健康経営を実現するカギは「社員の自律」。働きがいを育む職場環境とは(株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン)
経済産業省によると「健康経営」とは、「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されている。健康への投資を行うことで、組織を活性化し、結果的に業績向上へとつなげられるとの期待が寄せられているのだ。
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)は以前より「健康経営を重視した職場作り」を目指してきた。インターネットを通じてゴルフの魅力を世の中に発信してきたGDOは、ゴルフに関するさまざまなビジネスを展開し、成長拡大を続けている。
同社はこれまでに「ホワイト企業アワード」を3回受賞。「プラチナ企業TOP100」に選出された実績も持つ。「仕事の中にあそびを取り入れ、誰もがいきいきと働ける健康経営」の実現に向け、どのような具体策を形にしてきたのか──サステナビリティ推進室室長 吉田さん、人事企画室 海保さんに話を聞いた。
株式会社ゴルフダイジェスト・オンライン
設立:2000年
事業内容:ゴルフ場予約事業、ゴルフ用品販売事業、広告・メディア事業、レッスン事業、練習場ビジネス、ゴルフ場運営
人事企画室 海保 希 さん(画像左)
体育系大学でバレーボールをしていた影響で「生涯スポーツ」に関心があり、GDOに新卒入社。ゴルフ場やゴルフ練習場に対する営業活動を経験し、2024年1月より人事に異動。社員のキャリア開発、組織開発を主に担当している。
サステナビリティ推進室 室長 吉田 照 さん(画像右)
エンタメ系企業で法務を担当した後、GDOに入社。前職までの経験を活かし、IRやリスクマネジメントに従事する。2024年からは新たに設立されたサステナビリティ推進室を兼務。
目次
人生と仕事に「あそび」を取り入れる
あそびのある豊かな人生を送ろう
ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)では、働き方に関するユニークな取り組みを多くされていますね。まずは、その背景にある想いについて教えてください。
吉田:GDOでは「PLAY YOUR LIFE」というブランドスローガンを創立20周年時に掲げました。GDOは「多様性を認め合い、人生を楽しむことができる寛容な社会」を目指していきたい、その実現のためには、世の中が「あそび」に寛容である必要があると考えました。
ゴルフにまつわるさまざまなサービスを展開していますが、ゴルフ自体がいわゆる娯楽であり、“あそび”の一つ。ですから、多くの方に「あそびのある人生」を楽しんでいただき、そのお手伝いをしていきたいとのメッセージが込められています。
もちろん、このメッセージは社員1人ひとりに対しても同様です。さまざまな取り組みの背景には私たち自身が「あそびのある人生を体現しよう」という想いがあります。
たとえば、GDOが掲げるValueに「Work Fast」というものがありますが、この言葉も元々はゴルフのマナー用語から発想したものなんです。ゴルフ場ではなるべく速やかにプレーし、後のプレーヤーを待たせないようにする「Play Fast」というマナーがあります。これを仕事の場面に派生させ、「スピード感を持って働こう」と呼びかけています。
そして、効率よく働いてできた時間を自分の人生を豊かにするために使い、そこで個人が味わった経験・体験を仕事に活かし、さらに良いパフォーマンスを発揮していけるような好循環を生み出して行こうという狙いがあります。
イノベーションの創出が期待できる「あそび」
「仕事」と「あそび」は、対局にある言葉というイメージがあります。対局にある2つの価値観を混ぜ合わせた結果、組織に何か影響はありましたか?
吉田:成果として形になっているかは、まだ分かりません。しかしゴルフ自体が「あそび」の一種ですから、「ゴルフを軸に、新しいサービスを開発しよう」と机に向かって唸っていても何も思いつかないことが多いのではないでしょうか。
それよりも他のスポーツを楽しみながら考えたり、自然に触れたりしながら仕事をするぐらいの余裕がある方が、自由な発想が浮かびやすいと感じています。実際に「あのアイデアとゴルフと掛け合わせたら、ビジネスになるかも」などと楽しく考えているうちに、具体的な事業化に結びつくヒントになることも多いと思います。
2つの部署が協働で進めてきた「健康経営」
「ウェルビーイング」に直結する「心身の健康」を見直す
吉田さんはサスティナビリティ推進、海保さんは人事企画に所属されていらっしゃいます。それぞれ部署が異なりますが、どのように連携されているのですか?
吉田:サステナビリティ推進室は、対応できる範囲が非常に広いんです。そのため「サステナビリティ実現のために、GDOとして何に注力するか」は変化していく可能性もあります。
ただ、私たちはスポーツに携わる企業でもありますので「ウェルビーイング」の中でも「健康」に関する取り組みについては、特に深めていきたいと思っています。ゴルフを通じて、多くの人の「心身の健康」を支援できるのではないかと考えているからです。
海保:そうですね。「多くの人」の中には、もちろん「従業員」も含まれています。そういう意味では、サステナビリティ推進室と人事企画が連携し、社内体制を見直す機会も増えてきました。「健康経営」についても、協働を進めています。
ゴルフを通じて、まずは身体を健康に
「健康経営」を実現するために、具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか?
吉田:オフィス内を見ていただくと分かりますが、フロアの中央に室内用のゴルフ試打ブースがあり、そこでいつでもシミュレーションゴルフをすることができます。会議の後の気分転換に身体を動かし、リフレッシュに利用してもらえるようにしているんです。
またゴルフ未経験で入社される方もいるので、気軽にゴルフクラブを手に取って、体験してもらう狙いもあります。そんな新入社員を見て、先輩社員が声をかけて交流が生まれることもあるんですよ。そういうスペースを作ることで、身体も心も健康になるきっかけが生まれているような気がしています。さらに部署対抗で競い合うゴルフコンペも毎年1回開催し、盛り上がっていますね。
海保:そうですね。社員170名ほどが参加しています。本社だけでなく各拠点メンバーも参加し、エリアに関係なく開催されていますね。
有給とは別に、ゴルファー目線を養うための「ゴルフ休暇」もあります。年間4日の取得が可能で、身体を動かしてリフレッシュしながら、仕事に役立つヒントが得られるようにサポートしています。
吉田:その他に、茅ヶ崎にあるゴルフ場で「健康」につながるゴルフイベントを開催しています。GDOが委託を受けて運営しているゴルフ場なのですが、全国でも珍しいドレスコードフリーのゴルフ場で、カジュアルにゴルフが楽しめる環境を活かし、ゴルフ場を開放して地域に開かれたスポーツイベントも行っています。
GDOはインターネットを通じたビジネスも手がけていますから、社内でパソコンに向かう業務も多いんです。一方でゴルフの専業でもありますから、自然と親しむ時間も作ることができます。この「両方を扱う強み」を活かして、健康にも一役買える取り組みができると思っています。
身体を動かすと同時に、社員同士が接する機会を作る
こうした「身体の健康を促進する取り組み」について、社員の方々からはどのような反応がありましたか?
海保:イベントが好きでノリが良い社員が多いからか、実際に「やってみよう!」と前向きに参加してくれています。先日も、茅ヶ崎のゴルフ場を使って社員の家族を招待し、みんなで集まって1日を過ごすイベントを開催しました。コロナ禍を過ぎてようやく大々的に実現でき、とても好評でしたね。
最近ではリモートワークも増え、社員同士のコミュニケーションが希薄になっているのではないかという懸念もありました。そうした心配を吹き飛ばすほど、リアルな接点を持つ良さを体感できた社員が多かったようです。
「普段はあまり関わらない部署の人と、家族を交えて話せた」と話していた社員もいて、心の距離もグッと近づいたようでした。
キャリアについて考え、心の状態を整える
「キャリア自律」の支援策を通じて、自分自身と向き合う
御社は、過去にホワイト企業アワードを3度受賞された経験もあり、社会的な注目を集めてきました。現在は、どのような取り組みに力を入れているのでしょうか?
海保:社員1人ひとりの「キャリア自律」を支援する取り組みに力を入れています。以前から社内では「自律」というキーワードが出ていました。しかし2年前に人事制度を大きく変えたことがきっかけで「自律して働く」だけでなく「社員一人ひとりが自らの人生を切り拓いてほしい」と考えるようになり、“キャリア自律”というキーワードへ進化していったんです。今ではGDOで働いている期間だけではなく、その後の「人生」も含めたキャリア教育を目指し、制度化して運用しようとしているところです。
具体的な施策としては、外部講師を呼んだキャリア研修を実施し、「そもそもキャリアとは何か?」という基本から立ち返って、自分自身の人生を一度考える機会を設けました。その内容をふまえて、外部のキャリアコンサルタントとの1on1面談を行い、キャリアの棚卸しをしました。じっくりと自分を見つめ直す時間を作った上で、次は「キャリアデザインシート」を作成。キャリアの希望を見える化し、会社に伝えてもらうようにしました。
「今後はマネジメントに挑戦したい」「スペシャリストを目指したい」などの希望が把握できるため、社員が自主的にやってみたいと思うことを支援する環境を整えることもできます。キャリアを切り拓くことにも伴走しやすくなり、人事にとってもメリットが大きいと感じるようになりました。
面談を通じて言語化することで、次の成長を後押しする
実際に「社員のキャリア自律」を後押ししてみて、成果につながったと感じたことなどはありましたか?
海保:以前は新卒社員から「将来、何をしたいのか分からない」と相談を受けることが多かったのですが、少しずつ「これがしたい」とはっきり希望を言語化できる社員が増えてきたと感じています。利害関係のない第三者であるキャリアコンサルタントと面談することで「潜在的なニーズを引き出してもらい、やりたいことが見えるようになってきた」と語っていた社員もいました。
もちろん、これまでにも上司部下で1on1面談は行っていました。ただ「お世話になっている上司に、別の仕事がしたいとは言いにくい」と悩む部下も、少なくなかったんです。第三者にじっくり聞いてもらって初めて、キャリアを前向きに考えられるようになった方も増えてきたのではないでしょうか。
中堅、ベテラン社員も「キャリアについて振り返る機会ができて、本当に良かった」と高い評価をいただけて、これから先の成果にどうつながってくるのかも楽しみです。
働き方の変化によって新たな価値が見えてきた
出社からフルリモート。さらにハイブリッド勤務へ
社員の働きやすさについてはいかがでしょうか。コロナ禍を経て、大きな変化などはありましたか?
吉田:コロナ前からリモートワーク制度は存在していたのですが、実はそれほど積極的には利用されていませんでした。ところがコロナ禍になり、フルリモート対応となってからは働き方が大きく変わりました。
今では、フルフレックス勤務が導入され、出社をするかどうかもチームや個人の自主性に任されています。ゴルフ用語で「アーリーバード」と言いますが、早朝から仕事を開始して昼前に終了するという勤務も可能です。
こうした状況下では、自分をマネジメントして成果を出すことが求められるようになります。これからはより一層、社員のキャリア自律も加速していくでしょうし、以前よりも「自分はどうしたいのか」が問われるようになっていくはずです。
働き方の変化によって見出された「新たな価値」
働き方の変化や組織体制の変化に対して、社員の方々から戸惑いの声などはありましたか?
海保:働き方に関しては、リモートワークを徹底する期間ができた結果、スムーズに移行できたのではないかと思っています。全員が「リモートワークを実現するにあたって、自律して働くことが大切なんだ」と自覚できたでしょうし、特に大きな戸惑いなどはありませんでした。
現在は出社もできるハイブリッドな働き方になっていますが、チームや組織としてパフォーマンスを最大化するにはどうすべきかを考えてもらい、自主性に任せる運用をしています。
吉田:最近特に印象的だと感じたのは「リアルの価値を見直そう」という動きが、活発になってきたことですね。以前は「リアルでコミュニケーションを取るのは当たり前」でしたから、そこまでみんなで集まって活動することを重視していなかったと思うんです。
いつでもリモートで仕事ができるようになったからこそ、「このテーマについて議論をするなら、直接集まった方が生産性が高くなる」と判断できるようになりましたね。
海保:確かに、そうした優先度のつけ方ができるようになった結果、以前よりも高いパフォーマンスが発揮できているかもしれません。さらに帰属意識が薄れないように、インナーコミュニケーション施策の必要性も感じているところです。社内のコミュニケーション施策を企画し、業務とは別の軸でやり取りができる関係性を築きたいと考えています。
先ほど紹介したスポーツイベントはもちろん、3ヶ月に1度は社内のフリースペースに「GDOバー」を開店。お酒や軽食を楽しみながら、役員や社長とも自由に話し合える場作りをしています。
健康経営を実現し、多くの人へ想いを届けたい
多くの人の健康が、社会の成長にもつながる
今後の目標についても、お聞かせください。
吉田:ゴルフを起点に「健康」を考える取り組みは、ぜひこれからも続けていきたいです。ゴルフは1回のラウンドで、1万歩以上歩くことも珍しくありません。歩くことが健康に良いというのは、周知の事実ですよね。
加えて、一緒にラウンドする仲間と会話をしたり、自然の中で四季折々の移り変わりを感じたりしながらプレーするので、心の健康も整っていきます。そして年齢を重ねても続けられる「生涯スポーツ」でもありますよね。社員の心身の健康が仕事での良いパフォーマンスを生み、多くの人にも同じ効果があると証明できるよう頑張っていきたいです。
海保:GDOが良いサービスを提供するには、まず働いている社員が「GDOで仕事ができて良かった」と思える環境を作る必要があると思っています。そのための具体策を実行していくのが、人事である私のミッションです。 まだスタート地点から走り始めたばかりですが、社員のためになる施策をさらに導入し、組織変革を続けていこうと思います。
「心と身体の健康」を目指すために
御社が目指している「健康経営とキャリア自律」。この2つは、これからどのように重なり合っていくのでしょうか?
吉田:私の中では、もうすでに重なっていますね。心の健康について考えるとなると、自分の働き方、生き方を見つめ直す必要があります。キャリア施策は、自分自身の心と向き合うために一役買っているのではないでしょうか。また、健康維持にはセルフマネジメントが欠かせません。自分を律して仕事に取り組む姿勢も、自然に身につくはずです。
心と身体の健康によって個人の人生が豊かになれば、組織自体も健やかに成長するでしょう。健康経営によって、社員やお客様、そして組織が“三方よし”になると期待しています。
海保:私も吉田さんの意見に同感です。キャリア自律は、心の健康と密接に結びついていると考えています。
人事の行っている施策は、自分のキャリアについて振り返るだけではなく、社員同士の横のつながりも意識して設計しています。コミュニケーションが深まれば、働きがいや働きやすさもより良くなっていくでしょう。やはり「健康経営とキャリア自律」は、これからも連携して考えていきたいテーマですね。
編集後記
GDOは「健康経営」が注目される以前から健康への意識が高く、「より良い環境を整え、生産性を向上し、成果を出すにはどうすべきか」を“自分ごと”として捉える社員が多かったのではないかと感じました。
「ゴルフ」というスポーツには、審判がいません。公式試合にはプレーヤーが戸惑ったり、不公平になったりしないように「競技委員」がいますが、何を考え、どう動くかはすべてプレーヤーの判断に委ねられています。そうした「自律的なスポーツ」に親しみを覚える社員が多いからこそ、組織内の変化にも柔軟に対応できるのでしょう。
最近では社員のロイヤリティを高めるために、トップの経営方針などを社内向けに動画配信するなど、会社として大切にしている価値観の共有も進めています。どのような働き方を選んでも、「その人らしい働きがい」が実感できる環境の素晴らしさが印象に残りました。
執筆:林 美夢