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派遣社員の機密情報取り扱い状況~実態と情報漏洩リスクを考察する~

嘉嶋麻友美
著者
キャリアリサーチLab研究員
MAYUMI KASHIMA

はじめに

ITツールの大衆化と情報漏洩リスク

ITツールの大衆化は、インターネットや携帯電話の普及によって加速した。特にスマートフォンの登場は、誰もが手軽に情報を検索・入手できるだけでなく、情報の発信元となれる開かれた情報社会をつくりあげ、オープンなコミュニケーションを可能にしている。

このような動きはコロナ禍をきっかけに、より広がりをみせ、いまや企業間コミュニケーションも、オンラインで行うことはごく普通のものとなっている。ただ便利さの裏側には、企業活動の基盤を揺るがしかねない情報漏洩のリスクも潜んでおり、企業の情報セキュリティー対策の重要性は増し続けている。

個人情報保護委員会年次報告(令和5年度)によると、2023年4月~2024年3月の1年間で個人情報を漏洩の発生件数は、1万3,279件で、前年度の7,685件から1.72倍となった。発生原因の多くは誤交付、誤送付、誤廃棄及び紛失といったいわゆるヒューマンエラーだという報告もされており、誰にでも意図せず、個人情報を漏洩してしまう危険性があることを表している。

従業員が意図せず情報漏洩を起こしてしまうことを防ぐために、個人情報保護委員会は企業に対し、個人情報の取扱状況の把握及び安全管理措置の見直しや従業者への教育、個人情報を取り扱う区域の管理などをガイドライン(※1)として公開し推奨している。

※1 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)

派遣社員の実態を探る

しかし、同一賃金同一労働がいまなお完全に実現していないように、雇用形態によって教育研修に関する対応にも待遇差がある状況も一部みられる。

機密情報の取扱いに関する正しいルールや情報リテラシーを学ぶ環境を全ての労働者が等しく整備することが企業に求められる中、派遣社員などの直接雇用ではない労働者にとっては、これらの対応を受けづらい可能性がある。

本コラムでは、非正規社員のなかでも間接雇用である派遣社員が、業務において機密情報をどの程度扱っているのか、その実態や情報漏洩防止にむけた企業の取り扱いルールより、漏洩リスクを考察する。

機密情報とは何か

機密情報には、企業秘密とも呼ばれる、企業が外部に漏らしたくない重大な情報のすべてが該当する。具体的には、顧客情報や企画書、従業員の個人情報、顧客リスト、技術情報、営業秘密などが含まれる。

これらの情報は、企業が市場競争で優位性を保つために重要な情報であり、ステークホルダーからの信頼にもつながる部分がある。また外部への情報漏洩は企業にとって優位性を脅かすだけでなく、情報の種類によっては顧客情報の不正利用や顧客を危険にさらしてしまう可能性もある。そのような事件が仮に起こったとすると、企業の社会的信用が失墜し、最悪の場合、倒産というリスクにも直面しかねない。

機密情報が企業の信頼度の生命線を握っているわけだが、間接雇用である派遣社員を活用する企業(以下:派遣先企業)において、派遣社員はどの程度機密情報に触れる機会があるのだろうか。

派遣社員の機密情報取り扱い状況

2024年7月時点で派遣社員として働く男女20~59歳を対象にした「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)」(※2)によると、派遣社員のうち機密情報を扱っている割合は61.1%で、6割を超えている。

職種別でみると、顧客とのコミュニケーション業務が想定される「テレオペ・テレマーケティング(85.0%)」がもっとも高く、次いで情報管理全般や技術情報等の利用が想定される「機械・電気・IT・エンジニア(76.2%)」だった。【図1】

【図1】派遣社員の機密情報取り扱い状況/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)」
【図1】派遣社員の機密情報取り扱い状況/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)

さらに機密情報を扱っていると回答した派遣社員のうち、派遣先企業に機密情報の取り扱いルールがあるかをきくと、「ルール有無はわからない(17.9%)+ルールはない(2.6%)」が20.5%となった。機密情報を扱う8割の人は、取り扱いに対するルールの存在を把握しているものの、5人に1人がルールを認識していない、もしくはルールがない環境で機密情報に触れている状態にある。

また職種別で、先ほどもっとも機密情報を扱っていた「テレオペ・テレマーケティング」では、派遣先企業の「ルール有無はわからない(7.1%)+ルールはない(3.5%)」は10.6%だった。【図2】

【図2】派遣先企業のルール有無/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)」
【図2】派遣先企業のルール有無/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)

派遣社員のうち6割を超える人が派遣先企業の重要な情報を扱う機会があるにもかかわらず、その取り扱いに関するルールへの認識・理解が浸透していないケースが見受けられる。ルールの認識・理解不足は、派遣社員が無意識のうちに情報を漏洩してしまうリスクを高めてしまう可能性もある。

※2 「派遣社員の意識・就労実態調査 2024年版」は、以下職種いずれかで働く人に限定して聴取実施。
オフィスワーク・事務/販売/サービス/テレオペ・テレマーケティング/機械・電気・IT・エンジニア・ 技術・開発・通信系/クリエイティブ系/医療・介護・福祉関連業務/製造/配送・輸送・物流

なぜルールの認識・理解不足が起こるのか

情報漏洩のリスクが生まれる要因として、「情報管理教育の責任所在の曖昧さ」「有期期間雇用」「派遣先企業ごとのルール」が考えられる。

「情報管理教育の責任所在の曖昧さ」

前述したが、派遣社員は間接雇用であり、派遣元である人材派遣会社(以下:派遣元企業)に雇用され、派遣先の指示のもと、派遣先企業内で業務を行う。【図3】

【図3】派遣元企業・派遣先企業・派遣社員の関係/筆者作成
【図3】派遣元企業・派遣先企業・派遣社員の関係/筆者作成

基本的な教育や研修は雇用主である派遣元企業が行うが、業務の指示や監督は派遣先企業が行うため、情報管理教育の教育責任が曖昧になることが考えられる。

派遣元企業は派遣先企業に対して秘密保持義務を負っており、両者間では機密情報保持誓約書を取り交わすが、派遣社員の業務指示・監督者は派遣先企業となるため、派遣元企業は派遣先企業の機密情報を把握しない。

そのため、自社が派遣する派遣社員に対して具体的な取り扱いに向けた注意喚起を行うことは難しく、派遣社員も情報保持義務の認識が甘くなる可能性がある。こういった状況下で、もし派遣先企業が情報管理の指導を怠ると情報漏洩リスクは高まることが予測される。

情報漏洩のリスクを回避するには、派遣元企業は派遣社員に対して基本的な情報リテラシーの教育と、業務開始後に扱う情報の性質について派遣先でよくよく確認する必要がある旨を注意喚起し、派遣先企業は業務指示や指導時に、機密情報を取り扱う際の注意点やルールについて研修し、遵守できるようにフォローすべきだろう。

「有期期間雇用」

さらに、派遣社員を雇用する際は有期労働契約にて1~3か月ごとなど短い期間で反復更新を行うことが多いが、これも情報漏洩リスクを招く要因にもなりうる。

登録型の派遣社員に対して1回の労働契約の期間をきいたところ、3か月未満は、41.3%、3か月~6か月未満は23.3%だった(6か月未満:64.6%)。つまり6割強の派遣社員が半年以内に更新・契約満了のタイミングを迎えている。

派遣先企業は、短期間で派遣社員が契約満了する際に、情報管理の継続性が保たれにくくなる可能性があることを認識し、派遣社員に対して業務中に知りえた情報の取り扱いに注意するよう促し、後任者への情報管理のルールや手順の引き継ぎを十分に行う必要がある。

また、後任者が外部から新たに組織に入る場合は、企業機密の情報管理について教育を徹底し、企業文化や情報管理のルールに適応する時間を考慮することも重要である。【図4】

【図4】派遣元企業と1回あたりの雇用契約期間
【図4】現在の派遣元企業との1回あたりの雇用契約期間/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)

「派遣先企業ごとのルール」

派遣先企業ごとに機密情報への認識に差があり、ルールがさまざまであることも派遣社員のルール認識・理解不足が発生する要因のひとつといえる。

同業種の企業同士であっても、会社ごとに機密情報の認知や取り扱い、リテラシーには差がある。派遣社員は、派遣先企業ごとに異なる機密情報に対するルールを労働開始後に教育を受け、遵守しなければならない。

しかし、派遣社員の労働契約主は派遣元企業であり、派遣先企業としては直接雇用外の労働者に対して一貫した教育を行うことが難しい場合がある。派遣元企業が教情報管理教育を実施するのであれば派遣元企業と派遣先企業との間で情報管理のルールが共有されることが必要だ。

そして、そのうえで派遣元企業と派遣先企業の間で情報管理のルールに対して共通認識を持ち、両者から派遣社員に対する情報管理の教育を徹底することが必要ではないだろうか。

情報漏洩の対策と状況

ここからは、機密情報を取り扱う派遣社員が、派遣先企業の施策に対し、どのように認知し、守っているのかについてみていく。

機密情報取扱いルールの認知

機密情報を取り扱う派遣社員は、派遣先企業で機密情報の取り扱いルールとして「機密情報の社外(家族・知人・友人含む)への口外禁止」を認知している割合がもっとも高く、73.9%だった。次いで、「機密情報の複製(コピー)・持ち出し禁止」が73.1%、「USBの持ち出し禁止」が67.0%だった。

在宅勤務や生成AIなどは、働き方の柔軟性や効率化を図るために、有効な策ではあるが、機密情報を守るうえで、禁止されている職場もあるようだ。【図5】

【図5】派遣先企業の機密情報取り扱いルールの認知/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)」
【図5】派遣先企業の機密情報取り扱いルールの認知/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)

機密情報取り扱いルールへの対応状況

派遣先企業のルールについての認知率はわかったが、認知したうえで派遣社員の対応状況はどうなのだろうか。調査によれば、「就業開始前の誓約書への記入・提出」が87.9%ともっとも高い対応率を示し、「機密情報の社外(家族・知人・友人含む)への口外禁止」が85.0%、「機密情報の複製(コピー)・持ち出し禁止」が83.8%で続く。

また情報漏洩のニュースでは、社内でSNSを投稿し機密情報を漏洩した事件や派遣先企業の機密情報をUSBにて社外に持ち出し不正に流出させた事件も報告されている。

「SNSの投稿禁止」に対応したと回答したのは81.3%、「USBの持ち出し禁止」は79.9%となり、ルールの存在を認知していても、派遣先企業のルール規定の対象外であったり、派遣元企業の対応不備の可能性もあるが、少なくとも対応していないと回答する派遣社員が一定数いる結果となってしまったことは、情報漏洩のリスクを考えると懸念が残る。【図6】

【図6】派遣先企業の機密情報取り扱いルールへの対応/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)」
【図6】派遣先企業の機密情報取り扱いルールへの対応/出典:「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)

また、情報漏洩のリスクがある状態になっていることは、派遣先企業と派遣元企業、そして派遣社員自身も憂慮すべきだろう。ルールを守る意識を高めるためには、派遣社員への教育と意識改革が不可欠である。派遣元企業と派遣先企業ともに、派遣社員に対しルールの重要性を再認識させると同時に、十分な情報管理を徹底する必要があるだろう。

おわりに

現代の情報社会では、データの量や種類が増え、個人が自由に情報発信できる環境が整っている。そのため、誰もが意図せず情報漏洩してしまうリスクが高まっている。情報漏洩は企業や本人、そして流出した個人情報の持ち主に対しても大きな悪影響を及ぼす危険なインシデントだ。

派遣雇用で働くことは、直接雇用の正社員で働くよりも時間や人間関係にゆとりを感じることができたり、働き方を柔軟に対応できたりとなどさまざまなメリットがあるが、一方で機密情報を扱う業務を担当する際は「情報管理の教育責任の所在」が曖昧になり得ることや「派遣先企業ごとで機密情報の取り扱いルールが違う」ことも留意すべきだ。

情報漏洩が発生すれば、派遣先企業と派遣元企業双方に大きなダメージを与えるだけでなく、派遣社員自身のキャリアにも悪影響を及ぼす可能性がある。

このようなリスクを避けるために、派遣社員は定期的な情報管理ルールの確認や徹底が求められる。また派遣元企業は基本的な情報リテラシーの教育と注意喚起を、派遣先企業では取扱いルールの作成や徹底、運用の定期的な見直しを行い、全体で情報漏洩を防止していくべきである。

また、これは派遣社員の雇用時だけに限らず、機密情報を扱う職場で必要な仕組みとして見直されるとよいだろう。 

キャリアリサーチLab研究員 嘉嶋 麻友美

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