大学1・2年生からキャリア形成活動を開始する意義・効果について-実践女子大学 人間社会学部准教授 初見康行氏

キャリアリサーチLab編集部
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「大学生のキャリア学習」について考える本シリーズ 。第2・3回は企業が実施するキャリア教育という観点で、学生のキャリア教育に重きを置いたインターンシップを実施されている株式会社DAY TO LIFEの取り組みを紹介した。

第4回となる今回は、大学1・2年生のうちからキャリア形成活動に取り組むことの効果や、大学生のキャリア形成活動と大学での学習の関係性について、実践女子大学 人間社会学部 初見康行准教授に解説いただく。

初見康行(実践女子大学 人間社会学部 准教授)
同志社大学文学部卒。企業にて法人営業、人事業務に従事。2017年、一橋大学大学院商学研究科より博士(商学)。2024年より現職。専門は人的資源管理。主著に「若年者の早期離職」中央経済社、「人材投資のジレンマ」日本経済新聞出版など。

キャリア形成活動の低学年化

本コラムのテーマは「低学年のキャリア形成活動」である。具体的には、大学1・2年生からキャリア形成活動を開始することの意義や効果について検討していく。近年注目されつつある低学年のキャリア形成活動にはどのような価値があるのだろうか?読者のみなさんと一緒に考えていきたい。

大学1・2年生のキャリア形成活動開始意欲の高まり

まずは現状から確認していこう。株式会社マイナビの調査によれば、大学1・2年生(以下、低学年と略記)のインターンシップ参加率は増加傾向にある。最新の27・28年卒学生の参加率は30.1%であり、4年連続で増加している(図表1参照)。

【図表1】大学1・2年生のインターンシップ参加率推移/※出所:「マイナビ大学生低学年のキャリア意識調査(27・28 年卒対象)」より
【図表1】大学1・2年生のインターンシップ参加率推移/
※出所:「マイナビ大学生低学年のキャリア意識調査(27・28 年卒対象)」より

また、大学1年生にインターンシップに参加したい時期を聞いたところ、「2年生の間(33.4%)」という回答が最多であり、3年生になる前からキャリア形成活動を開始する意欲が高まっていることが伺われる。

企業の低学年向けキャリア形成支援プログラムも増加の見込み

同様の動きは企業側でも確認できる。第1回コラムでも指摘されたように、上場企業では2割超(22.1%)の企業がすでに低学年向けのキャリア教育プログラムを実施している(図表2参照)。また、「まだ検討していないが、必要性を感じている」という企業が3割を超えている(35.2%)事実を鑑みると、低学年向けのキャリア教育やキャリア形成支援プログラムは今後も増加していくことが予想される。

【図表2】大学生低学年(1・2年生)へのキャリア教育の取り組み状況/※出所:「マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査」より
【図表2】大学生低学年(1・2年生)へのキャリア教育の取り組み状況/
※出所:マイナビ2025年卒企業新卒採用予定調査より

低学年からキャリア形成活動を行う意義を見出す必要性

しかしながら、このような低学年を対象にしたキャリア形成支援・キャリア教育プログラムの価値とはいったい何だろうか。実施する企業や大学はもちろんのこと、プログラムに参加する学生も多くの時間や労力を費やしている。それにも関わらず、3年生以降でも得られる効果を単に前倒ししているだけ、ということでは説得力に欠けるだろう。また、このようなキャリア形成活動の低学年化が就職活動の早期化に結びつくことを懸念する声も多い。

以上の点を鑑みると、低学年向けのキャリア形成支援に関わる関係者は、「なぜ大学1・2年生からキャリア形成を開始するべきなのか?」という問いに対して、一定の回答を持っておく必要がある。少し大げさに言えば、低学年向けのキャリア形成支援活動を推進するための「大義」と呼べるようなものを、我々自身の中でも明確化しておく必要があるだろう。

低学年向けキャリア形成活動の効果は「学習意欲の向上」

これまでの調査から、低学年向けのキャリア形成活動によって身に付くスキルとして、「主体性」「課題発見力」「実行力」などが上位に挙げられている(第1回コラム参照)。また、筆者と株式会社マイナビの共同研究1から、低学年特有の効果として明らかになったのが「学習意欲の向上2」である。図表3を見て欲しい。

【図表3】キャリア形成活動の開始時期による比較
【図表3】キャリア形成活動の開始時期による比較
出所:筆者作成

図表3は、キャリア形成活動の開始時期による比較である。開始時期以外の条件をできるだけ合わせるため、どちらのグループも「大学のキャリア教育」「企業主催のセミナー」「企業主催の就業体験」をすべて経験した学生を分析対象にしている。つまり、2つの学生グループはどちらも豊富なキャリア形成活動の経験を有しているが、活動を開始した時期が異なるということである。分析の結果、大きく2つのことが確認された。

第一に、1年生からキャリア形成活動を開始した学生群は、「学習意欲の向上」「就職活動の満足感」「大学生活の満足感」の平均値の合計(16.1)が、3年生から開始した学生群(15.4)よりも高いことが確認された。

第二に、両群で明確な差が確認されたのが「学習意欲の向上」である。一方、「就職活動の満足感」と「大学生活の満足感」には統計的な有意差は確認されなかった。このことから、キャリア形成活動を低学年から始める意義・効果の1つは、大学の学習に対する意欲の向上であることが強く推測される。

これは、大学関係者にとっては朗報だろう。これまで、一部のキャリア形成活動やその早期化が大学での学習を阻害するのではないか、ということが懸念されてきた。しかし、今回の分析結果から、キャリア形成活動には大学の学習意欲を向上させるという従来の懸念とは「逆の効果」があることが確認された。

実際、筆者が担当するキャリア系の講義においても、「インターンシップに参加して学ぶ意欲が増した」「大学で何を学びたいのかが明確になった」などの声を聞くことがある。さらに、このような学習意欲の向上が特に低学年において確認された点も重要である。

低学年からキャリア形成を始めた方が、学習意欲がより向上する背景

そもそも、なぜ低学年からキャリア形成を開始した方が、学習意欲がより向上するのだろうか?推測ではあるが、1つのポイントは「就職活動の引力」にどれくらい引かれているか、という点だろう。

具体的には、3年生以降に開始した学生は、時期的にも直近に迫った就職活動を意識せざるを得ない。それゆえ、キャリア形成活動の目的も自然と内定獲得に向かうことは想像に難くない。一方、1・2年生は3年生と比較して時間的な余裕がある。それゆえ、「就職活動の引力」に引き寄せられ過ぎず、キャリア形成活動から得た学びが大学の学習活動にも向かいやすくなる(スピルオーバーしやすくなる)ことが推測される。

実際の状況を考えてみると、より分かりやすいかもしれない。たとえば、3年生の夏休みにインターンシップに参加した学生は、残りの大学生活が約1年半である。学生によっては、3年生の後期までに卒業単位の4分の3近くを取得していることもあり得るだろう。文系であれば、ゼミ選択や学科選択もすでに終えている時期である。

一方、同じ経験をしても1・2年生は残りの大学生活が2年半から3年半ある。キャリア形成活動から得た学びをもとに、その後の履修科目を修正したり、学科選択やゼミ選択を検討し直したりすることも可能である。人によっては、そこから資格の勉強を始めたり、長期の留学を決心したりするかもしれない。

つまり、3年生と比較すると、低学年からキャリア形成活動を開始した学生は、その後の選択肢の幅が広く、向上した学習意欲を活かせる場面が相対的に多い。これは、キャリア形成活動を低学年から開始することの大きな価値と言えるだろう。低学年で学習意欲が向上することは、その瞬間だけでなく、その後の大学生活全体を変える大きな力を秘めているのである。

低学年からのキャリア形成活動と入社後の活躍

もう1つ興味深いデータを提示したい。図表4は、図表3で示した2つの学生群に卒業後の追跡調査をした結果である。調査の時期が卒業後1年未満(入社7ヶ月後)であること、回答者のサンプルサイズ(人数)が小さいなどの課題はあるものの、「ワーク・エンゲージメント」「在職意思」「社会人生活の満足感」のすべてにおいて、1年生からキャリア形成活動を開始した学生群の方が高い結果となった。また、3つの結果それぞれで統計的な有意差も確認された(図表4参照)。

【図表4】キャリア形成活動の開始時期による入社7ヶ月後の比較
【図表4】キャリア形成活動の開始時期による入社7ヶ月後の比較
出所:筆者作成

本結果のみで断言することは出来ないが、低学年からキャリア形成活動を開始することが、卒業後の活躍にも影響を与える可能性が示唆される結果となった。その背景には、低学年で向上した学習意欲がその後の学習活動に良い影響を与え、そこで得られた学びがさらに卒業後の活躍につながる、というポジティブな連鎖が起きていることも考えられる。

本結果についてはさらなる調査が必要であるが、ワーク・エンゲージメントや在職意思に肯定的な影響を及ぼす可能性が示されたことは、特に企業が低学年向けのキャリア形成支援に取り組むための大きな後押しになるだろう。

「就職活動の早期化」ではなく「キャリア形成活動の早期化」を図る

本コラムでは、キャリア形成活動を低学年から始めることの意義や効果について検討してきた。今回の調査結果から、低学年からキャリア形成活動を開始する特別な価値とは「学習意欲の向上」であることが確認された。また、キャリア形成を低学年から開始することが卒業後の活躍につながる可能性が示された点も興味深い。

しかしながら、これらの調査結果は、「低学年からのキャリア形成」という広大な領域を研究するための端緒に過ぎない。詳細な因果関係を検討するためには、大学1年生から若手社会人までの長期の調査が必要になる。また、低学年からキャリア形成活動を始めることによるネガティブな側面も明らかにしていく必要があるだろう。

それでも、筆者自身は低学年からキャリア形成活動を推進していくことは極めて重要だと考えている。第1回コラムでも指摘されているように、大学の学習とキャリア形成は「地続き」であり、対立するものではない。

今回の調査結果から「学習意欲の向上」が確認されたことは、キャリア形成活動と大学の学習活動の間に良い関係が築けること、さらには相乗効果の可能性もあり得ることを示すものである。

大学の学びとキャリア形成活動のサイクルを循環させる枠組みづくりを

今後、低学年向けのキャリア形成支援は増加していくだろう。我々は、それが安易な就職活動の早期化に結びつかないように注意しなければならない。しかしながら、自分自身のキャリアを低学年から考え始めることは決して無意味ではない。

低学年でのキャリア形成活動が大学の学習に還元され、大学の学習で得られた学びが再度キャリアデザインに還元されていく、今後はこのようなサイクルを循環させるための枠組みを、大学・企業・行政が協力して創り上げていく必要があるのではないだろうか。筆者自身は、そのヒントが近年増加しつつある低学年向けの産学連携型プロジェクトにあるのではないかと考えている。

低学年のキャリア形成に関する調査・研究は始まったばかりであるが、今後、その価値は大学・企業・キャリア支援に関わる多くの人々が注目すべきものになっていくだろう。


<注>
[1]「2023年卒:卒業前後調査」より。調査は2023年2月(第1回:卒業直前)と同年11月(第2回:入社7ヶ月後)に行われた。調査対象は「大学を卒業後、就職して働いている者」である。回答者数は688名(男性322名・女性366名)であった。
[2]本調査における「学習意欲の向上」とは、大学の学習に対する意欲全般を指している。具体的には、「大学の学習について、主体的・能動的に学ぶようになった」などの項目を7件法で調査している。

初見康行
登場人物
実践女子大学 人間社会学部 准教授
YASUYUKI HATSUMI
沖本麻佑
登場人物
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

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