はじめに
第1章では、「SNS就活とは何か」や「学生が活用しているSNS」「学生が情報過多の中で感じている難しさ」について述べた。デジタルネイティブである今の就活生は私生活の中でSNSと深く関わりのある世代であり、SNSを駆使してさまざまな情報を手に入れている。
現代の就活生は、SNSを使って自分に適した企業を見つけ出し、その企業文化や価値観を事前に知ることができる。応募する前から自分に合った企業かどうかを判断できるため、より効率的な就職活動が可能となっている。一方で、そんな世代を採用の対象としている企業はどのような動きをしているのだろうか。
企業側もSNSを活用した採用や広報に力を入れている様子が見受けられる。従来の求人サイトや企業説明会での情報発信に加え、SNSを通じて自社の魅力を伝え、学生との接点を増やす努力をしている様子である。
第2章となる本コラムでは、実際に企業がSNSをどのように活用し、それがどれほどの学生に対して効果をもたらしているのか見ていく。また、最後に学生に聞いた好感が持てるSNSのコンテンツと、そうでないコンテンツを学生から得た自由回答から紹介していく。
SNSを活用する企業について
企業認知のため、または採用手法にSNSを活用する割合
企業が企業認知にSNSを活用している割合を見てみると、2021年卒から2025年卒にかけて14.3%から26.3%と12.0pt増加しており、採用手法としている割合についても2021年から2025年にかけて9.8%から21.2%と、11.4ptの増加となっている。
この結果を見ると企業が新卒採用でのSNS活用を強化している傾向が見て取れる。昨今の学生はSNSを日常的に活用しているため、そのような不特定多数の人が閲覧するプラットフォームに対して効果的なプロモーションを行うことができれば、新卒採用においても企業認知やブランディングの有効な手段となるだろう。
図1 今年の採用活動において「企業認知」のために実施したことと、 実践している採用手法(複数回答)/2025年卒企業新卒採用活動調査
企業が採用広報にSNSを活用する利点として、下記が挙げられる。
- 「即時性」
リアルタイムで情報を発信・受信できるため、自社のイベント情報やニュースなどを必要なタイミングで発信できる。
- 「広範性」
不特定多数の学生に対して情報発信ができる
- 「双方向性」
企業と学生がコメントやメッセージを通じて直接コミュニケーションを取ることができる
「即効性」「広範性」があることで、必要なタイミングで、不特定多数の就活生に対してその企業の存在や事業内容、魅力、採用スケジュールなどを発信でき、企業認知において有用だ。
また「双方向性」があることで、就活生と直接やり取りをすることができるのも、従来の採用にないポイントだろう。このように、企業にとっての採用ツールの一つとして、SNSを活用することが可能だ。
就職活動における学生のSNS利用実態
前章では、SNSを活用する企業の状況について見てきたが、ここからは学生のSNS利用状況について見ていく。
学生が企業情報を調べる際に活用した情報源
学生が企業情報を調べる際に活用する情報源として、もっとも多かったのは「就職情報サイト」で86.2%となった。SNS関連の回答については「企業の公式SNSアカウント」が14.9%、「それ以外のSNSアカウント」が5.1%とそれほど高い割合ではない。
図2 自分でインターンシップ・仕事体験の企業情報を調べるとき、どの情報源を活用したことがありますか。(複数回答)/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(10月)/n = 1,885
学生が必ずチェックする情報源
また、企業情報を調べる際に必ずチェックする情報源についても、もっとも多かった回答は「就職情報サイト」が80.3%となっており、SNS関連の回答に関して、「企業の公式SNSアカウント」は9.6%、「それ以外のSNSアカウント」は2.6%となっている。
上述の通り、企業のSNS活用は活発化している。そのような企業の公式アカウントに加え、就活ノウハウなどの情報発信を行うアカウントもよく目にするようになった。しかしながら学生の利用状況については、SNSが学生にとってマストの情報源であるとは言い難い。
図3 インターンシップ・仕事体験の企業にエントリーするとき、必ずチェックする情報源はどれですか。(複数回答)/2026年卒大学生インターンシップ・就職活動準備実態調査(10月)/n = 1,885
学生が企業に発信してほしいSNSのコンテンツ
では、学生はどのようなコンテンツをSNSで発信してほしいと考え、どのようなコンテンツにネガティブな印象を抱くのだろうか。ここでは、実際にインターンシップ調査の自由回答から、頻出キーワードを抽出して紹介する。
企業に発信してほしいコンテンツ
まず、企業に発信してほしいコンテンツの頻出キーワードとしては、「社内の雰囲気や社員の様子」「選考スケジュールやフロー」「福利厚生」などが挙がった。
「社内の雰囲気や社員の様子」が挙がっていることから、オフィスツアーや社員インタビューなどの動画は、リアルな情報が伝わり好意的に受け止められそうだ。また「選考スケジュールやフロー」について、選考の各ステップや締め切り日程を明示することで、学生はスケジュールを調整しやすくなる。
「福利厚生」は学生が企業を選ぶ際の重要な要素の一つであり、特にSNSでの発信であれば、ユニークな手当や制度の紹介は印象に残りやすそうだ。選考に関する有益な情報や、働くイメージが持てるような投稿を発信すれば、企業に対して具体的なイメージを持ちやすくなり、関心や応募意欲が高まるのではないかと考えられる。
企業が発信しているとマイナスの印象を持つコンテンツ
次に、SNSのコンテンツで企業が発信するとマイナスのイメージを持たれてしまうものに関して、自由回答から頻出キーワードを抽出すると、「ダンス動画」「新入社員が踊る動画」などが挙がった。
ショートムービー系のサービスが発達している中で、ダンス系のエンタメ要素が強い動画が人気になっている傾向があり、一見楽しそうに見えるかもしれない。しかし企業の情報を知りたい学生にとっては、仕事や企業の魅力とは関係ない印象を受け、適当でないと感じることもあるようだ。
就活生に見てもらうコンテンツとしては、そもそも「社内の雰囲気がわかる内容」や、「会社が持っている魅力が伝わる内容」を考えることが重要となるだろう。SNSを活用することがマイナスブランディングとならないよう注意が必要だ。
おわりに
企業が採用活動においてSNSをどのように活用し、学生はその情報をどのように受け取っているのかについて見てきた。企業において、SNSでの採用広報や情報発信は、導入企業は増えているものの主流にはなっておらず、就活準備をしている学生にとっても、SNSを企業情報の情報源として必ず見るという学生はまだ多くなかった。
SNSは現代の若者を取り巻く非常に大きなプラットフォームであり、うまく運用することができれば非常に強力なツールとなる可能性を秘めている。しかしSNSを企業広報に活用する際に、一般的なトレンドをそのまま取り入れたり、企業情報とは関係ないエンタメ要素のみの発信をしたりすると、逆にイメージダウンとなってしまう可能性もある。学生は、社風や仕事内容、制度など、その企業ならではのリアルな情報が求めていることが分かった。受け手のニーズをくみ取り、適切に発信することによって、企業にとってより効果的な手段として確立されるだろう。