

エッセンシャルワーカーとは?就職活動中の大学生の志望度や働く環境・待遇へのイメージを紐解く
2020年、新型コロナウイルス感染症が全世界的に拡大した。日本においても感染者数の急増により全国各地で医療体制が逼迫し、「不要不急の外出自粛」の要請のもと経済活動や人流の抑制が行われた。そのような中、不要不急ではない「社会の維持のために必要不可欠(=essential)」な仕事に従事する人たちとして注目を集めたのが、「エッセンシャルワーカー」と呼ばれる人たちだ。
医療従事者を中心に、感染リスクと隣り合わせで業務に従事するエッセンシャルワーカーに対してリスペクトの機運が高まるなど、自分たちの生活や社会を支えている職業の重要性、それに従事する人たちの存在に、多くに人たちが改めて気付かされた。
そんなエッセンシャルワーカーとされる職種に対し、Z世代としてこれからの日本の社会を担い、働き手としても大きな役割を果たしていく大学生がどのようなイメージを持っているのかを明らかにするのが、本研究レポートの趣旨である。
コロナ禍を通じて、あるいは就職活動を通じて、エッセンシャルワーカーと呼ばれる職業に対して抱いているイメージの変化や、職業選択の選択肢としてのエッセンシャルワーカーの立ち位置などを探っていく。
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エッセンシャルワーカーとは?
一般に、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大にともない、社会機能の維持に欠かせない(=
essential)職種として登場した言葉だ。いわゆる医療従事者のように、新型コロナウイルス感染拡大対応の最前線において重要な役割を果たす人を指すのみならず、感染症対応に直接的に携わっていなくても、社会・生活インフラを担う仕事も含まれる。
英・教育省が発表したガイダンス(Children of critical workers and vulnerable children who can
access schools or educational settings)では、 “critical worker”という言葉として登場し、医療従事者や教育・育児関連、公共サービス、行政機関、食品の製造や流通、警察・消防や安全保障、交通・物流など、多岐にわたる職業群を含んでいる。
感染症が拡大した当初は、日本国内でも発生現場で対策にあたった医療従事者に対する不当な扱いが報じられるなどしたが、同時に医療従事者に対する感謝を示す機運がSNS等をきっかけに広まりを見せた。本レポートでは、上記の英・教育省ガイダンスや各種報道などを参考に、下記の表の職種群をエッセンシャルワーカーとして取り扱っている。
表記 | 補足・具体例 |
---|---|
医療関連職 | 医師、看護師、薬剤師、医療事務 |
福祉関連職 | 介護士、保育士 |
教育関連職 | 幼稚園教諭、学校教師、学校職員 |
交通関連職 | 公共交通機関の運転士、職員 |
物流関連職 | 運送ドライバー、配達員、倉庫作業 |
小売・販売職 | スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストア等 |
生活インフラ関連職 | 電気・水道・ガス・通信、ごみ収集 |
農林水産業従事者 | |
公務員・公共サービス関連職 | 警察、消防、官公庁・自治体職員、自衛隊 |
施設管理関連職 | ビルメンテナンス、セキュリティ、清掃 |
飲食・フードサービス関連職 | |
製造・整備関連職 | 工場生産、食品生産、機械整備 |
金融関連職 | 窓口業務、保険外交員 |
冠婚葬祭関連職 | ウェディングプランナー、葬祭プランナー等 |
メディア関連職 | 放送技術者、アナウンサー、ディレクター |
宿泊関連職 | ホテルスタッフ |
衛生関連職 | 公衆浴場運営、理美容師 |
建設関連職 | 建設・工事・解体作業 |
IT関連職 | 運用・保守 |
士業 | 弁護士、税理士、司法書士、行政書士、社会保険労務士等 |
エッセンシャルワーカーに対する基本的なイメージ
ここからは、レポートから内容を抜粋して紹介する。
エッセンシャルワーカーだと思う職種
医療、福祉、教育関連のほか、交通や物流、生活インフラ、販売など幅広くイメージしている
エッセンシャルワーカーだと思う職種については「医療関連職(医師、看護師、薬剤師、医療事務)」「福祉関連職(介護士、保育士)」「教育関連職(幼稚園教諭、学校教師、学校職員)」などが上位となった。【図1】

その他、「交通関連職(公共交通機関の運転士・職員)」や「生活インフラ関連職(電気・水道・ガス・通信、ごみ収集)」など社会・生活インフラとしての機能を担う職種や、公共サービスを提供する「公務員・公共サービス関連職(警察、消防、官公庁・自治体職員、自衛隊)」「物流関連職(運送ドライバー、配達員、倉庫作業)」や「小売・販売職(スーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストア等)」のように、生活をするうえで必要な物資の供給に関わる職種などを回答する学生も多かった。
報道などで注目されることの多かった医療従事者や保育士など以外にも、学生はさまざまな職種を幅広くエッセンシャルワーカーとしてとらえ、認知していることがわかる。
エッセンシャルワーカーに対する現在のイメージ
「社会を支えるためになくてはならない仕事に従事し、社会貢献性が高い」の回答が最多。一方で、ネガティブなイメージも
エッセンシャルワーカーに対するイメージとしては「社会を支えるためになくてはならない仕事に従事し、社会貢献性が高い」と回答した学生が多かった(80.7%)。【図2】

「人の役に立つやりがいのある仕事」も44.3%で、いずれも社会の維持や人々を支える仕事という意味ではポジティブなイメージが多く持たれていることがわかる。
一方で、「身体的に負担が多い」「人手不足である」「心理的に負担が多い」「休みがとりづらい」「新型コロナウイルス感染症など、感染へのリスクがある」など、エッセンシャルワーカーが置かれている環境に対するネガティブなイメージを回答する学生も多いことがわかる。
基本的なイメージに対する現状と課題
レポートからエッセンシャルワーカーに対する認知度・イメージの現状と課題をまとめている。詳細はレポートを確認してほしい。
- 「エッセンシャルワーカー」という言葉を知っているか
言葉としての認知度は55.0%で、半数以上の学生が認知している。 - エッセンシャルワーカーだと思う職種はどのようなものか
コロナ禍における報道などでも注目された「医療関連職」「福祉関連職」「教育関連職」だけでなく、生活インフラや流通・小売など幅広く認知されている。 - エッセンシャルワーカーに対するイメージ
「社会に欠かせない、社会貢献性が高い」というイメージの一方で、業務負担や就労環境へのネガティブなイメージを持たれている。【課題】 - エッセンシャルワーカーの近況についてどのように認知しているか
医療従事者の感染拡大に伴う医療現場での人手不足や、人手不足による離職増加といったニュースの認知度が高く、3.イメージにつながっている可能性がある。また保育士・介護士の賃上げについては認知度が低い。 【課題】
エッセンシャルワーカーへのイメージの変化(コロナ禍前後)
エッセンシャルワーカーへのイメージの変化
コロナ禍という事態に関係なく、エッセンシャルワーカーへのイメージは良い
コロナ禍をきっかけにエッセンシャルワーカーに対するイメージがどのように変わったかについて、「もともとイメージは良く、コロナ禍以降さらにイメージが良くなった」「もともとイメージは良く、コロナ禍以降もイメージは変わらない」の回答が多く、両者の割合はほぼ同じであった。【図3】

コロナ禍という事態に関係なく、基本的にエッセンシャルワーカーに対しては好意的なイメージが持たれており、コロナ禍を契機にさらにイメージが良くなったという学生が多いようだ。
イメージがよくなった理由は?
「社会を支えるためになくてはならない、社会貢献性の高い仕事だと思った」が最多
コロナ禍をきっかけに、エッセンシャルワーカーと言われる職種に対するイメージが「良くなった」理由としては「社会を支えるためになくてはならない、社会貢献性の高い仕事だと思ったから」(88.9%)が最多だった。【図4】

コロナ禍という事態に際し、社会機能の維持に欠かせない職種であるエッセンシャルワーカーの重要性を改めて認識していることがわかる。
イメージが悪くなった理由は?
「身体的・心理的負担が多そう」「休みがとりづらそう」などの声
逆に、コロナ禍をきっかけにイメージが悪くなった理由としては「身体的に負担が多い仕事だと思ったから」(67.2%)、「心理的に負担の多い仕事だと思ったから」(65.5%)、「休みがとりづらく大変そうだと思ったから」(61.8%)などの回答が多かった。【図5】
イメージの変化(コロナ禍前後)における現状と課題
レポートからエッセンシャルワーカーに対するイメージの変化に対する現状と課題をまとめている。詳細はレポートを確認してほしい。
- コロナ禍前後で、どのようなイメージ変化があったか
「コロナ禍前からイメージが良く、コロナ禍以降さらにイメージが良くなった」という学生が多数。「元々良いイメージで、それはコロナ禍以降も変わらない」も多く、基本的に良い印象を持たれている。 - イメージが良くなったと感じた理由はどのようなものか
社会貢献性の高さを感じてイメージが良くなったという学生が多数。 - イメージが悪くなったと感じた理由はどのようなものがあるか
イメージが悪くなった学生は約1割ほどだが、就労環境や労働条件に関する不安・ネガティブなイメージを理由にイメージが悪くなったという声も。【課題】
エッセンシャルワーカーへのイメージの変化(就職活動前後)
就職活動でエッセンシャルワーカーを志望するか
イメージは良いものの、就職活動における志望度は低い
多くの学生がエッセンシャルワーカーに対して好意的なイメージを持っている一方で、就職活動でのエッセンシャルワーカーの志望状況については66.6%が「志望していない」と回答し、「志望している」は8.8%、「志望を検討している(興味はある)」は24.5%となった。【図6】
志望しない理由は?
身体的・心理的負担や、休みの取りづらさへの懸念・不安が多い
就職活動で志望しない理由としては、「身体的に負担が多い仕事だと思ったから」「休みがとりづらく大変そうだと思ったから」「心理的に負担が多い仕事だと思ったから」「給料など待遇が良くないと思ったから」が多く、前述したような就労環境へのネガティブなイメージとともに、その環境に見合った待遇が得られていないということを理由に、多くの学生が志望をしなかったことがわかる。【図7】
エッセンシャルワーカーの待遇について
「待遇が良くなれば志望度が上がる」という学生が約6割。待遇面で改善されれば志望度が上がるポイントは「労働時間やワークライフバランス」「給与条件や雇用形態」。
学生が抱くエッセンシャルワーカーの待遇についてのイメージは「良くないと思う」の回答が55.8%で最も多かったが、一方で今よりも待遇が向上した場合に就職先として志望度が上がるかについては「志望度が上がる」という回答が59.7%にのぼった。【図8】
待遇について、改善されれば志望度が上がるポイントは「労働時間やワークライフバランス」が最も多く41.3%、次いで多かったのが「給与条件や雇用形態」で38.8%となった。【図9】
学生がエッセンシャルワーカーを就職先の選択肢として検討するようになるためには、エッセンシャルワーカーの就労環境に関するネガティブなイメージと、待遇に関する不安が解消されることが重要であることがわかる。
イメージの変化(就職活動前後)における現状と課題
レポートからエッセンシャルワーカーに対するイメージの変化に対する現状と課題をまとめている。詳細はレポートを確認してほしい。
- 就職活動を機に、どのようなイメージ変化があったか
もともとイメージは良く、就職活動を経てもそのイメージは変わらないという学生が多数。 - 就職先としてエッセンシャルワーカーを志望しているか
志望する学生は1割未満で、6割以上の学生は志望していない。志望する学生が少ないことから、就職活動においてエッセンシャルワーカーに関する情報にふれる機会も少なく、1.のようにイメージ変化が乏しくなった可能性がある 【課題】 - 志望する理由や志望する職種はどのようなものか
志望するようになったり志望を検討するようになったのは「コロナ禍前から」が多く、「医療関連職」「福祉関連職」「小売・販売職」を志望する割合が多い。志望理由も「社会貢献性」をあげる割合が多い。 - 志望しない理由はどのようなものか
就労環境へのネガティブなイメージや、その就労環境に見合った待遇が得られないという理由が多い。こうしたイメージの影響で、多くの学生がエッセンシャルワーカーを志望することを敬遠している可能性がある。 【課題】 - エッセンシャルワーカーの待遇へのイメージと志望度について
待遇は「良くない」と思う学生が多く、待遇が良くなれば「志望度が上がる」と思う学生は6割近くに。就労環境や待遇に関する改善を望む声が多数。待遇改善により、エッセンシャルワーカーを志望する学生の数を底上げできる可能性がある。【課題】
エッセンシャルワーカーの未来に関するイメージ
エッセンシャルワーカーの将来のニーズ
将来にわたってニーズがさらに増えていく仕事としてイメージされている
エッセンシャルワーカーに対して、多くの学生が社会貢献度の高さなど好意的なイメージや、その反面で就労環境・待遇面への不安などネガティブなイメージを持っていることがわかったが、その社会的ニーズや働き方が将来どのように変わっていくか、ということについてはどのように考えているのだろう。
エッセンシャルワーカーとされる職種に対するニーズが今後どのように変化すると考えるかについては、「今後もより必要とされ続ける」という回答が69.5%となり、7割近くの学生はエッセンシャルワーカーへのニーズが今後さらに高くなると考えている。【図10】

「今後はだんだんと必要とされなくなる」という回答は6.9%にとどまり、学生にとてはエッセンシャルワーカー全体として今後も必要とされ続ける職種であるというイメージが強いようだ。
※PDF内では、職種別の将来的なニーズについてのイメージもまとめています
AIや自動化技術との関係
AIやロボットなどの自動化技術により、業務負担や人手不足、長時間労働といった問題が解決されるとイメージが多数
エッセンシャルワーカーの働き方と将来のテクノロジーの進展との関係についても聞いてみた。AIやロボット等の自動化技術の進展と、エッセンシャルワーカーの関係についてのイメージを聞くと、62.2%の学生が「AIが業務の一部を代替することで、業務負担や人手不足、長時間労働などの問題が軽減される」とイメージしており、テクノロジーの進展がエッセンシャルワーカー全体に対して良い影響を与えると多くの学生が考えているようである。【図11】

医療や福祉、教育などさまざまな職種の現場で一部行われているが、エッセンシャルワーカーの職場におけるICT化・IT化の推進といった取り組みがさらに進めば、将来的にその働き方を変え、学生が不安視する身体的負担といった問題を解決していく可能性もある。
エッセンシャルワーカーになりたい人を増やすには
内閣府「成長戦略フォローアップ」(令和2年7月)でも、労働市場のインフラ整備に関して「社会を支えるエッセンシャルワーカー等が安心して働くことができる就労環境の整備について検討」としているが、人口減少も続くなか、社会機能の維持に欠かせないエッセンシャルワーカーとして働く人を増やすことは日本社会の課題の1つと言える。
そのためには、冒頭で述べたようにこれからの日本社会の担い手となる大学生がエッセンシャルワーカーに興味・関心を持ち、就職先の候補として意識するようになることが重要である。だが概観してきたように、学生はエッセンシャルワーカーに対して基本的に好意的なイメージを持っているにも関わらず、エッセンシャルワーカーを志望する学生は少ない。
エッセンシャルワーカーへの好意的なイメージがあっても、ひとたび自分自身が働くことを想定する段になると、就労環境や待遇へのネガティブなイメージによって志望候補からは外れてしまっている可能性がある。
しかし、待遇が改善されれば志望度が上がるという学生も多く、こうした学生の不安を解消することは、エッセンシャルワーカーが学生の職業選択の候補として浮上してくる確率を高めることにつながるのではないだろうか。
イメージ調査から浮かび上がった課題
就労環境や待遇面に関する学生のイメージと、その実態とを整理した対策が必要
エッセンシャルワーカーを志望しない理由として、身体的・精神的負担や、待遇、長時間労働への不安といったネガティブなイメージが多い。だが、厚生労働省「毎月勤労統計調査」の月間給与額や総実労働時間などを見ると、本レポートにおけるエッセンシャルワーカーに近い区分に関して、一概に給与が低かったり、長時間労働であったりというものでもなく、区分により差がある。
そのため、待遇や就労環境に関する実態・取り組みと学生の抱くイメージを分けて、必要な対策を整理することが今後重要となる。
【1】イメージと実態が乖離している
改善策が実施されているが、イメージが良くない
待遇に関する実態や改善に向けた取り組み等を積極的に周知していく必要がある。具体的には、採用広報に対して政府や自治体・事業者団体が支援を行うなどといったことが重要だと考えられる。
→考えられる対策:採用活動への支援、職種イメージの改善、志望者への支援
【2】イメージと実態が合致している
イメージ・実態ともに良くない
政府による事業者支援・従業員支援、また政府・事業者による待遇改善(賃金・就労環境の改善)策の実施が必要となる。
→考えられる対策:就労環境整備への支援
※PDF内で、採用活動への支援、職種イメージの改善、志望者への支援、就労環境整備への支援について、行政を中心に各業界・業種で行っている取り組みをまとめています。
今後さらに必要とされる対策
「社会貢献性」の先にある、働く環境としての安心を作り、発信していくことが重要
社会機能の維持に欠かせないエッセンシャルワーカーという仕事を担う人材を確保するには、社会貢献性といったやりがいだけでなく、将来の労働力を担う学生が就職に際して抱く不安を解消して、安心して働ける待遇と就労環境を整備しなくてはならない。
待遇や環境を整備しそれを発信することは、たとえ卒業後にエッセンシャルワーカー以外の道に進んだとしても、学生が転職などで次のキャリアを模索する際にエッセンシャルワーカーがその選択肢として登場することにもつながる。
人口減少や高齢化といった問題を抱える日本にとって、エッセンシャルワーカーの待遇・就労環境の改善とその情報発信は、今後さらに重要になってくると考える。
キャリアリサーチLab研究員 長谷川洋介