新卒一括採用に代表される日本型雇用が一般的とされる日本企業では、ワークキャリアの入り口を大卒中心に考えがちですが、就職に至るルートはそもそも一つではありません。本シリーズ企画では、学びと仕事の関係がいつ、どのような形で「標準化」されてきたのかを振り返るとともに、「標準なき時代」である今、さまざまなキャリアの入り口の存在と、その後のキャリア形成について再考します。
今回は高卒採用に力を入れている企業に取材し、どのように人材を育てているのかをうかがいました。話をうかがったのは、高知県で創業以来45年以上にわたって高校生採用を継続してきたネッツトヨタ南国株式会社です。
同社の採用を務めるビスタワークス研究所 執行役員の長山大助氏に、採用と育成の根底にある人事哲学から、高卒入社者への具体的な支援、ジョブ型雇用についてのお考え、そして地方の中小企業が長く活躍できる組織をつくるための視点まで、幅広くお話いただきました。
本稿は連載「標準なき時代にワークキャリアの入り口を再考する」の第3回となります。
長山 大助(ながやまだいすけ)
株式会社ビスタワークス研究所 執行役員
東京での営業経験を活かして、2001年にネットヨタ南国株式会社(旧トヨタビスタ高知)へ営業スタッフとして中途入社。新車・中古車の販売を8年間担当。同社の全ての拠点で実務経験を積み、営業グループリーダー、プロジェクトチームリーダーを務めイベントなどの企画・運営にも深く携わる。2009年にビスタワークス研究所へ異動し2020年から現職。ネッツトヨタ南国の採用、新入社員教育・人財開発業務、インターンシップや学生向けのキャリア教育を含めた業務全般を統括しながら、企業向けの採用活動やリーダーシップ開発を支援する講演会や学習会の講師を務める。
※株式会社ビスタワークス研究所は2007年にネッツトヨタ南国の社内カンパニーとして設立され、2010年10月に発足した。
「会社の器は社員で決まる」という哲学
Q:貴社は創業以来「人財育成」を最重要課題に位置づけ、社員が活躍できる仕組みや、人財育成・評価のあり方を構築されてこられました。その背景にある人事哲学や、現在も大切にされている考え方についてお聞かせください。
会社の未来をつくるのは「人」である
長山:会社は社員によって成り立っています。よく「会社は経営者の器以上にならない」と言われますが、弊社では会社の器は経営者ではなく社員一人ひとりの総和で決まる、と考えています。経営資源というと、人、もの、金、時間、情報などと言われますが、これらはすべて人が生み出すものであり、また、いったん生み出された商品やお金は、生み出された時点ですでに過去のものです。
つまり、会社を未来に向けて進めていけるのは人しかいない、という考えが根底にあります。そのため、採用はもっとも重要な業務の一つと位置づけ、創業以来ずっと大切にしてきました。
人間性尊重の経営を大切にする理由
長山:また、人間性尊重の経営も大切にしています。物心両面の幸福を社員に提供することを重視する企業は多いと思いますが、当社のような規模の中小企業には、そこまでの資産の余裕も、休日を潤沢に提供できるほどの経営基盤もないことがほとんどです。社員に還元できるものは、すべてお客様からいただいた原資が元手になります。そのため、物を先に約束するのではなく、まずは心を尽くすことを大切にしています。
働く人の喜びや動機については、古くから研究されてきました。アメリカで行われたホーソン実験(1920年代、工場で職場環境と生産性の関係を調べた研究)では、照明を明るくしても暗くしても生産性はさほど変わらず、上がり続けました。上司や仲間などから注目を浴びている・関心を集めていると感じると、それに応えたい気持ちが生じて、成果を上げようと力を発揮し生産性が向上したためだといわれています。つまり労働条件の良し悪しや賃金の多寡よりも、一人ひとりが大切にされていると感じられることが、働く人のモチベーションに大きく影響するという研究です。
当社もこの考え方を大切にしています。社員一人ひとりが笑顔でお客様に親切に接することで、「こちらで車をお世話になります」と言っていただき、そこで得られた収入がみんなの分け前になっていく、という関係を築きたいと考えています。人間性尊重の経営と、人間だけが持ち得る心の機微を大切にするという考え方が、根底にあります。
採用前から始まる人材育成
長山:こうした人間性尊重の考え方は、人材の採用・育成の仕組みにも表れています。弊社ではそもそも、入社する前の段階、インターンシップや採用活動のときから人材育成が始まっているという視点を持っています。
そのうえで、インターンシップなどのタイミングから「ライフラインシート」を作成してもらっています。「ライフラインシート」とは、生まれてから今日までの出来事と、そのときどきの心の動きを年表のように、A3の紙1枚に折れ線グラフとしてまとめるものです。
作成後は、インターンシップ生と採用担当者の前で発表してもらいます。発表は20分、質疑応答は40分と、一人につき1時間以上をかけます。本人には客観的な事実だけでなく、それぞれのできごとにどのような意味づけをしているかを語ってもらい、そのうえで我々が質問を重ねていきます。 たとえば、「つらい思いをしたのに、なぜ部活を辞めなかったのか」「成績は良かったのに、なぜ心が晴れなかったのか」といった問いを重ねるなかで、本人がこれまでの人生を振り返り、再解釈し自己理解を深め、自分の価値観を明らかにしていくことを大切にしています。
価値観への共感を重視した採用
長山:「あなたの価値観は何ですか?」と突然聞かれて、明確にその内容を言語化して答えられる若者はほとんどいません。そのため弊社では、価値観を直接尋ねるのではなく、まず我々が大切にしていることを伝え、それにどれだけ共感できるかによって、価値観が合っているかを判断しています。
点数をつけて評価するようなものではありません。その語りには、私だけでなく、多くの先輩社員も加わり、自分自身の部活動での挫折や、大切にしてきた価値観について話します。そこに深く共感した学生は入社を決め、共感しなかった学生は、自らの意思で別の道を選んでいきます。
面接で行動や考えを聞く企業は多いと思いますが、その裏にある価値観まできちんと問えているケースは少ないのではないでしょうか。人物そのものに迫ることが、採用の要になっていると考えています。
学歴によらない育成方針と、高卒入社者への支援
Q:貴社では学歴によらない採用をされていますが、入社後の人材育成についてどのように設計されているのでしょうか。また、特に高卒で入社された方のキャリアの広がりについて教えてください。
学歴ではなく人柄と価値観を見る
長山:学歴によって人間性が変わるわけではありません。お客様に自動車を販売する力や、整備、点検の技術といった、商いに直結する部分についても、学歴で大きく変わるとは思えません。整備には専門知識が必要ですが、お客様に親切に対応することや、悩みに寄り添うことといった、私たちの仕事で特に大切な部分は、そもそも大学では学ばないものです。採用活動で重視しているのは、まさにこうした人柄や価値観の部分であり、そこは学歴とは関係がないというのが根底にある考え方です。
高知県のような地方都市では、東京や大阪の有名大学を出た人材との出会い自体がそもそも少ないという事情もあります。そこで青い鳥を探すよりも、目の前で仲間になってくれる人に、自分たちが何をできるかを考えていく方が健全だと思っています。
ただ、高校生は親元で暮らしていることが多く、クレジットカードをつくったことも、携帯電話を自分名義で契約したこともないという方も少なくありません。
そのため、大学生と高校生とでは、入社後の教育を多少変える必要はあると考えています。 もっとも、これは入社後の導入教育で十分に補える範囲の問題です。専門的な整備の技術のように、後天的に伸ばせる部分を教えるのが会社の役割だと考えています。
一方で、人柄や価値観、本人がもともと大切にしていることを入社後に変えようとすると、居心地の悪さにつながりやすいと感じています。大切にしている価値観の部分はしっかりと共有したうえで、仲間になってもらうのがいちばんよいと考えています。
整備士を目指す人のための三つの選択肢
長山:自動車整備士の育成では、いくつかの選択肢を用意しています。整備の仕事に興味があっても、「整備の専門学校を出ていないと採用してもらえない」という噂を聞いて、自ら選択肢から除外してしまう高校生が少なくないためです。高校を卒業して就職を選ぶ方には、家庭の助けになりたいといった、相応の理由があることが多いと感じています。
そこで弊社では、高校の普通科出身の方でも、現場で働きながら経験年数を積んで国家資格を取得していく道を用意しています。親御さんと同居しながら、給料で親孝行をしつつ、自分がなりたい整備士を目指していくという形です。
もう一つは、国家資格を最短で取得できる専門学校に進学したいけれども、家庭に負担をかけたくないという方向けに、企業推薦のうえで奨学金を支給する制度です。
そして前年から始めたのが、高校生採用のタイミングで内定を出し、4月に社員として入社してもらったうえで、2年間専門学校に通ってもらう形です。給料を学費や一人暮らしの費用に充てることができます。この場合、夏休みや春休みなど学校が休みの期間に現場に来てもらい、先輩たちから、学校で学ぶ知識ベースのものとは違う、現場で技術がどう役立っているかを教わります。接客の現場では、お客様への説明でしどろもどろになることもあります。そうした経験から、新学期には「説明力を身につける必要があるな」といった課題を持ち帰ってもらう、というイメージで進めています。
整備の仕事に興味がある高校生に出会えたときには、この三つの選択肢のなかから、その方のキャリアに合いそうな形を一緒に考えるようにしています。
まずは会社を好きになる研修
長山:入社後は、大卒でも高卒でも6カ月間の新人研修があります。営業職で入社した新入社員は整備士のつなぎ服を着て現場に入り、整備士として入社した社員はスーツを着てショールームに立つなど、複数の部署をローテーションしながら過ごします。この期間、実務の研修はほとんどありません。この6カ月の目的は、会社を好きになること、先輩を好きになること、働くことを好きになることの三つです。
社内のつながりを育む6カ月
長山:営業として採用したのだから自動車を売ってこいというのは正論ですが、不十分な商談をしてお客様から断られたとき、会社に帰りづらい気持ちになるかもしれません。会社からは「営業担当なのだから外に出て営業してこい」と言われ、お客様からは「来ないでいい」と言われると、居場所がなくなってしまうのです。
新入社員は、「戦力」として迎え入れているのではなく、家族であり仲間であり、未来を託す若者として迎え入れています。「戦力」なら戦闘を教えますが、「家族や仲間」には愛情から伝えます。彼らが育つまでは、先輩たちが一生懸命働いて、「うちの子」として受け入れながらも、「うちの子にはうちの子の掟がある」ということを、現場での関わりのなかで伝えていきます。先輩たちが忙しくて手が回らない掃除を引き受けるなど、できることで役に立つ経験を積み重ねながら、仲間の一人として認められていく練習をするのです。
将来営業の部署に就いてお客様から自動車に関する難しい質問をされたときに相談できる先輩を、社内にたくさんつくっておくためのネットワークづくりの時間が、この6カ月にあたります。
昨今では悩みごとの相談相手にAIを挙げる若者も少なくありません。新入社員が入社して3日、3カ月、3年など辞めたくなると言われるタイミングで、適切な相談を受けられる先輩がどれだけ社内にいるかが、これからの会社の明暗を分けるのではないでしょうか。
ジョブ型雇用ではなく、中小企業らしいメンバーシップ型を貫く理由
Q:近年、大企業を中心にジョブ型雇用やスキルベース組織への移行が議論されています。潜在能力を重視するメンバーシップ型雇用が見直されるなか、こうした変化をどのようにご覧になっておられますか。
就職活動は職場との相性を確かめる場
長山:本来、就職活動の期間は、学生が自分の労働観を明らかにしながら、自分が本気を出せる職場を探していく時間であるべきだと考えています。企業側も、応募者がきちんと会社を見極められるだけの機会や時間、材料を出せているかというと、会社によって差があるように思います。適性検査を実施しても、本当に職場との適性を測っているのか、それとも今年応募してきた人たちのなかで相対的な能力の高低を比較し、上位から採用しているだけなのか、という点は気になります。
中小企業におけるメンバーシップ型の強み
長山:ジョブ型雇用は、能力の高い人が、自分をより高く評価してくれる会社へ移っていくことでキャリアアップしていく西洋的な働き方です。この仕組みが機能するのは、業界でトップシェアを持つような、競争力のある会社に限られるのではないでしょうか。その会社で働くこと自体に箔がつくというくらいの魅力がなければ、成立しにくいと感じています。
とりわけ中小企業になると、自分の担当業務だけをしていればよいという状況にはなりません。営業でも経理的な業務を手伝うなど、みんなで助け合わなければ立ち行かないのが実情です。車さえ売ってくれば、あとは何をしていてもよいという働き方は、当社にはフィットしにくいところがあるように思います。
それと日本の組織には、文脈で察することを美徳とする文化があります。そのため、他の人が忙しく頑張っているのに自分の仕事だけをして手伝わない人は、会社の規模が小さくなるほど評価されにくい傾向があるとも感じています。
縁のある人を育てるという発想
長山:応募者が引きも切らず、優秀な人材だけを残せる会社であれば、ジョブ型のようなやり方もありだと思いますが、中小企業の多くは、来てくれた人をいかに育てていくかにしか活路がなくなっていくと思います。高知県で働くとなると、選べる仕事はそれほど多くありません。だからこそ、縁のあった仕事を好きになってもらう育成力が大事になります。
地方の中小企業では、都会でバリバリ活躍するような若者と出会うことは難しい状況があります。当社を選んで働くと言ってくれた若者を、いかに大切に、社会に貢献できる人材に育てていくかが、企業に求められる時代になっているのではないでしょうか。
若手育成は“大人”側の課題でもある
長山:私はメンバーシップ型雇用そのものが悪いわけではないと考えています。戦後、日本型の組織が躍進を遂げ、世界第2位の経済大国になったという事実もあります。今の課題は、大人たちがうまく大人になれていないところにあるように感じています。士気の低い状態で会社に居続ける先輩を見て、若者たちがこの会社に居続けたいと思うでしょうか。若手育成の課題を若者側だけに求めるのではなく、先輩社員や管理職のあり方も重要だと考えています。
採用活動を通じて当事者意識を見極める
当事者意識を採用で確かめる
長山:不平不満やセクショナリズムが生まれやすい組織に共通しているのは、共通の目的意識の弱さです。だから自分の快・不快が最優先になる。たとえば災害があったりして危機に直面すると、人は理想を取り戻して互いをカバーし合います。しかし、世の中が平和になると、途端に糸が切れたようにわがままになっていくところがあります。これが今の社会なのかもしれません。
そうした当事者としての意識を、組織のなかできちんと浸透させていくことが大切だと考えています。当事者意識を拡張させながら働けるかどうかを、採用活動のなかでも重要視しています。大切なのは、その能力を持った人を集めることではなく、チャレンジや仲間との協働、達成感を経験してきた学生と、「大切なのはそこだよね」と確かめ合いながら、一緒に生きていく仲間として迎え入れることです。
社風を体感するインターンシップ
長山:当社では、学生向けのイベントで、学生10人ほどと社員10人ほどで、ドミノを1万個並べる「缶詰ドミノ」という会社体験の企画を行っています。
自動車ディーラーとしての職務は、他社のインターンシップからいくらでも学ぶことができます。だからこそ弊社が伝えたいのは、当社の先輩たちと一緒に課題解決に取り組む体験です。社員も学生もドミノは素人・だからこそ、同じ立場で協働できるのです。
ドミノに取り組むなかで、勢い余った社員が倒してしまうこともあります。そのとき、他の社員が「何をやっているんだ」と責めるのか、「ドンマイ、あと3時間あるからもう一度やり直そう」と声をかけるのか。そうした場面にこそ、社風があらわれると考えています。振り返りの最後には、就職とは職業を選ぶことではなく、どんな仲間と何を目指すのかという生き方を決める場だ、という話をするようにしています。
採用活動は地域との関係づくりでもある
長山:小さな地方都市で小売業を営んでいると、応募者が150人来ても、選考のなかで30人程度にまで絞り込み、面接を経て、最終的に採用できるのは数名でしょうか。
そこで採用に至らなかった人たちに、地域のなかで「この会社で車は買わないぞ」と思われてしまっては、元も子もありません。これから免許を取って自動車社会に参入してくる若者たちに、そうした反感を持たせてしまうことは、避けなくてはいけません。不採用をだすということは、自分たちには君を育てる甲斐性がないと言っているようなもので、恥ずかしいことだと考えています。そのため、本人が志望を固めるまで、個別に進路相談に乗り続けて、相手タイミングに合わせた採用試験日の設定をするようにしています。
当社では、適性検査の結果を1時間以上かけて一人ひとりにフィードバックしています。ときには「営業として一緒に働きたい」と言ってくれていても、学生の価値観などを合わせた人物像を鑑みたときに別の仕事の方が長く笑顔で活躍できるのではないか、と思えば、その進路に向けて背中を押すこともあります。
その結果、別の会社に就職して5、6年経ってから、家族を連れてふらっとを購入に来られて、就職活動でお世話になったと言ってくれる方もいて、今もそうしたつながりが続いています。
採用は「いい会社」をつくるプロセス
長山:採用活動は、人材調達ではなく、いい会社をつくっていくためのプロセスです。いい会社ができている度合いに応じて、見合った人が入ってくれると考えています。出会って仲間になってくれた人は最後まで面倒を見て、そうでなかった人にはファンになってもらい、自動車ディーラーとして応援してもらう。そうした関係をつくっていくことこそが、採用活動だと考えています。
地方の中小企業が地域とともに長く活躍できる組織であるために
Q:近年、大企業を中心にジョブ型雇用やスキルベース組織への移行が議論されています。潜在能力を重視するメンバーシップ型雇用が見直されるなか、こうした変化をどのようにご覧になっておられますか。
中小企業らしい組織づくりを考える
長山:いい会社であり続けるために、キャリアパスを整備するという話もよく聞きますが、中小企業にはあまり向かないと感じています。大手企業のように、1部署に100人以上いるような規模であれば、努力すればどこまで昇進できるかを明確にするというやり方もあると思います。
しかし弊社のような規模の会社では、そうした仕組みは、かえって矛盾ばかりを生んでしまうことが多いと感じています。
会社ごとに規模も歴史も文化も商品構成も違うので、自社がどうすればもっとも能力を発揮し、地域社会で長く活躍できるかは、それぞれの会社が自分自身で答えを持つべきだと考えています。その過程で大切なのは、今の会社の完成度ではなく、これからどんな理想や目標を叶えようとしている集団なのかということです。
大きな目標を目指して努力している人には、年齢や見た目に関わらず憧れを感じるものです。甲子園を目指して朝早くから夜遅くまで練習する高校生に、周囲がかっこよさを感じるのと同じだと思います。
人材育成がこれからの競争力になる
長山:これから深刻な人手不足を迎える社会において、若者を健全に育成できる企業が、未来を描くことができるのではないでしょうか。会社の知名度や財力、商品の魅力に乏しい地方の中小企業になるほど、一人ひとりに向き合う力が競争力になると思います。
地域社会にとって必要な存在であるというのは、自動車を提供するだけではなく、この会社に関わってよかったと思ってもらえる仕事をしていくことが大事なのではないかと考えています。
地域の未来を育てるという役割
長山:私見ではありますが、自分が生まれた地域への愛着形成は、中学生くらいまでにできあがるのではないかと考えています。高校生になるとアルバイトもできるようになり、都会の情報も手に入りやすくなります。同時に損得など合理的な判断ができるようになり、都会に心が向きやすくなります。しかし、中学生くらいまでは、まだ純粋に心が動く時期です。この時期に、高知の自然や、地域で暮らす人たちとの温かい思い出をつくることを大切にしています。
そのため、幼稚園・小学校・中学校・高校への職場体験の受け入れと出前授業を行うほか、自社主催で20社ほどの仲間の企業を集めたインターンシップの合同企業説明会にも取り組んでいます。 今月や来月、自動車が売れたとしても、それは20年後を約束するものではありません。20年後を約束してくれるのは、地域の子どもたちです。ここにどれだけ熱量や資源を投じられるかを、いま考えながら取り組んでいます。
当事者意識を地域へ広げる
長山:前半で当事者意識を拡張させながら働けるかどうかを採用時に見ているという話をしましたが、この当事者意識は仕事だけではなく地域へも広げる必要があると感じています。
弊社には、もう10年以上も続けている「令和の武者修行」という合宿があります。新人研修の最後に、地域の小中学生と弊社の社員が一緒に四国遍路を100キロ歩くんです。高知の日差しや潮の香り、体調を崩して駆け込んだ近所の方に助けてもらう経験など、そうした思い出を子どもたちに小さいうちにつくってほしいと思っていて、地域の担い手を育てること社会人の仕事だと考えています。
当事者意識は、まず自分のことができることから始まり、友達を守れるようになり、家族の困りごとに広がっていきます。しかし、その先の地域社会、学校、会社にまで広がっていない人が少なくありません。大切なものを護れない。これが大人になれていない大人の正体ではないでしょうか。学校をよくするのは先生の仕事、会社をよくするのは社長の仕事、地域をよくするのは県の職員の仕事、という考え方になりがちです。
しかし本来は、学校を楽しくするのは生徒の仕事であり、会社を楽しくするのは社員の仕事です。 当事者意識を広げていくことが人間の成長であり、社会をよくするのが社会人、会社をよくするのが会社員だと考えると、会社は地域をよくするために存在させてもらっているとも言えます。良き社会人であるためには、自分が手間をかけて得たお金や資源を、子どもたちのためにもきちんと投じていく役割があると考えています。