マイナビ キャリアリサーチLab

コロナウイルス蔓延が世界の雇用に与えた影~海外記事や研究を参考に~

はじめに

約2年近いコロナウイルスの蔓延により、テレワークの拡充に伴う職場環境の変化や、業界別に大きく異なる業績に起因する求人意欲の格差など、日本の雇用において、さまざまな変化がみられた。
これについてはマイナビキャリアリサーチLab内でも、複数の調査で逐次報告を行ってきている。※1
では世界の雇用はどのような影響を受けたのだろうか。今回は海外の記事や調査結果をもとに、コロナウイルス蔓延が世界の雇用にどのような影響を及ぼしたのかを紹介してみたい。
※1コロナ関連レポート
・コロナ禍における就業状態の変化に関するレポート
・新型コロナウイルスに関する影響調査(企業・求職者)

世界的な影響では大きなマイナス

国際労働機関(ILO)が今年6月に発表した「世界の雇用および社会の見通し」によると、労働市場が今回のパンデミックで生じた損失を補うのに十分な雇用成長を生み出せるまで回復するには、少なくとも2023年まで待たなくてはならないだろうとレポートしている。

この報告書ではパンデミックによって「仕事ギャップ(本来コロナ禍がなかったとしたら達成された雇用成長から、実際減少した就業者数を差し引いた数)」が2020年には1億4,400万人分、2021年では7,500万人分、2022年は2,300万人分となる見通しを示している。地域別に見ると、2021年上半期でもっとも状況が悪かったのは、中南米・カリブと欧州・中央アジアだった。これは世界の労働時間の減少が2021年第1四半期に4.8%、第2四半期に4.4%と推定されるのに対し、どちらの地域も第1四半期が8%超、第2四半期が6%超の減少と、減少割合が高く、回復が遅れているからだ。今後の回復については、ワクチン接種が進む国から順に雇用が回復すると予測されていたが、進捗のバラツキが大きく、接種の進まない国では貧困層の拡大が懸念されていた。

ワクチン接種の進捗が早かったアメリカ・イギリスの状況は

ではワクチン接種が進んでいるアメリカの雇用はどうなっているのだろうか。アメリカの雇用統計を見てみると、「失業率」はコロナウイルス蔓延の影響を受け、2020年4月期で14.7%まで上昇していたが、2021年9月期では4.8%にまで減少しており、雇用が回復している。もう一つの重要指標である「非農業部門雇用者数変化」においても、年明け1月以降プラスで推移しており、コロナウイルス蔓延前の状況まで回復している。同じワクチン接種の早かったイギリスにおいても、失業率は2020年5月の7.8%から2021年9月では5.2%にまで改善しており、どちらの国も雇用の回復基調は鮮明だ。
各国の完全失業率は算出方法が異なり、単純な比較は難しいことは承知しているが、ILOの報告書にあるように、ワクチン接種の進んでいる国では雇用の回復がみられている。

アメリカ・イギリス・日本の失業率推移(季節調整前数値)

日本の雇用においては元から業界問わずに人手不足感が強く、失業率が2%台だったこともあり、未だ2.8%前後で推移している。
ここでひとつ面白い調査結果を紹介する記事があったので報告しておこう。

今後の求人案件に変化が生まれるとの予測も

World Economic Forumの「The most in-demand jobs for 2021’」で、アメリカを中心に広く世界で採用ツールとして利用されているSNS「LinkedIn」(以降リンクトイン)が、世界15カ国の求人関連の情報を分析した結果を報告している。この記事内で、リモートワークの普及に伴う生活スタイルの変化により、今後5年間で1億5,000万件の新たなテクノロジー関連の仕事が生まれるだろうと伝えている。たとえばEコマースやデジタルコンテンツ等の制作スキルやプロデュース能力を有している求職者は、今後の求人が増え、仕事に困ることなく生活することが可能になると予測している。地域別にみると、米国では、コロナウイルス蔓延を受けて、あらゆる種類の医療従事者の需要が高い状況にある事や、人工知能などの分野やデータサイエンティスト、データエンジニアの職務が毎年35%ずつ増加するなど、求人が急拡大しているとのこと。オーストラリアでは、他の多くの国と同様に、パンデミックの影響でメンタルヘルスの専門家が特に必要とされていたらしい。

また、東南アジアでは急速なデジタル化の中で、デジタルサービス関連の求人案件増加が顕著となっており、特にHealthTechとEdTechという2つの新しい分野で、これまでの対面サービスからデジタルにサービスが移行する過程において新たな雇用が生まれ、薬剤師、医療技術者、情報技術の教師などは、今後更に需要が高まると予測されている。
このリンクトインの雇用レポートで共通して書かれているのは、今後の需要の高まりが予測される業務は、そのほとんどがリモートで遂行可能であり、強力なデジタルスキルを持つ人材は、雇用市場で大きなアドバンテージになるということ。日本でもデジタル人材不足の話題やリスキリング(新たなスキルの習得)といった言葉を新聞紙面で見かけることが多いが、世界的にみても、デジタル人材不足の傾向は高まっており、日本でも早晩この傾向が顕著にみられるようになるかもしれない。実際に弊社の中途採用状況調査やマイナビ転職の掲載状況を見ても、IT関連の求人意欲は安定して高い。

世界の人事担当者が取り組む企業の採用ブランド構築上大事な3つの事

またWorld Economic Forumの「Here’s how to retain employees during the ‘Great Resignation’」という記事では、アメリカでは企業の求人数が過去最高(2021年9月の記事時点)となっており、31カ国3万人を対象とした調査によると、41%の従業員が今年中に現在の仕事を辞めることを計画しているという報告もあるように、転職もかなり盛んにおこなわれている様子が紹介されている。実際に企業の人事担当者は従業員のリテンションに四苦八苦しており、さまざまな施策を講じているらしい。
そこで改めて重要視されているのが企業の採用ブランド構築だ。
従業員が自社に高いエンゲージメントを持てるブランド価値とは何かを調べるため、米国で売上高10億ドル以上の企業の従業員1,500人を対象に調査を実施した結果を紹介している。その結果、自社に誇りをもって働き、定着に寄与する要素として、「Connection(理念の浸透)」、「Progress(進歩)」、「Commitment to employee development(従業員の能力開発へのコミット)」という3つの要素が提示されている。

「Connection(理念の浸透)」
経営者は企業のミッションを明確にし、自らが体現することで、それを見た従業員が自社の提供する価値に共感を持てるようにする必要がある。また、共感して働く社員にある程度の判断を下せる権限を与え、ミッションに準じる行動を後押しすることも重要としている。

「Progress(進歩)」
従業員も自身の「進歩」として、自分の仕事が公に称賛され、キャリアがサポートされ、友人や家族が自分の勤める会社を賞賛していることを知る必要がある。そのために「自分自身の強みを仕事に活かし、ある程度の意思決定権限をもって、キャリアの目標に向かって前進する」ことをサポートしてくれる会社で働きたいと考えていることが調査で判明したと記載されている。

「Commitment to employee development(従業員の能力開発へのコミット)」
最後に、従業員個々がベストを尽くすことを支援するために、従業員の能力開発にコミットすること。その施策の一例として従業員を「ボスから外す」取り組み事例が紹介されている。上司は部下が自分のスキルや価値を認識できるようにするために、部下に「好奇心を持たせ、自己管理を奨励」することで、その成長を促し、従業員である部下が自己の能力開発を実感できるようにすることが重要と記載されている。

併せて今回の調査では、現在の環境下で離職率を下げるためには、3つの要素すべてを改善する必要があることがわかったと記載されている。確かにアメリカらしい調査結果ではあるが、近年日本でも若手を中心に企業のミッションやバリューを重視する傾向がみられる。これは人事だけではなく経営層を巻き込んで、会社の価値とは何かを今一度整理してみることも必要になりそうだ。

まとめ

改めて海外のレポート等を俯瞰してみると、コロナウイルスの影響は世界的な雇用にダメージを与えているものの、比較的回復は早そうな印象を受けた。特にワクチン接種率の高い国では経済の回復に伴い、雇用の改善もみられ、人手不足が顕著なケースも多くみられる。EU離脱による影響もあるようだが、イギリスのトラック運転手不足の報道などもその一環であろう。

但し、懸念点もある。ワクチン接種が進まない東南アジアの国々の影響で、国際的なサプライチェーンの遅延が起きており、これ以上ワクチン供給が遅れると、経済回復の早い国々においても企業の業績に影響が出て、結果として雇用に悪影響を及ぼす恐れもある。この辺りは今後注視してみていく必要があるだろう。

また、今後の人材需要という点では、アフターコロナの生活変化によって求められるスキルや経験が変化し、デジタル人材を中心とした、新たな需要の増加がより顕著になりそうな状況も判明してきた。そのベースにあるのがテレワークやリモートワークといった働き方や職場の変化による影響が大きい。今回、海外のレポートを調べるうえでテレワークに関する調査もいくつか読み込んだので、またの機会に紹介してみたいと思う。

キャリアリサーチLab所長 栗田 卓也

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