マイナビ キャリアリサーチLab

最低賃金の引き上げがもたらす、アルバイトで働く人への影響

早川 朋
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
TOMO HAYAKAWA

8月中旬、すべての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされ、全国加重平均額は昨年度から28円引き上げの930円となった。
この28円の引き上げ額は、昭和53年に※目安制度が始まって以降で最高額となっている。
コロナ禍で収入が減少した人も多くいる中、アルバイトで働く人にとってはポジティブな出来事に思える。
本コラムでは、アルバイト情報サイト「マイナビバイト(https://baito.mynavi.jp/)」に掲載された求人データから作成した「平均時給レポート」をもとに、コロナ禍における平均時給の変化について、また、最低賃金の引き上げがアルバイトとして働く人にどのような影響をもたらすのかについて述べていきたい。

※目安制度=地域別最低賃金の全国的整合性を図るため、中央最低賃金審議会が毎年、地域別最低賃金額改定の「目安」を作成し、地方最低賃金審議会へ提示している。また目安は、地方最低賃金審議会の審議の参考として示すものであって、これを拘束するものでないこととされている。

コロナ禍でアルバイトの平均時給はどう変化したのか

コロナ禍前の2019年は、深刻な人手不足からアルバイトを採用するために時給の引き上げを行っていた企業が多くあった。最低賃金も年々引き上げられていたこともあり、アルバイト求人の平均時給は右肩上がりで推移していた【図1・図2】。
2020年に入りアルバイト採用市場にコロナの影響がではじめ、パートタイム有効求人倍率も大きく減少したが、そのような中でも平均時給が大きく下がることはなかった【図3】。それは、同一労働同一賃金の施行の時期が重なったこと、業界によって人手不足感にもばらつきがあったこと、優秀な人材であれば採用したいと考えていた企業もあったこと等、コロナ後を見据えて、企業が新規アルバイトの求人時給を大きく下げることをしなかったからだ。
しかし、2020年度はコロナによる企業の厳しい経営状況を鑑み、最低賃金の引上げの目安を国が出さなかったこともあり、平均時給の推移はこれまでのように右肩上がりではなくなった【図1・図2】。

【図1】平均時給推移

平均時給推移/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」
【図1】平均時給推移/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」

【図2】平均時給前年同月差

平均時給前年同月差/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」
【図2】平均時給前年同月差/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」

【図3】パートタイム有効求人倍率(季節調整値)推移

パートタイム有効求人倍率(季節調整値)推移/厚生労働省「一般職業紹介状況」を加工
【図3】パートタイム有効求人倍率(季節調整値)推移/厚生労働省「一般職業紹介状況」を加工

最低賃金の引き上げの影響はどこに?平均時給との差から見えること

次に2021年10月改定予定の地域別最低賃金を、2021年7月の平均時給と比較してみる。すると、すでに全都道府県において平均時給が改訂予定の最低賃金を上回っており、最も平均時給が高い東京では256円もの差が見られた。
本コラムで使用している平均時給は、マイナビバイトに掲載されたアルバイト求人のデータから作成しているため、実際に労働者に支払われている給与とは異なることが前提ではあるが、この結果だけを見ると、最低賃金が引き上げられても、企業側にも働く側にも、大きな影響は及ばないように思える。
しかし、すべての県において東京ほど平均時給が最低賃金を上回っている訳ではなく、青森県では35円、秋田県では56円など、地域差が生じていることがわかる【図4】。
また平均時給は職種別でも大きく差があり、「アパレル・ファッション関連」が最も低く965円、次いで「飲食・フード」が968円と低めとなっている【図5】。
これらのことから、最低賃金の引き上げのアルバイト採用へのインパクトは、中小規模企業の多い地方やすでにコロナの影響を大きく受けている「アパレル・ファッション関連」「飲食・フード」などを採用している企業に生じやすいと考えられる。
今回の最低賃金の引き上げに対し国も支援策を講じており、急速にアルバイト雇用環境が悪化することはないと思われるが、コロナの影響が長引き深刻化していくと、企業の経営状態が悪化し採用を縮小する企業が増える等、本来働く人にとってプラスに働くはずの最低賃金の引き上げが、雇用機会の減少というマイナスに働く可能性もはらんでいるのだ。

【図4】平均時給と改定後最低賃金の差が小さい都道府県上位

平均時給と改定後最低賃金の差が小さい都道府県上位/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」
【図4】平均時給と改定後最低賃金の差が小さい都道府県上位/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」

【図5】職種別平均時給(全国平均)

職種別平均時給(全国平均)/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」
【図5】職種別平均時給(全国平均)/マイナビ「2021年7月度アルバイト・パートの平均時給レポート」

最後に

2020年4月から同一労働同一賃金の施行がはじまり(中小企業は2021年4月~)、正社員と非正社員の不合理な待遇差が禁止されたが、賃金水準にはまだ大きな差がある。
雇用のセーフティネットである最低賃金の引き上げは、アルバイトとして働く人が安定した収入を得て安心して生活をするために必要不可欠なことであるが、コロナ禍にある現在は、状況によっては雇用機会の減少に繋がることも考えられる 。
10月以降、最低賃金の引上げがアルバイトとして働く人にどう影響するかは、感染状況に伴う景気動向によって大きく左右されることになるだろう。引き続き今後の動向に注目していきたい。

キャリアリサーチLab主任研究員 早川 朋

関連記事

コラム

緊急事態宣言解除後の飲食アルバイト・企業と求職者の動向_9-10月定点調査結果より

コラム

アルバイトのリファラル採用は定着するのか|業種や報酬の有無から考える

アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)

調査・データ

アルバイト採用活動に関する企業調査(2021年)