3月1日は、政府の就職・採用活動日程に関する関係省庁連絡会議によって定められた就職・採用活動日程における広報活動開始日、いわゆる就職活動の解禁日である。このタイミングに合わせて、マイナビキャリアリサーチラボでは、2027年卒学生の動向や企業の採用活動の展望、また近年注目されるAIの普及による雇用環境の変化について講演を実施した。本コラムはその内容を紹介する第2弾である。
1.AIによる就職情報収集の実態
「あなたにとってAIとは?」学生の回答は「ツール」「便利機能」「情報源」「相談相手」
図1は学生に対して「あなたにとってAIとは」という質問を行った結果である。上位には「ツール」「便利機能」「情報源」「相談相手」といった言葉が並ぶ。AIが採用や雇用に影響を及ぼすのではないかという不安を感じる学生が多い一方で、AIは自身の役に立つ優秀なツールであり、時に相談相手でもある、と友好的な見方をする学生も多いのだ。(「脅威」「敵」「ライバル」の回答は少ない)【図1】
【図1】 学生にとってAIとは?/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
実際、2026年卒の学生を対象にした調査では、学生のAI利用率は8割を超え、直近2年間で倍増したという結果も出ている。
また就職活動におけるAI利用にフォーカスすると、その利用率は66.6%となり、エントリーシートの推敲・作成のような文章作成の場面での活用のほか、「自己分析」「面接対策」のような自分自身の内面の深掘りや対話の練習、そして「業界研究」や「仕事研究」のように就職先を探すうえで必要な業界情報や職種の内容について調べる場面でも活用されていることがわかっている。
生成AIで就職情報を収集する学生
図2は「生成AIを使って業種・職種・企業に関する情報収集をした経験はあるか」という質問に対する学生の回答だが、65.5%の学生が「使った経験がある」と回答している。【図2】
【図2】生成AIを使って業種・職種・企業に関する情報収集をした経験はあるか/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
就職活動の場面においても、AIはまさに「便利」な「ツール」であり、自身に合った企業や仕事を考える上での「情報源」なのだ。
生成AIのハルシネーションと学生のファクトチェック
しかしながら、AIによる情報収集においては「その出力内容が事実であるかどうか」という、いわゆるAIのハルシネーションの問題が常につきまとう。
図2で生成AIを使って業種・職種・企業に関する情報収集をしたと回答した学生を対象に、その出力内容の真偽について調査したところ、出力内容に「誤りが含まれていた」という学生は68.2%に及んだ。実に7割近くの学生が、AIに誤まった情報を出力された経験をしている。【図3】
【図3】生成AIを使った業種・職種・企業に関する情報収集の際、生成AIの出力した内容に誤情報が混ざっていたことはあるか/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
また「真偽を確認していないのでわからない」と回答した学生も21.7%いた。こうした学生は情報収集において注意が必要だが、裏を返せば8割近くの学生は自分なりにAIの出力結果に対してファクトチェックを行い、その真偽を確認しているということがわかる。
ChatGPTが話題になったのが2022年の後半であり、調査対象である2027年卒の学生が大学に入学した2023年は、AIが爆発的に広がる兆しが見えはじめた頃である。またChatGPTの流行と同時に、その出力内容に誤りが含まれるハルシネーションに関しても話題になったこともあり、今の大学生にはAIの出力内容に関する知識、AIとの付き合い方についてある程度リテラシーがはぐくまれている可能性が高い。まさにAIネイティブ世代という印象を受ける。
ファクトチェックの際に参照する情報
では、学生は就職関連情報のファクトチェックを行う上で、どのような情報元を参照しているのか。もっとも多いのは「企業の公式サイト・採用マイページ」で、いわゆるテキストベースの1次情報を参照する学生が多いことがわかる。4番目に多い「インターンシップ・就職準備情報のナビサイト」も同様にテキストベースの1次情報元である。
その他では企業の個別企業セミナー、合同企業セミナー、インターンシップなどがそれぞれが上位になっている。【図4】
【図4】生成AIの出力した内容の真偽を確認する場合、どのような情報元(ソース)をあたることが適切だと思うか/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
このように、AIが出力した情報の真偽の確認として、テキストベースの情報元だけでなく、企業説明会やインターンシップなど、学生と企業がインタラクティブにコミュニケーションが行えるシチュエーションが支持されていることがわかる。
2.AI時代の就活における「リアル」の価値
AIで就職活動に関する情報が得られる現代において、AIで事足りる情報とは何か。逆に、AIでは調べきれない情報とは何か。ここからは、AI時代の就職活動に求められる情報との接し方、リアルの場で求められる情報の価値について解説する。
AIで調べられると思う情報・AIでは調べられないと思う情報
就職関連の情報のうち、AIでは調べきれないと思う情報はどのようなものがあるかを学生に聞いた結果、もっとも多かったのは「社員の人柄」で、ほぼ同率で「自分に合っているか」が続いた。その他「社風」、「選考で重視されるポイント」、「職場環境」などが上位になっている。【図5】
【図5】生成AIでは調べきれないと思う業種・職種・企業の情報/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
こうした情報はインターネット上の公開情報だけでは収集できず、企業と直接コミュニケーションをとれるような場でないと触れることが難しいと考えられる。
図6は、内定を得た学生を対象に行った調査にて、入社予定先企業を決めた際のポイントを聞いたものだ。企業属性としては「安定性」「社風が良い」「福利厚生が充実」などをあげる学生が多く、仕事軸でのポイントとしては「やりたい仕事がある」「自分の適性に合っている」などをあげる学生が多い。また社員の人物面については「人事」「面接官」「先輩社員」「社長・役員」の印象が良かったかどうかも、入社予定先企業を決める際の決め手となっている。【図6】
【図6】内定保有学生が入社予定先を決める際のポイント/マイナビ 2026年卒 内定者意識調査
AIでは調べられない情報=入社予定先を決める際に重視する情報
「その情報はAIでは調べられるかどうか」という観点を横軸に、「入社予定先を決める際のポイントとなりうるかどうか」を縦軸にとり、4つの象限にマッピングした。【図7】
【図7】AIで調べることが難しい情報=入社予定先を決める際に重視される情報/マイナビ作成
AIでは調べることが難しく、企業と直接コミュニケーションをとらないと得られないと学生が考える情報として「社員の人柄」「社風」などが上位であったが、こうしたヒューマンタッチな要素は入社予定先を決める際のポイントとしても上位になっている(図7の右上の象限)。
同じく学生が入社予定先を決める際のポイントである「福利厚生」については、制度の内容や有無についてはAIでもある程度調べられるとしながらも(図7の左上の象限)、その福利厚生がどの程度活用されているかという利用実態についてはAIで調べるのは難しい(右上の象限)。
会社が用意した制度が、どのような社員に、どのくらい利用されているかという情報は、文字情報だけでなく、実際に利用した社員の体験談などを通した方が学生にとっても理解しやすいだろう。
AI時代「リアルの場で得られる情報の価値が上がった」と考える学生が7割超
実際、「AIで情報収集ができる時代において、リアルの場で得られる情報の重要性はどう変わったと思うか」を学生に聞いたところ、「リアルの場で得られる情報の重要性は増している」と答えた学生が41.3%で、「やや増している」と合わせると7割以上の学生がリアルの場で得られる情報の重要性や価値が高まっていると感じている。【図8】
【図8】AIで情報収集ができる時代において、リアルの場で得られる情報の重要性について/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
「実体験に基づく情報が判断の精度を高める」「より深い内容や実情を知るには現場で働いてる方々に会って話を聞いたりするのが有効かつ重要」などの声
リアルの場で得られる情報の重要性が高まっていると回答した学生に、その理由を自由回答してもらった。
- 「対面での会話や現場の空気感、相手の表情や態度から読み取れるニュアンスは、データや文章だけでは把握しきれない。特に意思決定や信頼関係の構築においては、実体験に基づく情報が判断の精度を高めるため、AI時代だからこそリアルな情報の価値がより高まっていると考える」
- 「ハルシネーションなど、情報をリアルで追跡しきちんとした事実を調査する姿勢が今後求められる」
- 「就活の始めは役に立った。しかし、より深い内容や実情を知るには現場で働いてる方々に会って話を聞くことが重要だと感じた」
このように、AIの利便性と理解しつつ、AIにできることの限界を理解したうえで、リアルな場で得られる情報に重きを置いている様子がうかがえる。【図9】
【図9】リアルの場で得られる情報の重要性が高まっていると感じる理由/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
AI時代の就職活動では「リアルの場で正しい情報を得た者勝ち」?
一方で、リアルな場での情報を求める学生のコメントからは、その姿勢が単にリテラシーの問題にとどまらない可能性も見えてきた。
- 「AIである程度の情報が得られるので他の選考者より優位に立つにはリアルの場で情報を得て企業理解について深掘りする必要がある」
- 「就活仲間と話していると、リアルの場で正しい情報を得た者勝ちのような雰囲気を感じるから。」
- 「誰もがAIで容易に情報収集ができるようになったため、周りと情報で差をつけるには、AIでは得られないリアルの場で得られる情報の価値が高まった」
AIで入手できる情報は、逆に言えば誰でも入手できるありふれたものになってしまう。そのため、企業をより深く理解したり、企業とのコミュニケーションをより有意義なものにするためには、AIを介しては見えてこない、リアルな場での情報がカギになる。そして、そのリアルな情報を持っていることにより、他の学生との差別化を図れる、という学生側の戦略が見えてくる。
すなわち、学生にとってリアルな場の価値とは、より正確で本質的な情報が得られる企業理解・職種理解の場としての価値だけではなく、その「リアルな場でしか得られない情報を持っている」そのこと自体が他の学生に対してアドバンテージとなる、というある種戦略的な価値をも見出していると考えることができる。【図10】
【図10】リアルの場で得られる情報の重要性が高まっていると感じる理由/マイナビ 2027年卒 大学生キャリア意向調査1月<インターンシップ・キャリア形成活動>
企業が考える、採用現場へのAI導入の狙い
学生はAI時代の就職活動において、AIを活用しつつ、同時にリアルな場・ヒューマンタッチな場で得られる情報に価値を感じていることがわかった。では、企業はリアルな場の価値についてどのように捉えているのか。
その参考になるのが、図11の企業調査の結果だ。AIが浸透し自社の採用手法が変化することによって、企業がもっとも期待していることを聞くと、「業務の工数削減」がもっとも回答が多くなった。【図11】
【図11】AIの浸透で自社の新卒採用の手法が変化することで、最も期待する効果/マイナビ 2027年卒 企業新卒採用予定調査
多くの企業の採用担当者において、この業務工数の削減というのは非常に大きな課題となっている。
マイナビ2026年卒企業新卒内定状況調査によれば、新卒採用チームのマンパワー不足を感じるという企業は7割近くに上る。【図12】
【図12】新卒採用チームのマンパワー不足を感じるか/マイナビ2026年卒企業新卒内定状況調査
新卒採用を担う部門は多くの企業において慢性的なマンパワー不足の状況に陥っており、業務工数の削減は何よりの優先事項であると言える。
マンパワー不足が解消したら取り組みたいことについても同調査では自由回答が寄せられており、「学校訪問や合同企業説明会への出展」や「イベントを増やしたい」「インターンシップを強化したい」など、学生との接触機会を増やしたいという声が多く見られる。AIによる業務工数の削減を果たし、学生との向き合うリアルなコミュニケーションを生む場や、そのための時間を確保したいという企業側の心理がうかがえる。
まとめ―学生・企業はいかに「リアルの場」に向き合うべきか
本コラムではAI時代の就職活動・採用活動において重要性が増している「リアルの場の情報価値」について、学生・企業の双方のとらえ方を紹介した。
AIを使った企業情報・業界情報などの情報収集が可能となった現代において、学生にとっては、出力情報のファクトチェックと、リアルな場で得られる情報の重要性が増している。そして、リアルな場で得られる情報の価値とは、単に正確で、企業理解の解像度を高めることができる本質的な情報であるということにとどまらず、リアルな場で得られる情報を持つことで他の学生との差別化を図ることができるという戦略的価値も含まれていると思われる。
一方の企業側では、採用現場の悲願でもある業務工数の削減にAIが活用できるのではないかという観測がある。工数削減によって生まれた余裕・リソースを、採用担当のコア業務である「学生と向き合うリアルな場の創出」のために割けるようになれば、学生が求めているリアルな場での情報を伝える機会が増えるだけでなく、逆にインターンシップや説明会などのリアルな場でのやり取りを通じて、学生がどのようなことを自社に求めているのかを把握する機会が増えることにもつながる。
学生と企業の双方が、AIではわからないリアルな情報を得るために、リアルな場でコミュニケーションをより充実させていくことが、AI時代の就活・採用において学生と企業の双方がとのより良いマッチングを実現するための改善の一歩となるのではないだろうか。
マイナビキャリアリサーチLab研究員 長谷川 洋介