欧州の取り組みから課題解決へのヒントを得る、日本のジェンダー格差と女性の経済的地位

島森 浩一郎
著者
エスプラナディア株式会社 Founder CEO
SHIMAMORI KOICHIRO

はじめに

2025年6月、筆者はポーランド・ワルシャワで開催された「EU透明性指令(Pay Transparency Directive:男女間の賃金格差是正のために雇用者に一連の措置を義務付けるEUの制度)」に関するセミナーに登壇し、日本の職場に残るジェンダーや賃金の格差について解説する機会を得た。

日本の企業で長年働いてきた筆者にとって、女性の経済的地位は少しずつ向上しているという認識があった。だが改めて国際的なデータに触れてみると、先進国の中でも賃金水準が低い日本では(『世界と日本の賃金動向をILOなど国際機関のデータから読み解く』参照)、女性の給与は依然として男性に届かず、管理職の女性比率も極めて低い。

対照的に、欧州では要職で活躍する女性の姿が印象的で、フォーラムや会議の壇上では女性の存在感が際立つ場面も多い。この違いを前に、日本と欧州ではそもそもの制度設計や職場文化が根本的に異なると痛感した。

本コラムでは、日本のジェンダー格差と女性の経済的地位の現状を、欧州の先進事例や国際制度と照らし合わせながら読み解いていく。特に、「制度は誰のために、どう使えるのか」を問い直すことが、若い世代にとって未来を築く出発点となることを願っている。

国際的潮流と未解決の構造

1995年、北京で開催された第4回世界女性会議において採択された「北京行動綱領(Beijing Platform for Action)」は、女性の経済的エンパワーメントとジェンダー平等を国際社会の共通課題として位置づける画期的な出発点となった。特に「女性と経済」の分野では、雇用機会の確保や賃金格差の是正、キャリア形成支援の必要性が明示され、制度的・文化的課題を包括的に整理した意義は大きい。

以降、「賃金の透明性」や「制度的説明責任」はグローバルなキーワードとなり、ILOやOECDによる政策提言、国連によるSDG Target導入、EUによる賃金透明性指令などを受け、特に欧州では市民運動や政策形成が連動し、格差の「見える化」が進展した。

北京行動綱領から30年が経過した2025年現在でも、職場におけるジェンダー格差は世界規模で構造的に残存している。ILOの最新報告によれば、女性の年間所得は男性の77.4%にとどまり、週あたりの有給労働時間も平均して約6時間短い。

また「無償ケア労働(育児・介護・家事など)」に関しては、女性の方が男性の3.2倍の時間を費やしており、就業機会に対する最大の制約要因となっている。管理職比率も世界平均で30%にとどまり、職業分断の構造が国境を越えて持続していることが浮かび上がっている。

こうした格差は、制度整備の不十分さに加え、制度と職場文化、社会規範が十分に連携していないことに起因している。制度が「誰に、どのように届くか」という視点を欠いてしまえば「制度設計vs現場文化の乖離」の構図は残存し、格差構造は再生産され続けてしまう。

欧州の制度的アプローチ「透明性と構造変革」

女性の経済的エンパワーメントを実現する制度設計の面で、欧州は世界を牽引してきた。特にEUによる法制度の整備と数値指標の導入は、制度実効性の担保に大きく寄与している。

2023年に採択された「EU透明性指令(Pay Transparency Directive:EU Directive 2023/970)」は、男女間の賃金格差是正に向けて具体的な措置を含めた制度として、EU加盟国のみならず世界的にも注目を集めている。この指令は、企業に対して以下のような義務を課している。

  • 求人票における給与レンジ明示義務
  • 過去給与履歴の照会禁止
  • 昇進・昇給基準の明文化
  • 男女間賃金格差の報告義務
  • 格差が一定以上の企業に対する是正措置と違反に対する制裁条項の明文化

これらは単なる情報開示ではなく、賃金制度そのものの再構築を促す仕組みである。また、育児休業取得の均衡化指令や女性登用に関する目標設定など、多角的な制度連携により格差是正の流れが形成されている。

この取り組みの背景にあるのは、「公正は可視化から始まる」という理念だ。EUでは透明性指令について、2026年6月7日までに加盟各国が国内法へ反映させることを義務付けている。EU全体として2025年時点でのジェンダーギャップ指数(後述)は約77.2%を記録しているが、欧州内でも地域差は依然として存在する。

北欧諸国はジェンダー平等の先進的な取り組みで世界をリードし、制度整備やデータ収集の透明性、市民社会との連携の点で全世界の模範となっている。賃金も極めて平等に近く、男女間のジェンダーギャップ指数は各国とも80%を超える。首相をはじめとして政界や、企業役員など経済界にも女性が非常に多く、女性による起業も珍しくない(フィンランド「Gubbe」に関する記事参照)。

また、西欧ではフランスやドイツなどが、「賃金透明化指数」公表を義務付ける法制度を導入し、データに基づいた評価と制度運用の循環を推進している。一方で中東欧や南欧諸国は、制度導入は進んでいるものの、伝統的に固定化されてきた男女の役割といった文化的価値観とのギャップが依然として課題となっている。

中東欧で最大の経済規模を誇るポーランドを例に挙げると、安定した経済成長(1992年以降、2020年を除きプラス基調継続)や労働市場の堅調さ(2024年の失業率2.9%)を誇るが、ジェンダーギャップ指数は75.0%とEU平均にわずかに及ばない。

教育・医療分野では改善が進むものの、管理職登用や政治分野への進出には課題が残っている。質的な平等に向けた制度設計と、制度を動かす文化をどう醸成していくか、という点が問われている。

地域差もある欧州のジェンダーギャップ解消の進展と課題

地域制度整備市民文化実効性課題
北欧(フィンランド、スウェーデンなど)教育格差の残存など
西欧(仏独など)中小企業対応など
中東・南欧文化的価値観とのギャップ
※世界経済フォーラム「グローバル・ジェンダーギャップ・レポート(2025年)ほか、ILOやEUの文献を参考に筆者の見解でまとめたもの

男女間格差を国際比較する指標「ジェンダーギャップ指数」

世界経済フォーラム(WEF)は、男女間の格差を「見える化」するために、「グローバル・ジェンダーギャップ指数」を毎年発表している。

教育・健康・経済・政治の4分野における女性と男性の成果の差を比較し、「平等度」を数値化する指数は、0〜100%の範囲で表示され、100%が完全平等を意味する。各国がどこで格差を縮め、どこに課題があるかを客観的に把握することができ、政策立案・国際比較・企業の人材戦略など、幅広い分野で参考指標となっている。

2025年の最新レポートでは、世界平均(148カ国)が68.8% と、2024年から+0.3ポイント改善した。上位は北欧諸国が占め、アイスランドが2009年から連続してトップを維持している。一方、日本の指数は66.6%で、G7で最下位、先進国(OECD平均73.8%)の中で最下位レベル、途上国も含めた世界平均68.8%をも下回り、148カ国中118位と、非常に残念な結果となっている。

欧州と日本のジェンダーギャップ指数(世界経済フォーラム・2025年)

ジェンダーギャップ指数順位
アイスランド(IS)92.6%1位
フィンランド(FI)87.9%2位
ノルウェー(NO)86.3%3位
スウェーデン(SE)81.3%6位
EU平均(EU)77.2%
ポーランド(PL)75.0%45位
OECD平均73.8%
世界平均68.8%
日本(JP)66.6%118位

日本における制度的課題と文化的ギャップ

日本では2025年時点で失業率2.6%という安定した労働市場が維持されている一方、構造的な少子高齢化と人材不足が深刻化している。女性の就業率は53.6%と男性より16.6ポイント低く、管理職比率はわずか15.5%。非正規雇用率は約52%、週あたりの労働時間は男性より8.6時間短い状況にある。

これらは、所得・地位・キャリア形成・雇用の継続性における格差の存在を示している。また、育児や介護など「無償ケア労働」の責任が女性に集中することも、職業継続や昇進機会の阻害要因となっている。

確かに日本では育児休業制度や女性活躍推進法など、制度整備は進んでいる。しかし、制度が「使えるかどうか」「文化と接続しているか」という視点が欠けている限り、格差の是正は進みにくい。

たとえば男性の育休取得率は17.1%にとどまり、その多くが5日未満。制度は存在しても、職場文化や社会的期待がそれを「使いづらいもの」にしている。制度と文化の間にあるこのギャップこそが、日本のジェンダー格差の根深さを物語っている。

数値で見る日本の現状(2025年時点)

指標日本OECD平均出典元
ジェンダーギャップ指数66.6%約74%WEF報告
女性管理職比率15.5%約30%ILO報告
女性就業率53.6%約70%OECD統計
非正規雇用率(女性)約52%約30%厚労省統計
男性育休取得率17.1%(うち5日未満が多数)約40%内閣府調査

欧州の事例から得られる制度設計上のヒント

このような日本の課題を解決する上で、「賃金透明性指令」を始めとする欧州の取り組みから、以下のように日本の制度再設計に活かせるヒントが多くあると筆者は考える。

  1. 給与レンジ表示の制度化
    求人段階で格差防止を図る施策は、賃金の透明性と公平性の向上に寄与する。
  2. 数値目標と報告義務の連動
    目標設定を企業別報告や支援策と連動させることで、実効性の高い制度運用が可能となる。
  3. 育児・介護支援の国家保障化
    地域差のある支援を国家レベルで標準化することにより、職業参加の条件を均衡化する。
  4. 制度と文化の相互補完設計
    制度導入にあわせて、市民対話・教育・メディア啓発といった文化的受容促進策の整備が重要となる。
  5. 国際枠組みの活用
    SDGs(目標5)、ILO指針、EU透明性指令などを補助線とすることで、制度設計に国際的な基準を織り込むことができる。

おわりに

「北京行動綱領」から30年。制度整備は進み、ジェンダー平等への歩みも広がってきた。ただ、制度だけでは人々の行動は変わらない。制度を支える文化があってこそ、選択が日常に根づいていく。たとえば北欧では、育休や賃金開示が生活に直結する設計となり、人々の選択を後押ししてきた。一方、日本では制度はあっても使われにくい現実が残っている。

国際的な枠組み(SDGs、ILO、EUなど)による制度改善の加速は重要だが、それを動かすのは文化・職場慣行・市民意識とのつながりだ。制度を「翻訳」し、社会と「共創」する姿勢が、今まさに求められている。

これからの30年は、「制度があるか」より「自然に使われているか」が問われる時代。一人ひとりの実践が、日本の制度と文化をともに前進させる鍵になるだろう。


参考文献

  • Beijing Platform for Action (1995). United Nations. 
    https://www.un.org/womenwatch/daw/beijing/platform/
  • ILO (2025). Women and the Economy: 30 years after the Beijing Declaration. Geneva: International Labour Organization.
  • World Economic Forum (2025). Global Gender Gap Report 2025. https://jp.weforum.org/publications/global-gender-gap-report-2025/digest/
  • OECD Gender Wage Gap Database (2024 edition). 
    https://www.oecd.org/gender/data/gender-wage-gap.htm
  • European Commission (2023). Directive (EU) 2023/970 on Pay Transparency.
  • European Commission (2024). Labour Market and Wage Developments in Europe 2024.
  • ILO Global Wage Report 2024/25. Geneva: ILO.
  • ILOSTAT Database (2024). Microdata & Modelled Estimates.
  • ILO (2022). Experiences of Violence and Harassment at Work: A global first survey. Gallup・Lloyd’s Register Foundation・ILO.
  • ILO Care Work Statistics & Estimates (2024).
  • ILO Working Paper No.124 (2024). Wage Gaps and Employment Outcomes for Women with Disabilities – Ananian & Dellaferrera.
  • 内閣府 男女共同参画局(2023)「女性の活躍加速のための重点方針2023」
  • 厚生労働省(2024)「毎月勤労統計調査」
  • 総務省統計局(2025)「労働力調査(基本集計)」
  • 総務省(2022)「就業構造基本調査」
  • 内閣府「女性活躍推進企業データベース」(2023年)
  • ILO NEET率・若年女性指標統計(2024)
  • UN Women (2024). Transforming Care Systems: A UN System Policy Paper.

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