テレワークが普及するとUターン人材はふえるのか
最近「テレワークの普及によって都心部から地方に人が移住している」といった話題が、各種メディア等で取り上げられている。政府においても長年の課題であった東京一極集中の転換期ととらえ、積極的に推進する動きも見られる。では実際に人の移動はどうなっているのか、またテレワークが進むと本当に都心部から地方への移住が進むのかについて、政府統計や昨年8月に実施した「マイナビライフキャリア実態調査2020年版」のデータを見ながら現状を確認してみたい。
■東京都への人の流入は前年の半分にまで減少
まずは昨年の「住民基本台帳人口移動報告 2020年(令和2年)結果」から国内の転入転出状況を都道府県別に確認してみると、東京都において転入超過はしているものの、その人数は2019年と比較すると5.2万人減少していることがわかる。その分、大阪府や福岡県が前年を上回る転入超過となっており、東京一極集中が続いていた状況から大きな変化が起きていることが分かる【図1】。実際、昨年6月に弊社が実施した「転職活動者の行動特性調査」においても、希望勤務地が東京都のみがコロナ前の44.2%からコロナ後には5.6pt減少の38.6%と、最も落ち幅が大きかった。コロナウイルス震源地のような印象を持たれたことに加え、長引くリモート環境で大学生が一時的に親元に戻ったり、転勤社員の数が減少したりしたこと等が主な要因だと考えられる。少なくとも過去に例のない人口移動の状況になっていることは間違いないようだ。
【図1】都道府県別転入超過数(2019-2020年)<日本人のみ>
■実際のテレワーク実施率は2割程度
次にテレワークの状況について見ていきたい。これは「マイナビライフキャリア実態調査2020年版」からデータを抽出している。実際に非常事態宣言後の4~8月時点においてテレワークを行っていた割合は制度の有無を別にして2割程度(22.5%)だった※1。これを正規社員に限ってみると31.5%となり、就業形態別で比較すると最も多いことが分かる。いずれにしても現時点で対象になりそうなのは就業者の2割程度で、制度も整っている就業者に限定すると14.7%程度と、まだ限定的であることが分かる【図2】。
※1.制度として導入され自分も適用14.7%+制度として導入されていないがコロナ対策としてテレワーク実施7.8%の合計
【図2】2020年4~8月時点でのテレワーク職場実施状況
■テレワークができたら地元に住みたいと思うか
この中でテレワークの経験が最も多い正社員4,552名に限定して「もしテレワークができたら地元※2に住みたいと思うか」を集計してみたところ63.2%が「思う」と回答しており、肯定的な意見が比較的多いことが分かった。但し、元々地元エリアに勤務している人や他エリアに移住して勤務している人などが混在している為、現在の勤務地都道府県エリアと地元都道府県エリアが一致している人を「地元勤務」とし、不一致の人を「地元外勤務」として区分して各エリア別に集計を行ってみた。その結果、やはり「地元勤務」の人は地元に住みたいとする割合が高く、「地元外勤務」の人は低い傾向となった。これを東京都のみで比較してみると、地元が東京都以外で勤務地が東京都の「地元外勤務」550名のうち、約半数(48.4%)が地元に住んでみたいと回答しており、今後テレワークが広がればUターンを希望する人材が増える可能性が見込める結果となった【図3】。
※2.地元の定義:15歳までに最も長く住んでいた都道府県としている
※3.地元エリアの定義:例えば南関東の場合、千葉・埼玉・神奈川いずれかの県に15歳までに最も長く住んでいれば地元エリアに該当としている。グラフでは現在勤務している都道府県を同じエリア区分でグループ化し、地元エリアと比較している。
【図3】エリア別「もしテレワークができたら地元に住みたいと思うか」【就業者(正規)限定】
■今後、Uターン人材を増やすために必要な施策とは
では今後、どのような施策を打てばテレワークをきっかけとして地元に住もうと考える人が増えるだろうか。その課題を検討するべく、現時点で地元就職を希望しない人の意見を参考にしてみたい。同じ「ライフキャリア実態調査2020年版」において「地元就職希望の有無」を別設問で聞いている【図4】。その設問で「地元就職を希望しない」と回答した24.2%(1,101名)が挙げた「地元就職を希望しない理由」を見てみると、最も多いのが「地元に希望する仕事や企業がないから」(24.2%)であった。他にも「地元では仕事に就けるか心配だから」(18.1%)や「地元では給与が下がってしまうから」(16.9%)といった仕事に起因する理由(破線)が多い。このような仕事由来の心配は現在の会社に勤めながらテレワークが可能になればクリアしやすい課題といえる。他の理由としては「生活の利便性が悪くなるから」(21.3%)や「家族が生活環境を変えなければならないから」(15.6%)などが挙げられている(二重線)。これらはすぐに解決できる問題ではないが、各地方自治体が取り組んでいくとすればこのあたりだろう。特に家族の生活環境変化に関しては、できるだけ不安を払しょくする情報提供や各地方自治体独自の取り組みが重要になってくるのではないだろうか。【図4】「地元就職を希望しない理由」【就業者(正規)限定】
■最後に
これまで見てきた通り、コロナウイルスに端を発したテレワークのひろがりは、就業者の地元移住検討を多少なりとも後押しする結果となっているようだ。とはいえ、テレワークを経験している就業者は正社員でも未だ3割程度であり、全ての就業者が対象となるわけではない。今後はどの程度の企業がテレワークを推進していくのかによって、割合は大きく変化するだろう。また就業者の意識も急な変化に直ぐに対応できないことも考えられる。家族の生活環境を変えるのは大きな決断にもなろう。
ただこれだけは言えるのは、この1年で職場と就業者の住環境との関係性が大きく変化してきているということだ。今後は少しずつ職場と住環境の結びつきが薄らぎ、必ずしも職住接近が良いものと見なされなくなる可能性が示されている。また、経営者の意識も変化し始めている。既に本社機能を地方に移設したり、オフィスのダウンサイジングに取り組み始めたりするなど、新たな取り組みを始める企業が出始めている。
まだ様々な課題はあるものの、新しい働き方に期待を寄せつつ、今後の動向を追っていきたい。
キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也