「2025年問題」が迫る中、企業における仕事と介護を両立する従業員への支援制度の実態は
目次
はじめに
「2025年問題」をご存知だろうか。日本が超高齢者社会において直面するさまざまな課題を指す。特に、2025年には、団塊の世代(1947~1949年に生まれた世代、第一次ベビーブームといわれ人口が多い)が75歳以上の後期高齢者になり、医療や介護における社会保障費が増大すると考えられることから、このように呼ばれている。
社会保障費の増大も大きな課題ではあるが、生活者目線に立つと喫緊の課題としてあげられるのは「介護する人材の不足」だろう。少子高齢化の影響により、労働力人口が今後減少していくことは人口推計からも明らかだが、その結果、医療や介護における人材不足が深刻な問題とされている。特に介護においては、介護施設に入りたくても入れない状況から、家族による介護がより求められるようになると考えられる。
先日、コラム「働きながら家族の介護を担う従業員の現状と支援の必要性」でも述べたが、昨今は共働き世帯や単身世帯が増えているため、以前よりも「家族介護」が困難になっている。誰もが「仕事と介護の両立」に直面する可能性が高くなっているのだ。一方で、企業側の仕事と介護の両立を支援する体制はどの程度、整備されているのだろうか。
本コラムではマイナビが実施した「企業におけるビジネスケアラー支援 実態調査(2024年7月)(※1)」の結果を元に、現在の状況について解説していく。
※1:働きながら家族の介護を担う人のことを「ビジネスケアラー」と呼ぶ。他にもワーキングケアラーと呼ばれることもある。
「育児・介護休業法」改正内容についての理解
民間企業の人事・労務業務担当者に対して、2025年4月に施行される「育児・介護休業法」 の改正内容について知っていたかについて聞いたところ、「法改正があることは知っていた」を含めた認知度は9割以上となった。しかし、「法改正の内容を読み、おおむね理解していた」については54.9%にとどまった。【図1】
改正される育児と介護に関する3項目(※2)について制度が整備されているかを聞いたところ、「介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度強化」については、「対応有無を含め社内で検討している(30.3%)」が最多となった。
また、制度化されている(「本公布の前から制度化されていた(26.5%)」と「本公布に対応し制度化された(22.3%)」の合算)という回答は48.8%と、半数に満たないことがわかった。
育児支援を示す「【育児】 子の年齢に応じた柔軟な働き方の拡充(残業免除、テレワーク、時短勤務、新たな休暇制度など)」では、制度化されているとの回答が59.0%であることと比べると、ビジネスケアラー支援の取り組みは育児支援と比較しても、対応が遅れていることがわかった。【図2】
※2:「育児・介護休業法」改正内容
①子の年齢に応じた柔軟な働き方を実現するための措置の拡充
②育児休業の取得状況の公表義務の拡大や次世代育成支援対策の推進・強化
③介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等
働きながら家族の介護を担う従業員の支援制度について企業の対応状況
働きながら家族の介護を担う従業員「ビジネスケアラー」への支援制度について企業の対応状況を聞いたところ、「既に既にすでに支援制度があり内容も充分である」と答えたのは11.5%にとどまった。
一方で、「支援制度があるが見直しが必要(24.4%)」および「早急に対策に取り組むべきだと思う(25.6%)」の回答が半数を占め、現状に問題意識を持っているが支援制度がでは充分ではないと感じている現状がうかがえた。 【図3】
次に、働きながら家族の介護を担う従業員への支援制度や取り組み状況について、具体的な内容を聞いた。
制度や取り組みごとに「あてはまる」の割合がもっとも多かったのは「介護を行う社員の状況に合わせ、勤務時間の調整ができる(フレックス・時短勤務等)」で45.5%、次いで「介護休暇・介護休業の取得の流れを社内に周知している(41.9%)」「介護を行う社員の状況に合わせ、柔軟にテレワーク・リモートワークができる(38.5%)」となった。
働き方改革やコロナ禍をきっかけに広がった「多様な働き方」に対応した制度が、介護を行う社員への支援にも役立っているようだ。【図4】
企業担当者が働きながら家族の介護を担う従業員の支援を促進するためのきっかけ
働きながら家族の介護を担う従業員の支援を促進するきっかけとなるものについて聞いたところ、「介護を行う社員が増えた場合」が43.0%で最多となり、次いで「従業員ニーズが高ければ(35.8%)」「介護離職が増えた場合(31.9%)」となった。
冒頭で述べたように、団塊の世代が75歳以上となり、国民の5人に1人が後期高齢者という超高齢化社会を迎える、いわゆる「2025年問題」が目前に迫る中、「課題が顕在化してから取り組みを行いたい」と考える企業がまだまだ多いという現状がわかった。
以前、こちらのコラム でも述べたとおり、介護は育児に比べて、従業員が会社に対して状況を伝えづらい点が指摘されており、仕事と介護の両立への危機感に関して、当事者と企業の温度差がある点は大きな課題といえるだろう。2025年が目前に迫っているこのタイミングで、企業側は、まず社員の実態を把握することが一歩目の課題解決につながるといえよう。【図5】
さいごに
本調査は株式会社マイナビ「ウエルネス推進事業本部(※3)」が実施したものである。
調査担当者は以下のように語っている。
経済産業省による試算では、「仕事と介護の両立」・「介護離職」による経済損失は2030年に9.2兆円と予測されており、介護を行う社員支援の強化指針が明示されています。
本調査で明らかになったのは、「ビジネスケアラー」支援は出産・育児支援に比べて遅れているという現状です。背景にあるのは、介護を行う社員の状況を把握することが難しいためだと考えられます。
「ビジネスケアラー」支援については「制度があればよい」のではなく、一人ひとりの状況に合わせた周囲の理解やサポートが何よりも欠かせないため、まずは経営者や管理職が社員・部下の実態を把握しやすい環境を作りながら、これらの課題に向き合っていく必要があると考えています。
ウエルネス推進事業本部 ケア事業支援室 副室長 佐藤 公光子
調査概要
○調査期間/2024年7月12日(金)~7月14日(日)
○調査方法/インターネット調査
○調査対象/民間企業で人事・労務業務に携わる20歳以上
○調査機関/マクロミル
○有効回答数/618名
*調査結果は、端数四捨五入の都合により合計が100%にならない場合があります。
※3
日本も賃金は上昇しているが、直近5年間の上昇率を他国と比較すると、上昇幅が小さいことがわかる。なお、アメリカの最低賃金は、連邦政府と各州政府によって定められており、連邦最低賃金は全国一律で、各州はそれを下回ることはできないが、上回ることは可能というルールのもと、各州の最低賃金は地域の経済状況や労働市場の状況により異なる。
【表1】を見ると2020年から2024年まで金額が一定になっているが、独立行政法人労働政策研究・研修機構の報告 によると、2024年1月には全米50州のうち、22州で最低賃金が引き上げられており、その金額もまた、最低賃金の7.25ドルを上回る金額で設定されている。