転職ファストパスの可能性と課題~内定辞退者との新たな接点構築に向けて~

嘉嶋麻友美
著者
キャリアリサーチLab研究員
MAYUMI KASHIMA

はじめに

転職市場における内定辞退率(内定者数平均-採用者数平均/内定者数平均)は、2024年に9.3%となり、2023年(9.0%)、2022年(7.9%)から微増傾向が続いている。【図1】

人材不足が深刻化する中、企業の人材獲得競争は激しさを増している。中途採用では、応募から丁寧な選考を経て内定を出しても、他社との競合により入社に至らないケースが少なくない。

こうした状況の中で、企業側は「辞退されたら関係終了」という従来の採用スタンスを見直し、内定辞退者との関係を再構築する新たな取り組みとして「転職ファストパス」を導入する動きがみられる。

本コラムでは、「転職動向調査2025年版(2024年実績)」「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」の結果をもとに、転職ファストパスの現状と課題について企業と転職者の両方の視点から考察する。

転職ファストパスとは

転職ファストパスとは、採用選考において、過去に一定の評価を受けた求職者に対して、通常の選考プロセスの一部を省略し、優先的に選考を進める仕組みを指す。

ファストパスの言葉の由来は「Fast(早い)」+「Pass(入場券・乗車券)」であり、もともとは大型テーマパークで導入された「待ち時間を短縮できる優先入場券」を指す言葉として広まった。

この制度が広がる背景には、少子高齢化が進み人材獲得競争が激化する中で、過去に一定の評価を受けた求職者との接点を再構築することで、企業は採用効率の向上や選考コストの削減を図ることができるメリットがある。

転職者の活用状況

ここでは、2024年における転職ファストパスの活用状況を、転職者の視点から整理しようと思う。そもそも「転職ファストパス」について転職者側のニーズはあるのだろうか。

転職ファストパスに対する関心

2024年に転職し、現在正社員として働く20-50代のうち「今後(も)転職ファストパスが欲しい」と回答した割合は35.1%であり、特に20代では38.2%ともっとも高く、年代が若いほど制度への関心が高い傾向がみられた。【図2】

【図2】<転職者>転職ファストパスに対する今後の希望/マイナビ「転職動向調査2025年版」
【図2】<転職者>転職ファストパスに対する今後の希望/マイナビ「転職動向調査2025年版」

転職ファストパスの提示率・利用率

直近1年間の転職活動で「転職ファストパス」を提示されたことがある割合は24.9%にのぼり、約4人に1人が提示されている。【図3】

【図3】<転職者>直近1年間での転職ファストパスの提示率/マイナビ「転職動向調査2025年版」
【図3】<転職者>直近1年間での転職ファストパスの提示率/マイナビ「転職動向調査2025年版」

またこれまでに転職ファストパスを提示されたことがある人のうち、実際に制度を利用した割合は42.7%と約4割に達しており、さらに利用者のうち77.6%が提示企業に転職している。

転職市場において、一定の規模で提示・利用されており、提示企業への再転職が実際に生じていることが確認できる。【図4】

【図4】<転職者>直近1年間での転職ファストパスの利用率・転職率/マイナビ「転職動向調査2025年版」
【図4】<転職者>直近1年間での転職ファストパスの利用率・転職率/マイナビ「転職動向調査2025年版」

転職ファストパスをもらうメリット

提示企業へ転職したことがある転職者に対して、利用理由を自由回答で聞いたところ、「就職に有利だとおもったから」「時短できる」などの声がみられた。

転職ファストパスは、一度選考を受けた企業の選考を省略できる点で、タイパ(タイムパフォーマンス)がよく、また転職後の再選択の機会を提供する“セーフティネット”として機能し、精神的に安心感を得られる点もメリットといえるようだ。

【自由回答 一部抜粋】

  • 時短(20代,男性)
  • 新たに興味を持ったから(20代,女性)
  • スムーズに転職活動が進むから(30代,男性)
  • 就職に有利だとおもったから(30代,女性)
  • また考え直す機会を作ってくれるいい制度だと思ったので(30代,男性)
  • 時短できる(40代,男性)
  • 一部固辞した条件を見直してもらえることになり、再度応募することにしたため(50代,男性)

果たして人材獲得に転職ファストパスは有効か

個人では、「転職ファストパス」に対して、肯定的な意見が一定数みられたが、今後転職ファストパスは企業にとっても有効な手段となりえるのだろうか。

転職ファストパスの有効性を企業が判断するには、内定辞退した転職者が入社後にどのようなギャップを感じているのか、そして再び転職を検討するのかといった実態を把握することがカギとなる。

入社後のギャップが転職者に与える影響

転職者のうち、現職で選考時と入社後でギャップを感じている割合は34.7%だった。特に20代が35.3%ともっとも高く、次いで40代で34.9%と幅広い年代でギャップを感じており、転職者の3人に1人が入社後に期待とのずれを経験していることが分かる。【図5】

【図5】<転職者>選考時と入社後のギャップ/マイナビ「転職動向調査2025年版」
【図5】<転職者>選考時と入社後のギャップ/マイナビ「転職動向調査2025年版」

直近の転職後の変化に関して、入社後のギャップを感じている人と感じていない人を比較すると、ギャップを感じている人は感じていない人に比べて、「仕事が好きではなくなった」割合が14.3pt高く、次いで「評価制度への満足度が下がった」割合が12.6pt、「人間関係が悪くなった」が11.1pt高かった。【図6】

【図6】<転職者>直近の転職後の変化/マイナビ「転職動向調査2025年版」
【図6】<転職者>直近の転職後の変化/マイナビ「転職動向調査2025年版」

この背景には、新卒採用とは異なり、中途採用において即戦力としての期待が高く入社直後から成果を求められる傾向があることが挙げられる。

加えて企業ごとの組織文化や人間関係・評価基準の違いに適応するには時間がかかるため、自身の評価に対する納得感が得られにくく、ギャップを感じやすい状況が生まれていると考えられる。また、こうしたギャップを感じている人ほど、今後の転職意向が高い傾向も明らかとなっている。【図7】

【図7】<転職者>今後の転職意向/マイナビ「転職動向調査2025年版」
【図7】<転職者>今後の転職意向/マイナビ「転職動向調査2025年版」

辞退企業への再応募の可能性

転職意向がある人のうち、約3割(30.7%)が「もし再転職するなら、内定辞退した企業でもう1度応募したい企業がある」と回答しており、内定辞退が必ずしも企業への否定ではなく、当時の状況やタイミングによる選択であったことを示している。【図8】

【図8】<転職者>再転職時の内定辞退企業への応募可能性/マイナビ「転職動向調査2025年版」
【図8】<転職者>再転職時の内定辞退企業への応募可能性/マイナビ「転職動向調査2025年版」

こうした層に対して、転職ファストパスは過去の接点を活かし、再び応募の機会を提供する柔軟かつ実効性のある仕組みとして、有効に機能する可能性が高いのではないだろうか。

企業の活用状況

ここまでは、転職者の視点から「転職ファストパス」への関心や利用状況、制度のメリットについてみてきた。では、企業側はこの制度をどのように捉えているのだろうか。

転職ファストパスの提示率・活用意向

2024年に転職ファストパスを提示したことがある企業は25.0%、2025年以降に活用意向がある企業の割合は28.2%だった。【図9】

【図9】<企業>転職ファストパスの提示率・今後の活用意向/マイナビ「中途採用状況調査2025年版」
【図9】<企業>転職ファストパスの提示率・今後の活用意向/マイナビ「中途採用状況調査2025年版」

転職ファストパスを提示するメリット

転職ファストパスを活用していきたい理由を自由回答で聴取し、企業が思う転職ファストパスのメリットについてまとめた結果、下記4点がみられた。

  • 採用効率が上がること
  • 優秀な人材を確保できること
  • 採用数を増やせること
  • 再応募のハードルを下げられること

【自由回答 一部抜粋】

  • どのような人材なのか理解しているので、手間をかけずにスピーディーに採用できるから。(運輸・交通・物流・倉庫,51~300名)
  • いいと思った人材に内定を出しているので、もう一回面接する手間を省けるからです。(環境・エネルギー,1001名以上)
  • 優秀な人材のつなぎ止めに効果的だから。(金融・保険・コンサルティング,1001名以上)
  • 他社での経験を積んだ優秀な人材を素早く確保でき、採用活動の効率化とコスト削減が図れるため。(IT・通信・インターネット,1001名以上)
  • 採用難易度が上がっており、打開方策の一助にしたい(不動産・建設・設備・住宅関連,51~300名)
  • 再応募を検討してもらうきっかけのひとつになると思うから。(メーカー,1001名以上)
  • 会社を辞める理由によって、もう一回戻ってきてくれることは前向きに考えたい。(商社,51~300名)

転職ファストパスの課題感

一方で、企業が導入するうえでの課題感についても触れておきたい。今後、制度の活用を考えていない企業に対してその理由を自由回答で聴取したところ、「必要性を感じない」という要素を含む回答がもっとも多くみられた。

これは、制度自体の認知不足や、辞退者との再接点に対する関心の低さ、あるいは採用活動における優先順位の違いなどが背景として考えられる。

また、その他の課題感としては以下のような声が挙げられている。

【自由回答 一部抜粋】

  • 運用に手間がかかるため(IT・通信・インターネット,51~300名)
  • 欲しい人物像や採用基準は常に変化するから(IT・通信・インターネット,301~1000名)
  • 辞退者は再度辞退する可能性があるため(商社,1001名以上)
  • 他の応募者との公平を保つ為。(メーカー,301~1000名)

これらの声からは、制度の導入にあたっては単に仕組みを整えるだけでなく、自社の採用タイミングや方針との整合性をどう取るか、再応募者に対する評価基準をどう設けるか、他の選考者との公平性とをどう担保するかなど、より実務的な観点での検討が求められていることがうかがえる。

まとめ

近年、転職は「特別な決断」ではなく、「キャリア形成の一手段」として定着しつつある。厚生労働省の雇用動向調査では、転職入職率が2021年以降上昇傾向にあり、総務省の労働力調査でも転職希望者数が過去最多を更新した。こうした背景から、企業にとっては人材の流動性が高まる中で、いかに優秀な人材と持続的な関係を築くかが重要な課題となっている。

本コラムで取り上げた「転職ファストパス」は、内定辞退者との関係性を断ち切るのではなく、再び接点を持つための柔軟な仕組みとして注目されている制度である。実際に、転職者の約4人に1人が提示を受け、約4割が利用しているという調査結果からも、一定のニーズが存在することが明らかとなった。

一方で、企業側には「必要性を感じない」「運用に手間がかかる」「再辞退のリスクがある」といった課題感も根強く存在している。制度の導入にあたっては、採用方針や評価基準との整合性、公平性の担保など、実務的な観点からの検討が不可欠である。

しかしながら、人材不足が今後も続くことが予測される中で、過去に評価した人材と接点を持ち続けることは、採用効率の向上やコスト削減にもつながる可能性がある。企業にとっては、辞退者を「関係が切れた人材」として扱うのではなく、「将来の可能性を持つ人材」として捉え直す視点が求められているのではないだろうか。

マイナビキャリアリサーチLab研究員 嘉嶋 麻友美

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