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AIが発見した成長の早い新入社員の12の特徴と5つのカテゴリ—九州大学ビジネス・スクール講師 碇邦生氏

碇邦生
著者
九州大学ビジネス・スクール講師 合同会社ATDI代表
KUNIO IKARI

成長の早い人材はフィードバックの受け上手

フィードバックを成長に生かす「コーチアビリティ」

近年、スポーツ選手や起業家の育成を中心として、指導者によるコーチングだけではなく受け側の学びの姿勢に注目が集まっている。注目されるようになった最初期の研究は、2000年にウェストバージニア大学のピーター・ジャコビの博士論文である。スポーツ選手がコーチや監督からのフィードバックをどのように成長に生かしているのかに焦点を当てた研究成果を報告している。

そこでは、スポーツ能力を向上させたいという強い動機と、学ぶことへの開かれた姿勢、コーチへの信頼を持つ選手がフィードバックを成長に生かしているという。ジャコビは、このようなフィードバックを成長に生かす受け手の能力を「コーチアビリティ」と呼んでいる。

また、起業家に着目した研究では、マサチューセッツ大学のマイケル・サユタらの研究チームが投資家の意思決定にコーチアビリティが影響を及ぼすという結果を示している。投資家が評価する起業家はコーチアビリティが高い傾向にあり、また、コーチアビリティの高い投資家はコーチアビリティの高い起業家を評価する傾向にあると明らかにしている。

一般的なビジネスについては、ニューファンドランド・メモリアル大学のカービー・シャナハンらの研究チームが営業パーソンのコーチアビリティを対象として調査を行い、米国のコンサルタントであるジェイク・ウェイス博士らが一般従業員のコーチアビリティについて研究している。そのどちらにおいても、コーチアビリティは従業員の成長を促す要因として結果が出ている。

日本における「コーチアビリティ」

日本では、株式会社コンカー代表取締役社長の三村真宗氏が著書『みんなのフィードバック大全』(2023年、光文社)にて紹介している。同社では、コーチアビリティを経営に生かし、人材育成に努めている。

もちろん、人材育成では指導者が適切なフィードバックを与えることができるかは重要だ。しかし、日本のビジネス環境でもコーチアビリティが成長に影響力を持つのであれば、採用や研修に反映させることは大きな意義がある。

特に、日本のビジネス慣習では、ポテンシャルを重視した新卒採用が重要な人材獲得手法となっている。そのため、コーチアビリティの高い学生を採用するように選抜指標に反映させ、導入研修のコンテンツとすることで人材育成の効果を高めることが期待できる。

そこで、本研究では新卒社員を多く採用する企業にて「成長の早い新入社員がどのように上司や先輩からのフィードバックを自己の成長に生かしているのか」について調査を行うことで、日本企業におけるコーチアビリティの在り方について検討している。

「成長の早い新入社員」と「伸び悩む新入社員」の調査方法と分析手法

日本企業における新入社員のコーチアビリティを明らかにするために、株式会社マイナビとの共同研究を行った。具体的には、同社の従業員を対象として、「成長の早い新入社員」と「伸び悩む新入社員」の特徴について半構造インタビューを実施した。

この調査を通して、「成長の早い新入社員と伸び悩む新入社員の間に、上司や先輩といった指導役からのフィードバックを受けた際の態度の違いがあるのか?」「違いがあった場合にはどのような差があるのか?」について明らかにする。

インタビューの協力者は、マイナビの人事部を通して23名から協力を得た。内訳は、課長職14名、入社1年目から3年目までの若手社員6名、管理職ではないが新入社員の指導経験を持つ先輩社員3名である。

フィードバックを与える管理職と先輩社員、またフィードバックを受ける新入社員と異なる立場の当事者から情報を収集することで、複数の視点から新入社員のフィードバックについて分析する。また、副次的な資料として、採用ページに掲載されている先輩社員のインタビュー記事と管理職向けの社内研修資料も取り入れた。

これらの情報ソースはすべて文字情報として整理し、Open AI社の生成AI「Chat GPT- 4o」を用いて分析を行った。文字情報の中で「成長の早い新入社員」と「伸び悩む新入社員」の特徴に関連する発言のみを抜き出し、生成AIに読み込ませたうえで、「成長の早い新入社員について語ったインタビューのデータをアップロードします。新入社員の早い部下の特徴について要約をしてください」というプロンプトで要約を抽出した。

AIが発見した12の特徴

AIによる要約の結果、成長の早い部下の特徴について、12の特徴が出力された。これらの特徴は、以下の通りだ。

要素解説
① 素直さ上司や先輩からのフィードバックを真摯に受け入れ、それを基に自分の行動を変えることができる能力
② フィードバックの受け止め方フィードバックを素直に受け入れ、それを基に自己改善を図る姿勢
③ 自己中心的な思考の排除自己中心的な思考やフィードバックに対する抵抗心を持たない
④ 行動力指示を受けた後、すぐに実行に移し、その結果をフィードバックとして活用し、次の行動に繋げる姿勢
⑤ フィードバックの実践フィードバックを受けた後すぐに実行に移し、その結果を確認して次の行動に繋げる
⑥ 自己反省能力過去の失敗から学び、同じミスを繰り返さずに改善を図る姿勢
⑦ 自己改善意欲自己改善を常に意識し、フィードバックを受け入れて自己の行動を見直す姿勢
⑧ 主体性指示待ちではなく、自分で考え行動する力
⑨ 仕事に対する積極的な姿勢仕事に興味を持ち、自分の役割を超えて貢献しようとする姿勢
➉ 問題解決能力問題が発生した際に、それをどう解決するかを自分で考え、行動に移す力
⑪ 自分の考えを持つこと自分の考えを持ち、それを伝え、建設的な対話を行う
⑫ コミュニケーション能力上司や同僚との積極的なやり取りを通じて学びを得る姿勢
【表1】 ChatGPT-4o によって出力された12の特徴

AIによる分析では12の特徴が抽出されたが、「① 素直さ」と「② フィードバックの受け止め方」のように内容としては重複もみられる。そこで、類似の要素をまとめてカテゴリを下図の通り作成した。

【図1】成長の早い新入社員が持つ特性の5つのカテゴリ
【図1】成長の早い新入社員が持つ特性の5つのカテゴリ

素直さ

第1のカテゴリは「素直さ」だ。上司や先輩から受けたフィードバックを素直に受け入れ、自分の行動変容に努める。その際、フィードバックを受けたことから来る心理的な抵抗やヤマアラシのような自己防衛的な態度、自分の考えや方法に固執する自己中心的な思考は、成長を妨げることになる。まずは、受けたフィードバックは真摯に受け止めることが肝要だ。

インタビューでは、ある若手社員が「フィードバックは仕事に対してのモノなので、自分が否定されたと思わないように切り離す。そうすると素直に受け入れられる」という発言があった。自分にも考えがあるのだと「でも」や「だが」といった逆説の接続詞で返答する新入社員は伸び悩む傾向にある。

実践力

第2のカテゴリは「実践力」だ。成長の早い新入社員の特徴として、フィードバックを受けたあと行動に移すまでのスピードの早さが語られた。顧客への提案資料に指摘が入ったなら、即座に提案資料を修正して確認を求める。電話での顧客とのコミュニケーション頻度の少なさを指摘されたなら、自席に戻って直ぐに顧客に電話をかける準備を始めるなど、まずは指摘された通りに行動に移す。

調査では、伸び悩む新入社員は、仕事の着手が遅く、フィードバックに対して否定的な反応を示すことが多いという指摘があった。また、成長の早い部下はフィードバックを受けたときに、その業務だけではなく、他の業務でも応用できるように工夫をして、周りをみて改善行動に移ることができるという語りがあった。

改善意欲

第3のカテゴリは「改善意欲」だ。成長の早い新入社員の特徴として、自己改善に意欲的だ。ミスがあったときには、なにが問題だったのかを考え、再発しないように対策を講じる。過去の失敗から学び、自分の成長へと繋げようという意識を持つ。

具体的な語りとしては、失敗後に自己分析を行い、次に同じミスを繰り返さないようにする部下の成長が早いと評価する管理職からの語りがあった。また、ほかの管理職からは、失敗を振り返り、業務タスクの整理を行うことで成長した部下の事例が紹介された。

主体的行動

第4のカテゴリは「主体的行動」だ。仕事に対して自分なりの考えと問題意識を持ち、自分の役割を超えて貢献しようとする。また、問題が発生した際に、それをどう解決するかを自分で考え、行動に移す力がある。

たとえば、ある管理職の語りからは、成長の早い部下は課全体の動きを見て、自分の役割を超えて貢献しようとする姿勢がみられるという。そのほか、自分で調べてやり方を見つけ出し、それを実践し、結果を確認してフィードバックを受ける姿勢を持つ新入社員は成長が早いという管理職からの語りもあった。

アサーション

第5のカテゴリは「アサーション」だ。「アサーション」とは、コミュニケーションスキルの1つで、自分の意志や要求を表明する権利を誰もが持つとして、自他を尊重した自己表現および自己主張をすることだ。調査では主に、上司や先輩社員との積極的なやり取りを通じて学びを得る姿勢について語られた。

具体的には、誤っていても自分の考えを持ち、それを上司に伝えることで上司と建設的な対話を行う部下の成長が早いと述べられた。また、成長が早い部下は質問が多く、その質問が具体的であり、自分の意見や解釈を交えたものが多いという語りもあった。

これらの分析結果から、成長が早い新入社員はフィードバックに対して素直に受け入れ、すぐに実行に移す実践力があるとともに、仕事に対して自分なりの考えを持ち、上司や先輩社員に積極的に質問するなど建設的な対話をする傾向にあることがわかった。反対に、伸び悩む新入社員は、フィードバックに対して自分が否定されたと感じて抵抗を示し、素直に受け入れることができていなかった。

コーチアビリティを採用と育成に生かす

新卒採用をはじめとして、日本企業のマネジメントでは従業員のポテンシャルに対する期待が大きい。ポテンシャルとは潜在能力のことであり、言い換えると成長可能性の高さともいえる。

この特徴は、欧米のようにあらかじめ定められたジョブ(職務)に適切な人材を割り当てる方式ではなく、職務遂行能力の高い人材に多様な仕事を割り当てる、いわゆる「人に仕事を付ける」方式をとっているためだ。

しかし、ポテンシャルを求めている一方で、どのような人材が入社後に伸びるのかについてデータに基づいた検証を行っている例は少ない。経験則から、素直で自頭の良い人材は成長が早いと判断していることが多い。

本研究では、インタビュー調査を通じて、成長の早い新入社員と伸び悩む新入社員がフィードバックを受けた際の態度の違いから、成長可能性の高い人材の特徴を明らかにしようとした。その結果、5つのカテゴリ(「素直さ」「実践力」「改善意欲」「主体的行動」「アサーション」)で分類される特徴があることがわかった。

調査対象がマイナビ一社であることから、調査結果の応用可能範囲に限界があるものの、データによって導かれた分析結果から得る実務的な貢献は大きい。たとえば、採用時にこれら5つのカテゴリに関連した選抜手法や評価指標を取り入れることで入社後の成長可能性のイメージをつかみやすくなる。また、新入社員の導入研修に取り入れることで、本配属前に新入社員に期待している働き方や姿勢を伝え、成長を促す効果も期待できる。

人手不足から人材育成にリソースを十分に割くことが難しく、新入社員の早期立ち上げは求められる現代のビジネス環境において、人材育成の生産性を高めることに本研究の結果は役に立つだろう。


九州大学ビジネス・スクール講師 合同会社ATDI代表 碇 邦生

著者紹介 

九州大学ビジネス・スクール講師 合同会社ATDI代表 碇 邦生
2006年立命館アジア太平洋大学を卒業後、民間企業を経て神戸大学大学院へ進学し、ビジネスにおけるアイデア創出に関する研究を日本とインドネシアにて行う。15年から人事系シンクタンクで主に採用と人事制度の実態調査を中心とした研究プロジェクトに従事。17年から大分大学経済学部経営システム学科で人的資源管理論の講師を務める。現在は、新規事業開発や組織変革をけん引するリーダーの行動特性や認知能力の測定と能力開発を主なテーマとして研究している。また、起業家精神育成を軸としたコミュニティを学内だけではなく、学外でも展開している。日経新聞電子版COMEMOのキーオピニオンリーダー。

※所属や所属名称などは執筆時点のものです。

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