.5%)、転職活動期間は3.8ヶ月(全体3.2ヶ月)という結果であり、比較的転職活動が難しかったようであった。【表1】

 管理・事務職種に中途入社した人の転職活動実態
【表1】 管理・事務職種に中途入社した人の転職活動実態 / 中途採用・転職活動の定点調査

また意識面として、前月に転職活動を行ったがまだ入社していない人に転職活動中に感じた悩みを聞き全体の結果と比較したところ、「何をアピールすべきかわからなかった」の項目が管理・事務職内でも比較的割合が高く、また全体との差分がもっとも高かった(管理・事務職:30.6%、全体21.8%)。【図5】

転職活動を行った際の課題(現在管理・事務職の人のTOP5)
【図5】 転職活動を行った際の課題(現在管理・事務職の人のTOP5) / 中途採用・転職活動の定点調査

転職活動の場では前職の経験や実績を尋ねられることが多いが、管理・事務職では分かりやすく数字で示せる実績などが少ない場合もあるため、アピールのしづらさが特徴としては現れたと考えられる。

企業が求める管理・事務職種はどういう人か

管理・事務職種の転職が比較的難易度が高いかもしれないということを、企業側調査の結果からも確認する。

今後3ヶ月で採用意向のある企業の採用担当者に中途採用活動を行う理由を聞いたところ、「管理・事務」にもっとも力を入れて募集を予定する人たちでは「将来の幹部候補・コア人材の確保」の割合がもっとも高かった(42.5%)。【図6】

今後3ヶ月以内に中途採用を行う理由
【図6】今後3ヶ月以内に中途採用を行う理由 / 中途採用・転職活動の定点調査

さらに前月に採用活動をする人に対して今後3ヶ月で採用する想定の人材を聞いたところ、若手人材層(20-30代)の割合がもっとも高い(47.7%)ものの、全体の傾向と比べると10pt以上低く、ミドル・シニア層は全体と比較して高い結果となった。【図7】

今後3ヶ月で採用する想定の人材(年代選択肢のみ表示)
【図7】今後3ヶ月で採用する想定の人材(年代選択肢のみ表示) / 中途採用・転職活動の定点調査

「管理・事務」職種へのニーズが中途採用活動を行う理由や採用想定の人材イメージにそのまま反映されているとは限らないが、いわゆる役職の上での管理職などがこの「管理・事務職」に含まれている場合もあり、コア人材やミドル層シニア層といった経験のある人材と相関がありそうであることもうなずける。

また「管理・事務」職種への転職希望者の方に目を転ずると20-30代が6割以上であるため、ここでも企業が想定しているイメージとの若干のギャップは存在すると考えられる。【図8】

管理・事務職応募意向者の年代内訳
【図8】管理・事務職応募意向者の年代内訳 / 中途採用・転職活動の定点調査

前章でも述べた通り、企業の応募職種としては「管理・事務」あまり力を入れられておらず、かつ求める人材イメージも全体と比較するとミドルシニア、シニア層の比重が高い。また求職者側にとっては人気職種であるためライバルが比較的多いということになり、さらにアピールのしづらさなども垣間見える。「管理・事務」職種の転職がいささか難しいようであることがうかがえる。

求職者側の職種横断転職の可能性

職種横断転職の実態

政府は労働改革の柱の一つとして、成長産業への人材移動を促すことを挙げている。

これは求職者にとっては「業種」を変えるということであるが、「職種」も変えてみるという考え方も求職者には戦略として有用ではないだろうか。企業側の求人希望職種として「営業」の割合がもっとも高かったが、職種別の年収で見ても営業は比較的高水準である。

ただ、職種横断転職に関してどれだけの現実味があるだろうか。実態を見てみると直近前月に営業として中途入社した人(n=58)のうち、営業職以外から転職した人は27.6%、また今後営業職に応募したいと思っている人(n=196)のうち、現在営業以外の人は39.8%であった。大多数とはいえないまでも、営業への職種横断転職は一定の割合存在することが分かった。

企業の未経験者へのニーズ

企業がシニアに対して求めるもう1点の課題は体力・健康面での問題であった。 

企業のニーズとしてはどうだろうか。マイナビの「2023年10月度正社員の平均初年度年収推移レポート」から「マイナビ転職」に掲載されている求人の募集条件比率の推移を確認すると、直近1年間を通じて未経験募集求人(職種・業種ともに未経験OKの求人)は6割以上であり、全体としては未経験者へのニーズは高い。【図9】

掲載求人の募集条件比率の推移(直近1年間)
【図9】 掲載求人の募集条件比率の推移(直近1年間) / 2023年10月度正社員の平均初年度年収推移レポート

また営業職種に絞ると、応募の際に「営業」職種にもっとも力を入れている企業に対して採用活動の課題を確認したところ「応募が集まらない」がもっとも高かった。

さらに、応募が集まらない企業に絞ってどのような人材をターゲットにしているかを確認すると、若手や即戦力人材に加えて全体と比較すると未経験者にも門戸を広げているようであった。【図10】

営業にもっとも力を入れた企業の採用活動の課題(左図)と今後の人材ニーズ(右図)
【図10】営業にもっとも力を入れた企業の採用活動の課題(左図)と今後の人材ニーズ(右図) / 中途採用・転職活動の定点調査

求職者側からは一般的ではないが、人材不足に苦しむ企業などでは未経験人材でも選択肢の一つとして考慮されるのであろう。

おわりに

今回は「職種」に関して転職市場における企業側の需要と求職者側の意向のズレを起点に「管理・事務」職種の転職が比較的難しいようであること、「管理・事務」への転職以外の職種横断転職といった選択肢の可能性を示唆した。

キャリアの終盤に差し掛かって突然職種を変えるということにはなりづらいと思うが、転職意向者のマジョリティである若年層が思い切って環境を変えようと思った時に「職種の変更」という観点も取り入れてほしい。

選択肢が増えている昨今において自身に適切なキャリアを描けるように、本コラムを含めキャリアリサーチラボで発信している情報を利用して自身のキャリアを考える契機としていただければ幸いである。

キャリアリサーチLab研究員 荒木 貴大

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