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日本国内における適性検査の変遷

長瀬存哉
著者
HRコンサルタント
ARIKA NAGASE

現在の就職・転職市場における“適性検査”は、多くの企業において、人材の選考ツール・サービスとして広がっている。そもそも採用における選考の意義とは何か、そして、そのプロセスを支える重要なアイテムの一つとなっている適性検査の役割とは何なのかをシリーズで紐解いていく。
第一回は、歴史的な時代背景と変遷を通し、その時代時代で果たしてきた適性検査の目的や役割を整理するとともに、現代における適性検査の活用をより明確にするため、その実現に不可欠となる時代背景、おおよそ戦前戦後から高度経済成長を遂げてきた時代から、触れていきたい。

適性検査・アセスメントの歴史

日本市場における人事と採用とは【適性検査の夜明け】

日本における人事の仕事は、人の採用から配属先の検討、各人の評価など、 戦略面に関わる企画や制度設計、労務管理など多岐にわたっている。組織に属する社員・従業員の可能性や能力をいかに引き出し、組織の運営や機能を向上させ、企業の発展に繋げるかは、人事の重要課題の一つとして捉えられている。

こうした中、企業にとって必要な人材とは、また、選考段階での合否基準はどのように定めたらよいのかといった、人が人を見極めるという採用選考の本質的で難解なテーマは戦後から一貫してあったが、現代においても解明されているとは言いきれない。各企業は、さまざまな取り組みを通して、毎年繰り返しその難題に取り組んでいる状況といえよう。

近代の適性検査の黎明、戦後復興期における採用【エリートから世襲・縁故の採用へ】

第二次世界大戦終結間もない時期の企業の採用方法は、高等教育修了者の採用が定着し、適性検査を活用した選考ではなく、書類選考や面接が一般的であった。また、職業指導の一環として心理検査が試みられており、 その中心は、知能テストや職業に関する適性の有無を測定するものであった。

その後1960年代の戦後復興期に入り、企業の採用選考・選抜活動は、高等教育のエリートといわれる学閥選考の段階から、一般大衆に門戸を広げて採用する段階へと移行していく。当時の大衆向けとは、世襲や縁故といったルートを中心とする人海戦術という原始的かつ基本的な方法で人を集め、選考するものであった。現代でいうリファラル採用の基本形がそこで始まったともいえよう。

広く大衆から選考するにあたり、主に二つの基準をベースに選考されるようになった。
一つめは、どのような学校教育を受けたのか、どこの学校出身なのかなど、学校名や学力偏差値の優劣といった基準である。これは、組織を運営・管理していく総合職・管理職の選抜において、標準的な基準として設定されていく。
二つめは、多くの対象者から、自社の業務に適した人材を学力以外で見極めるための適性検査である。戦時中、すでに日本でも開発されていた適性検査は、作業精度だけでなく性格面も測定可能だとされ、人の選考において、学力だけでない観点も再認識されるようになった。

高度経済成長期における大量採用・一括採用【標準的なタイプと職業適性という指標】

時代は、団塊世代が社会進出をしていく1970年代へと突入していく。この時代は高度成長期で人手不足が顕著となった時代背景もあり、企業の採用数が一気に拡大していく時期と重なる。さらに多くの人を集めて採用していくためには、人海戦術に留まらない、大量採用・一括採用のための選考方法が必要となる。
書類選考からの面接・選考、という採用プロセスでは、より効率的に人物を見極めていく基準として学力偏差値は重宝され、応募者は“学力やIQ”で判断された。と同時に、性格面では、どのような人物なのかをわかりやすく識別する指標=どのようなタイプなのか、という分類や類型化が、適性検査の大きな役割として求められていくことになる。

その後、必要な職業 に適応できる人物かどうかを見極めたい、という一般的な「職業 の適性の有無」という視点が必要とされていく。多くの人材を採用することで、組織の機能も分解され、さまざまな職場や役割に適応する人を見極めたい、という適材・適所のニーズが生まれ、それを解決するツールとして適性検査が活用されていくことになる。
たとえば、営業職には社交的な人物を、企画職には柔軟に発想する人物を、といった基準を設定すること が1970年後半から1980年代に主流となり、活況な景気情勢において、より適した人物を組織の役割に応じて配置して機能させていく選考となる。そこでは、日本だけでなく海外でも活躍できる人材、いわゆるグローバル人材というキーワードも浮上するなど、日本と海外とを問わず24時間活躍できるタフな人材を求め、識別していく適性検査も広がっていった。

ミレニアム前後の採用と人材活用について【標準的から企業の独自性・個人特性への転換】

そのような好景気も長続きはせず、1990年代の初頭、バブルの崩壊で景気後退 の時代に突入すると、「頑張っても簡単には成果が出にくい」という世の中になっていく。結果を出す、成果を生み出す条件とは何か、人材の能力だけでなく、その特性や要件なるものが企業別に問われる時代へと進んでいったのである。つまり、一般的な適性や能力という考え方ではなく、【各領域において成果を出せる人物】や【各社固有の屋台骨となりうる人物】を見極める重要性が高まっていくことになり、これらを確認できる適性検査というものが注目されていく。

そして2000年代に入り、世界に目を向けると、国の再編の動きや同時多発テロ、日本においては自然災害や震災被害など、世界情勢と経済活動への影響が新たな段階に入っていく。 企業にとっては、その世の中をどのように乗り越えていける人材なのか、という選考指標による判断が重要となっていった。

また適性検査の役割も、標準的な職業に適合しているかといった画一的な基準ではなく、企業の理想的なモデルに合致しているのかなど、独自基準に置き換えられるかどうかが必要条件となっていく。2000年代では、企業の戦力となる人材とはどんな人物か、その条件とは何か、各社の評価基準やその人物のコンピテンシー に照らし、可能性ある人材を選別することが重要となっていった。

一方、採用選考の対象者は、社会の激変によって、今までの価値観が大きく揺らいでしまう現実を目の当たりにする。思い描いた理想や夢、将来の展望なども、大きく変更せざるをえない状況になってしまった人も少なくない時代であった。多様な価値観や、 一人ひとりの違いを丁寧に見極めていく指標、個人の特性を見つめる適性検査の必要性が叫ばれていった。

現代からコロナ禍における適性検査の役割について【予測不能な時代に求められること】

企業は、激変する世の中で経営陣も成功モデルを明示しにくい経営環境を受け、独自の採用基準に加え、多様な働き方・ストレスに強い人材を選定していくことを思考し始める。
適性検査の業界内でも、いわゆる地頭力だけでなく、レジリエンス、非認知能力などの言葉がきかれるようになったことは、その時代を象徴していると考えられる。通り一遍の学力偏差値ではなく、あらゆる可能性をさまざまな次元で検討協議できる新たな視点を発見する測定ツール・方法が求められていくことになる。

その後、各社独自の特徴を生かして、選考方法も差別化を図ろうとする動きが生まれ、採用条件のみならず、選考方法を独自の手法で 学生にアピールする動きが活発化していく。ミレニアムから2010年代にかけては、採用活動は企業ブランディングを行う絶好の機会である、と再認識した採用担当者が数多く生まれた時代でもあったのではないだろうか。そこでは当然のことながら、個人のユニークな特性や強みなど、さまざまな角度で検討・協議しやすい適性検査というものが求められていくことになる。

さらに、ニューノーマルな時代の人材とは!?といった考えも生まれてきている。新たな時代を切り開く可能性のある人物、予想を超えた発想ができる人物などなど、企業独自の観点に留まらない、時代を先取りするような人材を発見し検討できる適性検査の役割が不可欠となっていく。

大局的な歴史からみた、未来の適性検査の役割とは

HRテクノロジーは、1990年代初頭にアメリカで生まれたとされ、日本に浸透し始めたのは国内でもここ数年で、急速に市場が拡大してきている。しかし人材活用分野での技術革新が進み、コロナ禍で人との関係形成が難しくなった昨今においても、人事の役割である採用活動で変わらない価値観は、人の深層心理の一片または一部を垣間見ようとするあくなき人間の探求心に他ならない。

今回は、戦後のエリートや世襲等の選考から、多様な人材を選考していく現代へ、という流れに合わせ、適性検査が変化し、適応してきた歴史に触れた。この先もテクノロジーやデジタルの世界が待ったなしに広がっていくことは言うまでもない。それでもテクノロジーとリアルな世界をつなぐ手掛かりとなるもの、デジタルとアナログの翻訳機となりうるものが、これからの時代、ますます重要になってくるのではないだろうか。人との距離を縮める手がかりとなる羅針盤、その可能性の扉をもたらす役割そのものが、現代における適性検査に求められているということになろう。

次回のコラムでは、こうした歴史の中で登場し、広がってきたさまざまな適性検査が、どのような視点で人を解明しようとしているのか、その特徴や構成要素から見ていきたい。


著者紹介
長瀬 存哉(ながせ・ありか)
HRコンサルタント

1968年東京生まれ。大学卒業後、多種多様な業界の業態開発・商品開発に携わり、人の感性と環境・ハードとの間に融和と相乗効果が生まれる世界を見出し、人の可能性や創造性に関する調査・研究活動に取り組む。そこで、心理学・統計学分野のオーソリティに師事。HR分野の課題解決を通して、適性検査や意識調査・行動調査などの診断・サーベイ・アセスメントの設計・開発・監修を行い、その数は数百種類に上る。その後、取締役を経て独立。現在は、各企業やHRテクノロジーに関するコンサルティング・研修・講演活動を通して、HRの科学的なアプローチによる課題解決に取り組んでいる。

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