SDGs目標1「貧困をなくそう」とキャリアの接点、働き方から社会を変えるには?

東郷 こずえ
著者
キャリアリサーチLab主任研究員
KOZUE TOGO

はじめに

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)は2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。これは、17のゴール・169の具体的な達成目標(以下、ターゲット)から構成され、地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓っている。

日本においても積極的に取り組むべき課題として捉えられ、政治や、教育、産業などあらゆる領域でSDGsに基づいた活動がなされている。今回は、特に「SDGs×働き方・キャリア」の観点からそれぞれの目標に向けてできることを考えていくためのシリーズを企画した。本記事はその第1回として「目標1:貧困をなくそう」を取り上げる。

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の中でも、もっとも基本的かつ重要な目標の一つが「目標1:貧困をなくそう」だ。

SDGs目標1「貧困をなくそう」ロゴ

SDGs目標1「貧困をなくそう」とは

「貧困をなくそう」とは、「あらゆる場所のあらゆる形態の貧困を終わらせる」ことを目指すものである。この目標には、具体的な7つのターゲットが設定されている。

SDGs目標1「貧困をなくそう」の7つのターゲット

  1. 2030年までに、世界中で「極度に貧しい※」暮らしをしている人をなくす。
    ※1日あたりに使えるお金が(食事、水、電気、住むところや着るもの、くすりなどすべて合わせて)1.25米ドル(約135円)未満で生活しなければならない状態
  2. 2030年までに、それぞれの国の基準でいろいろな面で「貧しい」とされる男性、女性、子どもの割合を少なくとも半分減らす。
  3. それぞれの国で、人びとの生活を守るためのきちんとした仕組みづくりや対策を行い、2030年までに、貧しい人や特に弱い立場にいる人たちが十分に守られるようにする。
  4. 2030年までに、貧しい人たちや特に弱い立場にいる人たちをはじめとしたすべての人が、平等に、生活に欠かせない基礎的サービスを使えて、土地や財産の所有や利用ができて、新しい技術や金融サービスなどを使えるようにする。
  5. 2030年までに、貧しい人たちや特に弱い立場の人たちが、自然災害や経済ショックなどの被害にあうことをなるべく減らし、被害にあっても生活をたて直せるような力をつける。
  6. 開発途上国、特にもっとも開発が遅れている国で、「貧しさ」をなくすための計画や政策を実行していけるよう、いろいろな方法で資金をたくさん集める。
  7. それぞれの国や世界で、貧しい人たちのことや男女の違いなどをよく考えて政策をつくり、「貧しさ」をなくすためのとりくみにもっと資金などを増やして取り組めるようにする。

このように、貧困の多面的な要因に対応する包括的なアプローチが取られており、これらは、単なる所得の問題にとどまらず、教育や、医療、住居、雇用機会など、生活のあらゆる側面に関わる課題と言える。

SDGs目標1「貧困をなくそう」を私たち一人ひとりが「自分ごと」として捉え、働き方やキャリアの選択が、貧困の解消にどうつながるのかを考えることは、持続可能な社会の実現に向けた第一歩となるだろう。

日本における貧困の現状と課題

次に日本における貧困の状況について確認する。「貧困」と聞くと、発展途上国の問題と捉えがちだが、実は日本国内でも深刻な課題である。日本の「相対的貧困率」は15.4%(2021年時点)であり、OECD諸国のなか中でも高い傾向にある(データブック国際労働比較2025/労働政策研究・研修機構 )。

相対的貧困率は、国民の所得中央値の半分未満で生活している人々の割合を示しており、生活の質や機会の格差を浮き彫りにしている。特に、ひとり親世帯の相対的貧困率は高く、子どもの教育機会の格差や、将来的なキャリア形成にも深刻な影響を与えていると考えられている(「こどもの貧困対策・ひとり親家庭支援の現状について」(2023年)/こども家庭庁)。

また、近年注目されているのが「ワーキングプア」の存在である。一般的に、フルタイムで働いているにもかかわらず、生活保護基準以下の収入しか得られない人々を指す。非正規雇用の拡大や最低賃金の低さ、社会保障の不十分さが背景にあり、「働いても生活が成り立たない」という現実がある。

非正規雇用者は、正規雇用者に比べて賃金が低く、雇用が不安定であることが多い。2024年の総務省の労働力調査によると、非正規雇用者は雇用者のうち34.8%を占めており、その多くが女性である。

日本社会で長らく存在してきた「男性は仕事、女性は家庭」という伝統的な性役割分業の価値観に基づき、女性のほうが結婚や出産、介護などの家庭内のケア労働のために正規雇用から離脱するケースがいまだに多いためである。

また、日本型雇用慣行が根強く残る社会においては、正社員中心の人材育成と昇進や企業内訓練によるスキル形成が一般的で、この慣行が非正規雇用者にとって不利になる構造的な問題がある。

さらに、教育格差も貧困の要因の一つである。家庭の経済状況によって進学率や学習環境に差が生じ、結果として就職やキャリアの選択肢に影響を与える場合も多い。特に、高等教育へのアクセスが制限されることで、専門職や高収入の職業に就く機会が減少してしまう現実がある。貧困は世代間で連鎖する傾向があり、早期の介入と支援が不可欠である。

このように、日本における貧困は多面的な課題であり、単なる経済的支援だけでは解決できない。雇用政策や、教育支援、社会保障制度の見直しなど、包括的なアプローチが求められている。

キャリア・働き方の観点から望まれる貧困対策

最低賃金の見直しと地域格差の是正

2008年の最低賃金法改正以降、最低賃金の決定にあたっては「生活保護との整合性に配慮すること」が明記されているものの、最低賃金が生活保護基準を下回る地域も存在し、フルタイムで働いても生活が困難なケースがみられる。

現在は最低賃金が引き上げられる傾向にあり、改善が見込まれるが、地域格差の是正については特に注視する必要があるだろう。2024年度の都道府県別最低賃金をみると、もっとも高いのが東京都で1,163円、もっとも低いのが秋田県で951円となっており、その差は212円であった。

現在、2025年度の最低賃金について審議が進められており、本稿を執筆時点では、前年から63円引き上げとなる全国加重平均1,118円で決着する見込みだと報道されており、全国で1,000円を超える見込みとなっている。全国的に改善がみられるものの、地域差はいまだ残っており、今後も注視していく必要はあるだろう。

なお最低賃金の引き上げに関してはこちらのコラムで詳細に説明されているので併せてご確認いただきたい。

さきほど、ワーキングプアの理由として女性が正規雇用から離脱して非正規雇用者として働くことが多いことをあげたが、そもそも、正規雇用と非正規雇用の賃金格差が大きいことが問題であるとも言える。

同一企業・団体における正規雇用者と非正規雇用者との間の不合理な待遇差の解消を目指す「同一労働同一賃金」に向けてさまざまな改善がされているが、貧困の直接的な原因となりうる賃金の引き上げは急務だと言える。

職業訓練・キャリア支援の拡充

教育訓練給付金制度

教育訓練給付金制度 」は雇用保険の加入者や過去に加入していた人を対象に、指定された講座を受講・修了した場合に受講費用の一部を支給する制度である。対象となる講座は、介護や保育、医療事務、簿記、調理、建築など、ICT分野に限らず幅広い職種に対応しており、再就職やキャリアチェンジを目指す人々にとって有効な選択肢となっている。

特に「専門実践教育訓練」では、資格取得と就職を条件に最大60%の費用が支給されるため、経済的な負担を軽減しながら学び直しが可能となる。

求職者支援制度

雇用保険を受給できない求職者に対しては、「求職者支援制度」が用意されている。この制度では、無料の職業訓練に加え、訓練期間中の生活費として月額10万円の給付金が支給される。

対象となる訓練は、事務や販売、介護、調理などの一般職種が中心であり、生活困窮者や離職者が経済的な不安を抱えることなくスキルを習得し、再び働く力を身につけることができる。2024年度からは訓練時間の柔軟化が恒久化され、育児や介護などの事情を抱える人々にも利用しやすい制度へと進化している。

ジョブ・カード制度

ジョブ・カード制度」は、求職者が自分の職務経験やスキル、希望する職種などを記録したカードをもとに、キャリアコンサルティングや職業訓練、就職活動を行う制度である。

ハローワークや地域のキャリアセンターで利用でき、若者や女性、中高年、障がい者など幅広い層が対象となっている。自己理解と職業選択の支援を通じて、貧困層の自立支援にもつながる仕組みである。

「デジタルスキル標準(DSS)」の整備

成長分野への対応も重要である。経済産業省は「デジタルスキル標準(DSS)」を整備し、企業や教育機関が人材育成の指針として活用している。

特に、生成AIやデータ分析、サイバーセキュリティ、プログラミングなどの分野は、今後の雇用創出が期待される領域であり、非正規雇用者や離職者がこれらのスキルを習得することで、より安定した職業に就く可能性が高まる。

このように、職業訓練・キャリア支援の拡充は、単なるスキル教育ではなく、社会的包摂と貧困の予防・解消を実現する鍵となる。働く力を育てることは、生活の安定だけでなく、自己肯定感の向上や社会参加の促進にもつながる。今後は、こうした支援制度の認知度を高め、必要な人に確実に届く仕組みづくりが求められるだろう。

柔軟な働き方の推進 ・ケアと就労の両立

介護や育児などの事情を抱える人々が働きやすい環境を整えることは、貧困リスクの軽減に直結する重要な課題である。特に女性やひとり親世帯が貧困に陥りやすい背景には、家庭内ケア負担の偏りがある。こうした状況に対応するためには、柔軟な働き方の制度整備と、ケアと就労の両立を支える社会基盤の充実が不可欠である。

政府は、テレワークやフレックスタイム制度の導入を通じて、働き方の柔軟化を推進している。テレワークは、通勤時間の削減や家庭との両立を可能にする働き方として、特に育児・介護中の労働者にとって有効な選択肢である(「テレワークの適切な導入および実施の推進のためのガイドライン」(厚生労働省 )。

フレックスタイム制度については、厚生労働省が制度の普及と導入支援を行っており、始業・終業時刻を労働者が自ら決定できる仕組みが整備されている(たとえば「多様で柔軟な働き方の全体像とフレックスタイム制」(厚生労働省))。

柔軟な働き方の推進は、単に働きやすさを向上させるだけでなく、就労機会の拡大にもつながる。たとえば、育児や介護といった家庭内のケア労働のために、フルタイム勤務が難しい状況になっても、時短勤務や在宅勤務が可能になれば、就労継続が現実的な選択肢となる。これにより、収入の安定が図られ、貧困リスクを軽減できる。

さらに、ケアと就労の両立を支える社会基盤の整備も重要である。保育所や介護施設の整備、24時間対応の支援サービスの拡充、地域包括支援センターの機能強化などが求められている。これらの施策は、家庭内のケア負担を軽減し、働きたい人が働ける環境を整えることで、貧困の予防と自立支援に貢献する。

柔軟な働き方は、個人のライフスタイルに応じたキャリア形成を可能にするだけでなく、社会全体の包摂性を高める手段でもある。今後は、制度のさらなる普及と、企業・自治体による実践的な取り組みの拡充が期待される。

なお、企業における子育て支援や、介護を行う従業員への支援については下記コラムで詳細に述べているので併せて確認していただきたい。

まとめと今後の展望

SDGs目標1「貧困をなくそう」は、単なる国際的な目標ではなく、私たちの働き方やキャリア選択にも深く関わる課題である。日本における相対的貧困やワーキングプアの問題は、雇用の質や教育機会の格差と密接に関連しており、働き方の見直しが不可欠だ。

企業は雇用の安定とスキル支援を、自治体は地域に根ざした就労支援を、そして個人は社会的意義のあるキャリア選択を通じて、貧困削減に貢献できる。実際に、デジタルスキル支援や教育格差の解消など、多様な取り組みが成果を上げている。今後は、こうした取り組みをさらに広げ、働き方を通じて社会課題の解決に寄与する意識を高めていくことが求められる。

また、最低賃金のところでも述べたが、地域によってワーキングプア率に大きな差があることから、地域間格差の是正も忘れてはいけない。地域の産業構造や雇用環境の改善も重要だろう。中長期的には、地域ごとの特性に応じた雇用創出や人材育成が求められる。

さらに、今回は詳細に述べなかったが、「貧困をなくそう」を事業や仕事で実現するという選択肢もある。貧困問題を「支援対象」ではなく「事業機会」として捉え、持続可能なビジネスモデルを構築しているような企業も増えてきている。また、直接的に事業として取り組んでいなくても、CSR活動の一環で「貧困問題」に向き合っている企業も多い。

就職先を選ぶ際に、こうした社会課題に向き合う企業を選ぶというのもひとつ一つの関わり方だろう。「貧困をなくそう」という目標を意識したキャリア形成は、自己実現だけでなく、持続可能な社会づくりの一翼を担う行動と言えるかもしれない。

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