就業率からみる障がい児のママとキャリア
目次
はじめに
私は特例子会社の社員として働いている。自身も週に1度居宅介護支援を受け、ヘルパーさんと一緒に自宅の掃除をしている。その際、ヘルパーさんともいろいろ話しをする中で障がい児を育てる母親の話題になり、「うち(の介護事業所)は放課後等デイサービスもやってて、よう利用者に『もう閉まるし、お母さん家いく?おじいちゃん・おばあちゃんとこいく?』と、話しますわ。」と伺った。放課後等デイサービスが思ったよりも早くに閉まること、そのような状況で働く親は大変なのでは?と驚いたこともあり、障がい児を育てるお母さんの就労状況やサポート体制が気になり、今回調べてみようと思った。
統計にみる障がい児の数
令和3年度版厚生白書によると、我が国では推計で障がい者手帳を持つものが960余万人いる。
うち、18歳(身体・知的障がい者)・20歳(精神障がい者)未満の者が約57万人、このうちの、施設入所者・入院患者の1.8万人を除いた55万人が、在宅者として地域で暮らしている。これら未成年の障がい児は、大半が親元で暮らしている。【表1】
社会全体では育児をしながら仕事を続ける母親の数も、増えている 。
厚生労働省調査によると、2019年度で72.4%の世帯が、“仕事あり”と回答している。【表2】
また、末子(※その世帯で一番年の若い子供)の年齢と就業率がリンクしていることにも特徴がある。子供の成長に伴い、仕事に就く(あるいは、戻る)母親が多い。【図1】
障がい児の子供のいる母親、複数調査で就労率が5割弱
一方で、子供に障がいがあった場合はどうだろうか。たとえば、2008年度に大阪市の障がい児を育てる母親を対象にした調査によると、就労が48.9%、非就労が51.1%だった。(前後する09年国民生活基礎調査(厚生労働省)より、約10%低い)【図2】
加えて、2019年に世田谷区で行われた調査では、主な介助者について確認している設問で、5歳以下の子供の介助者が「母」である割合は63.9%、6~17歳の場合で70.8%と、主に母親が介助していることが示されている。その介助者の就業率は5歳以下で47.8%、6歳~17歳で48.9%となっている 。【図3】
調査内容が異なるため、単純比較はできないが、国民生活基礎調査(前72.4%)とくらべ、障がい児のいる世帯では、主に介助を担っている母親の就労率が一般的な母親の就労率より2割前後落ちている。
障がい児が加齢しても母親の就業率が低い点
また、国民生活基礎調査では子の年齢が上がる(=成長する)につれて、母親の就業率が上昇するのに対し、世田谷2019調査では、先に示したように5歳以下で47.8%、6歳~17歳で48.9%と、1%程度しか増加していない。【表3】障がい児については、年齢が上がってもケアの手が離れないため、母親を中心とした介助者が仕事に就き(戻り)にくいことも指摘されている 。
放課後等デイサービス、ヘルパー利用等・平日のサービス利用度について
そのような中、障がい児を育てる母親の就労を促進する要因として放課後等デイサービスをはじめとする福祉サービス、祖父母による協力が代表例として挙げられる 。しかし、祖父母による協力はインフォーマルであり、障がい児と近くにいるか、障がいに理解があるか等、家庭環境にそのまま左右される。また、福祉サービスについても夜間時間帯の利用 、学校⇔サービス事業者⇔自宅間の移動、子供の病気の際の対応等、様々な制約がある。
今後の解決のヒントとなる事例
障がい児を育てるママと就労について、現状の課題を挙げた。とりわけ、障がい児の見守り・介助について多くのママが困難を感じているなか、いくつかの良い動きがあるので、紹介したい。
まず、自宅から特別支援学校(学級)、放課後等デイサービスへの移動支援について、地方自治体レベルでは改善の向きがある 。
大阪府枚方市の場合、2012年より移動支援事業の仕組みを活用し、市内で移動支援事業を営んでいる事業者や、障がいのある児童・生徒に対する支援実績のあるNPO法人等を対象として「通学支援事業」を委託している 。同様に、千葉県松戸市でも独自の移動支援事業として、通学等支援を掲げている 。“単独での通学等ができず、他の送迎手段や付添いの支援が得られず、中長期的に通学等ができない障害児で、移動支援の必要があると市長が認めたもの“
このように、地方自治体の特定事業に通じて、障がい児の移動支援の拡充が図られている。(※国は、支援学校への通学、放課後等デイサービス等への移動に対し、“通年かつ長期にわたる外出”として移動支援を原則適用外としている。)これらの施策により、家以外の“居場所”への移動が、より柔軟になると良い。
次に、放課後等デイサービスでの報酬改定についても、明るい点が見受けられる 。
令和3年4月報酬改定 によって、児童指導員の資格として手話通訳士、手話通訳者が追加された。聴覚障がいのある生徒が、他者とのコミュニケーションを学ぶ点で大いに歓迎される。先に調査された内容によると、子供のコミュニケーション能力と就業率に正の相関がある 。つまり、障がい児のコミュニケーション力が上がることは、(母)親の就業率にもプラスに働くのである。また、こうした目的からも、PT/OT/ST*といった、リハビリ専門職への加算を更に増やし、放課後等デイサービス(をはじめとする福祉事業所)の質的向上につながればいいと思う。
*PT:理学療法士・OT:作業療法士・ST:言語聴覚士
このことはサービスを決める厚労省、障がい児支援の現場である放課後等デイサービスへの調査でも、一定程度問題が共有されていると思われる。
(※たとえば、放課後等デイサービスの実態把握および質に関する調査研究報告書によると、事業所におけるサービスの質の向上について課題と感じることにおいて、これらリハビリ専門職は看護師、保育士についで、確保が難しく、必要な職域とされている。)
一方で、同報告書によると“「言語聴覚士による言語療法、作業療法士による作業療法・感覚統合訓練など、有資格者による訓練」は 73.7%の事業所で提供されていない”と、リハビリ専門職による訓練も、これからの領域とされている。
これら問題が解消し、まず自宅や学校・(放課後等デイサービスはじめ)福祉事業所との行き来が改善され、更に専門家による障がい児の能力、とりわけ子供のコミュニケーション能力の向上が、母親の就労率の上昇に寄与するものと考えられる。
さいごに
この コラムを書きながら、昨年印象的だった出来事に思いをはせた。発熱時に念のため大きな病院でPCR検査を受ける機会があったのだが、両親とヘルパーさんに介助された障がい児と一緒になったことがある。原則ひとりで受けることが指示されるPCR検査においても、3人の付き添いが必要なその様子から日常的な親御さんの仕事や、障がい児を育てる母親についてあらためて考える機会になった。
今回は、「障がい児のママとキャリア」について、就労率を中心につづった。
病院での出来事のように、コロナ禍によって、既存の障がい者(児)福祉で課題とされていた面が浮き彫りになったと考えられる。もし機会があれば、フルタイムやパートタイムといった“障がい児を育てる母親のキャリア選択”、働くことによって得られる肯定感などの、“メンタル面の動き”、更に“障がい児の育児に対する企業の取組み” についても、今後書ければと思う。
著者紹介
芝田耕平(しばた・こうへい)
株式会社マイナビパートナーズ
2017年株式会社マイナビパートナーズに入社。
以来4年間、先天性発達障がいの当事者として、障がいを開示して勤務(障がい者雇用・オープン就労)。
精神保健福祉士の資格をもち、保育施設・病院で働く相談員である父を持った生い立ちから、
保育・教育(とりわけ障がい児分野)に強い影響を受けた。
いわゆる“大人の発達障がい者”として、成人後に診断を受けたため、
「学校教育は健常者と同じ。就労は障がい者雇用。でも障がい特性は生まれつき」という珍しい体験をもつ。
「障がいへの配慮はするが遠慮はしない」をモットーとする同社で働きつつ、
上記の経歴・理由から、障がい者(児)にまつわる情報をまとめたいと感じ、当コラムの企画に至る。