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韓国と日本の就職・転職事情の違い

柳楽太郎
著者
株式会社マイナビコリア 代表理事社長
TARO NAGIRA

マイナビコリアで代表理事社長を務めている柳楽(なぎら)と申します。私自身は新型コロナウイルス感染症の流行が宣言された2020年の春にマイナビコリアに赴任し、3年が過ぎました。
マイナビコリアは韓国大学生の日本企業への就職(海外斡旋)や、韓国内の日系企業への転職(国内斡旋)等の人材サービスを手掛けており、韓国での法人設立から2023年で7年になります。
今回は韓国と日本の就職・転職事情の違いについて、いくつかのトピックを挙げながら解説いたします。日本・日系企業における、韓国人の採用や教育にお役立ていただければ幸いです。

人材不足の日本にとって、外国人採用を視野に入れている企業も増えているかと思います。外国人採用をしようと思ったときに、日本語能力が高い韓国が選択肢に入るのではないでしょうか。
韓国の学生は、競争環境を自身の成長の原動力にできるという特徴があります。社会人として働いていても、終業後に語学学習やスコアUPに余念のない彼らを見ていると、日本と韓国の教育環境には大きな差があると感じています。

日本と韓国の就職観の違い

韓国の学生が就活をする際に、日本とは大きく異なる点が二つあります。それは、「スペック就活」と「超大手志向」です。

まず、「スペック就活」についてですが、韓国では4年制大学の進学率が7割を超えており、幼少期から受験戦争を勝ち抜くために勉強を続けています。それは、書類に明記できる「学歴/語学スコア/大学の成績/海外経験/インターンシップ経験」というような数多くの項目を学生時代に獲得し、就活でアピールすることにつながっています。その中で、求められるスキルや雇用条件から企業を選択する傾向が強くなっています。

相対的に日本企業は、書類上の「スペック」よりは個人の「パーソナリティ」や「意欲」を重視する傾向が強いため、韓国の学生に「日本では志望度や熱意が求められるよ」と伝えると、必ず「抽象的すぎて良く分からない」と言われてしまいます。

続いて「超大手志向」についてですが、これは、財閥系大手企業などがその代表格で、単純にブランド志向というわけではありません。

韓国では大手企業と中小企業の給与格差が大きすぎることが社会問題になっており、求人倍率が0.6倍前後という就職難の環境下でも、応募が財閥系大手に集中し、雇用ミスマッチの一つの原因ともなっています。このミスマッチに関しては、韓国ではキャリア教育があまり浸透していないということも原因の一つとして挙げられるかもしれません。
これらを踏まえて、韓国学生の選社軸を大きく5つあげてみます。

韓国学生の企業選びのポイントは?

韓国学生の企業選びのポイント5つ/マイナビ

知名度(ネームバリュー)

韓国では、給与格差の問題から日本の大手志向と比べても圧倒的に財閥系大手企業に目が向いてしまう傾向があり、また家族からもこれら大手への就職を望まれていることが多くなっています。

一方、海外(日本)で就職をする場合は、そこまで知名度に対する拘りは強くない傾向があります。マイナビコリアが韓国で実施する日本企業との合同面接会においても、アジアQSランキング上位に選出されるような大学の学生に数多く参加いただいており、日本企業にとっては韓国の有名大学に通う優秀な学生へも採用のチャンスが広がることになっております。

国際的な仕事(海外との関わり)

韓国では、高校からすでに第二外国語の授業があり、視野が海外へ向いている学生が多くなっています。海外が好きになる契機は、映画やアニメ、漫画などのポップカルチャーというケースも多いのですが、大学生になり就職も視野に入れる頃になると、グローバル志向のある人や組織に魅力を感じる傾向が強いようです。

実際に海外に就職した人の推移をみると、コロナ前の2019年は日本が約4割とダントツで1位でしたが、2021年からはアメリカに逆転され、2022年ではアメリカに就職した人が30%となっています。【図1】

海外に就職した人の推移/韓国産業人力公団「海外就職統計情報」より
【図1】海外に就職した人の推移/韓国産業人力公団「海外就職統計情報」より

それは、日本は入国制限が厳しかった上に、米中等と比べ相対的な人気低下もありそうですが、とはいえ日本人気もまだ根強いです。韓国法務省の発表では、2022年に韓国人が訪れた海外旅行先は日本が1位でした。現在の旅行先としての日本人気回復が、就職先としての人気回復にもつながることを期待しています。

待遇(給与、賞与、福利厚生)

前述した大手企業と中小企業の給与格差について、「企業規模別賃金格差国際比較および示唆点」報告書によると、500人以上の大規模企業と5人未満の小企業の差は3.2倍となっており、米国の1.3倍や日本の1.5倍よりも大きくなっています。

ここまで極端な事例ではなくても、一般的な求人サイトや新聞記事に掲載する新卒初任給(年収)は、中小企業で2,000万ウォン台(日本円で約203万円)が大半で、逆に財閥系大手や有名IT企業だと5,000万ウォン台(日本円で約508万円)を見かけます。

1社目の格差が大きいと、転職してキャリアアップするにも限度があるため、新卒では待遇の良い大手企業に目が向く傾向が強いようです。日本企業の大卒初任給は、厚生労働省が発表している「令和4年賃金構造基本統計調査(2022年)」によると2,758,500円(※1)で、総じて韓国の中堅・中小企業よりは良い待遇を提示することが可能だと思います。
※1:企業規模10人以上、勤続0年、内訳:所定内給与12か月分+年間賞与その他特別給額。参考:初年度は年間賞与が少額だが、勤続1~2年で年平均3,460,600円に上昇。

キャリアアップの可能性(昇進、昇給)

競争環境に慣れている韓国の学生は、成長意欲が高い場合が多く、キャリアアップに対しても前向きです。また、儒教の教えが根強い韓国社会では、やはり「役職」や「肩書」を求める傾向も強いと感じます。

韓国学生からみると、日本企業は「年功序列、昇進がゆっくり」というイメージがどうしても強いのですが、国籍関係なく昇進・昇給のチャンスがあると言えるかどうかは、在韓日系企業や日本で働く上では大事な要素といえます。

勤務地(住宅関連補助を含む)

日本でも、東名阪等の大都市圏や都心内でもターミナル駅周辺のロケーションの方が人気は高いでしょうが、韓国では大学でも「インソウル」という暗黙のヒエラルキーがあります。

同じソウル市の中でも、例えば一等地と言われる江南(カンナム)にオフィスを構えるかどうかで、応募者数の増減や既存社員の存続可否に関わるというのが実情です。また、この5~6年における家賃の極端な高騰で、引越しも容易ではない事情もあり、居住や通勤に対して補助があることは、大きなフォロー要因になります。

たとえば、韓国から日本企業に就職してもらう場合も、「住宅補助」「転居補助」のような福利厚生が重要になってくるかもしれません。

日本企業が韓国学生にアピールできるチャンスはあるのか?

韓国の新卒採用市場の現状

企業の人事部門の方や、現在40代後半以上の方に聞いた話を総合すると、かつて90年代頃までは、韓国でも財閥系などの大手企業を中心にある程度の枠を持って採用し、入社後に集団で研修を行ってから現場に配属するという、日本企業のような新卒採用慣行もあったそうです。

ただし、1997年のIMF危機(※2)以降景気の悪化とともに、新卒採用の枠が減り今に至っているという状況です。それ以降も、韓国の大学進学率は基本的に上昇傾向を続けていますので、学生にとって新卒の入社は狭き門になり、企業にとっては新卒にも即戦力を求める環境が生まれています。
※2:タイを中心に始まった、アジア各国の急激な通貨下落現象のこと

韓国の求人倍率

日本と韓国の求人倍率を比較しても、2022年は日本の1.28倍に対し、韓国は前年比+0.15ptの0.65倍と、まだ日本の半分程度に過ぎません。

韓国経済研究院が発表した「2021年下半期新規採用計画」では、採用計画を立てている売上額500大企業は32.2%に留まり、7割近い大企業が大卒の新規職員を選ぶ計画がなかったり、採用計画をたてたりすることができずにいると回答しています。

その意味では、日本企業が韓国において新卒採用を行うことは、幼少期から数々の競争を勝ち抜いてきて、かつ多言語が可能な優秀学生に、比較的容易にたどり着く方法であると言えます。

卒業=就職ではない

また、時間軸的に必ずしも「卒業≒就職」でもないというところも、日本とは異なります。多くの文系学生にとって「大学は4年間⇒22~23歳で就職」の日本とは違い、留学やインターンによる休学期間や男性の兵役期間を含めると、「大学が5~8年(もっと長い人もいます)⇒24~28歳で就職」が普通の韓国では、コロナのような逆風の環境下では敢えて就職を選ばず、状況が好転してから活動(様子見とも言えます)がしやすい風土にあります。

「今年は日本就職が増えそう」などの様子が分かれば、「私も日本を選択肢に」という、一種のブームのようなものが作り易いのも、韓国の特徴ではないかと思います。

韓国学生と出会える機会

大学4年生の在学期間で見ても、韓国内では上期の3~6月に求人を出す企業は財閥系などの大手に限られており、中小を含め多くの企業の新卒採用募集が出るのが9~12月の下期になります。
10月に内定式を行う一般的な日本企業のスケジュールでは、次年度入社の採用活動が終了済みの場合が多い秋〜冬の時期にも、まだ多数の優秀な韓国学生と出会える可能性がある点もプラスに作用すると考えます。

勤続年数や転職回数に違いは?

平均勤続年数

平均勤続年数に関しても、日本と韓国では大きな違いがあります。

労働政策研究・研修機構が発表している「データブック国際労働比較2023」のなかで示されている「平均勤続年数」の比較では、日本の12.3年に対して韓国は5.9年と約半分で、仮に1人当たり平均30年勤務すると仮定した場合、平均転職回数は「日本が1人あたり2.5回」「韓国が1人あたり5回」という計算になります。

これはマイナビコリアに所属する社員や一般的な韓国人に質問した回答の感覚値とも近いようで、「5社くらい経験するのは普通」と言われることが多いです。ちなみに、同調査でアメリカの平均勤続年数は4.1年で韓国より短く、計算上は転職「1人あたり7回」となります。 この数値の差は、転職=給与を上げるための手段という米国的考え方が、韓国にも浸透した結果と言えるかもしれません。ただし、雇用柔軟性の高いアメリカと違い、雇用主からの解雇は、日本と同様に非常にハードルが高いため、韓国の方が自ら退職を選択する割合が高いと言えるかもしれません。

転職回数が多くなる理由

転職回数が多くなる原因として考えられるのは、既出内容との重なりもありますが、以下3点が挙げられます。

(1)企業の給与格差
(2)仕事に対する価値観の違い
(3)教育熱・上昇志向の高さ

(1)については、新卒で中小企業に入った人の場合ほど、より良い条件を求めて転職を繰り返す人が多く、転職そのものに対する抵抗感は薄い気がします。

(2)については、Job Discriptionをもとに仕事内容や労働条件で選ぶ韓国では、職場の現実が自分の求めるものと違うと感じた場合、見切りをつけるのが早い印象を受けます。「決めたらすぐ実行」という韓国人的気質も手伝ってか、離職願を提出してから、次の職場で働き始めるまでの期間も、日本より短い傾向にあります。

(3)については、厳しい受験戦争を勝ち抜いて「SKY(韓国の最難関大学3校)」や「インソウル」と呼ばれる最上位カテゴリの大学に入学したとしても、受け皿となる雇用は厳しいという構造的問題があります。

現状に満足せず高みを目指す韓国人が多いことは、我々の目線から見ると素晴らしいことです。日本を含む海外就職がその受け皿の一つになることを、韓国の求職者のみならず、みなさまにも知っておいていただけるとよいと思います。

まとめ

ここまで「企業選びの軸」「新卒採用という市場」「転職回数や勤続年数」の3つのトピックを中心に、韓国と日本の就職・転職事情の違いについて説明してきました。

2010年代前半頃に、日本企業内で外国籍人材の採用が進み始めた頃には、日本語力の高さなどの理由から「敢えて韓国籍人材を採用する」という目的の企業が多かったのですが、最近では「国籍を問わず優秀な人材を採用する」という目的で、結果的に韓国籍人材を採用しているというケースが増えました。

すでに社内に韓国籍人材が在籍されている日本・日系企業も、今後の採用を検討される日本・日系企業も、前述した違いを理解した上で、採用や育成にご活用いただければ幸いです。

マイナビコリアでは、日本企業とのパイプを活かして 2013年から韓国内大学生の日本就職斡旋を行う一方で、2017年から韓国内の日系企業に対しても日本語が堪能な韓国人材の紹介を行っています。今後の採用活用の一つとして、ご活用ください。


柳楽太郎/株式会社マイナビコリア 代表理事社長

著者紹介
柳楽 太郎(なぎら・たろう)
株式会社マイナビコリア 代表理事社長
1998年(株)毎日コミュニケーションズ(現マイナビ)入社
就職・転職領域の求人広告の営業職、人事部での採用担当、HR領域の企画調査、グローバル就職サイトの編集長、マイナビ新卒紹介の営業責任者を経て、2020年4月より現職。
40台半ばで初の海外赴任ながら、日本におけるマイナビブランドをアジア圏においても浸透させるべく、日々奮闘しています。

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