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定着が始まったPBL。実施に向けた教育現場の課題とは

羽田啓一郎
著者
株式会社Strobolights 代表取締役社長
KEIICHIRO HADA
キャリア教育連載

こんにちは、株式会社Strobolightsの羽田と申します。私は前職のマイナビ時代、高校生や大学生向けのキャリア教育サービスの立ち上げをしてきました。その中でも特に「PBL」についてキャリア教育としての可能性を感じ、キャリア甲子園をはじめとする各種サービスの開発をしてまいりました。

PBLはキャリア教育業界では一定の認知度を得るようになってきましたが、いざ導入しようとすると課題が多い手法でもあります。今回はPBLを導入する際に生じる、教育現場の課題についてご紹介していきたいと思います。

PBLとは?

PBLとはProject Based Learningの略です。従来型の学校教育では、教室の中で先生が教壇に立ち、生徒に向かって問題の解き方を教えていく、というスタイルが当たり前でした。

一方PBLはその名の通り「プロジェクト活動を通して学びを得ていく」教育手法です。何らかのテーマ、問いを生徒たちに与え、その問題を考えていく過程の中で論理的思考力や表現力などを学んでいくのです。

「主体的な学び」という意味ではアクティブラーニングという言葉の方が有名かもしれませんが、アクティブラーニングの中の一つの手法がPBL、という理解でよろしいかと思います(明確に定義づけられているわけではないのですが)。

また Project Based ではなく Problem Based という使われ方をされる場合もあります。こちらは問題解決型のテーマを扱う場合に使われる表現ですが、プログラムの流れは大きく変わりませんし、ProjectもProblemも教育効果が大きく変わるわけではないので「PBL」という表現でまとめられることが多いかと思います。また学校によっては「課題探究」と呼ばれることもあります。

PBLを実施する学校が増えている理由

キャリアきょうい

このPBLを導入する学校が増えています。定量的なデータは残念ながらありませんが、教育関係者であれば数年前から「PBL」という言葉を聞く機会は増えたと実感されているのではないでしょうか。

その背景には、産業構造の変化に伴い学校教育も変わっていく必要が出てきたことが大きいと言えるでしょう。2020年3月の日本経団連・採用と大学教育の未来に関する産学協議会における「Society 5.0に向けた大学教育と採用に関する考え方」にも「産学連携による質の高いPBL型教育の普及 」という項目でPBLについての言及があります。

大学入試制度改革や学習指導要領の改定など、教育業界は多くの変化が起きています。その変化の中で注目された手法がPBLなのです。

PBLを学校教育に導入する際の課題

上記の通り、PBL導入を進める学校が増えていますが、いざ実際に導入するとなると多くの課題が発生します。これまで多くの高校、大学でPBLのお手伝いをして見てきた中から、ここでは特に多い代表的な課題についてご紹介します。

それぞれの課題に対して、私なりの解決策を次の段落でもご紹介したいと思います。

扱うテーマが用意できない

まずはこちらです。PBLでは生徒に取り組ませるテーマが必要になるのですが、このテーマにどんなものを設定すればよいのか、先生方で決めることが難しい。どんな決め方をすればよいのかまるで見当もつかない、という先生方が多い印象です。

指導方法がわからない

キャリア教育

これまでの学校教育では学習指導要領が存在し、認可を受けた教科書を各学校現場で使うことで日本全体の教育の質の担保をしてきた経緯があります。

しかしPBLはそもそも問いに答えがありません。これまでの指導方法とは考え方がまるで異なります。

特にビジネスを扱うテーマになった場合は先生自身が民間企業での就業経験がないと何をどう指導すればよいのかさっぱりわからない、という事態になってしまいます。

評価方法がわからない

繰り返しになりますが、PBLは答えがありません。正解不正解がないものをどうやって評価すればよいのか、先生方の苦悩は想像に難くありません。

しかし授業の中で生徒に取り組ませる以上、なんらかの成績評価はつける必要があります。

また、PBLは取り組む過程で多くの学びを得る教育。生徒一人ひとりの途中経過を先生が見ていくのは不可能に近いでしょう。

生徒のやる気に差がある

PBLに限った話ではありませんが、学習への態度は個人差が出てくるものです。ただ、PBLはチームで行動することが基本。チームの中で取り組む姿勢に差が出てくると、次第にチーム活動として機能しなくなってきます。結果、責任感がある子が他の子の分まで頑張ることになり、そのうえ評価に差がつかなかったりすると一生懸命やった生徒の不満が溜まってしまいます。

教員の足並みが揃わない

そしてもっとも頭を悩ませる先生が多い課題がこちらです。学校内で他の先生方に協力を取り付けるのが難しい、というもの。

必要性はわかっていても、新しい教育手法であるPBLに対して協力的でない、もしくは否定的な先生方も一定数いらっしゃいます。ただでさえ忙しいのが教員という仕事。自分の担当クラス、授業、テストの採点に受験指導、そして部活の顧問など、これまでの業務でも目が眩むほど忙しい教員の仕事に、指導方法もわからない「答えのない問」を扱うPBLをさらに追加するのはかなりきつい話だと私でも思います。

意識の高い先生だけが張り切ってPBLをやろうとしても他の先生方に協力してもらえず学校内で足並みが揃わない。先生方の足並みが揃っていない状態で行われても、生徒たちに十分な教育効果を与えることは難しいでしょう。

PBLを学校教育内で実施するポイント

他にもいろいろな課題はありますが、PBLを学校内で行う際に生じる課題についてご紹介しました。ではそれぞれの課題に対してどのように対応すればよいのでしょうか。学校の状況によって変わってきますが、ある程度汎用性のある対応法についてご紹介します。課題の段落と対になっているので、見比べながらご覧ください。

扱うテーマは外部大会を利用する

PBLや課題探求学習を扱うコンテスト形式の大会が民間企業や自治体主催で多数開催されており、大会としてテーマを提示しています。取り扱うテーマを用意するもっとも手っ取り早い方法は、こうした外部大会に出場することでしょう。多くの大会は参加費無料です。また、他校の生徒との他流試合のような側面もあるため、校内だけでは得られない刺激を与える効果もあります。

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指導は、まずは先生方もテーマに取り組んでみることから

次に指導方法について。外部人材として校外から講師を招く方法もありますが、お金がかかりますし、何より校内にノウハウや知見が蓄積されません。やはり指導は先生方が主体となって実施いただいた方がよいかと思います。

そこでお勧めしたいのは、先生方で一度チームを組んでテーマに取り組んでみることです。可能であれば校内の先生方で複数チームを作ってやってみるとよいでしょう。ご自身で実際にやってみると生徒がどんなことにつまづきそうかの見当がつきます。

PBL指導で重要なのは、先生が「やり方を教える」ではなく「一緒に考える」ことだと思います。先生もそれぞれの視点でテーマを捉えてみて、考え方や視点について生徒と議論する。もちろん考え方が違うこともあるでしょう。どちらが正解不正解、ではなくて考え方の多様性を学ぶのです。

PBLの評価にはルーブリック評価が有効

PBLの評価にはルーブリック評価と呼ばれる評価手法が用いられることがよくあります。ルーブリック評価とは評価項目の観点と尺度を表にまとめ、評価をつけていく手法です。PBLをはじめとしたパフォーマンス課題における評価手法として有名です。
まず評価項目を定め、各項目を1点から4点(ABCDなどもあり)の4段階に分けてそれぞれの段階の定義を明文化しておくのです。
文字で説明するよりも実際のサンプルをご覧いただいた方がよいと思います。これはプレゼンテーションにおけるルーブリック評価のサンプルです。

ルーブリック評価

ルーブリックの良いところは評価基準が明文化されているところ。逆に明文化されていないと、評価者の好みだけで評価されてしまうことになり、生徒たちに正当な評価を与えることができません。

また取り組む生徒も、習得すべき技能がわかりやすくなるというメリットもあります。生徒に何を身につけさせたいかを定めた上で、ルーブリック評価を策定しましょう。

生徒のやる気はチーム編成とチームビルディングが肝

PBLはチームで行うのでチーム分けが必要になりますが、これを生徒の自由意志に任せるか、担当教員で行うかは悩ましいところです。自由意志に任せると仲の良いチームはみんなで協力し合いながら楽しく取り組みますが、やる気のない生徒同士が組むことになってしまうと良い効果が生まれません。
そこでぜひ、振り分けを先生の方で行ってみてください。ポイントは、先生の目利きで各チームにリーダーシップを持つ生徒を入れることです。リーダー候補の生徒を軸にして組み合わせでチームを組んでいきましょう。

また、各チーム内で「役割」を持たせることも効果があります。リーダー以外にも「調査係」や「連絡係」「資料作成係」などメインで担当する役割を用意し、本人に自分の役割を自覚させるのです。もちろん、調査や資料作成はチーム全員で取り組むのですが、主幹事としての役割を設定することで責任の所在を明らかにしてチームとして取り組む意識を持たせます。
そしてもう一つお勧めなのがプロジェクトの開始にチームビルディングを取り入れること。ゲーム性があり、生徒が楽しく取り組めるものが良いでしょう。お勧めはマシュマロチャレンジというワークです。マシュマロや乾パスタなどを用意する必要はありますが、単純なルールで参加者が楽しめ、また学びがあるという優れたチームビルディングワークです。ぜひ調べてみてください。

PBLの必要性を管理職が理解すると、教員の足並みは揃いやすい

教員の足並みが揃わない、という問題についてはやはり組織のマネージャーを味方につけることがもっとも効果的でしょう。

特に小中高であれば校長先生や教頭先生が賛同してくれると非常にやりやすくなります。

私も学校のPBL担当教員に依頼されて、校内の他の先生方の前でPBLの重要性や手法について講演をしたことが何度かありますが、私の話を興味深く聞いてくださる先生もいれば、明らかに消極的な先生もいらっしゃいました。

ただ、私の講演の前に校長先生や教頭先生から「PBLを学校として始める意味」を頭出ししてアナウンスしていただく学校様では、聴講いただいた先生からのご質問も多く盛り上がることが多い印象です。やはり先生方もPBLをやる意味を組織のトップから伝達してもらうと取り組む姿勢が変わるようです。

PBLはまだまだ過渡期。みなさんで取り組みましょう

PBLは少しずつ普及し始めているとはいえ、まだまだ過渡期です。これから成功事例などのケーススタディも多数出てくるでしょう。

学校の現場で事情が異なる中で、答えが存在しないPBLに取り組むのは困難がつきものです。しかしこれからの社会を生きる子供たちにとって貴重な学びになることは間違いないでしょう。今回の記事をぜひ参考になさってください。

株式会社Strobolights 代表取締役社長 羽田啓一郎氏
羽田啓一郎
株式会社Strobolights
代表取締役社長

著者紹介
立命館大学卒。株式会社マイナビにて大手企業の新卒採用支援を経て、学生向けキャリア支援プロジェクト「MY FUTURE CAMPUS」「キャリア甲子園」「キャリアインカレ」「課題解決プロジェクト」「キャリア教育ラボ」等を立ち上げ、国内最大規模までグロース。2020年に独立、株式会社Strobolights設立し、小学生から若手社会人までのキャリア支援サービスを展開。早稲田大学、立命館大学、昭和女子大学、武蔵野大学などで就活やキャリア教育の講義も担当。

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