働き手と企業の調査結果からみる「アルバイトの服装や身だしなみの自由化」の現状と今後の展望
目次
はじめに
少子高齢化による労働人口の減少に伴い、多様な人材への就業機会の拡大や、多様な価値観や個性を尊重して個人の能力を十分に発揮できる環境づくりなどが重要となっている中で、服装や身だしなみ規定の撤廃や改定を行い、自由化を進める企業もあるという。
前回「企業の採用人材が多様化する中で、アルバイトの服装の自由を認めることに対する賛否と影響を探る」というコラムで、働く人の服装や身だしなみの自由を認めることは企業にとっても、働く人にとってもポジティブな影響を与える要因の1つになり得ることをみてきた。
そこで今回は、働き手と企業の調査結果から「アルバイトの服装や身だしなみの自由化」の現状と今後の展望をみていきたい。
【個人】職場での服装・身だしなみの規定有無と自由化に対する賛否
2023年5-6月にアルバイトとして新しく働き始めた人で、現在の職場で服装や身だしなみに決まりが設けられている割合は61.9%となった。【図1】
一方で、職場の服装や身だしなみの自由化に対する賛否を聞いたところ、「どちらかというと賛成」が50.5%ともっとも高く、次いで「賛成」が33.7%となり、賛成派が8割を超えた。「賛成」を年代別でみると、[10代]が54.5%ともっとも高く、次いで[20代]が43.6%、[30代]が36.3%%となり、若年層を中心に賛成派が多いことがわかった。【図2】
【個人】職場での服装・身だしなみの規定内容と自由が認められるべきだと思う内容
服装や身だしなみの規定内容としては、「服装」が58.7%ともっとも高く、次いで「髪色」が38.7%、「アクセサリー」が35.5%となった。性別で男女差が大きい項目をみると、女性では男性より「服装」が+12.3ptともっとも大きく上回り、次いで「服装の色」が+8.2pt、「メイク」が+8.0ptとなったが、男性では女性より「髪型」が+17.7ptともっとも大きく上回り、次いで「ひげ」が+13.8ptとなり、男女で規定がある項目が異なった。また、男女ともに「服装」がもっとも高くなった中で、特に女性で服装に関する規定が多く存在する様子もうかがえた。
一方で、自由が認められるべきだと思う内容を聞いたところ、「服装」が54.7%ともっとも高く、次いで「髪型」が54.1%、「服装の色」「髪色」が53.4%と、これらの項目は5割を超えており、規定が設けられている割合がもっとも高かった「服装」に関しては、自由を認められるべきと考えている割合も高くなった。
服装については、制服による規定がある場合も多いが、名札や着こなし・アイテムの自由選択制(装飾品等によるアレンジ可)にするといった工夫を行うことで制服であったとしても働き手の自由を尊重する職場づくりに繋げることはできるのではないかと考える。
性別では、女性の方が男性より自由を認められるべきだと思う項目が多く、中でも「髪色」が60.6%ともっとも高く、次いで「髪型」が60.1%、「メイク」が58.8%、「服装の色」が55.2%、「服装」が54.7%となり、これらの項目は5割を超えた。
服装や身だしなみの規定について男女差がみられたが、今後「男性はズボン、女性はスカート」「女性はメイクをする」等というように、男女の違いによって生まれる社会的なイメージや役割分担を無意識の偏見として持つことなく、服装や身だしなみの規定について平等化・自由化を行うことは、ジェンダーによる不平等をなくしていく上でも重要だと考えられる。【図3】
【個人】職場での服装・身だしなみ自由化に対する賛成・反対の理由
服装や身だしなみの自由化に賛成の理由では、「自分らしく働けるため」が58.0%ともっとも高く、次いで「前向きな気持ちで仕事ができるため」が37.2%となった。
年代別では、全年代で「自分らしく働けるため」がもっとも高くなったが、特に10代・20代で高く6割を超えた。Z世代は、性差意識の少ない学校教育を受けていることやSNSなどでさまざまな価値観を持つ人と関わる機会が増えたこと等により多様性を重視する傾向にあり、服装や身だしなみについても「自分らしさ」や「個性」を尊重して自由化を認めるべきだと考える人が多い。
一方で、服装や身だしなみの自由化に反対の理由では、「職場ではきちんとした服装をするべきだと思うため」が43.5%ともっとも高くなった。【図4】
働き手の服装や身だしなみの自由を認めることは、働き手が個性を活かして生き生きと働ける環境づくりに繋がるとみられる一方で、他者への配慮から服装や身だしなみの自由化を反対する人が多いことがわかった。
【個人】服装・身だしなみの自由化が仕事探し・働き方に与える影響
加えて、服装や身だしなみの自由化により仕事探しや働く意識・働き方に影響があるかを聞いたところ、「長く働きたいと思う(計)」が57.5%ともっとも高く、次いで「個性を活かして働けると思う(計)」は56.5%、「仕事探し時に、応募意欲が上がると思う(計)」は55.7%、「モチベーションが上がる(計)」は53.0%、「発想が柔軟になり、クリエイティブな発想に繋がると思う(計)」は49.8%となり、働き手の服装や身だしなみの自由を認めることは、働き手の活躍の後押しになるだけでなく、人材の確保や定着という観点においても効果的であると考えられる。
また、年代別でみると、「長く働きたいと思う(計)」は[20代]で64.8%ともっとも高く、次いで[10代]で61.2%、「個性を活かして働けると思う」は[10代]で64.2%ともっとも高く、次いで[20代]で61.5%、「仕事探し時に、応募意欲が上がると思う(計)」は[10代]で67.9%ともっとも高く、次いで「20代」で64.8%、「モチベーションが上がる(計)」は[10代]で65.7%ともっとも高く、次いで[20代]で62.1%となり、若年層において服装や身だしなみの自由化により仕事探しや働く意識・働き方に与える影響が大きいことがわかった。【図5】
【企業】アルバイトの服装・身だしなみの規定緩和状況
ここまでは働き手の服装や身だしなみに関する規定有無や自由化への意識についてみてきたが、ここからは企業における服装や身だしなみの自由化の現状と今後の展望をみていきたい。
企業に直近5年間でアルバイトの職場での服装や身だしなみの規定について緩和状況を聞いたところ、「直近5年間で緩和済み」は36.7%となった。業種別では[製造(建設除く)]が47.5%ともっとも高く、次いで[インフラ]が44.1%、[建設]が42.7%となった一方で、[小売]が27.5%ともっとも低くなり、業種間で緩和状況に差がみられた。
仕事内容上、衛生面や安全管理の観点などから自由を認めたくても認めることが難しいケースも多いことも考えられるが、規定の緩和を行った背景には時代の変化によりジェンダーフリーや多様性の受容が重要視されるようになったことが影響しているとみられる。【図6】
緩和内容としては、「服装」が42.0%ともっとも高く、次いで「髪型」が37.1%、「髪色」が35.6%となり、規定がある項目と自由を認めるべき項目で上位に挙がった服装や髪に関する項目が上位となったことから、企業による働き手が働きやすい環境づくりが進められている様子がうかがえた。【図7】
緩和程度では、「完全に自由にした」が53.2%と5割を超えたことに加えて、一部緩和済みの企業に今後さらに緩和予定があるかを聞いたところ、「緩和予定である+目途はついていないが、緩和を検討している」割合が約7割となったことから、すでに直近5年間で緩和済みの企業においては、働き手の服装・身だしなみの自由化がさらに進むと考えられる。【図8】【図9】
【企業】直近5年間で規定を緩和していない企業のアルバイトの服装・身だしなみの今後の緩和予定
一方で、直近5年間で規定を緩和していない企業に今後の緩和予定を聞いたところ、「緩和予定である」は4.0%、「目途はついてないが、緩和を検討している」は10.7%、「検討できていないが緩和の必要性を感じている」は15.5%、「緩和予定はなく、検討もしていない」は69.8%となり、緩和意向がある(緩和予定である+目途はついていないが、緩和を検討している+検討できていないが、緩和の必要性を感じている)企業は約3割となった。【図10】
また、今後決まりを緩和する意向があると答えた企業に緩和内容を聞いたところ、「髪色」が39.3%ともっとも高く、次いで「服装の色」が33.6%となり、緩和程度では「一部自由にする」が8割を超えた一方で、「完全に自由にする」は18.7%にとどまった。【図11】【図12】
直近5年間で緩和していない企業においては、緩和予定がない割合が約7割と最多となったものの、緩和意向がある割合は3割と一定数あり、服装や身だしなみの規定を完全に自由にするのが難しくても今後一部自由化での対応を予定・検討していたり、必要性を感じている企業がいるようだ。
【企業】アルバイトの服装・身だしなみ自由化のメリットと懸念点
直近5年間で緩和済み企業に服装や身だしなみ自由化のメリットを聞いたところ、「従業員のモチベーション維持に繋がる」が33.7%ともっとも高く、次いで「応募者が増える」が30.2%、「個性を活かして働いてもらえる」が29.8%となった。
一方で、直近5年間で緩和をしていない企業に自由化の懸念点を聞いたところ、「お客さんに不快感を与えてしまう・印象が悪い」が54.0%ともっとも高く、次いで「清潔感や衛生面」が45.5%となった。【図13】
服装や身だしなみの自由化を認めることで、働き手の活躍や人材の確保・定着に期待する企業が多い一方で、業態によっては、顧客への配慮や衛生面の観点から服装や身だしなみの規定を緩和することが難しい企業があることがわかった。
今後働き手の服装や身だしなみの自由を認めて働きやすい環境づくりを行うためには、働き手と顧客という関係に関わらず個性を認め合う社会をつくっていくことも重要となりそうだ。
まとめ
職場での服装や身だしなみの規定について、自由化に賛成の割合はZ世代にあたる10代でもっとも多く5割以上となり、多様な価値観を大切にするZ世代の「自分らしさ」や「個性」を尊重する傾向が強くみられた。
一方で4割の企業が直近5年間で服装や身だしなみの規定を緩和しており、企業の成長や人材の確保には、これまでの同質的な組織から多様性のある組織へ変革して働き手が働きやすい環境を整備することが重要だと考えられる。
もちろん警備員のように服装に関する規定が法律で定められている職種では規定の見直しは難しいが、衛生面や安全面などに配慮しつつ、今後改革の施策の1つとして服装や身だしなみの規定を見直す企業はこれからも増えていく可能性がある。
また、服装や身だしなみについて規定の撤廃や改定を行い、平等化・自由化を進めることは、2015年に世界共通の目標として国連で採択されたSDGs(Sustainable Development Goals)の目標の1つである「ジェンダー平等を実現しよう」という考えにも繋がるだろう。
「男性らしく、女性らしく」というように、男女の違いによって生まれる社会的なイメージや役割分担を持つことなく、ジェンダーによる不平等をなくし、職場の特性に応じて服装や身だしなみに関しても働き手の個性を尊重して多様性を認め合うことが、今後企業だけでなく日本社会にも求められるのではないだろうか。
キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実