大学生が就職活動を意識してアルバイトをすることのメリットとは
目次
大学生にとってのアルバイトの位置づけ
アルバイト就業中の大学生の割合は64.4%、アルバイト経験があり現在は非就業の割合は19.9%、これまで一度もアルバイト経験がない割合は15.6%となり、アルバイト就業経験がある割合は84.3%と大半の学生はアルバイトの経験がある。【図1】
また、大学生に現在力を入れて行っている取り組みを聞いたところ「アルバイト」が約6割ともっとも高くなっており、大学生にとってのアルバイトは学生生活の中で優先順位が高いことがわかる。【図2】
学生のアルバイトの仕事を探した理由を全体と比較してみると「社会経験を積むため」が「貯金をするため」「趣味のため」の次に高くなっており、お金を稼ぐことに加えて、就職活動前に社会経験を積みたいと考えていることがうかがえる。【図3】
そこで、大学生のアルバイトの経験が就職活動とどのような関わりがあるのか、また就職活動とアルバイトの両立についてみていく。
アルバイト経験と就職活動の関わり
就職活動を意識してアルバイトをしている学生が増加傾向
2022年に就職活動を意識してアルバイトをしている大学生は34.2%で前年より4.6pt増加した。学年別では、就職活動を控えた大学3年生がもっとも高いが、大学1年生では33.0%、大学2年生では31.4%と低学年でも約3割が就職活動を意識してアルバイトをしている様子がうかがえる。【図4】
現在アルバイトをする上で就職活動を意識している内容を大学1年生・2年生に聞いたところ、「正しい言葉遣いができるようになる」や「アルバイトを通じて関わる人の数を増やす」「アルバイトを通じて自身と異なる世代の人と関わる」などが多くなった。【図5】
学生の中でも特に社会経験がない1年生・2年生では、コロナ禍でさまざまな世代や立場の人との交流の機会が減少したこともあり、就職活動前にアルバイトを通して他者とのコミュニケーションの取り方を身に付けたいと思っていると考えられる。
実際大学1年生と2年生に大学入学以前に想像していた大学生のライフスタイルと比べて、特に不満に感じていることを聞いたところ、「交友関係を満足に広げられないこと」が49.9%と約5割となっていることから、コロナ禍で学生生活が制限される中、アルバイトを通して他者との関わりを増やし、就職活動でアピールできる経験を得たいと思う学生が増加したとみられる。【図6】
学生のアルバイト経験はどのように就職活動へ影響しているのか
一方で、就職活動中の大学4年生に就職活動で役立つ経験ができたアルバイトの職種を聞いたところ、「飲食・フード(接客・調理)」が31.2%ともっとも高く、次いで「教育(塾講師・家庭教師など)]が13.7%、「販売(コンビニエンスストア・スーパーマーケット)」が12.4%となり、さまざまな人と関わる接客業の仕事が上位にあがった。【図7】
就職活動で役立つ経験ができたと感じるエピソードでは、大学1年生・大学2年生がアルバイトをする上で就職活動を意識している内容としても上位にあがっていた「言葉遣いやマナーが身に付いた」「さまざまな世代の人や立場の人との関わり方やコミュニケーション能力が身に付いた」という内容や、「アルバイトを通して仕事の実情や自身の適性を知れた」というキャリア形成に関する内容が目立った。【図8】
また、23卒の就職活動中の大学4年生・大学院生に両親または保護者以外で、周りに自分自身の仕事の内容について話してくれる社会人がいるか聞いたところ、「アルバイト先の上司や先輩」が21.5%ともっとも高く、次いで「きょうだい」が19.7%となった。【図9】
このことから大学生のアルバイトの経験はアルバイトの仕事を通してマナーやコミュニケーション能力の取得に繋がること加えて、アルバイト先でリアルな仕事の実情や経験について話をしてくれる人との出会いの場として学生の就職活動に重要な要素となっていると考えられる。
大学生が就職活動を意識してアルバイトをすることのメリット
次に企業に新卒採用における学生の優秀さの要素を聞いたところ、「協調性・チームで働く力」が64.0%でもっとも高く、次いで「仕事への情熱・やる気」が56.0%、「言葉で伝える力(文章・会話内容など)」が38.1%となった。【図10】
企業が新卒採用時に学生に求めている能力である、協調性やコミュニケーション能力などの対人スキルは、学校生活では出会うことのできない異なる世代の人との関わりを通して身に付けることができ、実際に学生のガクチカでもアルバイト経験が多く使われることに繋がっているとみられる。
また、企業にアルバイトを含む非正規雇用者に求める能力を聞いたところ、「コミュニケーション能力」が61.3%でもっとも高く、次いで「協調性」が58.8%となった。【図11】
このことから、企業がアルバイトに求める能力と新卒採用で求められる能力はいずれにおいても協調性やコミュニケーション能力であるとわかる。大学生が就職活動のためにこれらの能力を意識してアルバイトをすることは、学生自身のスキルアップに繋がることに加えて、アルバイト先の企業にとっても労働力という点でプラスになると考えられる。
アルバイトと就職活動の両立
就職活動中も約8割の学生がアルバイトを行っている
ここまで、アルバイト経験と就職活動の関わりについてみてきたが、次にアルバイトと就職活動の両立についてみていく。
大学4年生に2022年3月1日に企業会社説明会などの採用活動が解禁されて以降、就職活動中にアルバイトをしているか聞いたところ、「就職活動前と同じアルバイトをしている」は74.7%、「就職活動前とアルバイト先を変えてしている」が9.9%となり、84.6%の学生は就職活動中もアルバイトを行っていた。【図12】大学4年生の48.4%は経済的にゆとりがなく、就職活動の際に会社説明会や面接の交通費がかかる場合があることからも、就職活動中もお金を稼ぐ必要があり、アルバイトと就職活動を両立していると考えられる。
実際、3月から6月にかかった就活費用のうち交通費・宿泊費の平均は33,651円(前年比8,693円増)と前年同月の約1.34倍に増加し、就職活動にかかった費用の捻出方法は、「アルバイト代・給料(43.8%、前年比0.4pt増)」の割合が前年に引き続きもっとも高かった。【図13】【図14】【図15】コロナ禍で行動制限が行われていた期間が長くあった前年と比べて、対面での面接が増加したことなどが交通費の増加に繋がったとみられる。
一方で「就職活動を理由にアルバイトを休んでいる」は10.4%、「就職活動を理由にアルバイトを辞めた」は5.1%となり、約15%の学生は両立に難しさを感じて就職活動中にアルバイトを行うことは控えていることがわかった。【図12】
就職活動を理由にアルバイトをしていない大学4年生は3割以上
また、アルバイトをしていない大学4年生のうち3割以上が「就職活動との両立が難しい」ことを理由にアルバイトをしておらず、アルバイトと就職活動との両立に難しさを感じていていた様子もうかがえる。【図16】就職活動中はエントリーシートの作成、会社説明会や面接の時間などを確保する必要があり、アルバイトの時間を確保したり、調整したりすることに難しさを感じる学生がいたと考えられる。
しかし、アルバイトをしていない大学4年生に学期中の就業意向を聞いたところ、「就業意向あり(アルバイトをしてみたいと思う+ややアルバイトをしてみたいと思う)」は48.3%となり、就職活動が忙しい中でも約5割の学生がアルバイトをしたいと思っていることがわかった。【図17】
まとめ
大学生にとってアルバイトは就職活動と深く関わりがあり、コロナ禍で低学年から就職活動を意識してアルバイトをしている大学生も増加している。アルバイト先の企業が求めているコミュニケーション能力や協調性は、企業が新卒採用時に学生に求める能力でもあり、さまざまな人と関わるアルバイトを通して身に付けることができる。また、アルバイト先で働く人との出会いによりリアルな仕事の経験を知り、学生自身がキャリアを考えるきっかけにもなっていると考えられる。
一方で、お金を稼ぐための手段でもあるアルバイトは学生の生活の一部ともなっているが、非就業の大学4年生の3割以上が就職活動とアルバイトの両立の難しさを感じており、経済的な余裕がない中でアルバイトをしたくてもできない人もいると考えられる。大学生が自身の進路に納得感を持った選択ができるようにするために、今後アルバイト先の企業がシフトを組む際に考慮したり、自由に働くタイミングを選べるようにするなど、就職活動とアルバイトの両立をサポートする環境の整備も企業に求められるようになると考える。
キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実