早期離職を防ぐオンボーディングとは?従来の研修との違いやメリットについて解説
目次
オンボーディングとは
「オンボーディング(on-boarding)」とは、新入社員にいち早く仕事に慣れてもらうための施策のことだ。「船や飛行機に乗る」ことを意味する「on-board」という言葉から派生したもので、新入社員の早期離職を防ぎ、定着率を上げることが目的だ。
なぜオンボーディングが必要なのか
コストをかけて採用し教育を行ったにも関わらず、新入社員が早期離職してしまうケースが増えている。今後、労働人口の減少が見込まれる中 、人材の確保がより難しくなると考えられており、社員の離職を防ぐことは企業の課題の一つだ。「オンボーディング」をうまく活用できれば社員の離職を防ぎ、定着率を上げることができる。
マイナビの「正社員のワークライフ・インテグレーション※調査2024年版(2023年実績)」 によると、「早期離職の経験」が「ある」と回答した数は全体の9.1%。【図1】
早期離職の理由としては「職場の雰囲気が良くなかった/自分に合わなかった」がもっとも高く44.4%となっている。【図2】
新入社員の早期離職を防ぐためには、会社の雰囲気になじめるようにするための工夫が必要だということがわかる。「オンボーディング」は実務的な教育だけではなく、社員の人となりやチームの雰囲気を共有するという定性的な取り組みも含まれる。次項で詳しく説明していく。
OJTとの違い
「オンボーディング」は新入社員に対する教育施策という点で「OJT」 と混同されがちだ。
OJTとは
「OJT」とは「On The Job Training」の略であり、実務を通した実施訓練のことを指す。「OJT」は業務に関する指導を行い、新入社員を即戦力として働けるようにすることを目的としているのに対し「オンボーディング」は新入社員を組織になじませることを目的としている。
そのため、「OJT」は仕事に必要なスキルや知識の指導のみ行うが「オンボーディング」は実務訓練だけではなく、企業文化や暗黙のルールの共有なども行う。チームでランチをしたり、コミュニケーションをとったりと新入社員が社内の雰囲気をつかみ溶け込めるようにする。
オンボーディングの3つの機能
Howard J. KleinとAden E. Heuserはオンボーディングを3つに分類した。 (※1) 3つの分類をもとにそれぞれ詳しく説明していく。
Inform行動
Inform行動はさらに3つに分けられる。
コミュニケーション
上司や先輩との面談。書面やパンフレットによる情報伝達。
リソース
社内イントラネットや新入社員用のホットラインの使い方の説明。社内メンバーの情報の提供。
トレーニングプログラム
オリエンテーショントレーニングや役職研修、仕事に関するOJTの実施など。
Welcome行動
ランチ会や歓迎会といった、新入社員を歓迎する行動のこと。Inform行動は情報の伝達が中心だが、Welcome行動は新入社員と既存社員のコミュニケーションの促進など感情面のサポートが中心になっている。
Guide行動
新入社員をサポートするメンターやバディといったなんでも相談できる身近なガイドを割り当てること。社内の暗黙的なルールなどの共有がしやすい。
オンボーディングを実施するメリット
社員のパフォーマンス発揮が早まる
中途社員などが知識やスキルがあるにも関わらず、社内になじめないことによってパフォーマンスが発揮できないことがある。社内の誰がどのような情報を持っているのか、この期間は誰が忙しいかなど、社員の情報や社員との距離感がわからないと、その分業務が滞ってしまうだろう。
中小企業におけるオンボーディングの研究では「上司との定期的な面談」と「職場内コミュニケーションの活性化の推進」はパフォーマンスの向上に効果があるという結果が報告されている。(※2)新入社員と既存社員のコミュニケーションの活性化は中途社員がいち早く社内になじむための手助けになり、パフォーマンス発揮が早まるのだ。
早期離職防止や定着率の向上
冒頭であげたが早期離職の原因の一番は「職場の雰囲気が良くなかった/自分に合わなかった」ことである。特に中途の新入社員は新卒の社員よりも「よそもの」意識が強い傾向にある。加えて既存社員の中途採用者に対する「お手並み拝見」的な意識がぶつかることで両者の間に壁ができ、中途の新入社員は孤独を感じやすくなる。
「オンボーディング」をうまく活用し、新入社員が「よそもの」ではなく「自分はこの組織の一員だ」ということを自覚することで会社への愛着がわき、モチベーションが上がる。エンゲージメントの向上は早期離職を防ぎ、定着化につながるのだ。
コストの削減
社員を採用する際や教育する際にも人件費などのコストはかかる。「オンボーディング」を活用し、離職率を下げ定着率を上げることで、新しく人を採用・教育するコストが削減できる。
まとめ
「オンボーディング」は従来の研修と違い、感情面のサポートなど定性的な部分も多く含まれる。そのため結果がわかりにくく、成果が出るまで時間がかかる。しかし早期離職の理由の中で「職場の雰囲気が良くなかった/自分に合わなかった」という回答が一番多くなっていることから「職場の雰囲気」という定性的な部分が離職率や定着率に大きな影響を与えていることは明白だ。
「職場の雰囲気」は企業によって異なるため「オンボーディング」の内容も企業によって異なってくる。たとえば、相談窓口を複数つくり新入社員が相談先を自由に選択できるような施策もあれば、メンター制度の導入や新入社員向けのコミュニティチャンネルを作成する施策など、企業によってさまざまだ。
数値で測れないものを社員とすり合わせるためには、企業文化や暗黙のルールなどをなるべく言語化し、共有できるようにすることが必要だ。マイナビキャリアリサーチLabではオンボーディングを実践する際の具体的な方法とポイントを解説したコラムもある。併せてご覧いただきたい。
<参考資料>
※1:Howard J. Klein and Aden E. Heuser. “The learning of socialization content: A framework for researching orientating practices”. 2008.
※2: 尾形真実哉. 中小企業における中途採用者のオンボーディング施策の現状と効果的な施策. 2022, p35-37