労働・雇用に関わる法改正で私たちの働き方や暮らしはどう変わる?(第1回:労働基準法改正)

堀田陽平
著者
TMI総合法律事務所 弁護士
HOTTA YOHEI

今回から、2回に分けて、「労働・雇用に関わる法改正で私たちの働き方や暮らしはどう変わる?」というテーマで、今後見込まれる労働・雇用関係の法改正に触れ、これらの改正が働き手の方々にどのような影響を及ぼすことが予想されるかについて解説していく。

まず第1回の今回は、労働基準法だけでなく労働関係法令全般に影響する「労働者」概念と「事業場」概念について解説する。

堀田陽平(TMI総合法律事務所 弁護士)

1990年生。2016年に弁護士登録し、都内法律事務所を経て、2024年10月、TMI総合法律事務所に入所。
2018年10月から2020年9月まで経済産業省経済産業省政策局産業人材政策室(当時。現在は「課」)に任期付き職員として着任。副業・兼業、テレワークの促進や、フリーランス活躍、人材版伊藤レポートの策定等の雇用・人材政策の立案に従事。
主な著書に、「Q&A 企業における多様な働き方と人事の法務)(新日本法規・単著)、「副業・兼業の実務上の論点と対応」(商事法務・共著)、「Q&A 実務家のためのフリーランス法のポイントと実務対応」(新日本法規・共著)等がある。

検討が進む「労働基準法」の改正-求められるテレワークや副業など多様な働き方への対応

「労働基準関係法制研究会」報告書

まず、前提として現在行われている労働基準法改正の議論についておさらいする。読者のみなさまにおいても強く記憶に残っているであろう最近の労働関係法令の改正として、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(いわゆる「働き方改革関連法」)がある。

働き方改革関連法では 、附則 第12条において、働き方改革関連法施行後5年を目途とした見直し条項が規定されており、この点も踏まえ、厚生労働省において「新しい時代の働き方に関する研究会」を設置し、さらにこの研究会の報告を基に、「労働基準関係法制研究会」を設置し、議論が行われてきた。

その報告書が、2024年12月に公表され、今後労働政策審議会において議論されていくことになる。

(参考)
新しい時代の働き方に関する研究会 報告書
労働基準関係法制研究会 報告書

したがって、現時点において、労働基準関係法制研究会報告書の内容がそのまま法改正につながるかは不透明であるものの、大きな方向性はここに示されているといえる。

「労働者」概念

(1)現在の「労働者」概念

①「労働者」概念が持つ意義

労働基準関係法制研究会報告書では、「労働者」概念について大きく取り上げられている。まず、前提として、現在の「労働者」概念について整理しておこう。

労働基準法上、「労働者」とは、「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。」と定義されている(労働基準法第9条)。これを分解すると、①指揮監督下の労働と②報酬の労務対償性に分けられる。

重要なポイントとしては、「労働者」に該当するか否かは、契約名称に関係がないという点である。

たとえば、ある業務に従事している者の契約書の名称が「業務委託契約書」等の「雇用契約書」(ないし「労働契約書」)以外の名称であったとしても、実際の働き方が上記①②の要件を満たしている場合には、「労働者」として労働基準法の適用を受けることになる。

また、労働基準法の「労働者」に当たる場合には、労働基準法以外の労働契約法や労災保険法、労働安全衛生法等の主要な労働関係法令の適用も受けることになり、また、労働保険・社会保険の対象ともなる。 したがって、「労働者」概念は、広く労働法政策や労働市場に影響を及ぼす可能性のある重要な概念といえる。

②労働者性はどのように判断されるか

上記のとおり、労働基準法の「労働者」は、①指揮監督下の労働と②報酬の労務対償性の2要件を満たすことで認められる。

とはいっても、実際の判断はそう簡単ではなく、諸般の事情を総合的に考慮して判断される。重要な判断基準となっているのは、「労働基準法研究会報告」(1985年12月19日)で示された判断基準であり、これを図にすると、以下のようになる。

【表1】労働者性の判断基準「労働基準法研究会報告」より筆者作成
【表1】労働者性の判断基準「労働基準法研究会報告」より筆者作成

さらに、令和3(2021)年3月(令和6(2024)年10月改定)に公表された「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」(以下「フリーランスガイドライン」)では、上記の判断基準をより分かりやすく以下のように図式化している。

【図1】内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」
(令和3年3月26日(令和6年10月18日改定))P.27 より抜粋
【図1】内閣官房、公正取引委員会、中小企業庁、厚生労働省「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」
(令和3年3月26日(令和6年10月18日改定))P.27 より抜粋

実際には、上記の要素は「有無」だけでなく「程度」も問題になり、また業務の性質も問題になる。今回は裁判例の紹介まではしないが、裁判例でも第一審と第二審の結論が分かれるような、微妙なケースも多く存在しており、判断が難しいケースもある。

(2)現行法の課題と改正の方向性

①現行法制の課題

上記の労働者性の判断基準は、行政解釈だけでなく裁判例においても参考にされ、実務的にも重要な判断基準とされてきた。

もっとも、この労働基準法研究会報告は1985年に公表されたものであり、そこから40年が経過した現在においては、働き方の変化、テクノロジーの発展により環境が大きく変化している。

特に、コロナ禍で普及したテレワークといった働き方や副業・兼業といった働き方は、「オフィスにみんなで集まり、一つの会社だけで働き続ける」といったこれまでの典型的な働き方とは異なる働き方であり、労働者性の判断要素に即して考えると、「場所の拘束性」は緩く、「専属性」も緩い働き方となる。

また、プラットフォームを介した働き方も増加し、さらにはAIやアルゴリズムによって人間の意思によらずに作業場所、作業内容の指示がなされるという場合が増加しており、こうしたAIによる指示も、「指揮監督下の労働」とみてよいかという問題が生じている。

②改正の方向性

上記のような現行法制の課題をふまえ、今後労働者概念の見直しについては、大きくは、以下の4パターンの方向性が考えられる。

  1. 労働者概念を広げて保護対象を広げる
  2. 労働者概念という「枠」は変えないものの判断要素をより精緻化する
  3. 「労働者」「非労働者」以外の第三の労働者概念(被用者類似の者等)を創設する
  4. 労働者概念は維持しつつ、必要な者に必要な保護を付与する

という方向が考えられる。

ここで、「これらの働き方を含めてすべて労働者とすればよいではないか」((1)-①の方向性)という考えがシンプルではあるものの、「労働者」概念は、他の労働関係法令、労働保険・社会保険関係に共通する概念であることから、企業の人事管理実務にどのような影響を及ぼすか、また労働市場にどのような影響を及ぼすかが未知数であり、慎重な検討が必要になる。

労働基準関係法制研究会報告書では、「『労働者』の実態が多様化しているといっても、同条で規定するような抽象的属性までもが大きく変わっているわけではなく、また諸外国の例をみても法律上の根本的な定義規定を変えている国はほとんどない。こうしたことから、現行の労働基準法第9条の規定の下で、具体的な労働者性判断が適正に、予見可能性を高めた形で行われるために、どのような対応が必要か検討するべきである。」とされている。

したがって、基本的には現行の「労働者性」の概念は変わらず(すなわち、(1)-①の方向性は採用しない)、判断要素の見直しや分かりやすさに追及する方向性(すなわち、(1)-②の方向性)が示されている。

具体的には、以下のような点が今後の論点となる見込みである。

  • 人的な指揮命令関係だけでなく、経済的な依存や交渉力の差等について、どう考えるか
  • 労働者性の判断において、立証責任を働く人側に置くのか、事業主側に置くのか(推定規定)
  • 労働者性の判断に当たり活用できる具体的なチェックリストを設けられるか

この「労働者」概念の議論は、上記のとおり他の労働関係法令や社会保険の適用等幅広く影響するものであることから、報告書では、今後、総合的な研究のため、新たに研究会を立ち上げる方向が示されている。

(3)働き手への影響

上記のとおり、労働基準法の「労働者」は、労働関係法令によって保護されるべき範囲を決める重要な概念であり、働き手にとって大きな影響を及ぼす可能性がある。

特に今、労働契約ではなく業務委託契約等の形態で就業しているような人々には、大きな影響を与える可能性がある。現時点で確定的な方向性は示されていないが、今後の議論を注視しておくとよいであろう。

「事業」概念

(1)現行法での「事業」概念の意義

次に、労働基準関係法制研究会では、「事業」(ないし「事業場」)概念についても議論がなされている。働き手にとってはなじみの薄い論点であると思われるため、まず現行法の考え方を解説する。

会社に勤める多くの人々にとっては、「自分は会社に雇用されている」という認識が一般的であると思われる。

実際、解雇権濫用法理等を定めている「労働契約法」という法律の関係では、その理解で間違いではなく、日常生活においてはそのような理解でも問題はない。ただし、労働基準法は、上記の「労働者」の定義のとおり、「事業に使用される者」を労働者と定義している。

このように、労働基準法は、事業(場)に対する規制であるとされており、「企業単位」ではなく「事業(場)単位」の規制になっているのである。

現行法制の行政解釈上、「事業」概念は、「工場、鉱山、事務所、店舗等の如く一定の場所において相関連する組織のもとに業として継続的に行われる作業の一体をいうのであって、必ずしもいわゆる経営上一体をなす支店、工場等を総合した全事業を指称するものではない」としている。そして、「事業」の範囲は「主として場所的観念によって決定すべき」としている。

そして、労働基準法では、事業(場)概念は、主に以下のような機能を有している。

  1. 就業規則の作成・届出の範囲(一括届は可能であるが、従業員代表等の意見聴取手続は事業場ごとに必要)
  2. 各種労使協定・労使委員会決議の作成・届出の範囲
  3. 事業場外労働、事業場を異にする場合の労働時間制度の適用
  4. 労働基準監督署の監督行政の単位

労働基準法は、企業と働き手の労働条件に関係する規制(民事的規制)であるとともに、「事業」に対する行政指導や行政処分等の根拠となる規制(行政的規制)でもあるところ、「事業(場)」概念は、後者の観点において特に重要な機能を果たしているといえる。

また、事業(場)概念も、労働者概念と同様に他の労働関係法令上も共通して考えられており、特に事業場の従業員数によって規制内容が定まる労働安全衛生法との関係は重要である。

(2)改正の方向性

ジョブ型雇用の流れのように、職種や個人の事情に応じて働き方が多様化している中において、就業規則の制定単位を始めとして、労働条件の設定に関する法制適用の単位が事業場単位を原則とし続けることが妥当であるかという点が課題となっている。

また、ここでもテレワークの普及は大きな影響を及ぼしており、中には全社員がテレワークをしつつバーチャル空間でのみコミュニケーションをとるという例もある。こうした場合に物理的な意味でも「事業場」を単位とした規制は実態に即していないといえる。

労働基準関係法制研究会においても、このような働き方を想定すると、「事業場」に労働の実態がないことから、物理的な場所としての事業場のみに依拠しない監督指導の在り方等を検討することが必要と指摘されている。

労働基準関係法制研究会報告では、改正の方向性として、事業場単位ではなく企業単位での労働基準法の適用が選択しとして示されている。具体的には、上記「労働者性」について議論する研究会において、この事業概念についても併せて議論する方向性が示されている。

(3)働き手への影響

事業(場)概念は、企業側の対応と監督行政側の対応に大きく影響するものの、労働者概念と比べると働き手への影響は小さいといえる。

もっとも、テレワークとの関係では、厚生労働省は、「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」において、「テレワーク」を「労働者が情報通信技術を利用して行う事業場外勤務」と定義しており、「事業場」の外であることを前提にした定義としている。そして、そのことを前提として、テレワークにおいては、「事業場外みなし労働時間制」の適用がありうることを示しており、柔軟な働き方を可能としている。

ここで「事業場」概念に変更が加えられる場合には、この事業場外みなし労働時間制の適用にも影響が及ぶ可能性があり、テレワークの場合の働き方にも影響がありうる。

また、副業・兼業との関係においても、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。」とされ(労働基準法38条1項)、この「事業場を異にする場合」には、「事業主を異にする場合」も含むとして、本業先と副業・兼業先との労働時間の通算を必要とするのが現行法制上の厚労省解釈である。

労働基準関係法制研究会報告においては、この”通算”の見直しについても議論されているが、この条文もまた「事業場」概念をベースとした規定であり、やはり「事業場」概念の変更によって、影響を受ける可能性が否定できないだろう。

まとめ

冒頭述べたとおり、労働基準関係法制研究会報告を受けた本格的な改正の議論は、これらか労働政策審議会で議論されていくことになる。ここでの議論は、かなり広範な論点が盛り込まれており、今回解説した「労働者」概念、「事業場」概念以外にも労働時間規制等の大きな論点も含まれている。

したがって、企業側だけでなく、働き手にとっても関心を持って議論を追いかけてみると良いだろう。

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