アルバイト採用活動における企業の「オヤカク」の現状と目的を考察
目次
新卒採用におけるオヤカクの現状
大学生の就職活動において、子どもの内定企業から保護者宛てに「内定確認の連絡」いわゆる「オヤカク」を受けたという回答は、2023年度では調査開始以来はじめて半数以上となり、増加傾向にある。【図1】
学生有利の売手市場となっている中で、企業の人材獲得競争も激化していることから、人材獲得のために、保護者の意向を確認することで内定辞退や早期退職の要因の一つになりえる、保護者との考えの相違が後から起こらないように、保護者の意向を確認しようとする動きが広がっているとみられる。
新卒採用において、「オヤカク」は企業が学生から選ばれるための施策の一つとなっているが、人手不足が続く中でアルバイト採用市場においても人材獲得競争は激化していることから、今回アルバイト採用における企業の「オヤカク」の現状と目的について調査結果をもとにみていきたい。
なお、民法上では企業が18歳未満の未成年と雇用契約を結ぶためには親など保護者の同意が必要なため、今回は18歳以上の成人した学生(高校生・大学生)の親への連絡に限定してみていく。
18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用における保護者の同意についての対応
企業が18歳未満の未成年と雇用契約を結ぶためには労働基準法上では制限はないが、民法上では18歳未満の未成年は親など保護者の同意が必要であるとされている。しかし、企業によっては雇用契約を結ぶ上で成人に対しても保護者の同意を必要とする場合もあり、企業によって対応には違いがあるようだ。
そこで、はじめに、企業に18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用における保護者の同意の必要有無を聞いたところ、「すべての18歳以上の成人している高校生・大学生は保護者の同意が不要」が40.7%ともっとも高く、次いで「すべての18歳以上の成人している高校生・大学生は保護者の同意が必要」が33.3%、「18歳~20歳未満の高校生・大学生のみ保護者の同意が必要」が14.2%、「18歳~20歳未満の高校生のみ保護者の同意が必要」が11.8%となった。【図2】
2022年4月から成人年齢が20歳から18歳に引き下げられており、18歳以上の成人している高校生・大学生は保護者の同意は不要とする企業がもっとも多くなった一方で、企業によって条件は異なるものの成人していても保護者の同意を必要とする企業も6割あることがわかった。
成人している学生であっても契約に関する知識や社会経験が少ないことも多いことから、採用する際のトラブルを防ぐために、親などの保護者の同意を必要と考えている企業が一定数あると考えられる。子供の自由は尊重しつつも、保護者の同意を得ることは、親などが子供のアルバイト環境を把握する方法の一つとして有効であり、子供が違法な働き方やトラブルに巻き込まれることへの防止に繋がるといった面では良い影響があるといえるだろう。
18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用における保護者の連絡についての対応
18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用時(応募~選考~内定)における保護者への連絡有無
次に、企業に18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用時(応募~選考~内定)に保護者へ連絡を行っているか聞いたところ、「すべての18歳以上の成人している高校生・大学生の保護者へ連絡を行っていない」が59.9%ともっとも高く、次いで「すべての18歳以上の成人している高校生・大学生の保護者へ連絡」が23.4%となった。【図3】
18歳以上の成人している高校生・大学生の保護者への連絡は行っていない企業が6割ともっとも多くなった一方で、企業によって条件は異なるものの、成人している学生の保護者へ何かしらの連絡を行っている企業は4割あった。
企業のアルバイト採用において、親の存在は無視できないものであることがわかる。そこで、次に企業がアルバイト採用時に親に連絡を行っている内容や目的についてみていく。
18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用時(応募~選考~内定)の保護者への連絡内容と目的
企業の18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用時(応募~選考~内定)の連絡内容としては、「各種規定の書類提出依頼」が50.0%ともっとも高く、次いで「店舗など職場への案内」が38.3%、「応募確認の連絡」が36.7%、「保護者向け資料の送付」が34.5%、「内定確認の連絡」が33.9%となった。【図4】
企業の保護者への連絡目的(複数回答)は、「保護者の合意が取れているか確認して、トラブルになることを防ぐため」が46.2%ともっとも高く、次いで「緊急連絡先を確認するため」が38.9%、「保護者の子どものアルバイトへの不安を軽減するため」が30.4%、「アルバイトへの保護者の理解を得るため」が29.7%となった。【図5】
ここでのトラブルとは、子どもがアルバイトをすることを知らないことやシフトや仕事内容・賃金といった労働条件に関する学生や保護者との考えの相違によるもめ事などが考えられる。学生がアルバイトの仕事を行う中で事故やもめ事が起きた場合に、事前に保護者の同意を得ておくことで、保護者に介入してもらいやすく、スムーズに話し合いなどの対応を行えるという点で企業と従業員双方にメリットがあるとみられる。
企業の選考や入社手続きに必要な書類の提出依頼や応募確認の連絡など、18歳以上の成人している学生のアルバイトに関して保護者の応募や入社の同意確認を行う企業が多い様子がうかがえたことに加えて、子どもがアルバイトをする企業を知らないこと、企業の経営に問題がないかなどを不安に感じる親が一定数いることからも、親の不安の軽減や企業への理解促進を目的として職場への案内や資料の送付を行う企業が多い様子もみられた。
また、アルバイト採用時に保護者に何かしらの連絡を行っている企業のうち、約3社に1社以上の企業がアルバイト採用において親へ内定確認の連絡、いわゆる「オヤカク」を行っていることがわかった。そこで、次に企業の「オヤカク」に関して連絡内容や目的をみていきたい。
18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用における保護者の内定確認についての対応
18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用内定時の保護者への内定確認の連絡方法と目的
アルバイト採用における親への内定確認の連絡、いわゆる「オヤカク」について、企業にアルバイト採用時の内定確認の連絡方法を聞いたところ、「(内定)同意書の記入・取り交わし」が48.6%ともっとも高く、次いで「保護者に電話」が43.0%、「保護者宛にメールを送付」が27.1%となった。【図6】
アルバイトの内定確認の目的(複数回答)としては、「保護者の合意が取れているか確認して、トラブルになることを防ぐため」が36.4%ともっとも高く、次いで「緊急連絡先を確認するため」が30.8%、「内定辞退を防止するため」「急な退職を防ぐため」が22.4%となった。【図7】
一方で、新卒採用においてオヤカクを行っていると回答した企業に対して、実施している意図や背景を聞いたところ、もっとも多かったのは「内定辞退対策として」(47.2%)で、「保護者の意見を重視する学生が多いと感じるから」(44.0%)が続いた。【図8】
新卒採用では内定辞退対策としてオヤカクを実施する企業が多く、アルバイト採用と新卒採用におけるオヤカクの目的の違いがうかがえる結果となった。
アルバイト採用においてはオヤカクを通じて、保護者の合意確認や緊急連絡先の確認といった親との関係性の強化を行うことで、採用後のトラブル対策を目的とする企業が多いものの、内定辞退や早期退職を防ごうとする人材確保を目的とする企業の動きもみられた。
そこで、アルバイト採用においてオヤカクは人材確保を行う上で効果的なのかを、学生の内定辞退という視点からみていきたい。
高校生・大学生からの内定辞退の経験
高校生・大学生のアルバイトの内定辞退経験と誰から内定辞退の連絡を受けたか
18歳以上の成人している学生からアルバイトの「内定辞退をされたことがある」企業は48.2%となり、学生から内定辞退された経験がある企業は少なくない。【図9】
また、アルバイトの内定辞退をされた際に誰から内定辞退の連絡を受けたか聞いたところ、「学生本人」が74.7%ともっとも高く、次いで「母親・父親」が26.1%となり、約4社に1社以上は学生の親から内定辞退の連絡を受けた経験があることがわかった。【図10】
内定獲得後に、親の反対を受けて内定辞退をする学生がいる可能性もあると考えられることから、企業の内定辞退を防ぐためには、親の納得を得ることも重要となっていると考えられる。
大学生のアルバイト選びの親の関与有無
親の関与有無
実際、大学生でアルバイト先を決定する際に親の関与がある割合は60.0%で前年より3.6pt増加しており、増加傾向にある。【図11】
また、大学生のアルバイト選びにおける親の関わり方としては「アルバイト先を決める時に親の意見を参考にした」が61.6%ともっとも高くなっている。【図12】
デジタル化が進む中で、求人サイトやSNSなどアルバイト探しの方法も多様化し、闇バイトやブラックバイトなどの報道を見聞きするなど、学生がアルバイト探しをする際に不安を感じる場面が増えていることから、保護者である親へアルバイト先を決める際に相談をすることが多くなっていると考えられる。そのためアルバイト選びに関する学生の意思決定への親の影響は大きいといえるだろう。
また、社会経験が少ない学生が選んだアルバイト先に対して保護者の視点から見ると不安を感じる場合もあり、親の反対を受けて学生が内定を辞退するケースもあると考えられる。
したがって、アルバイト採用においても、学生だけでなく、学生の保護者である親への連絡や意向の確認をしっかり行うことは、親の理解を得た上で、学生にアルバイト先として選んでもらうという点で人材獲得の施策の一つとして効果的であると考えられる。
高校生・大学生のバイトテロ防止策としてのオヤカク
企業におけるバイトテロ防止への対応有無と防止施策
ここまで企業の人材獲得におけるオヤカクの高まりについてみてきたが、ここからは少し視点を変えて、「バイトテロ防止策」の一つとしての企業のオヤカクについてみていきたい。バイトテロとは、アルバイト従業員が不適切な行為を動画などに取り、SNS上に投稿することで企業イメージ・評判などを著しく損なう行為をいう。
2024年に入っていくつかの飲食店等で店内における不衛生・不適切な動画が撮影、拡散されて問題となっている。また、アルバイト従業員が勤務時間中に携帯電話やSNSを使用することが可能な職場は52.1%と半数以上ある。【図13】
そこで、企業に現在バイトテロを防ぐための取り組みを行っているか聞いたところ、「行っている」が57.9%と半数を超えた。【図14】バイトテロは企業だけでなく、従業員自身の人生にも影響を与えうることから、バイトテロを防止への対応に取り組むことは企業と従業員双方にとって重要であるといえるだろう。
また、現在バイトテロを防ぐために行っている施策としては、「正社員に対して従業員教育に関する研修を実施」が31.7%ともっとも高く、次いで「正社員が不在にならないようにしている」が31.1%となり、バイトテロを防ぐために正社員の教育やシフトを見直す企業が多い様子がうかがえた。
一方で、「保護者に対してバイトテロについて説明・理解促進を図る」が13.8%と一定数の企業で学生だけでなく、親などの保護者への説明や理解促進に取り組んでいる様子がみられた。【図15】
さらに、【図7】でみた18歳以上の成人している高校生・大学生のアルバイト採用における親への内定確認の連絡、いわゆる「オヤカク」についての連絡目的では、「バイトテロを防ぐため」と回答した企業14.0%となり、約7社に1社と一定数あることがわかった。【図7】
オヤカクは企業の人材獲得のための施策としてだけでなく、バイトテロ防止策の施策の一つとしても企業において実施されていると考えられる。学生にとって身近な大人が親であるため、子どもがアルバイトを始める前に、一般常識やモラルに反する行為は“悪ふざけでは済まない”という問題意識を共有して、事の重大さを理解させることは重要といえるだろう。
アルバイト採用におけるオヤカクの現状と目的
アルバイト採用において保護者に何かしらの連絡を行っている企業は4割で、そのうち保護者への内定確認の連絡、いわゆる「オヤカク」を行う企業は約3社に1社以上と一定数あることがわかった。2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられたことで学生が一人で契約できることが増えているが、アルバイト選びに関する意思決定の際に親の意見を参考にする学生は多く、学生の意思決定への保護者の影響は依然として大きいといえる。
新卒採用におけるオヤカクは、主に内定辞退を防止するための施策の一つとして実施している企業が多い一方で、アルバイト採用におけるオヤカクは、アルバイトの内定辞退や早期退職の防止といった人材確保を目的とした企業もあるものの、採用後のトラブル対策を目的とする企業が多い様子が特徴としてみられた。
オヤカクは新卒採用時だけに限らず、アルバイト採用や企業がバイトテロの予防線とするといった面でも重要な施策となっていることが考えられる。
キャリアリサーチLab研究員 三輪 希実