政府の関係省庁連絡会議では、就職・採用活動日程における正式な内定日を卒業・修了年度の10月1日以降としている。多くの企業が内定式を執り行うこのタイミングに合わせて、2025年9月、マイナビキャリアリサーチラボでは2026年卒学生の動向についてプレスセミナーを実施した。本コラムはその内容を紹介するものであり、特に就職活動において学生が感じる「格差」に焦点をあてる。
昨今、就職氷河期世代をめぐる格差の問題や、こどもの体験に関する格差、移動に関する格差など、格差に関するさまざまな報道がされ、また書籍が出版されるなど、話題になっている。そこでマイナビキャリアリサーチラボでは、就職活動において「格差」を感じている学生はいるのか、どのような点に感じているのか、という点について調査を行った。
本コラムではその結果をもとに、学生が就職活動において感じる悩みや、それを解消していくためにどのようなことができるのかを考えてみたい。
学生が就職活動で感じる「格差」
もっとも多いのは「学生時代の経験(経験格差)」
図1は学生が就職活動において格差を感じたことがあるか、についての結果である。格差に関するいくつかの選択肢があるが、まず着目すべきは「特にない」(27.0%)だ。格差を感じなかった学生は3割未満であり、残りの7割以上は何かしらの格差を感じているということになる。
格差を感じている点としてもっとも多かったのは「学生時代の経験(学業や、学業以外の体験に関する経験格差)」(35.3%)で、そのほか「大学」「地域」「就職活動について得られる情報の差」などが上位になった。【図1】
【図1】就職活動中に「格差」を感じたこと/マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月
【経験格差】学生の声
「アルバイトに追われて他の体験ができず…」「留学や海外経験ばかり評価される」
学生時代の経験に格差を感じると回答した学生に、その具体的な内容を答えてもらったところ、「アルバイトを月に80時間以上しなければ生活できなかったので、留学やサークルなど他の体験に時間を使えませんでした」や、「学生時代の取り組みではアルバイトよりサークルや部活、留学のエピソードの方が印象がいい気がした。
経済的にアルバイトばかりしてた私はガクチカ作りに苦労した」のように、アルバイトに時間をかけざるを得ない経済的な状況においてそのほかの経験がしづらかったという声があった。
また選考において「留学や海外在住経験への評価が異常なほど高いと感じた。そこの経験の差は、経済的な影響や家庭環境にもよるため、そこに大きな差をつけないでもらいたいと思ってしまった」のように、留学のような社会および家庭の経済的影響を大きく受ける経験に対して、企業側の評価が高いのではないかと感じるという声もあった。
そのほか「リーダーシップの経験がないと伝えると面接官にがっかりされたように感じた」など、やはり「企業ウケの良い経験」に偏りがあると感じている学生がいるようである。【図2】
【図2】学生が感じた「学生時代の経験の差」/マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月
【地域格差】学生の声
「地方での就活は長期インターンに参加しにくい」「対面での面接は費用面で厳しい」
地域による格差を感じたという学生からは「地方での就活は長期インターンに参加しにくく、業界研究、ガクチカにおいて不利」や、「対面での面接の費用面では厳しい家庭もあるのではないかと感じた。
1次面接から対面で行う企業もありそれがかさむとかなりの出費を強いられてしまう。最終面接などは交通費支給の企業も多いが、序盤の面接で交通費が支給されないのは大変である」など、地方で活動することのハードル(時間的制約、地理的制約)や移動の困難さ(移動費用による制約)などによって格差を感じたというものがあった。
また「出身地・現住所の地域と、就職活動を行っていた地域が全く異なっていたため、『なぜこの地域で就職活動を行うのか?』という企業からの質問に多く時間をとられ十分に自己アピールすることができなかった」のように、その地域での就職を希望する学生に対し、選考する企業側が学生との間に地理的な隔たりを無意識に持ち込んでしまい、壁を作ってしまうようなものや、「対面開催のオープンカンパニー参加者のみ参加可能な選考があった」のように、遠方の学生には参加がためらわれるような長距離移動を前提とする選考があり、それにより格差を感じたという声もあった。【図3】
【図3】学生が感じた「地域の差」/マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月
【情報格差】学生の声
「地方出身と都市部出身との差」「東京の学生に感じた“就活慣れ”」「OB・OGの数も格段に少ない…」
情報の格差についても「地方出身の学生と都市部出身の学生との間で、情報量や経験の差を感じた。都市部の学生のほうがインターンや企業説明会へのアクセスが容易であり、準備の面でもリードしているように感じました」のように、地域による差がそのまま情報の差につながってしまっているものや、「東京の私立大学の人たちの“就活慣れ”に驚き、地方国立大学の自分と就活に対する意識の違いに格差を感じた」のように就職活動への意識の差を感じるというものがあった。
また「都内や都会の方の大きい大学に比べるとOB・OGの数も格段に少なく、社員の方と知り合う機会もとても少ないと感じます。機会の点で不利を感じました」のように、社会人生活についての貴重な情報源の1つであるOB・OGと会う機会への格差を感じる声もあった。【図4】
【図4】学生が感じた「情報の差」/マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月
企業は学生が感じる格差に気づいていない
学生がさまざまな格差を感じている一方で、企業の側はそのことをどのように考えているのか。図5は、新卒採用を行う企業に対し「就職活動において学生が不利益を被っていると思う格差」としてどのようなものがあると思うか、を調査したものである。
学生に対する調査同様、ここでも、まず「特にない」という選択肢に着目する。すると、48.4%が「特にない」と回答しており、最多の回答となった。すなわち、5割近い企業は就職活動において学生が感じる格差を認識していないということになる。
学生の調査では、7割以上の学生は何かしらの格差を感じているという結果であったので、学生と企業の間に格差に関する認識のギャップが大きいということがわかるだろう。「特にない」を除くと、企業側が思う就職活動の格差としてもっとも多かったのは「地域による差」(26.9%)で、学生の調査でもっとも多かった「学生時代の経験の差」(14.5%)は4番目だった。【図5】
![就職活動において学生が不利益を被っていると感じるもの/マイナビ 2026年卒企業新卒採用活動調査]()
【図5】就職活動において学生が不利益を被っていると感じるもの/マイナビ 2026年卒企業新卒採用活動調査
学生・企業が感じる「地域格差」「経験格差」「情報格差」
企業側でもっとも多かった「地域による差」は、学生の調査においても3番目に多かったことから、学生側から対策を求めるニーズも高く、かつ企業側の認識も比較的高い。いわば、目につきやすい格差である。一方、学生の調査でもっとも多かった「経験格差」は、企業側の認識が比較的低く、学生の対策ニーズと企業の意識にギャップがある。いわば、企業側からは目につきにくい格差になっている。
また「情報格差」については学生側の対策ニーズが比較的高く、先に紹介した学生のコメント「地方出身の学生と都市部出身の学生との間で、情報量や経験の差を感じた」のように、地域による差が情報の差に直結しているようなケースもあり、地域、経験、情報は複雑に絡み合っていることがうかがえる。
そしてそこには、生活苦から使えるお金や時間への制約が経験格差につながっているというものや、
移動に関する費用のために遠方の企業にアプローチすることに躊躇し、それによって得られたはずの経験や情報が得られなかった、というものなど、お金や移動コスト、そして得られる経験や情報へのアクセスの困難など、さまざまな要因が複雑に絡み合っているといえる。【図6】
【図6】地域・経験・情報の格差とその要因/筆者作成
格差解消に向けた課題
多くの学生が就職活動において「地域」「経験」「情報」などの点に格差を感じていることを述べてきた。ここからは、こうした格差を解消・縮小していくためにどのような取り組みができるのかを、「お金と移動の課題」と「経験・情報へのアクセスの課題」の大きく2つに分けて考えてみたい。
1.移動とお金の課題
就職活動における交通費・宿泊費の増大
まず、「移動とお金」をめぐる課題として、就職活動において交通費・宿泊費の増大が挙げられる。図7は就職活動および就職活動準備にかかった費用に関する学生調査の結果である。2020年卒までは毎年ほぼ一定だったがコロナ禍の影響を受けた2021年卒で大きく減少、その後2024年卒で一気に増加に転じ、2026年卒ではコロナ禍前の水準に戻っている。
また図7から直近3か年の交通費・宿泊費のみを抜き出したものが表1だが、2026年卒の「2月まで」の交通宿泊費は2024年卒と比べて5万円以上増額している。
このように、就職費用における交通費・宿泊費、すなわち学生が移動する際に発生するコストが増加していることは、学生の可処分資金を圧迫したり、移動によって得られる情報にアクセスするハードルが上がるほか、移動のコストを得るためにアルバイトの量を増やすなどすることで可処分時間が圧迫され経験格差が生じる、といった状況を生んでいる可能性がある。【図7】【表1】
【表1】就職活動(就職活動準備)にかかった費用(交通費・宿泊費のみ抜粋)/マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月
「就活貯金」の意思がある学生が約8割。目的は「交通費」が最多
昨今、インバウンド需要の高まりにより特に宿泊費の高騰が懸念されている。物価高も相まって、移動に関する費用が学生の負担になっていることは容易に想像がつくだろう。
このような状況もあり、来年就職活動を開始する2027年卒の学生の間でも、キャリア形成活動や就職活動に向けて「貯金をしている・しようとしている」という学生は8割を超えている。こうした、いわゆる「就活貯金」の目的としてもっとも多いのが「交通費」であり、移動にかかわるコストの問題は学生の金銭感覚にも影響を与えている。【図8】
【図8】(左)キャリア形成活動(または就職活動)に向けて貯金をしているか (右)何に備えて貯金しようとしているか /マイナビ 2027年卒大学生キャリア意向調査5月
いまだ5割程度のWEB面接実施率。交通費支給率は最終面接でさえ5割未満
移動にかかる費用が増えているのであれば、WEB面接などオンラインでの就職活動を活用すればいいと思われるかもしれない。だが、新卒採用においてWEB面接を実施している企業は未だ56.4%と6割に満たない。
また学生に対する交通費の支給についても「全員に支給している」という企業は最終面接でも5割に満たないほか、「まったく支給していない」という企業はインターンシップで約4割、説明会や面接でも4割~5割近くあり、就職活動における学生の移動コストの負担を軽減するには、企業による補助はまだ足りない状況である。【図9】
【図9】(左)WEB面接を実施しているか(右)交通費の支給状況 / マイナビ 2026年卒企業新卒採用活動調査
移動とお金の課題を解決するには…?
就職活動における移動とお金に関する課題を解決するにはどうしたらよいか、学生の声を参考に考えてみたい。【図10】
【図10】就職活動における移動とお金の課題を解決するために必要なこと / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月
学生からは「選考の序盤で交通費が出ないのであればWEBを活用してほしい」というものや、交通費に対する補助を求める声があった。また航空会社による就活生向け割引プランがあることに言及するコメントもあったが「便数が少なくあまり利用できる機会が無かった」と利便性の面で課題感を指摘していた。
こうした声を踏まえ、就職活動に関する移動とお金の課題を解決するためには、まず交通費・宿泊費に対する補助を、企業、自治体、大学などによって行う、ということが考えられる。
そして企業においてはWEB面接の実施についてまだ浸透の余地があるということで、オンライン活用のさらなる拡充という方策も検討できるはずである。また場合によっては、自治体等との連携のもと、公共交通機関によって学生の移動手段をサポートする、という方法も考えられるだろう。
2.経験・情報へのアクセスの課題
次に、経験や情報のアクセスに関する課題について考える。
図11は、円安や物価高によって学生が受けた影響について調査した結果だが、「食費が上がった」や「水道光熱費が上がった」のように私たちの生活と同様の、比較的イメージがしやすい影響も見られる一方で、「交際やレジャーを控えるようになった」「海外留学をあきらめた」「部活動やサークルの出費を切り詰めた」のように円安や物価高の影響で学生の間でしかできない各種の活動ができなかった、という学生がわずかながらいることがわかる。
冒頭で「海外留学に対する企業の評価が異常に高いと感じた」という学生の声もあったが、経済的なあおりを受け留学がかなわない学生もいるのである。【図11】
【図11】円安・物価高の影響 / マイナビ 2026年卒大学生のライフスタイル調査
サークル・部活動参加率の減少の背景に、経済的事情の影響も
サークル・部活動の参加率も年々減少傾向にある。2026年卒の学生のサークル・部活動参加率は51.5%で、参加しなかった理由として「お金がかかる」を挙げる学生は前年よりも増えており、ここにも経済的な要因が垣間見えてくる。【図12】
【図12】(左)サークル・部活動参加率(右)サークル・部活動不参加の理由 / マイナビ 2026年卒大学生のライフスタイル調査
経験・情報へのアクセスの課題を解決するには…?
留学やサークル・部活動のみならず、学生時代にしかできない貴重な経験ができず、そのことで選考の際に学生時代のことを自信をもってアピールできないと悩む学生に対してどのようなことができるか、これについても学生の声をもとに考えてみたいと思う。【図13】
【図13】就職活動における経験・情報へのアクセスの課題を解決するために必要なこと / マイナビ 2026年卒 大学生キャリア意向調査6月
まず学生の体験を後押しする方策として、学生への留学支援や、奨学金などサポートの拡充、資格取得を目指す学生へのサポートなどは、大学や自治体などで取り組みを検討できるだろう。
また企業として、選考において、留学などの目を引くような特徴的な経験だけでなく、学業への取り組みを含め、学生のこれまでの経験を多角的に評価していく、いわば多様なガクチカを評価していく姿勢も重要となる。
また「インターンシップの拡充など、学生の挑戦機会を増やしてほしい」という声や、「大学時代の経験ばかりに焦点を置かず、実際に働く機会を設けていただきそこでの様子などを基に評価する取り組みがあると良いのではないか」といった声にもあるように、企業としてキャリア形成支援活動に取り組み、学生がキャリアについて考える場をより広く提供していくということも今後さらに重要となるだろう。
地元就職のためのインターンシップ開催という手段も
学生の声のなかに「地方でのインターンシップ、面接、説明会の開催をしてほしい」というものもあったが、地元就職のためにインターンシップ・仕事体験に参加したことのある学生は3割にとどまる。
この参加率の低さは、企業による実施数の問題もあるかもしれないが、こうしたインターンシップをはじめとする地方の企業の情報を得る手段が限られることや、その企業での就業体験に参加したくても移動のコストなどの理由により参加できない学生が多い、ということも考えられる。
こうした事情により参加したくても参加できない学生の、潜在的なニーズにこたえるためにも、地方の企業や自治体、大学が連携し、機会を提供していくだけでなく、学生が参加しにくいと感じる障壁をクリアにし、参加しやすい環境づくりをしていかなければならない。【図14】
【図14】(左)地元就職のためのインターンシップ・仕事体験参加割合(右)地元就職のためにインターンシップ・仕事体験に参加して、地元就職に対する考え方はどう変わったか/ マイナビ 2026年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
経験、地域、情報の格差を解消してくために
今回のコラムでは、学生が感じるさまざまな格差のなかから「地域格差」「経験格差」「情報格差」を取り上げたが、これらは移動とお金という問題や、経験したくても経験できないという状況や、知りたいと思う情報に対するアクセスの悪さなど、さまざまな要因が絡み合っている。
こうした問題に対して、交通費のサポートや、WEB選考のさらなる普及、地方で働くことを実感として経験できるインターンシップなどの拡充、学生のキャリア形成に資するようなプログラムの提供、学生時代にしかできない体験を支援する取り組み、選考において学生のガクチカをより広い意味で捉え直していく評価基準の多様化など、企業、自治体、大学それぞれが取り組むことで、学生が感じる格差を縮小・解消していけるのではないかと考える。【図15】
【図15】経験、地域、情報の格差を解消していくために
マイナビキャリアリサーチラボ 研究員 長谷川 洋介