マイナビ キャリアリサーチLab

ジョブ型雇用制度と少子高齢化
~キャリア選択肢を増やすために企業ができること~

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA

2023年2月28日、厚生労働省が人口動態統計速報を発表。2022年の出生数は79.9万人で80万人を割った。国の推計より10年以上早いペースで減少しており、少子高齢化は想定よりも早く進んでいる可能性がある。今回のコラムでは、このような大きな社会の変動を背景に注目されている「ジョブ型雇用制度」について考えていきたい。

はじめに

働く年代の人口は減少していく

少子高齢化によって起こるのは、生産年齢人口、つまり働く世代が少なくなる、という問題だ。下のグラフは2050年までの生産年齢人口推計である。15~64歳を生産年齢として、人口の推計をまとめている。2000年には約8,600万人だった生産年齢人口は2050年には約5,300万人になると考えられており、全人口に対して生産年齢人口が占める割合は減少していく。

こうした問題を背景に女性活躍推進といった働く人を増やす政策が行われ、今まで働いていなかった人が働くようになってきている。【図1】

2050年までの生産年齢人口推計
【図1】出典:「日本の将来推計人口(平成29年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)
http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp_zenkoku2017.asp)を加工して作成

働く人が増えた一方で非正規雇用者の比率が上がっている

政府の政策により、働く人は増加。2013年1月には5,170万人だった働く人は2022年12月には5,715万人となっている。「今まで働いていなかった人が働くようになった」、これだけ聞くと良いように聞こえるかもしれないが、働いていなかった理由の大多数は、育児や家事をしたり、介護をしたりなど、何らかの制限があったからである。

ここで注目したいのは、雇用形態だ。雇用形態とは、企業と労働者の間で決められる働き方の種類のことで、大きく正規雇用と非正規雇用に分けられる。正規雇用とはいわゆる正社員のことで原則雇用期限がないフルタイムでの働き方。非正規雇用とは契約社員やパートといったような正規雇用以外の雇用期限がある働き方を指す。以下のグラフでは、正規雇用者と非正規雇用者を合わせた働く人全体の人数推移と、非正規雇用者比率の推移を表している。

グラフをみると、正規雇用者と非正規雇用者は両方とも増加しているが、非正規雇用者の比率が上がっており、正規雇用者の増加に比べ、非正規雇用者の増加の方が大きいことがわかる。つまり、今まで働いていなかった、制限がある人は、非正規雇用の働き方を選んでいる可能性が高い。【図2】

正規・非正規雇用者数の推移
【図2】出典:「労働力調査」(総務省統計局)
https://www.stat.go.jp/data/roudou/index.html)を加工して作成

雇用形態による賃金の格差は健在

次に正規雇用者と非正規雇用者の賃金の推移をみる。下のグラフは雇用形態別に賃金推移を表している。最低賃金引き上げや同一労働同一賃金などの影響もあり非正規雇用者の賃金は上昇しているが、正規雇用者の賃金との差はいまだに大きいことがわかる。【図3】

自ら進んで非正規雇用の働き方を選んでいるなら格差があることに問題がないのではないか?と思う方もいるかもしれない。もちろん自ら非正規雇用の働き方を選んでいる場合は問題はないが、少子高齢化が進む未来では、不本意だが非正規雇用を選ばざるを得ない人が増えてしまうのではないかと危惧している。

今後は高齢化によって、働く世代自体も高齢化し、介護を行う人も増加していく。つまり今までは正規雇用者として働いていた人も、介護や病気、怪我などによって、思わぬタイミングで突然働くことに制限ができ、正規雇用の働き方を続けられなくなる可能性があるということだ。

現在の正規雇用の働き方は出勤時間と出勤場所が会社によって決められていて、異動や転勤も会社の指示が強いことが一般的になっている。正規雇用で働いていた人に急に制限ができてしまった場合、キャリアをあきらめて離職せざるを得ないと考える人もいるだろうし、時間の都合がつきやすく賃金の低い非正規雇用を選ばざるを得ないと考える人もいるだろう。

このように働き方の選択肢が狭まっている状態、正規雇用と非正規雇用が二極化している状態を防ぐために、正規雇用と非正規雇用の格差是正とあわせて「ジョブ型雇用制度」の導入が急がれている。

雇用形態別賃金推移
【図3】出典:「令和3年賃金構造基本統計調査」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html)を加工して作成

ジョブ型雇用とは

ジョブ型雇用とは、職務や勤務場所、勤務時間が限定された働き方等を選択できる雇用形態のことである(※1)。限定された職務内容や責任の範囲、労働時間、勤務地などを明記したものが「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」であり、マイナビで実施した調査では、ジョブ型雇用を「職務内容や責任の範囲、労働時間、勤務地などを明記したジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作成し、その条件にマッチした労働者と合意の上で契約を結ぶ雇用形態のことを指す」と説明している。

ちなみに厚生労働省によると『ヒアリングによれば、「ジョブ型人材マネジメント」が導入されている会社では、そのジョブ(業務)だけの雇用というものではなく内部の人材活用の活性化や経験者採用等の観点で導入したマネジメントという意味合いで「ジョブ型」と称している例もあった。そうした「ジョブ型人材マネジメント」の議論と、勤務地や職務の限定がある「多様な正社員」の議論は、分けて考える必要がある(※2)』としている。本コラムでは、勤務地や職務の限定がある「多様な正社員」として「ジョブ型雇用」を議論していく。

下のイラストは、正規雇用と非正規雇用が二極化している現在の状態と、ジョブ型雇用で選択肢が広がった未来の状態を表している。現在正規雇用の多くは「会社の指示で職務や勤務場所、勤務時間が決められる働き方」であるので、あえて正規雇用を”無限定”正規雇用と記載している。【図4】

もちろん制限なく働くことができ、キャリア形成に積極的な人は今までと同様無限定の正規雇用の働き方を選ぶことができる。しかし前述のとおり、現状では育児や介護など何かしらの制限ができたとき、離職をするか、働いたとしても非正規雇用でしか働けないと考える人が多いだろう。

ジョブ型雇用を導入する狙いは、このような「制限がある人」が正規雇用で働けるように、正規雇用の働き方を多彩にしよう、というものである。では実際のところはどうなっているのか、マイナビが実施したジョブ型雇用に関する調査を見ていきたい。調査ではジョブ型雇用が導入されていても本来の目的とは矛盾してしまうような結果もいくつか見られたため、その理由についても考えていきたい。

(※1)厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」第9回資料より
(※2)厚生労働省「多様化する労働契約のルールに関する検討会」報告書より

【図4】二極化している状態と、ジョブ型雇用によって多彩な選択肢が増えている状態のイメージ

マイナビの調査より

ジョブ型雇用の導入率、新卒は28.4%、中途は40.8%

マイナビは2021年8月、人員計画や採用費用を決定している人を対象にジョブ型雇用制度に関する調査を行った。対象者7,551人のうち新卒採用では28.4%、中途採用では40.8%がジョブ型雇用を導入していると回答。中途採用の方がジョブ型雇用制度を導入している割合が高かったが、新卒採用においても3人に1人近くジョブ型雇用制度を導入していると回答している。前述の通り本調査では、ジョブ型雇用について「職務内容や責任の範囲、労働時間、勤務地などを明記したジョブ・ディスクリプション(職務記述書)を作成し、その条件にマッチした労働者と合意の上で契約を結ぶ雇用形態のことを指す」と説明している。【図5】

導入率が想定よりも高く、ジョブ型雇用の定義を広くとらえている企業が存在しているのではないかと考えられる。

ジョブ型雇用の導入率
【図5】

ジョブ型雇用の導入対象は「全社員」

新卒採用または中途採用いずれかで「ジョブ型雇用を導入している」と回答した573人に、ジョブ型雇用の導入対象を聞いた。もっとも回答が多かったのは「全社員」で42.6%だった。次いで「営業」が23.6%、「事務」が10.8%と続いた。全社員を除くと、特定の職種でジョブ型雇用を採用している割合が高く、役職で区切ってジョブ型雇用を導入していると回答した人も一定数みられた。【図6】

ジョブ型雇用の導入対象
【図6】

転勤・異動は「会社の指示が優先」が64.9%と矛盾した結果に

新卒採用または中途採用いずれかで「ジョブ型雇用を導入している」と回答した573人に、異動や転勤の指示は会社が行っているのか、社員の希望はどの程度優先されているか聞いた。もっとも多かったのは「転勤や異動は、社員の希望を聞く制度があるが、基本は会社の指示優先」が51.3%で過半数となった。「転勤や異動は会社の指示で行い、社員の希望を聞く制度はない」も合わせて、64.9%が「異動や転勤は会社の指示優先」で、「社員の希望優先」は16.5%となった。【図7】

異動や転勤は会社の指示が強い傾向ということは、ジョブ型雇用の定義とは矛盾する。ジョブ型雇用制度導入前の人事制度がそのまま残っている可能性も考えられ、正規雇用の働き方を多様化する目的とは離れてしまっている結果となった。

異動や転勤の指示
【図7】

職務は「限定されていない」がもっとも高く、矛盾した結果に

同じく新卒採用または中途採用いずれかで「ジョブ型雇用を導入している」と回答した人に、新卒採用と中途採用において、それぞれ職務がどの程度限定されているか聞いた。回答者の中には新卒採用を行っていない人、中途採用を行っていない人がそれぞれいるので回答数が異なっている。

新卒採用については、「職務は限定されていない」がもっとも高く41.2%だった。中途採用も同じく「職務は限定されていない」がもっとも高く36.4%だったが、新卒採用に比べると「職務は募集時のみ限定されていて、入社後は変更する可能性がある」が高かった。【図8】

いずれにしても、新卒採用・中途採用ともに「職務は限定されている」割合は低く、ジョブ型雇用の定義とは矛盾した結果になった。職務を限定した雇用契約よりも地域を限定した雇用契約が多い可能性や、ジョブ型雇用を希望する人以外は職務が限定されていない制度のままである可能性などが考えられる。

新卒_職務の限定
中途_職務の限定
【図8】

管理職は増えやすい傾向

続いては、管理職の増え方について聞いている。回答者の条件は同じく新卒採用または中途採用いずれかでジョブ型雇用を導入している人である。

「管理職は増加する計」と「管理職は増加しない計」を比較すると、管理職は増加する傾向が強いようだ。一定以上の成果を出していれば役職が上がりやすく、管理職は増えやすいようだ。【図9】

管理職の増え方
【図9】

給与は「職務や役職が同じでも人によって異なる」が79.0%

新卒採用または中途採用いずれかでジョブ型雇用を導入していると回答した人に、月給の金額について聞いた。もっとも多かったのは、「同じ職務や役職でも、仕事の量や成果によって月給が異なる」で37.2%だった。次いで「同じ職務や役職でも、在籍年数によって月給が異なる」が27.7%、「同じ職務や役職でも、年齢によって月給が異なる」が14.1%と続く。

「同じ職務や役職なら月給は同じ」が8.9%だったのに対し、「同じ職務や役職でも月給が異なる計」は79.0%と、大きな差がみられた。【図10】

月給の金額
【図10】

採用は人事部が行う傾向

新卒採用または中途採用いずれかでジョブ型雇用を導入していると回答した人に対して、新卒採用と中途採用それぞれの採用活動はどの部署が行っているのか聞いた。

新卒採用については「採用活動は人事部が行う」が68.3%で、採用の人数は経営層の指示で決まることが多い傾向にあった。中途採用についても「採用活動は人事部が行う」が高く62.1%だったが、採用人数については現場のニーズで決まることが新卒採用よりも多いようだ。【図11】

新卒_採用担当
中途_採用担当
【図11】

調査から推察されること

「ジョブ型雇用を導入」していてもジョブ型雇用導入前の制度が残っている可能性がある

ジョブ型雇用は職務や勤務場所、勤務時間が限定された働き方等を選択できる制度であるので、職務内容や勤務地について会社の指示が強いままだと、ジョブ型雇用導入で実現したかった「正規雇用の働き方を多様化する」ということは叶わなくなってしまう。

会社の指示が強い、今までの制度が悪であるわけではない。時代の変化に合わせて、制度も変えていく必要がでてきているということだ。ジョブ型雇用は単にジョブディスクリプション(職務記述書)を作れば良いというものではない。ジョブ型雇用の導入で何を改善したいのか、改めて認識を持つことが必要である。

ジョブ型雇用の範囲が広すぎて何から始めればいいか難しいという企業が多いのではないか

調査をまとめていく中で、本来改善したい問題が改善されないような状態で「ジョブ型雇用導入」という言葉が独り歩きしている可能性がみえてきた。なぜこのようなことが起こるのか。企業はジョブ型雇用について、「定義が広くて理解が難しい上、導入に関わる部門も多いために何から始めれば良いかわからない」と感じているのではないだろうか。

ここで、一番大きなポイントとしたいのは「入社時の条件の合意をきちんとしよう」ということである。勤務地、職務内容、勤務時間・休日、給与・昇給条件等について、合意をきちんととる、ということだ。勤務地や職務内容が変わらない雇用契約、というのももちろんあるだろうし、勤務地は変わらずに職務内容には変更がある雇用契約の場合もあるだろう。変更がある場合には、変更方法はどういったものなのかも含めて合意をきちんと得ることが大切だ。

ジョブ型雇用は職務や勤務場所、勤務時間が限定された働き方等を選択できる制度である。企業は、ジョブ型雇用で雇用契約を結ぶ際に、働く人がなぜ限定された働き方をしたいのかしっかりと把握をすることが重要だ。働く人の理想と企業の条件をうまくすり合わせた「限定」を個人に合わせて作っていくことがジョブ型雇用制度をうまく導入していく近道になるのではないだろうか。

従業員の状況変化に応じて柔軟に対応する制度も必要

入社時にすでに制限のもと働く必要がある人もいるが、無限定正規雇用で働いていた人に、ある日突然介護や病気、怪我など働く上での制限がついてしまう可能性もある。そのような場合に対応するために、無限定正規雇用とジョブ型雇用を行き来できるような制度が必要ではないかと考える。

入社時のみ働き方の選択肢を増やすだけでなく、
現在働いている人にも多彩な選択肢を

課題点と解決案

人事の負担が増えてしまう

人員配置に制約ができることにより、異動の代わりに採用をするケースが増える可能性がある。入社時の条件のすり合わせ業務や、随時起こる条件の変更業務なども増加するだろう。

マイナビ調査からみられたデータでは、採用業務は人事担当者が実施している場合が多かったが、今後は現場の管理職に採用の権限を委譲するなど増える業務への対応を行う企業が増えていくのではないかと考えられる。

人材の流動性が高まりすぎてしまう

制限を付けることによって、今までは社内の異動で済んでいた人材が転職を選ぶケースが増える可能性がある。プロジェクトごとに求められる能力を持つ人材を確保するなど、健全な流動性は必要だが、あまりに流動性が高く、人材が定着しない状況だと、採用や教育のコストが重くなりすぎてしまう。

そのため従業員のモチベーションを保ち、キャリア形成をサポートする環境づくりが大切だ。それに現状で役立っていると考えられるのが「昇格のしやすさ」。頑張った分が役職が上がることで反映される、というのは従業員のモチベーションを保つことにもつながっているだろう。

一方で、給与の透明性には注意が必要だ。今回のマイナビ調査では「同じ役職でも仕事の成果などによって給与が違う」が多数だった。これが制限なく役職者を増やせる理由ではあるのだが、従業員にとっては、不透明性を感じて企業への不信感を高めてしまう原因にもなりうる。入社時、昇給の仕方や昇格の仕方についてきちんと合意を得ることでメリットを最大限生かすことができるだろう。

おわりに

現在、正規雇用で働きたくても物理的にできないという人、そもそも正規雇用で働くことが選択肢にも入っていない人のキャリアが狭まっていることは、人材不足の昨今においては非常に勿体ないことである。

また、今無制限正規雇用者として働いている優秀な人が、ある日突然何らかの制限のもとで働かなければならなくなる可能性は十分にある。
自身のキャリアをあきらめてしまう人が増加してしまう前に、柔軟な制度をもつ企業が増えることを祈っている。

調査概要

  内容   ジョブ型雇用に関する企業調査
調査期間<スクリーニング調査>:2021年8月20日~23日
<本調査>:2021年8月24日~26日
調査対象 <スクリーニング調査>:
従業員数3名以上の企業に所属している全国の経営者・役員または会社員で、採用方針や人員計画の策定、採用予算の策定・採用費用の捻出・管理、人事制度の企画・立案、社員の処遇決定を担当している人

<本調査>:
上記のうち、ジョブ型雇用制度を導入した人、検討している人、検討したが、導入しなかった人
調査方法外部パネルによるインターネット調査
有効回答数<スクリーニング調査>:21,147名
<本調査>:1,511名