カスタマーハラスメントの実態と防止の取り組み-シリーズ:2024年の労働問題をマイナビデータから振り返る(4)

沖本麻佑
著者
株式会社マイナビ
MAYU OKIMOTO

2024年に話題となった労働問題について振り返る本シリーズ。第1~3回までは「2024年問題」を取り上げたが、今回は2024年の流行語となり、防止条例の制定などでも話題となった「カスタマーハラスメント」の問題に焦点をあてる。

言葉の定義や問題点とともに、政府調査やマイナビが行った「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」などのデータからカスハラの実態と対策の動きについて見ていく。

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や利用者が業務上の対応を行う従業員に対して過度な要求や苦情、威圧的な態度など、社会通念を逸脱した言動を行うことで、精神的・身体的な苦痛を与える行為を指す。

厚生労働省は企業向けの対策マニュアル内で下記のように説明している。

顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により労働者の就業環境が害されるもの。

厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」

また、どのような場面でのクレーム・言動がカスハラに当たるのかについて、さらに詳しく以下の3つのポイントも示されている。

  • 商品やサービスに瑕疵や過失が認められない場合
  • 要求の内容が商品やサービスに関係がない場合
  • 要求を実現するための手段が不相応な場合

カスハラと正当なクレームとの違いは、上記のように「要求の内容に妥当性があるか」と「要求の伝え方が相応かどうか」で異なるとされていることがわかる。

カスハラの例

より具体的なカスハラの例はどのようなものなのだろうか。厚生労働省の同マニュアルでは、接客業の企業に対するヒアリングの結果、カスハラに類する行為として下記のような行為が確認されたとしている。

  • 暴言:大声での罵倒、差別的な言葉を浴びせる行為。
  • 脅迫:大声で怒鳴る、机を叩くなど、威圧的な態度を取る行為。
  • 過剰な要求:業務範囲を超えた対応の強要や、無理な納期・対応を求める行為。
  • 対応者の揚げ足取り:自分の要求を繰り返し、通らない場合は対応者の言葉尻を捉える
  • 長時間拘束:クレーム対応などで不当に長時間にわたり従業員を拘束する行為。
  • SNSへの投稿:従業員の氏名の公開、企業や従業員の信用を毀損するような投稿など
  • 身体的接触や性的言動:不適切な接触や、性的な発言・質問など、セクシャルハラスメントに該当する行為。

このようなハラスメント行為はカスハラに限らず、従業員のメンタルヘルスに深刻な影響を与え、職場の雰囲気や業務にも悪影響を及ぼすなど、注意が必要だ。

カスハラ以外のハラスメントも含む、ハラスメントの定義や職場における影響については、以下のコラムでも解説しているため、こちらも参考にしてほしい。

カスハラの実態

カスハラは、業種や職種を問わず発生しており、近年ではその実態がより明らかになってきている。ここからは調査データから、その現状を見ていく。

カスハラの発生状況

企業からみた発生状況

厚生労働省が令和5年度に実施した「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年間に相談があったハラスメントの内容は、割合が高い順に「パワハラ(64.2%)」「セクハラ(39.5%)」「顧客等からの著しい迷惑行為(27.9%)」と続き、カスハラは3番目に多かった。

過去3年間のハラスメントの相談有無/令和5年度 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」をもとに作成
過去3年間のハラスメントの相談有無/
令和5年度 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」をもとに作成

件数の増減をみると、カスハラは「件数が増加している」とした企業が23.2%と最も多く、他のハラスメントとは反対に増加傾向が見られた。一方、他のハラスメントは「件数が減少している」とした企業の割合が多く、減少傾向にある。

「件数の増減はわからない」企業がそれぞれ一定数の割合で存在しており、カスハラは41.7%が増減不明と特に多いものの、近年カスハラに該当する行為の増加を実感している企業が多い様子がわかる。

過去3年間に相談があった企業における相談件数の推移/令和5年度 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」をもとに作成
過去3年間に相談があった企業における相談件数の推移/
令和5年度 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」をもとに作成

また、「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」によると、アルバイト採用担当者の45.7%が、自社のアルバイト従業員が顧客からハラスメント疑惑のある被害をうけたと回答した。

直近1年間に、自社に努めるアルバイト従業員がカスタマーハラスメント行為を受けたか/「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」
直近1年間に、自社に努めるアルバイト従業員がカスタマーハラスメント行為を受けたか/
「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」

働く個人からみた発生状況

次に、働く個人への調査データを見ていく。東京都産業労働局の「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」で正社員や自営業など、幅広い就業形態の就業者に調査した結果、過去にカスタマーハラスメントの被害があった人は23.3%(被害にあった+両方あるの合計)、見聞きした人の割合は59.6%(見聞きした+両方あるの合計)となっている。

カスタマーハラスメントを受けたことがある・状況を見聞きしたことがある/東京都産業労働局「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」をもとに作成
カスタマーハラスメントを受けたことがある・状況を見聞きしたことがある/
東京都産業労働局「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」をもとに作成

また、「2026年卒大学生のライフスタイル調査」で、全国の2026年卒の就活生にカスタマーハラスメントについて聞いたところ、アルバイトをしていて何らかの行為を受けたことがある学生は28.6%だった。

回答者自身がカスハラ行為を受けていなくても、見聞きしたことがある人は半数を超えており、大学生はアルバイトという立場でも3割近くがカスハラ行為を受けたことがあると回答しているなど、現在、働く人にとってカスハラは身近な問題となっていることがわかる。

カスハラの具体的な内容

アルバイト採用担当者への調査で、カスハラの具体的な内容について聞いたところ、もっとも多かったのは「大きな怒鳴り声をあげられた」36.3%、「理不尽な要望を繰り返し問い合わせられた」32.1%だった。

直近1年間にアルバイト従業員が顧客から受けたカスタマーハラスメント/「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」
直近1年間にアルバイト従業員が顧客から受けたカスタマーハラスメント/
「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」

大学生調査で、自身が受けたことのあるカスハラの内容を見ると、もっとも多いのは「暴言(19.3%)」となっている。

調査からは、カスハラ行為の内容として、サービスに関する要求やインターネット・SNS等での迷惑行為などよりも、接客した従業員に直接暴言や大声を出すなどの言動が問題となっているケースが多いことが見て取れる。

カスハラによる影響

このような行為は、従業員にも企業にも大きな悪影響を及ぼす。ここではカスハラによって引き起こされる影響として代表的なものを挙げていく。

従業員のメンタルヘルスへの悪影響

東京都産業労働局の調査で、カスハラを受けた人に、その影響を聞いた結果をみると、半数以上の人が「怒り、不満、不安を感じた(51.8%)」と回答しており、眠れないなどの精神的な不調があった(7.6%)ほか、通院・服薬した、入院した、退職した等、深刻なケースも散見される。

カスハラが心身に与えた影響の程度/東京都産業労働局「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」
カスハラが心身に与えた影響の程度(そのときのあなたの心身に与えた影響の程度としてもっとも近いものをお答えください)
/東京都産業労働局「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」

従業員の離職・パフォーマンス低下

アルバイト採用担当者に、アルバイト従業員の早期離職について聞いた結果をみると、カスハラ行為を受けた従業員がいたと回答した企業は、早期離職者がいた割合が11.5pt高かった。

カスハラ行為を受けた従業員が早期離職しているとは限らないが、カスハラ防止策がなされていなかったり、対応方法が検討されていなかったりすることが離職につながることも考えられる。

<カスハラ有無別>アルバイト従業員の1か月以内早期離職/「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」
<カスハラ有無別>アルバイト従業員の1か月以内早期離職/
「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」

また、大学生調査にて、カスハラを受けたことがある学生にその後の影響を聞くと、もっとも多かったのは「特に影響はなかった(57.2%)」であるが、アルバイトを辞めた・これまで通りに働けなくなった学生は合計で42.9%にのぼり、決して少なくないことがわかる。


働く個人にとってそれまでと同じように働けなくなってしまったり、仕事を続けられなくなったりするという悪影響はもちろん、企業にとっては貴重な人材の離職やパフォーマンスの低下という損失にもつながるだろう。

他の顧客に対する影響

厚生労働省のマニュアルでは、従業員と企業への影響以外に、他の顧客などへの影響についても言及されている。顧客によるカスハラ行為によって、他の顧客のサービス利用環境が悪くなったり、業務の遅延によって通常通りのサービスが受けられなくなったりするなどの例が挙げられている。

また、それによって企業のブランドイメージの低下につながることも指摘され、カスハラの問題は、対応する従業員の精神的なダメージやその場の業務上の支障だけにとどまらず広く影響が及ぼされることが示唆されている。

カスハラへの政府・行政の対応

企業や従業員に広く影響を及ぼすカスハラという課題は、社会全体での対策が求められる段階に入っている。次は政府としてのカスハラ防止に関する動きについてみていこう。

カスハラ防止の指針やマニュアル

政府としてのカスハラ防止の指針やマニュアルについての動きは下記の通りである。

  • 労働施策総合推進法改正(2019年)・パワーハラスメント防止対策についての指針(2020年)/厚生労働省
    ・・・法改正自体は職場のパワーハラスメント防止措置を企業に義務付けるものであったが、指針では顧客等からの著しい迷惑行為についても企業が対応することが望ましいとされ、初めて行政レベルでの言及がなされた
  • カスタマーハラスメント対策企業マニュアル(2022年)/厚生労働省
    ・・・企業に自主的なカスハラ対策への取り組みを促すことを目的として、対策の必要性や対策方法を提示した。
  • 経済財政運営と改革の基本方針2024(2024年)
    ・・・カスハラを含む職場におけるハラスメントについて、法的措置も視野に入れて、対策を強化すると明言された

東京都カスタマーハラスメント防止条例(2024年)

カスハラを禁止する条例の制定として、全都道府県で初めて制定されたのが上記の条例である。これによって、都、顧客、就業者、事業者のそれぞれに対して一定の責務が示された。東京都カスタマーハラスメント防止条例については弁護士の堀田陽平氏による下記の記事にて解説されているため、参考にしてほしい。

労働施策総合推進法等の一部改正法の公布(2025年)

前述の「骨太の方針」にて言及されていた、カスハラの対策強化が盛り込まれたのが2025年6月に厚生労働省が公布した「労働施策総合推進法等の一部改正法」である。この改正により、企業には以下のような対応が求められるようになる。

  • 方針の明確化と周知:カスタマーハラスメントに対する企業の基本的な考え方を明文化し、社内外に周知する。
  • 相談体制の整備:被害を受けた従業員が安心して相談できる窓口や体制を整備する。
  • 再発防止策の実施:被害が発生した場合の迅速な対応と、再発を防ぐための措置を講じる。(厚生労働省リーフレット「令和7年労働施策総合推進法等一部改正法のポイント」

カスハラに対する企業の取り組み

このように、法制度と行政の動きは、企業に対して単なる努力義務ではなく、具体的な対応を求める方向へと進化している。企業はこれを受け、単なるマニュアル整備にとどまらず、実効性のある体制づくりを進めることが求められている。次に、実際に企業で取られている対策について見ていく。

カスハラ防止の取り組み状況

アルバイト採用担当者への調査によると、カスハラ防止・対策のための何らかの取り組みを行っている企業は63.3%だった。

業種別にみると、販売接客業や飲食サービスでの取り組み割合が特に高い。カスハラに該当する行為を受けた従業員がいた割合が高い業種は、対策を講じている割合も高く、カスハラ行為があったことを受けて再発防止や対応方法が検討されたケースなどが考えられる。

カスハラ防止・対策の取り組み有無とアルバイト従業員へのカスハラの有無/「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」
カスハラ防止・対策の取り組み有無とアルバイト従業員へのカスハラの有無/
「アルバイト従業員へのカスタマーハラスメント実態調査」

取り組みの内容としてもっとも多かったのは「会社としてカスハラに対する基本方針を策定する」で約3割の企業が実施しており、ついで「カスハラ対応マニュアルの作成と周知(25.5%)」や、従業員へのカスハラ対応研修が挙がった。

厚生労働省による実態調査を見ると、勤務先におけるハラスメントに関する取り組みとして多かったのはマニュアルの作成だった。

カスハラ行為に対する勤務先の取り組み内容/令和5年度 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」をもとに作成
カスハラ行為に対する勤務先の取り組み内容/令和5年度 厚生労働省「職場のハラスメントに関する実態調査」をもとに作成


企業の取り組みとしては、まずは基本方針やマニュアルの作成によって対応の仕方を整理することからはじめているようだ。

厚生労働省の企業マニュアルでは、カスハラ対策の①として「事業主の基本方針・基本姿勢の明確化、従業員への周知・啓発」が挙げられており、組織として従業員を守るという基本姿勢や、従業員の対応の在り方を明確にして周知していくことの重要性が示されている。

取り組みの第一歩としてはこのような点からはじめるとよいだろう。

今後求められる取り組み

都民の意識調査によると、働く個人がカスハラ対策として特に効果があるものとしてもっとも多かったのは「対応マニュアルの整備(56.4%)」で、ついで「基本方針の策定・周知」が 51.5%、「従業員の安全確保(32.7%)」「防犯カメラ・録音機の設置(31.7%)」「相談窓口の設置(31.1%)」が続いた。

カスタマーハラスメント対策として特に効果があると思うもの/東京都産業労働局「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」をもとに作成
カスタマーハラスメント対策として特に効果があると思うもの/
東京都産業労働局「カスタマーハラスメントに関する都民意識調査」をもとに作成

方針やマニュアルの整備によって、対応のスタンスや対応方法を事前に確認しておくことや、防犯カメラ等による予防、カスハラ行為が起きた際の安全確保や相談窓口の体制が整備されていることが効果的だと感じていることが見て取れる。

また、先出の取り組み状況のデータを見ると、カスハラ行為を受けた従業員へのメンタルケアについては、取り組みの割合が低い様子がみられたが、「従業員の精神面・身体面のケア」は約3割が効果的だと思うと回答していることがわかる。

企業マニュアルでも、「従業員への配慮の措置」として安全の確保とともに精神面への配慮などの重要性が言及されている。産業医などの専門家へのアフターケアを依頼する等が例として挙げられており、このような取り組みも今後検討が必要と考えられる。

おわりに

暴言や過剰な要求などのカスタマーハラスメントは、従業員の心身に深刻な影響を及ぼす社会的課題であり、職場環境の悪化や離職の原因となって企業の持続的な成長にも影響を与える。そのため、法制度の整備とともに、企業には方針の明確化や相談体制の整備など、具体的な対応が求められている。

従業員が安心して働ける環境を整えることは、企業の信頼性や採用力の向上にもつながることである。また、サービス提供者と顧客とのより良い関係性を目指す取り組みが多くの企業で広がっていくことは、自身が顧客の立場になったときにも快適にサービスを受けられることにつながるのではないだろうか。

社会全体でこの問題に向き合い、サービス提供者と顧客が互いに尊重し合う文化が広がっていくことが望まれている。

本シリーズのまとめ

本シリーズでは、2024年に注目された労働問題について、データをもとに振り返ってきた。2024年問題では物流業や建設業で労働時間に改善が見られた一方で、業務量が変わらないまま労働時間の制限が起こることによってさまざまな影響がでている様子もわかった。また、カスハラについては増加を実感している企業があることやカスハラ行為による離職・業務への影響も見られている。

人手不足が叫ばれる中、若手人材にとって魅力的な職場環境や働き方であることは、各業界を持続させていくために今後ますます重要になっていく。個人の視点で考えても、労働環境を理由にやりたい仕事へのチャレンジを躊躇してしまったり、離職してしまったりする状況は選択肢を狭めていることになっている。

労働問題は、特定の業界だけの問題ではなく、社会を持続させていくことやより良く暮らしていくうえで誰もが関係することとして、社会全体で考えていくことが重要だろう。

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