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成果を生み出す特性と性格の関係について

長瀬存哉
著者
HRコンサルタント
ARIKA NAGASE

三回目のコラムでは、代表的な適性検査の構造や構成要素を通して、それぞれの狙いや特徴の違いについて触れた。今回は、適性検査における性格特性と成果を生み出す行動特性との関係性について紐解いていきたい。

性格とコンピテンシーは表裏一体
【顕在化した状態は性格に紐づいているか】

改めて、人の特徴は、潜在化された内面世界(性格特性)と、顕在化された目見える特性(コンピテンシー)で構成されている。【図1】

氷山モデル

一般的には内面的な性格特性は適性検査で捉え、姿勢や行動など外から確認できる顕在化された特性=コンピテンシーを企業の人事評価や行動評価という形で捉えようとする。コンピテンシーの定義はさまざまあるが、一言でいうと、「高い業績や成果につながる行動特性」となる。

支援ツールとしての適性検査

まず適性検査では、広く就職・中途市場の採用選考で活用され、一人ひとりの個性を捉えようとしている。面接官にとって、選考対象者の性格や特徴を理解する手がかりであり、ある意味言語化されたその中身は、求職者との対話や会話を深めたり広げたりする重要な情報源かつ、相互の距離感を近づける支援ツールという側面がある。

リフレクションへの有効手段

また適性検査は、求職者自身が、就職市場で大切な“自分を見つめる機会=内省(リフレクション)”をする、有効な手段でもある。例えば「自身の長所や短所について説明する」場合、3~4つの特徴は難なく語れるかもしれないが、10~20を超える自身の特徴を説明することは、なかなか難しい。この手助けとなるのが適性検査の役割であり、自分のことを確認するチェック作業となっている。この行為によって“自身の特徴を、さまざまな角度から細かく分解する”ことで、結果として深い内省作業につながっていく。ジョハリの窓*という考え方にもあるように、自分自身が気づいているようで気づいていない意外な側面を知る効果も期待できる。

指針としてのコンピテンシー

こうした自己内省された世界から、実はどのような行動が発揮される(可能性がある)人物なのか、顕在化された要素=行動や振舞いで、さらにその特徴を目で見る形で理解してみようとするのが、コンピテンシーということになる。とかく企業の中では成果や結果が問われる世界でもあり、ある側面で活躍する可能性があるものの、現実的にはパフォーマンスにつながっていないと、その人の社会的な価値というものは十分に発揮されていないことになる。仮にその価値が発揮されていないとなると、どこが問題なのか、何が障壁になっているのか、といった改善点を把握・修正することで、より社会的な価値を高められることになる。その有効な改善ポイントを探るための指針がコンピテンシーということにもなる。

ただここで重要なのは、性格特性とコンピテンシーには表と裏の関係があり、その連動性を想定した整理をしているか、ということが鍵となる。一律にコンピテンシーを高めようとする考えではなく、一人ひとりの性格特性に応じたコンピテンシーの発揮の仕方を考えて取り組む、ということが大切である。
例えば、何事もじっくり検討してから行動する慎重な性格の人に、とにかくスピード最優先の業務ばかり依頼してもパフォーマンスは発揮しづらいだろう。
したがって、どんな性格の人が、どのようなパフォーマンスを発揮する可能性があるのか、という関係性を整理・可視化することで、その人なりの有効な活躍の仕方、組織内での価値の高め方が把握できるようになる。

自身の強みが発揮できる指針に
【会社ならではの“特徴”と個人の“強み”が連動しているか】

性格やコンピテンシーにまつわる事例でこのような実態がある。ある企業A社では、コンピテンシーの指針の一つに“行動力”を掲げている。またB社では、“行動力”の一部が“チャレンジ精神”であるなど、大項目と中項目を構成する関係を整理し言語化しているケースがある。更に別のC社では、大事なコンピテンシーは自ら働きかける“行動力”だと定義している。つまりどの企業も重要なコンピテンシーの一つは“行動力”である、としている。

となると、各社が掲げる “行動力”に対して重要なことは、「企業の理念や風土が一社員からもわかりやすく明示されているか」と、「人の個性やパフォーマンスが組織の特徴と連動した指針になっているのか」という点にある。その定義や内実は、各々の文化によって“質”が異なっている実態を明らかにし、明示しているか、という点になる。

こうした点をもとに、各社の捉え方やその特徴をみてみると、A社は“周りを巻き込むエネルギー=行動力”、B社は“積極果敢に自発的に行動するアグレッシブさ=行動力”といった具合に、表現は同じであれ、質は異なっていることが多い。その理由として、これらを支える性格特性からみると、A社は意思をもって行動する“主体性“、B社は失敗を恐れない”積極性“などを特に重要視している。更に、先のC社もその実像をみてみると、自ら働きかけるその中身は、“周囲への影響力や発信力を伴う行動力”となっている。そのベースとなる性格特性は、広く関心を持とうとする“外向性”が重要であると捉えている。このように、同じ“行動力”というコンピテンシーであっても、実際には各企業ごとのニュアンスに違いがある。そのため、社員一人ひとりの自身の長所や強みをどう活かせば、会社の成果に繋がるのかが、誰もがわかる状態になっていることが重要といえる。【図2】

各社コンピテシーの比較

時代の流れを見据え体系的に整備する
【変化と継承の行動が明示されているか】

では、そのコンピテンシーにはどのような指標があるのか。企業によってコンピテンシーを「大きく3つ掲げている」、または「10の視点で整理している」、「職位や階層別に定義している」など、コンピテンシーの用い方や設定の仕方は当然異なる。ただ、それらの指標も全体を整理していくと、おおよそ30数種の構成要素、大きく8つの因子構造(行動特性群)に集約されることが近年の研究により判明している。こうした全体像を俯瞰してみることで、どのような指標をコンピテンシーとして掲げているのかを把握しておくことが大切である。

また、企業の歴史において“変わり続けるべき要素”と“長きにわたる時代においても”普遍的な要素”は何なのか、ということを整理・言語化しているのか、ということがコンピテンシーの定義には不可欠となっている。評価制度が変わるとコンピテンシーも変わる、という企業は数多く存在するが、本来であれば、時代と共に変わりゆくコンピテンシーと、時代は変わるが固定化しておくべきコンピテンシーとを区別しておくことは、これからの時代、より重要性を増していると考えている。

その理由の一つに、時代の変化に応じて事業拡大をする、新たなドメインを開拓する等、変化に適応していくことが企業の使命であり、こうした変化適応の観点を社員に求めるコンピテンシー要素としていくことは企業側の宿命であろう。

対して、働き方や活躍する場が多様化する中、企業ならではの文化を示す指標を固定化し、不動にすべき要素を明確にしておくことは、企業の存続を占う意味でもとても大切な考え方になっている時代といえる。次世代に継承していくべき行動を後世に渡り伝えていくなど、変容と継承の行動を体系的に定義化し整理していくことは、更に重要性を増していると考えられる。【図3】

変容と継承の行動モデル

共通言語と相互の判断に目を向ける
【再現できる状態を目指しているか】

とある企業D社では、ベンチャー精神を大切にし、その行動特性をコンピテンシーとして言語化しつつ、その行動特性と関連している性格特性を適性検査で指標化し、採用選考に活かそうとしている。また、コンピテンシーの指標を拡張しようと試みている企業E社では、コンピテンシーを体系的に整備しつつ社員の成功体験や武勇伝など、各々の経験談や失敗談をもとにエピソード集として編集し、社員に展開している。それだけに留まらず、そのエッセンスを明文化し、採用選考で測る指標に落とし込んで面接時の質問にぶつけてみるなど、実行動を生み出す特性を確認していこうとする取り組みを行っている。

更に別の企業F社では、“企業独自のハイパフォーマーの特性”や、“会社の屋台骨となる人材特性”を、個々の社員の意見を募るアンケート調査や、他者の目線で被験者の行動を評価する観察調査などを実施し、双方の思いや見ている視点のズレを補正しつつ、相性に関わる要素や活躍要素を現場の声や目線から抽出し、言語化を行っている。更に、対外的な環境においても通用する行動やスキルは何か、またそれらを支える性格特性は何かなど、同業界や他企業における価値指標なども含めて提示していこうと試みている。

このように、役割や機能別に必要となる性格特性と共に、成果を生み出す行動特性を実行動や経験から導き出し、採用選考や企業内での活動、上司部下の関係、業界内でのレベル設定等を通して検証していこうとする取り組みは、とても重要なプロセスになっている。当然のことながら、企業にとって活躍してほしい人材の要素は、決して通り一遍等の固定化したモデルではない。企業の事業ドメインや企業のステージによって多種多様であるからこそ、定性的かつ定量的な行いを通して検証し続けていくことは、重要な取り組みの一つといえる。

つまり、新たな人材を発掘し選考する際に、企業が求める要素やそのポテンシャルを「各人の思いが同じ概念で表現されている=共通言語として確認できるか」また、同じような目線と指標で「誰もが誤らずに判断できる=再現できる状態となっているか」がもっとも重要であり、企業にとって不可欠な取り組みといえよう。

では一方で、多様な人材を受け入れつつも、そのリスクとどう向き合うべきか、といった課題も浮上している。退職リスクやヒューマンリスクをどう見分けていくべきか、またはこうした観点は予測できるのか…。次回はこの点について紐解いていきたい。

*ジョハリの窓とは自己分析に使用する心理学モデルのひとつであり、「開放の窓(open self)」「秘密の窓(hidden self)」「盲点の窓(blind self)」「未知の窓(unknown self)」をという分類を指す。

「開放の窓」自分も知っているし、他人も知っている自他の認知が一致している自己
「秘密の窓」自分は知っているが、他人に知られていない自己
「盲点の窓」他人は知っているが、自分で気づいていない自己
「未知の窓」自他ともにまだ知らない・知られていない自己


著者紹介
長瀬 存哉(ながせ・ありか)
HRコンサルタント

1970年東京生まれ。大学卒業後、多種多様な業界の業態開発・商品開発に携わり、人の感性と環境・ハードとの間に融和と相乗効果が生まれる世界を見出し、人の可能性や創造性に関する調査・研究活動に取り組む。そこで、心理学・統計学分野のオーソリティに師事。HR分野の課題解決を通して、適性検査や意識調査・行動調査などの診断・サーベイ・アセスメントの設計・開発・監修を行い、その数は数百種類に上る。その後、取締役を経て独立。現在は、各企業やHRテクノロジーに関するコンサルティング・研修・講演活動を通して、HRの科学的なアプローチによる課題解決に取り組んでいる。

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