医療・福祉業界の人手不足の解消における、主婦(夫)人材の可能性
コロナ禍における主婦(夫)のアルバイト実態
新型コロナウイルス感染拡大以前と比べてシフトが減少した主婦(夫)は28.7%いた。また、シフトの減少に伴い収入がどの程度減少したかについて聞いたところ、25.5%の主婦(夫)が5割以上減少したと回答した。【図1】【図2】コロナ禍においてアルバイトのシフトや収入面で影響を受けている主婦(夫)が4人に1人以上いる様子がうかがえることから、本コラムでは主婦(夫)のアルバイトに関する意識についてみていきたい。
主婦(夫)のアルバイトに関する意識
直近でアルバイトを探した経験がある人を対象に、アルバイトを探すとき「やったことはないが、自分にもできそう」・「今まで経験したことがある」のどちらを優先するかを聞いたところ、主婦(夫)は他属性と比較して「今まで経験したことがある」方を優先する結果となった。【図3】また、重視する条件として「長期(3か月以上)」が53.9%と半数以上となった。【図4】主婦(夫)がアルバイトを探す上で、“これまでの経験“や”長期で働ける“等、安定性への重視度が強い傾向がみられた。
コロナ禍では主婦(夫)の働くことに対する意識の変化もみられた。現在アルバイトとして働く主婦(夫)に対し、今後希望する雇用形態を聞いたところ、「家事や育児、介護等との両立がしやすい」等の理由から約8割が引き続きアルバイト・パートで働きたいと答えた。正社員(短時間・フルタイム)で働きたいと回答したのは23.0%であったが、その理由として、2021年度は「雇用が安定しているから」が「賞与が欲しいから」を上回っており、「固定給が欲しいから」に次ぐ2番目の理由となった。雇用が不安定になったコロナ禍で、主婦(夫)の安定志向が高まった様子が調査結果からうかがえた。【図5】【図6】
医療・福祉業界のアルバイト雇用について
アルバイトを雇用する企業の採用担当者に、アルバイトの人手不足感を定期的に聴取している調査結果をみると、医療・福祉業界の人手不足はコロナ禍でも恒常的に高く、常に約半数が不足感を感じていた。【図7】。また、採用活動実施率も全体と比べて常に高い傾向にあった【図8】。活動実施率を月別でみると21年1-2月が最も高くなっているが、これは新型コロナウイルスのワクチン接種が開始したことにより対応する人の採用ニーズが増加し、採用活動実施率の上昇に影響したと考えられる。21年9-10月の採用活動実施率は31.3%となっており、直近でも全体と比較して実施率は高い。医療・福祉業界はコロナ以前から慢性的な人手不足が続いており、少子高齢化により今後も人手不足感は強まると懸念されていることから、働く人に安定的な雇用を確保できる可能性が高い。また、介護職員初任者研修(旧ホームヘルパー2級)などの資格取得のサポートをしてくれる職場もあり、経験者だけでなく未経験者でも専門スキルを身に付けられる環境がある。そういった理由から、手に職をつけることで勤務先の企業の状況に左右されずに働き続けることができる業界といえるのではないだろうか。これらのことから、筆者は医療・福祉業は長期的に安定して働きたいという主婦(夫)のニーズにマッチしている仕事であると考えている。
主婦(夫)の働く環境について
主婦(夫)の現在のアルバイト職種内訳をみると医療・介護・福祉が2番目に多く、実際に医療・介護・福祉業界で働いている主婦(夫)が多いことがわかる【図9】。次に、主婦(夫)が仕事をする上で悩んでいることについてみると、「急な休みに対する職場への罪悪感」が最も高く、特に[小学校入学前の子供がいる][小学生の子供がいる]主婦(夫)に高い傾向がみられる【図10】。主婦(夫)が子育てと仕事を両立するためには、子育てへの理解がある職場環境であることが重要であるが、急な休みに対応してもらうためには、同じように子育てをしながら働いている人がいる職場の方が働きやすいと考えられる。なぜなら、同じ状況に置かれていることで、お互いに持ちつ持たれつの気持ちで支えあいながら仕事を行えることもあるからだ。そのため、医療・介護・福祉の仕事に就いている主婦(夫)が多いという点は主婦(夫)の働きやすさにも繋がるのではないだろうか。
まとめ
慢性的な人手不足が続く医療・福祉業界において、医療・介護・福祉の職種は長期的に安定して働きたいという主婦(夫)のニーズに合っていると考えられる。また、医療・福祉業界は専門知識が求められる業務が多いが、経験のある職種・仕事内容を選ぶことや長期間同じ職場で働くことを希望する主婦(夫)が仕事を通じて専門スキルを身に付けられる環境を整備することで、企業側は即戦力としての活躍が期待できるのではないだろうか。今後、少子高齢化が進み、さらなる人手不足が懸念される医療・福祉業界で、主婦(夫)が専門スキルを身に付けキャリア形成を行う支援をするとともに、職場での子育てへの理解やシフトを柔軟に対応するなどの主婦(夫)が働きやすい労働環境を整えていくことが、主婦(夫)の社会進出を支え、医療・福祉業界の人手不足の手助けに繋がると考える。
キャリアリサーチLab研究員 三輪希実