全社員16時退社、小1の壁も乗り越えられる子育て支援策
―株式会社ゼスト代表取締役 新井庸能氏

キャリアリサーチLab編集部
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企業の子育て支援に注目するシリーズ第3弾は、大阪府大阪市にある株式会社ゼストの代表取締役社長、新井庸能さんにインタビュー。

「保育園や幼稚園に預けている子どもを迎えに行けるように、会社全体で終業時間を早めてしまおう」。そんな発想から株式会社ゼストの働き方改革は始まりました。勤務時間は9時30分から16時。保育料は上限5万円まで会社負担。

社員の急な休みにも柔軟に対応できる体制を整え、妊娠・出産を理由に辞める社員はゼロ。男性社員も育児に積極的に参加し、「小1の壁(※1)」も乗り越える仕組みが浸透しています。こうした取り組みの裏には、社長自身の子育て経験と、社員全員で作り上げた支え合いの文化がありました。新井さんに、その歩みと今後の展望を伺いました。

株式会社ゼスト 代表取締役 新井庸能氏

新井 庸能(あらい のぶたか)
株式会社ゼスト 代表取締役

デザイン会社での勤務を経て2006年に独立し、株式会社ゼストを設立。その後、お名前シール、布物に貼り付けるお名前アイロンシールなどの入園・入学・新学期準備グッズを販売する通販サイト「お名前シール工場」を立ち上げた。「大阪一のホワイト企業」を目指して、誰もが働きやすい職場環境づくりに取り組んでいる。

 

全社で就業時間を短縮、子育てに寄り添う改革

質問:「子育てしやすい職場」を追求した働き方改革として、具体的にどのような取り組みを行っているのでしょうか?

新井:まず、所定労働時間(定時)を9時30分から16時までに設定しています。子育て中の社員が保育園や幼稚園のお迎えの時間に間に合うように、全社で終業時刻を繰り上げました。というのも、一般的な会社であれば子育て中の社員は時短勤務で対応されることが多いと思いますが、自分だけ早く帰るというのは、どうしても後ろめたさを感じ、周りの社員に気を使います。それであれば会社全体で終業時間を早めてしまおうと考えたのです。

保育料については、3歳になるまで上限5万円を会社で負担しています。子育て中の社員の中には保育料の負担を重く感じる人もいると思いますので、自分自身が子育てした経験を基に金額を設定しました。

また、保育園に預けている子どもが熱を出したりして、保育園から「迎えに来てください」と電話がかかってくることがあります。そんなときに、他の社員に気兼ねすることなく子どもを迎えに行けるように、「子どもは病気をするものだから、急に休むこともあるし、急に帰らなあかんこともあるよ」と全社員に繰り返し伝えています。実際の業務でも、お客さま対応などの業務をすぐに他の社員が引き継げるように、常に仕事の状況を共有できる仕組みを整え、急に誰かが休んでも、必ず他の人がカバーできる体制を取っています

現在、6、7割の社員が子育て中という状況なのですが、定時を16時までに変更したことで、逆に終業後の時間を持て余してしまう社員もいますので、申請制で副業を解禁しました。独身、既婚に関係なく、隙間バイトをしたり、自分で通販サイトを運営したりしているようです。

売り上げを下げずに16時退社を実現するために業務を効率化

質問:取り組みを始めた背景と、進めるうえでの課題や障壁について教えてください。

新井:当社の定時は、もともと9時30分から18時までだったのですが、9年ほど前から徐々に既婚者が増え始めましたので、「子どもができてみんなが保育園の送り迎えをするようになったら大変やな」と思ったのです。自分自身も3人の子育てを経験して保育園の送迎の大変さを理解していたので、「それならば、会社の終業時間を早めよう」と思い立ったのがきっかけです。

最初から終業時間を16時にしたわけではなくて、18時から段階的に短縮していきました。まず17時にして業務に支障が出ていないかを確認し、次に16時45分にして……と、業務状況を確認しながら少しずつ切り上げていき、最終的に2022年6月から16時にしました。

うまくいかなかったら元の勤務時間に戻すことも視野に入れつつ、お試し期間として終業時間を早めた結果、「この期間にいつもと同じ成果を上げられれば、これから先も早く帰れる」という気持ちで、みんなで一丸となって業務の効率化をしていきました。

定時の変更に関して、社員からの反対は一切ありませんでした。むしろ「ありがたい」という声ばかりでした。もちろん、仕事量や売上を維持したまま時間を短縮するのは簡単ではありませんでしたが、「早く帰りたい!」という気持ちはみんな同じです。

「どうすれば効率よく仕事を進められるか」という視点で、タスクを一つずつ洗い出し、無駄な作業を整理し、システムの改善によって効率化できる部分はコストをかけて自動化しつつ、何年もかけて全員で工夫しながら取り組みました。 社員は一人ひとり自分の担当業務を持っていて、以前は業務が属人化している部分もありました。

しかし、各人の業務内容を共有する体制づくりを進めて、その人にしかできない仕事をなくしていきました。お互いがそれぞれの仕事内容に関心を持ち、情報を共有することで、一人が急遽休むことになっても業務に支障ができない体制づくりができました。

社員のみなさま/株式会社ゼストご提供写真
社員のみなさま/株式会社ゼストご提供写真

求人応募数が急増、優秀人材の確保も実現

質問:取り組みの利用状況や具体的な成果についてお聞かせください。

新井:求人に対する応募数は明らかに増加しました。子育て中の方に限らず、「勤務時間が短くて、効率よく働けるな」と思ってくれる人が多いんでしょうね。一度募集をかけると、本当にたくさんの応募が来るので、その中から優秀な人材を採用できるようになりました。

妊娠や出産を機に退職した社員は一人もいません。以前もいなかったのですが、現在の取り組みを始めるようになって、みんな「辞めずに続けられる職場」だと感じてくれているのかなと思います

実際、当社の離職率は非常に低くて、長く勤めてくれている社員が多いです。離職率ゼロパーセントと言える状況です。

家族にも伝わる、働きやすさの恩恵

質問:社内の雰囲気や社員のモチベーションには、どのような変化がありましたか?

新井:既婚、独身に関係なく、16時に仕事が終わって早く帰ることができるのは、みんなすごくうれしいようです。子育て中の社員は「子どもを迎えに行ける時間が確保できて助かる」って言っていますし、独身の社員は「帰ってから昼寝できる」などと言って喜んでいます。

それに、既婚の男性社員はすごく積極的に育児に関わっていて、育休取得率は今のところ100%。育休期間は長い人で2カ月くらい、短い人でも1カ月弱の期間を取得してくれています。保育園の送迎も、朝と夕方に率先していっているようで、家族からもポジティブな声が上がっていて、「夫が迎えに行ってくれて助かる」とか「子育ての負担が減った」という話を聞きます。

当社はもともと、社員同士の仲が非常に良くて、お互いに助け合う精神が根付いています。普段から雑談をオッケーにしていて、オフィス内でもあちらこちらでおしゃべりしながら楽しく仕事をしてくれています。そんな雰囲気の職場だからこそ、定時の変更に取り組むことにより、「みんなで支え合って実現しよう」という協力体制がより強まったのではないかと思います。

「小1の壁」を感じさせない就業体制が実現

質問:子どもが小学校に入学する際に保護者が局面する課題、いわゆる「小1の壁」に対する、社員の方の反応はいかがでしょうか?

新井:自治体や施設によって違いはあると思いますが、学童保育の預かり時間は「18時まで」としているところが多いと思います。私自身の体験でも、子どもは18時までしか預かってくれませんでした。ですので、定時が18時までだったら、迎えにいくことはできませんでした。

しかし、今は16時に仕事が終わるので、社員からは「学童に迎えに行けるようになった」「子どもが帰ってくる時間に家にいられるようになった」という声が実際に上がっています。こうしたことが「この会社で長く働きたい」という思いにもつながっているようです。

社員が少しでも働きやすい職場環境づくりには常に取り組んでいて、職場の改善に関するアンケートを取って要望を聞いています。その結果を踏まえ、社内にカフェスペースを新たにつくり、マッサージチェアやマッサージ器を設置しています。

カフェスペースの様子/株式会社ゼストご提供写真
カフェスペースの様子/株式会社ゼストご提供写真

リモートワーク環境の整備と休暇制度の拡充を目指して

質問:今後、仕事と育児の両立や多様な働き方の推進において取り組みたいこと、さらに注力したいことはありますか。

新井:子育てしながら少しでも働きやすい職場づくりをするために、さまざまな働き方改革を進めてきました。しかし、まだまだ取り組みたい課題はあります。まず、リモートワークの環境をもっと整えていきたいと考えています。たとえば午前中に子どもを病院に連れて行かないといけないときに、午後だけ出勤するのは効率が悪い場合もあります。そういうときは、自宅でリモートワークをした方が合理的だと思います。

現状でも、希望すればリモートワークを可能にしています。ただ、社員たちは「会社に来て、みんなと話したい」という人が多く、実際にはあまり必要とされていないのが現状です。しかし、効率よく働くことができる環境づくりをするために、リモートワークを選択肢として持っておくことは重要だと思っていますので、今後も充実化に取り組みたいと考えています。

また、休日休暇をもう少し増やしたいと考えています。現在は土日祝が休みで、年末年始休暇と夏季休暇については暦よりは多めに設定していて、有給消化率は100%なのですが、それでも「もうちょっと違うタイプの休みを増やせたらいいな」と思っていて、そのあたりにも取り組んでいきたいです。 社員数はそれほど多くない会社です。

社員みんなで協力し合って業務の効率化を進めてきました。そのおかげで、今は残業することがほとんどなく、むしろ定時を18時までにしていた頃の方が多く残業していたくらいです。「子育てしながら働きやすい職場」を追求してきたことが、会社にとっても大きなプラスになっています。

矢部栞
担当者
キャリアリサーチLab編集部
SHIORI YABE

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