育児・介護休業法の改正により、有期雇用者は育児休業・介護休業を取得しやすくなるのか?
目次
有期雇用者で出産・育児・介護を理由とした退職経験者の有無
2021年に有期雇用労働者で「出産」を理由に退職した人がいたと回答した企業は14.9%、「育児」では13.0%、「介護」では10.4%と一定数いることがわかる。【図1】少子高齢社会が進み、今後より一層人手不足が懸念される中で、子どもを持ちながら親が働き続けられる制度や環境を整備してくことが重要となることから、2022年4月から有期雇用者の育児・介護休業取得要件の緩和や男性の育児休業取得を後押しする施策が段階的に施行される。そこで育児・介護休業法の改正により、有期雇用者は育児休業・介護休業を取得しやすくなるのかについてみていきたい。
有期雇用者でも育児・介護休業が取得しやすくなることが期待される法改正内容
2022年4月より3段階に分けて育児・介護休業法の改正が施行される中で「産後パパ育休(出生時育児休業)」や「育児休業の分割取得」に注目が集まっているが、第一段階としては2022年4月1日から「雇用環境整備や個別の周知・意向確認の措置の義務化」と「有期雇用者の育児・介護休業取得要件の緩和」が適用される。【図2】有期雇用者の育児・介護休業取得要件については、法改正前は【①引き続き雇用された期間が1年以上であり、②育児休業の場合:子どもが1歳6ヶ月までの間に契約満了することが明らかになっていない、介護休業の場合:介護休業開始予定から93日が経過した時点で、以降6ヶ月の間に契約が満了することが明らかになっていない】という内容だったが、2022年4月から①が撤廃され②のみとなり緩和される。そのため、法改正により有期雇用者でも育児休業や介護休業を取得しやすいようになることが期待される。
有期雇用者の育児・介護休業法改正への認知度、半数は「まったく知らない」
そこで、非正規雇用の仕事を探した人に2022年4月の育児・介護休業法の改正を知っているか聞いたところ、「まったく知らなかった」が半数以上の51.5%となった。性・年代別では、子育て世代が多い20-29歳、30-39歳は「まったく知らなかった」が男性で約4割、女性で約5割となった。中には、出産・育児を理由に、状況に応じてフレキシブルに働き方を変えられるということで自ら望んで正社員から有期雇用へのキャリアチェンジをする人もいるが、そもそも離職せずに育児、介護のための時間を確保するための法改正であるにも関わらず、子育て世代の認知度さえも低めである様子がうかがえる。【図3】
また、女性15-19歳、女性40-49歳で「まったく知らなかった」が6割を超え、育児・介護休業法改正の認知度は女性より男性の方が高い結果となった。【図3】これは2022年4月からの法改正内容の一つとして、産後パパ育休(出生時育児休業)が注目を集めているため男性の認知度の方が女性より高いと考えられる。
有期雇用者の法改正に対する期待値は低め、職場の雰囲気を懸念の声も
有期雇用者に法改正前の21年11-12月時点で産休・育休・介護休業が取得しやすいか聞いたところ、「取得しやすいと思う(取得しやすいと思う+どちらかといえば、取得しやすいと思う)」は2割程度となり、男性50-59歳以上、女性30-39歳以上では2割以下と取得の期待値は低い結果となった。【図4-1】一方で、2022年4月の育児・介護休業法が改正されることで、産休・育休・介護休業が取得しやすくなると思うか聞いたところ、「取得しやすくなると思う(取得しやすくなると思う+どちらかといえば取得しやすくなると思う)」は28.2%、男性15歳-19歳、男性20-29歳、男性30-39歳、女性15-19歳で3割を超えたが、法改正への期待値が高いとは言い難い結果となった。【図4-2】育児・介護休業法の改正以降、産休・育休・介護休業が取得しやすくなる/取得し難くなると思う理由について、自由回答で聞いたところ、取得しやすくなると思う理由では「時間単位での休暇が可能になるので、取得しやすくなると思う」など、取得し難くなると思う理由では「法律より、職場の雰囲気が優先されると思うから」などが上がった。【図5】育児休業や介護休業の取得は従業員同士の理解が必要となるため、企業は制度の整備とともに、休みを取りやすい風土も併せて整えていくことが重要だと考えられる。
有期雇用者の育児・介護休業取得要件の緩和に対する企業の意見
一方企業に対し、2022年4月の法改正で有期雇用者の育児・介護休業取得要件の緩和がされることによってどのような影響があると思うか聞いたところ、該当者がいないという理由から「影響はないと思う」がもっとも多くなり、「良い影響があると思う」は27.6%、「悪い影響があると思う」は9.9%となった。【図6】育児・介護休業法の改正以降、良い影響があると思う/悪い影響があると思う理由について、自由回答で聞いたところ、良い影響があると思う理由は、働きやすい環境を整えることで「従業員のモチベ―ジョン向上」や「長期的な雇用確保」「多様な人材の雇用」に繋がる等という意見があった。一方で悪い影響があると思う理由は「人手不足や過剰採用」「他のスタッフの労働時間の増加」「人事調整の難航」等という声があった。【図7】
子育てや介護との両立を支援する制度は求職者の応募意欲を高めるにも関わらず、今後制度を増やしていく企業は3割にとどまる
ここまで2022年4月の育児・介護休業法の法改正について触れてきたが、法改正以外の子育てや介護との両立を支援する制度について求職者の意見と企業の方針をみていきたい。まず求職者へ応募に影響する企業の施策・制度について聞いたところ、「プラスになると思う計(プラスになると思う+どちらかといえばプラスになると思う)」は[時差出勤ができる]で86.5%、[託児所の併設など、子連れ出社ができる」で77.2%という結果になった。【図8】そのため、働く時間を柔軟に選択できることや子どもの預け先の確保を行うことは、働く人が育児と仕事の両立を行う上で支えとなり得る施策であると考えられる。
一方で企業に非正規雇用者が子どもを持ちながら働き続けられる制度について今後の方針を聞いたところ、「増やしていく予定」は27.9%、「変わらない予定」は69.5%、「減らしていく予定」は2.6%となった。【図9】「増やしていく予定」と回答した企業に、今後どのような制度を増やしていく予定か聞いたところ「社内保育園の設置」「子どもを預けられる施設斡旋、紹介」などの回答が多くみられた。また、「特別有給休暇制度」「時間単位での有給取得」や「時短勤務」「フレックス制度」など働く時間を柔軟に選択できるような労働環境を整えるための制度も頻出した。【図10】子育てや介護との両立を支援する制度は求職者の応募意欲を高めるにも関わらず、今後そういった制度を増やしていく企業は3割にとどまる結果となった。
まとめ
2022年4月の育児・介護休業法の改正では第一段階として有期雇用者が育児休業や介護休業の取得がしやすいように取得条件の緩和が行われたが、有期雇用者からは法改正だけで休暇取得しやすくなるとは考えられておらず、法改正や制度の整備に加え、休みを取りやすい雰囲気づくりが必要不可欠である。そもそも有期雇用者の法改正への認知度が低いため、育児休業や介護休業の取得率を上げるためにはまずは法改正の内容について認知を広めることが重要である。少子高齢社会が進む中で、育児や介護と仕事との両立支援制度の重要性が増しているが、有期雇用者の子育てとの両立支援制度を今後「増やしていく」企業は3割弱にとどまっている。今後、雇用形態に関わらず、社会全体で望む人が制度を利用しやすい風土の醸成をしていくことが、取得率向上の鍵となるだろう。
キャリアリサーチLab研究員 三輪希実