マイナビ キャリアリサーチLab

地元就職をめぐる課題と対策のヒント
~人口流出しない地方づくりを考える~

沖本麻佑
著者
キャリアリサーチLab編集部
MAYU OKIMOTO

新卒学生が考える「地元就職者を増やすための具体策」

Uターン就職を希望しない学生に、選択肢の中から「実現すれば地元就職するかもしれないと思うもの」を選んでもらった結果、「良質な雇用機会」に該当する「働きたいと思うような企業が多くできる」「給料がよい就職先が多くできる」がどちらも4割以上で上位だった。その他「地元就職することで手当をもらえる」「税金が多少免除される」など、経済面のサポート施策にも一定数の回答がある。【図13】

実現すれば地元就職するかもしれないと思うもの/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図13】実現すれば地元就職するかもしれないと思うもの/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

さらに、学生に自由に記載してもらった「地元就職を増やすためのアイデア」を分析したのが以下の図である。

自分の地元で地元就職を増やすためのアイデア(頻出語間の共起ネットワーク図)/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図14】自分の地元で地元就職を増やすためのアイデア(頻出語間の共起ネットワーク図)/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
※自由記述内でよく一緒に出現する語を(共起する語を)線で結んだ図。強く結びついた部分ごとにグループ分け・色分けされる。

次は、学生のアイデアを企業の取り組みでできることと自治体レベルでの取り組みが必要なものに分けながら、地元・Uターン就職を促進するための具体策を見ていく。

地元就職者を増やすアイデア:
企業の手当や待遇改善・広報活動の促進・採用活動でのWEB活用

企業の取り組みでは、収入の向上と手当や待遇の充実を求めるコメントがみられた。「地元でも実家を出て自立したい人もいるので社宅や住宅補助があるといい」「それぞれの暮らし方ごとに補助があるといい」「子育て支援に力を入れてほしい」などさまざまな意見が挙がっており、多様な価値観と暮らし方に対してどのような生活スタイルにも補助がある状態が望まれていることが分かる。
また、奨学金の返済支援についての意見もあり、経済的な支援を求める裏には奨学金の存在も影響していることも分かった。就職直後の経済面での不安や将来の生活への懸念が解消されるようなサポートが充実している企業が、学生にとって「良質な雇用機会」にあたることが見てとれる。【図15】

地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図15】地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

さらに、企業の採用活動の進め方について、情報発信や交通費負担を求めるコメントも多くみられた。情報発信が不足していることで、企業情報を得る労力が増えていることや、地元を訪問する交通費を考えると選考の受験数を絞る必要が出てくる場合もあることなどが読み取れる。

地元・Uターン就職を促進するために、WEB活用によって説明会や選考に参加しやすくすることや、対面の場合は交通費の補助によって選考参加への負担を減らすことが学生にとっての「就職活動のしやすさ」において重要のようだ。【図16】

地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図16】地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

地元就職者を増やすアイデア:
自治体による大学・企業誘致やインフラ整備、地元就職者への特典制度

自治体に対しては、就職先の選択肢として雇用機会を増やすことや交通網を充実させるという施策を挙げるコメントがみられた。どのような業種を目指しても「十分な雇用機会」があることや、地元就職を希望しない理由で1位となっていた「都会の方が便利」という格差を減らすためのアクセス面での「利便性」を高めることが求められているようだ。【図17】

地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図17】地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

また、地元就職した場合に地域に住み続けるほど、その土地ならではの特産品などの特典がもらえる仕組みをつくるというアイデアも挙がっている。地域に対する愛着を高める意味の他に、生活のサポートの一つとしても有効と考えているようだ。【図18】

地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査
【図18】地元(Uターン含む)就職を希望する人を増やすためのアイデア
/マイナビ2023年卒大学生Uターン・地元就職に関する調査

企業の取り組み

ここまで学生のアイデアを見てきたが、実際に企業はどのような取り組みを行っているのだろうか。企業に「地方学生や遠方からの学生の応募を増やすために取り組んでいること」を聞いた結果を図に表したのが【図19】である(『マイナビ2023年卒企業新卒採用活動調査』より)。もっとも多く出てきたのはWEBという単語であることは分かるが、その他に福利厚生についてや、広報活動に関する単語も出てきていることが分かる。ここでは学生のコメントにも多くみられた「手当や待遇」と「採用活動の進め方、情報発信」について見ていく。

地方学生や遠方からの学生の応募を増やすために取り組んでいること
/マイナビ2023年卒企業新卒採用活動調査
【図19】地方学生や遠方からの学生の応募を増やすために取り組んでいること
/マイナビ2023年卒企業新卒採用活動調査

企業の工夫【1】:手当・待遇など制度について

企業の制度については、寮の確保や家賃手当・引っ越し手当など、住む場所に関する手当を地方や遠方の学生獲得のための取り組みとして挙げているコメントがみられた。住環境をサポートする手当が制度として存在する企業は一定数ありそうだ。

ただ、「遠隔地の場合」や「Uターン向け」などの条件がついているケースもある。前述のように、地元で生活する場合でも、経済的な心配がない状況で一人暮らししたいと望んでいる学生もいるため、生活を安定させるための手当や支援制度は、学生の就職前の居住地に関わらず適用できるように検討することも必要と考えられる。

その他、「残業抑制」など働きやすさの向上に向けた取り組みを実施しているという意見もあった。学生のコメントでは長く働ける環境を求める声もあったため、ワークライフバランスに対するこのような取り組みは重要と言えそうだ。【図20】

地方学生や遠方からの学生の応募を増やすために取り組んでいること
/マイナビ2023年卒企業新卒採用活動調査
【図20】地方学生や遠方からの学生の応募を増やすために取り組んでいること
/マイナビ2023年卒企業新卒採用活動調査

企業の工夫【2】:採用活動へのWEB導入、SNS活用など

採用活動については、「WEBで実施している」「交通費を一部支給している」というコメントがみられた。前述のように、「WEB」という単語は今回のコメントの中で「説明会」や「面接」という単語とともに頻出している。地方や遠方の学生が活動しやすいように積極的にWEB活用している企業があり、対面の場合には交通費を支給している場合もあるようだ。WEB活用はコロナ禍の影響で促進されたと考えられる。

また、SNSを活用して情報発信しているコメントもみられた。学生からは情報を集めづらいという意見もあったため、広く情報を伝えていく工夫は重要と考えられる。【図21】

地方学生や遠方からの学生の応募を増やすために取り組んでいること
/マイナビ2023年卒企業新卒採用活動調査
【図21】地方学生や遠方からの学生の応募を増やすために取り組んでいること
/マイナビ2023年卒企業新卒採用活動調査

企業の取り組みを見てみると、学生が求めている「経済的・将来の生活でのサポート」や「採用活動のしやすさ」に関する取り組みをすでに実践している企業もあることが分かった。そのような制度や取り組みが学生それぞれの地元で広がり、魅力的な企業がより増えていくことが、地元・Uターン就職を増やすために必要と言えそうだ。

また、今回企業に調査したのは地方や遠方の学生を採用するための取り組みについてのコメントだったため住環境関連の支援やWEB選考についてのコメントが多かったと考えられるが、「子育て・介護の支援」や「奨学金返済支援」などの制度も学生からは求められている。企業に魅力を感じてもらうための一つの特徴として、そのような制度の導入も検討の余地があると考えられる。

まとめ

本コラムでは、地元就職を希望する学生と希望しない学生が地元や都市に求めることを比較しながら、地元・Uターン就職の観点で人口流出を防ぐポイントを見てきた。学生が地元に残る背景にも都市に転出する背景にも、根底には社会人として生活していくうえでの経済的な不安や、将来の暮らしに対する心配があり、それを解消できる企業や環境が整っている地域を選んでいることが見てとれた。

地元で就職したい・Uターンしたい学生がそのような不安感から地元就職を断念してしまうことがないように、経済的にも生活面でも安心感を持って地元に定着し、就職できるような地域づくりをしていくことが重要と言えるだろう。

キャリアリサーチLab研究員  沖本 麻佑

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