これからの企業の子育て支援-女性の経済力向上と男性単独育休を

キャリアリサーチLab編集部
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企業の子育て支援に注目したシリーズ第5回。今回は、労働政策研究・研修機構(JILPT)の副統括研究員である池田心豪さんに、これからの企業の子育て支援について寄稿いただいた。

池田心豪 氏(独立行政法人労働政策研究・研修機構 副統括研究員)

池田心豪(独立行政法人労働政策研究・研修機構 副統括研究員)

東京工業大学大学院社会理工学研究科博士課程単位取得退学。博士(経営学)(法政大学)。専門は職業社会学、人的資源管理。育児・介護と仕事の両立に関する研究に長年従事し、研究成果をまとめた学術論文を国内外の学術誌に多数掲載。『介護離職の構造――育児・介護休業法と両立支援ニーズ』で令和5年度労働関係図書優秀賞受賞。厚生労働省「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」などの委員を数多く務める。

第3期次世代法に向けて

2025年4月から改正次世代育成支援対策推進法(次世代法)が施行された。同法は10年の時限立法(有効期間を定めて制定される法律)として2005年に施行されたが、2015年から10年延長され、再延長の10年が2025年から始まっている。最初の10年を第1期とするなら、2015年からの10年は第2期、2025年からの10年は第3期と呼ぶことができる。

それぞれの10年において、厚生労働省は子育て支援の基準を満たす優良企業に認定マーク(くるみん等)を与えている。本稿では、こうした政策と連動するように企業の子育て支援が成果を挙げてきたことを確認しつつ、しかし今後は異なる発想で取り組むことも重要であることを指摘したい。

結論をあらかじめ述べるなら、今後の子育て支援においては、夫婦の家計分担における妻の家計貢献度を高めていくこと、そのために女性の経済力を高めていくことが重要である。これにより、男性は家族生活を経済的に支える役割(稼得役割)にとらわれることなく、子育てに時間と労力を割くことができる。

また、そうした女性の経済力を前提に、妻の復職に合わせて男性が一人で育休を取り、一切の育児を担うようにすることが重要である。女性が一切の育児を夫に任せることができれば、ケア役割にとらわれることなく、仕事ができるようになる。これにより、仕事と子育てをめぐる古い性別役割から男女を解放することが、今後の子育て支援の課題である。

これまでの仕事と子育ての両立支援は、「男性は仕事、女性は家庭」という性別役割にとらわれることなく、女性も仕事をし、男性も子育てをすることを支援してきた。だが、そのように新しい役割を求められる一方で古い性別役割も担い続けるという、仕事と子育ての二重負担に男性も女性も苦しんでいないだろうか。そのような問題意識をもって、古い性別役割からの解放につながる子育て支援をすることがこれからは重要である。

「女性も仕事、男性も子育て」の現在地

はじめに、これまでの企業による子育て支援の成果を振り返っておこう。代表的な指標として、育児休業(育休)取得率、出産前後の就業継続率、そして男性の育児時間をみていきたい。

男女の育休取得率の推移

【図1】は男性と女性の育休取得率の推移を示している。女性の育休取得率は2005年から2007年にかけて急上昇し、その後は80%の水準で推移している。2005年からの第1期次世代法が女性の育休取得率をくるみん認定基準にしたことと整合的な結果である。

特に大企業では、次世代法を機に育児休業等の両立支援制度を社員に周知し、取得しやすい環境をつくったことが、女性の育休取得率を引き上げた可能性が高い(池田 2012)。

【図1】男性と女性の育児休業取得率の推移/厚生労働省「雇用均等基本調査」
【図1】男性と女性の育児休業取得率の推移/厚生労働省「雇用均等基本調査」

一方、男性の育休取得率は第2期に当たる2015年から2024年に上昇している。厚生労働省は2010年から「イクメンプロジェクト」を開始し、男性育児の啓発を行ってきた。これに加えて2015年からの第2期次世代法は男性の育休取得率を認定基準にした。

また、2021年改正の育児・介護休業法から育児休業制度の個別周知と意向確認が企業に義務づけられた。近年の男性育休取得率の上昇は、そうした政策の動きと連動している。

出産前後の就業継続率の推移

女性の育児休業は、産後の復職支援つまり出産前後の就業継続支援を目的としている。一方、男性の育休は、休業期間だけでなくその後も継続的に子育てを行う最初の一歩と位置づけられている。その観点から、【図2】で女性の出産前後の就業継続率、【図3】で男女の育児時間の推移をみてみよう。

【図2】からみる。図が示す第1子出産前後の就業継続率は1995-1999年までは横ばい、2000-04年は微増であるが、2005-09年からは明らかな上昇傾向を示している。すなわち、第1期次世代法施行後に就業継続率は上昇しているといえる。

【図2】子の出生年別 第1子出産前後の就業継続率の推移(雇用形態別)/国立社会保障・人口問題研究所「第12~16回出生動向基本調査」
【図2】子の出生年別 第1子出産前後の就業継続率の推移(雇用形態別)/国立社会保障・人口問題研究所「第12~16回出生動向基本調査」

ただし、パート社員や派遣社員のような非正規雇用は正規雇用に比べて就業継続率が圧倒的に低い。2025年からの第3期次世代法は、この問題に焦点を当てており、女性の育休取得率について、有期契約労働者の取得率を認定基準に加えている。

日本では期間を定めて雇用される有期契約労働者であっても、多くは契約更新等により、雇用が継続している。そのような労働者も正規雇用者と同じく育休を取得して就業継続できるようにすることが課題であるといえる。

夫婦の育児時間の推移

続いて男女の育児時間の推移を【図3】に示す。この図は未就学児に当たる6歳未満の子をもつ共働き世帯の夫と妻の育児時間の推移を示している。2006年から少しずつ夫の育児時間は延びている傾向にあり、次世代法の第2期に当たる2016年から2021年までの伸び率は一際大きい。

【図3】6歳未満の子をもつ共働き世帯の夫と妻の1日平均の育児時間の推移/総務省「社会生活基本調査」
【図3】6歳未満の子をもつ共働き世帯の夫と妻の1日平均の育児時間の推移/総務省「社会生活基本調査」

【図3】の「社会生活基本調査」(総務省)は5年ごとに行われるため、現状は2021年が最新である。だが、近年の男性育休取得率の上昇傾向を踏まえるなら、次回の調査ではもっと夫の育児時間が延びていてもおかしくないだろう。

しかし、ここで、妻の育児時間も増えていることに注意したい。男性の子育て支援が必要とされる大きな理由は、妻の子育て負担の軽減である。夫の育児時間が増えた分だけ妻の育児時間が減っていれば、夫の子育て支援により妻の子育て負担は軽減されるといえる。だが、【図3】をみる限り、そのような期待はもてない。

夫も妻も育児時間が増えているということは、子育てに費やす時間の総量が増えているということだろう。そのために夫の育児時間の増加が、妻の育児時間の減少につながっていないと考えることができる(永井 2020)。そうであるなら、企業は男性社員が妻の育児時間の増加を上回る勢いで育児時間を増やすことができるよう、今よりもっと労働時間を減らす必要があるといえる。

その一方で、夫の子育てが妻の子育てを代替しているのかを、問い直してみることも重要だろう。夫の子育てが妻の子育て負担軽減につながるという考え方は夫が妻の子育てを代替することを前提にしている。

だが、同じ子育てであっても、その内容が夫婦で異なれば、夫の育児時間をいくら増やしても、そのために労働時間を短くしても、妻の子育て負担は軽減されないだろう。以下のデータは、そのようなボタンの掛け違いが生じている可能性を示唆している。

ケア役割と稼得役割

一口に子育てといっても、日々の生活における子どもとの関わり方の具体的な中身(育児内容)は多岐にわたる。企業による子育て支援は、仕事と子育ての二者択一を想定しているが、すべての育児内容が二者択一を迫るわけではない。

【図4】育児内容・週の残業日数別 週に子育てをする回数(末子9歳以下の女性)/労働政策研究・研修機構2015年「職業キャリアと生活に関する調査」
【図4】育児内容・週の残業日数別 週に子育てをする回数(末子9歳以下の女性)/労働政策研究・研修機構2015年「職業キャリアと生活に関する調査」

【図4】は小学校低学年に当たる9歳以下の子をもつ女性が、1週間に末子の身の回りの世話(着替えや身支度等)をする回数および末子と遊ぶ回数を、週の残業日数別に示している。残業日数は裏返していえば、定時退勤日数ということになる。子どもの夕食や就寝時間を考えると日に1~2時間の残業でも望ましいとはいえない。

そのような問題意識で【図4】をみると、着替えや身支度といった身の回りの世話を週5回以上する割合は、残業日数が少ないほど高い。2024年改正育児・介護休業法は、それまで3歳未満としていた残業免除を未就学児に引き上げたが、小学生になっても低学年のうちは身の回りの世話に何かと手がかかる。そのために残業免除のニーズがあるといえる。

だが、その一方で、末子と遊ぶ回数は、残業日数と週5回以上の関連性がみられない。また、末子と遊ぶ回数は週1-2回の割合も高い。週1-2回ということは、休日に子どもと遊んでいるということだろう。 要するに、子どもの身の回りの世話は、残業をしないでこれをしているという意味で、仕事か育児かの二者択一を女性に迫るといえるが、子どもと遊ぶことはそうとはいえない。

では、子どもの身の回りの世話という育児と仕事の二者択一を女性が回避するために、夫の残業を減らすことは有効だろうか。【図4】と同じ育児内容を男性について示したのが【図5】である。

【図5】育児内容・週の残業日数別 週に子育てをする回数(末子9歳以下の女性)/労働政策研究・研修機構2015年「職業キャリアと生活に関する調査」
【図5】育児内容・週の残業日数別 週に子育てをする回数(末子9歳以下の女性)/労働政策研究・研修機構2015年「職業キャリアと生活に関する調査」

結果をみると、男性の残業日数を減らしても子どもの身の回りの世話をする回数が増えるとはいえない。一方、末子と遊ぶ回数は、残業日数が少ないほど週5回以上の割合は高くなる。確かに、残業を減らせば男性も育児をする。しかし、その育児内容は女性とは異なる。

企業の子育て支援として、男性と女性の残業を同じように減らしても、男女が同じ子育てをしているとは限らない。残業しないで帰宅した後、母親は子どもの身の回りの世話をし、父親は子どもと遊ぶ。その意味で、男性社員の労働時間を減らして育児時間を増やしても、それだけでは妻の子育て負担軽減にはつながらないといえる。

では、どのような男性が子どもの身の回りの世話をしているのだろうか。その一つの答えとして、【図6】は家計分担が夫婦同等か、妻が主たる家計支持者である場合に、男性は週5回以上子どもの身の回りの世話をしていることを示唆している。

【図6】夫婦の家計分担別 末子の身の回りの世話をする回数(末子9歳以下の女性)/労働政策研究・研修機構2015年「職業キャリアと生活に関する調査」
【図6】夫婦の家計分担別 末子の身の回りの世話をする回数(末子9歳以下の女性)/労働政策研究・研修機構2015年「職業キャリアと生活に関する調査」

「男性は仕事」の仕事とは、単に仕事の責任を果たすことだけでなく、家計を支える稼得役割を果たすことでもある。その稼得役割を妻が代替している夫婦では、妻のケア役割を夫が代替するという交換関係が成立していることがうかがえる。

だが、このことから、男性の残業削減が子育て支援として重要ではないと考えるのは早計である。子どもの生活リズムに合わせて身の回りの世話をするのであれば、やはり残業をしないで定時退勤できることが望ましい。 それによって収入が減っても良いと思えるか。そういった問題にも目を向ける必要がある。そのときに、妻に家計を支える経済力があれば、夫は稼得役割にとらわれることなく定時退勤できる。そういうことではないだろうか。

男性単独育休の重要性

男性が女性と同じケア役割を担うようになるためには、稼得役割という古い男性役割から男性を解放すること、そのために女性社員の経済力を高めることが重要である。だが、【図6】に再び目を向けると、夫と同等かそれ以上に家計を担っている女性においても育児負担はそれほど軽減されていないことがうかがえる。

女性を伝統的なケア役割から解放する一つの方法は、夫に一切の育児を任せる環境をつくることである。その契機として、妻が復職した後に夫が一人で育休を取ること(男性単独育休)を推奨したい。

たとえば、男性育休の先進国として有名なスウェーデンでは、パパクオータと呼ばれる90日の育休は、夫が一人で取ることが一般的になっている(中里 2023)。これに比べると日本の多くの男性の育休期間は短い。

だが、日本でも月単位で育休を取る男性は増えている。【図7】の左側に男性の育休取得期間を示しているが、1か月以上の育休を取る男性は増えている。まだ少数ではあるものの3か月以上の育休を取る男性も増加傾向にある。

【図7】取得期間別 育児休業後復職者割合/厚生労働省「雇用均等基本調査」
【図7】取得期間別 育児休業後復職者割合/厚生労働省「雇用均等基本調査」

しかし、同じ【図7】の右側に示す女性の育休期間は短くなっていない。もし月単位の育休を交代で取る夫婦が増えているなら、男性の育休期間が延びた分だけ女性の育休期間は短くなるはずである。だが、現状は、そのような取り方が日本に広がっているとはいえない。

第3期次世代法は認定基準として第2期より高い男性育休取得率を企業に課している。加えて、その取得期間の延伸を企業に求めている。だが、単に男性の育休取得率を高め、男性の育休期間を延ばすだけではなく、女性をケア役割から解放することにつながる男性育休の取り方を検討する余地があるといえるだろう。

古い性別役割からの解放を

これまでの企業の子育て支援は「男性は仕事、女性は子育て」という古い性別役割に対して、女性は仕事、男性は子育てという新たな役割を担える支援をしてきた。その結果、男性についても女性についても、新たな役割に対する理解は、職場にも家庭にも着実に浸透してきたといえるだろう。

しかし、その結果として、男性も女性も仕事と子育ての二重負担に苦しんでいないだろうか(永井 2020)。女性の二重負担については古くから問題にされてきた(西村 2009)。そして、男性を対象とした企業の子育て支援は、これを軽減すると考えられてきた。

だが、現状は企業が育休や残業削減を通じて男性の子育てを支援しても、それが女性の二重負担軽減につながっているとはいえない。その一方で、男性にも、稼得役割という古い性別役割を担ったまま、子育てという新たな役割を担う二重負担が広がりつつある。

したがって、今後は新しい役割を担える支援とともに、古い性別役割からの解放を支援していくことが重要である。その最初の論点として、女性の経済力向上と男性単独育休は検討に値することを本稿でみてきたデータは示唆している。


<参考文献>
池田心豪(2012)「小規模企業の出産退職と育児休業取得 ――勤務先の外からの両立支援制度情報の効果に着目して」『社会科学研究』64(1),東京大学社会科学研究所,p.25-44.
池田心豪(2025)「父親の残業削減は育児分担のジェンダー平等につながるか? ――稼得役割と育児内容に着目して」JILPT Discussion Paper 25-06.
奥野重徳(2023)「我が国における家事関連時間の男女の差――生活時間からみたジェンダーギャップ」『統計 Today』(190),p.1-8.
永井暁子(2020)「家事と仕事をめぐる夫婦の関係」『日本労働研究雑誌』(719),p.38-45.
中里英樹(2023)『男性育休の社会学』さいはて社.
西村純子(2009)『ポスト育児期の女性と働き方 ワーク・ファミリー・バランスとストレス』慶應義塾大学出版会.
横山真紀(2024)「第一子出産前後の女性の就業継続はどのように変化したか」『社会保障研究』80(4),国立社会保障・人口問題研究所, p.499–522.

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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