マイナビ キャリアリサーチLab

【医療・福祉・介護業界】の転職市場を最新調査から考える
―業界別に転職市場を徹底分析―

朝比奈あかり
著者
キャリアリサーチLab研究員
AKARI ASAHINA

目次

企業向けインターネット調査からわかること

中途採用の実施率は?

医療・福祉・介護業界の中途採用の実施率は全業界で年間トップクラスに高い

従業員数3名以上の企業の経営者・役員または会社員で、中途採用業務を担当している2,298人に現在中途採用を行っているか聞いた。

全体では2022年10月は42.0%が現在中途採用を実施していると回答した。医療・福祉・介護業界(回答者数179人)に絞ると52.0%と、全体と比べて10pt高く、半数以上の中途採用担当者が現在中途採用を実施していると回答。他の業界と比べても医療・福祉・介護業界がもっとも高かった。引用している「中途採用・転職活動の定点調査」を開始した2021年10月から医療・福祉・介護業界の中途採用実施率はほぼ1位となっている。

中途採用の実施率

中途採用の実施率
マイナビ「中途採用・転職活動の定点調査」より作成

正社員の人手不足感は?

医療・福祉・介護業界は正社員不足感が高い

2022年1-6月に中途採用を行った担当者に「正社員の不足感」を聞いたところ、全体の不足計(「とても不足している」+「不足している」)が43.3%で、余剰計(「とても余剰を感じている」+「余剰を感じている」)25.4%を上回った。

医療・福祉・介護業界のみに絞ってみると、不足計が54.4%、余剰計が21.1%だった。全体と比べて不足計が10pt以上高く、この調査からも人手不足感が高いことがわかる。

2022年1-6月の正社員全体過不足感

2022年1-6月の正社員全体過不足感
マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

中途採用実施理由の特徴は?

医療・福祉・介護業界の中途採用理由「産休・育休の補充」が上位に

2022年1-6月に中途採用を行った担当者に「中途採用の理由」を聞いたところ、全体でもっとも高かったのは「退職者の増加(自己都合による欠員の増加)」、次いで「既存事業の拡大」だった。

医療・福祉・介護業界の回答をみると、もっとも高かったのは全体と同様「退職者の増加(自己都合による欠員の増加)」だった。また全体では下位だった「産休・育休などの一時的な補充」が上位となっており、女性の正社員が多く働いている特徴が出ていると考えられる。

2022年1-6月に行った中途採用の理由(複数回答)

2022年1-6月に行った中途採用の理由(複数回答)
マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

中途採用の課題は?

医療・福祉・介護業界の中途採用の課題は「入社後の早期退職者の増加」

2022年1-6月に中途採用を行った担当者に「中途採用の課題」について聞いたところ、全体では「求職者の質が低い」がもっとも高かった。

医療・福祉・介護業界に絞ると、もっとも高かったのは「入社後、早期に退職してしまう社員が増加している」、次いで「求職者の質が低い」、「母集団が確保できない」だった。

医療・福祉・介護業界が慢性的な人手不足である原因には、入社後の定着率の低さも関わっているのではないかと考えられる。

中途採用活動の課題(複数回答・上位抜粋)

中途採用活動の課題(複数回答・上位抜粋)
マイナビ「中途採用実態調査2022年」より作成

まとめ

マイナビ転職のサイトデータ・公的データからわかったこと

医療・福祉・介護関連職は全体と比べて有効求人倍率が高く、雇用者側の需要が高い。中途採用の実施率も年間を通して高く、慢性的な人手不足感があると考えられる。

またマイナビ転職上では未経験者歓迎の求人割合が全体よりも高い傾向にある。その影響もあってか、平均初年度年収は全体と比べて低い水準だが、2018年から2022年7~9月で27.2万円増加しており、給与待遇の改善は継続的に行われているようだ。

実際にマイナビ転職で医療・福祉・介護業界の未経験者歓迎の求人をみると、研修や資格取得支援などサポートの手厚い企業・団体が存在していた。

インターネット調査からわかったこと

医療・福祉・介護業界で働く正社員の男女比は男性34.6%、女性65.4%で、全体の男女比と比べて女性の割合が25pt以上高い。企業の中途採用実施理由上位に「産休・育休のための一時的な補充」が入っており、女性が多く働く業界の特徴がみられた。

また医療・福祉・介護業界では同業界での転職が8割と全12業界中もっとも高く、同じ業界の中で仕事内容を変えたり、福利厚生が整っている場所に変えたりしている人が多いようだ。しかし、年収に関しては「転職をして下がった」と回答した人が全体よりも多かった。人材の流動性を上げる観点でみると、転職による年収低下は大きな課題となっていると考えられる。

転職の難易度については、過半数が「内定を取得するのは簡単だった」と答えている一方で、求人情報の集めやすさについては全体よりも「難しかった」と答える人が多かった。

よりよい転職を成功させるために

雇用側は…

雇用側に見られた大きな課題は「人手不足」。求人で人が集まらないというだけでなく、中途入社した人材が早期離職してしまうことも理由として考えられた。働く個人側の課題としては「転職で年収が上がりにくい」という点が挙げられる。

この年収の上がりにくさについて、医療・福祉・介護業界は社会貢献度が高く利潤を追求していない団体が存在し、働く人も福利厚生など働きやすさを重視している割合が全体よりも多い傾向があるなど仕方がない面もある。しかし、未経験者が転職の検討をする際、医療・福祉・介護業界の魅力を知る前に「給与金額が低いから」と候補から外してしまい、機会損失している可能性も考えられる。

医療・福祉・介護業界の平均初年度年収は増加している傾向にある。引き続き賃上げを実施し待遇改善を行って未経験者が医療・福祉・介護業界を検討する可能性を上げる必要があるのではないだろうか。

しかし、光熱費や物価の上昇、新型コロナウイルスの感染対策のためのコスト増加によって、賃上げするのが難しいという企業・団体があるのも事実だ。現実的にまず行うこととしてすすめたいのは政府が実施している補助金や助成金について再確認をすることだ。求人の書き方についても、仕事内容や求めている人材を詳細に記載したり、基本給だけでなく各種手当も記載して月収のイメージをつけやすくしたりなど、書き方ひとつで印象は大幅に変わる。

あわせて検討したいのが週休3日を選択できる制度や時短勤務を選択できる制度を導入することだ。柔軟に働ける環境を整えることも未経験者が医療・福祉・介護業界を検討する可能性を上げることにつながる。それだけでなく、現在働いている従業員の満足度向上にもつながるだろう。

また中途採用の課題トップだった「早期離職」を防ぐためには、選考前に職場体験を行ったり、選考とは別に面談を行って不安を解消したりと、入社後の働く様子を具体的に想像してもらいやすくする工夫が重要になると考えられる。

未経験の個人は…

医療・福祉・介護業界の人材を増やす重要性は多方面から叫ばれている。

現状では、年収が低いことをネックに感じる人もいるだろうが、直近では2022年2月から介護職の賃上げ政策が始まっているなど、今後も国からの支援を受けながら賃金が上がっていくと予測される。

研修や国家資格の取得支援がある企業・団体もあることから、未経験者へのハードルも低いのではないだろうか。資格取得などある程度技術を得たあとは、専門性を高めたり、スキルの幅を広げたりなど、自身の希望のキャリアを描くことをおすすめしたい。

医療・福祉・介護業界は雇用側の人手不足感が高いため、個人は働く場所を比較的選びやすい。自身の市場価値を高めたい・社会貢献度の高い仕事がしたい・自分の理想のキャリアを築きたい、といった希望が叶いやすい業界であることをまずは知ってほしい。

経験のある個人は…

持っている資格や技術は一生使える需要の高いものであるため、同業界であれば他の業界と比べて転職がしやすいようだ。

雇用側は人材を獲得するために待遇の改善や福利厚生制度の導入などを随時行っている。ぜひ定期的に自身の理想の働き方ができる場所や、得たい専門知識が得られる場所を探し、積極的なキャリア形成をすることをおすすめしたい。

キャリアリサーチLab研究員 朝比奈 あかり